『人を動かす』30の原則を分かりやすく解説

更新:2023/07/28

作成:2023/04/16

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

『人を動かす』30の原則を分かりやすく解説|デール・カーネギー

「人を動かす30の原則」とは、デール・カーネギーの名著『人を動かす』の中で解説されている、良好な人間関係を構築し、他者に影響を与えられる人間になるためのコミュニケーション原則30個を指します。

 

『人を動かす』の本には、人を動かす3原則、人に好かれる6原則、人を説得する12原則、人を変える9原則という4つのブロックからなる、合計30の原則が紹介されています。

 

これらの原則を知って学び、身に付け、行動することによって、仕事でも個人生活でも豊かで実りある人生を送ることができるでしょう。

 

記事では、デール・カーネギー・トレーニングを提供する研修会社としての知見を踏まえて、『人を動かす』に書かれている30の原則を分かりやすく解説します。

<目次>

第1章「人を動かす3原則」

最初の章である「人を動かす3原則」には、人に好かれる6原則、人を説得する12原則、人を変える9原則の根底となる3つの原則が紹介されています。

 

人を動かす3原則は、別名「3大原則」や「人を動かす3大要素」などとも言われます。

人を動かす3原則①「盗人にも五分の理を認める」

たとえ間違っていると思っても、相手の意見や行動に対して、いきなり批判や非難をしないほうがいいという原則です。

 

人は誰でも、「自分の言動が正しい。少なくとも、完全な誤りではないし、それなりの理由や事情があってしているのだ」と考えています。

 

従って、たとえ指摘が正しいとしても、いきなり相手を批判したり非難したりすれば、相手は反発したり心を閉ざしたりしてしまうでしょう。

 

相手に協力してもらうためには、相手との友好関係が大切です。「論理」や「正しさ」で相手を殴りつけるようなことをしても、相手が協力してくれることはありません。

 

まずは相手の気持ちや立場を理解し、尊重することが大切です。相手の言い分を聞き、共感したり感謝したりすることで友好関係が作られ、相手にあなたの話を聞く準備が整います。

人を動かす3原則②「重要感を持たせる」

人は誰でも自己重要感を満たしたいという欲求を持っています。自己重要感とは「自分は他者から尊重されている」「自分が価値のある存在である」といった感覚です。

 

自己重要感が満たされると、人は満足感や幸福感を得られます。逆に、自己重要感が満たされないと、不安や不満、劣等感が生まれます。

 

自己重要感は、人動かすうえでも大きなファクターになります。

 

相手の自己重要感が満たしてあげれば、相手の信頼や協力を得やすくなりますし、逆に、自己重要感を傷つけるようなアプローチをすると、反発や敵対が生じてしまうでしょう。

 

相手の優れた部分を積極的に見つけ、誠実さをもって相手をほめることが大切です。本心から相手の価値を認めて伝えることで、相手の自己重要感は満たされるでしょう。

 

そして、自己重要感を満たしてくれたあなたの言葉に耳を傾けるようになります。

人を動かす3原則③「人の立場に身を置く」

この原則は、人を動かすうえで、「相手の欲求や利益に焦点を当てる」ことの重要性を示しています。

 

人が最も関心あるのは「自分自身」のことです。自分の好きなことや得することを何よりも求めています。

 

従って、相手に協力してもらうためには、「自分の要求」ではなく「相手の欲求」に焦点を当てることが大切です。

 

相手が何を欲しているのか考え、それを実現する方法を教えたり提案したりする、つまり「私の依頼に協力にしてもらうと欲しいものが手に入る」と伝えれば、相手の行動に大きな影響を与えることができるでしょう。

第2章 「人に好かれる6原則」

「人に好かれる6原則」では、良好な人間関係をつくるための基本となる6つの原則が書かれています。

 

「誰が言ったかよりも、何が言われたか」などとも言われますが、やはり「誰」が言ったかは重要です。相手に信頼される存在になれれば、相手に影響を与えることも容易になります。

人に好かれる6原則①「誠実な関心を寄せる」

先ほども紹介した通り、人が最も関心があるのは「自分」のことです。

 

だからこそ、人は自分に関心を持ってくれる人に好感を抱き、逆に、自分に関心を持ってくれない人には冷淡な態度を取りがちです。

 

人に好かれるためには、相手の話に耳を傾け、相手の興味や趣味や悩みなどに誠実な関心を寄せることが重要です。

 

例えば、相手の話に積極的に質問したり、共感や感想を述べたりすることで、相手に対する敬意や尊重を示すことができます。

 

表面的なお世辞ではなく、本気で相手に、また相手の関心あることに興味を持つことが大切です。

人に好かれる6原則②「笑顔を忘れない」

この原則は、言葉の通り、常に笑顔で接することが大切だということを示しています。人は笑顔の人を前にすると、心のハードルが下がり、好感を抱きやすくなります。

 

逆に、無表情や不機嫌な人には警戒心を抱き、近寄りがたさを感じます。

 

笑顔は、人間の感情や態度を表現する最も強力なツールであり、相手の気持ちや考えにポジティブな影響を与えることができるものです。

 

相手の話や冗談には笑顔で反応し、相手の成功や喜びを笑顔で祝福してあげましょう。笑顔でいることで、自分自身も気持ちが明るくなり、ストレスを軽減することができます。

人に好かれる6原則③「名前を覚える」

名前は、私たちが生まれて以来、繰り返し呼びかけられてきたものであり、アイデンティティの一部となっています。

 

私達は自分の名前を大切に感じ、名前を呼ばれると嬉しく感じますし、逆に、自分の名前を忘れられたり間違えられたりすると「自分が軽んじられた」ように思い、不快感や寂しさが生じます。

 

だからこそ、人に好かれるためには、相手の名前を正確に覚えて呼ぶことが大切です。

 

相手に会ったときや別れるときに名前で挨拶する、あるいは質問や提案するときに相手の名前で呼びかけるようにしましょう。

 

実践することで、相手の中に、あなたの存在を好印象とともに残すことができるでしょう。

人に好かれる6原則④「聞き手にまわる」

「聞き手にまわる」という原則は、「話す人より、聞く人が好かれる」という考え方に基づいています。人は自分の話を聞いてくれる人に信頼感や親近感を抱きます。

 

相手に自分のことを話す機会を与えることで、相手の自己重要感は満たされ、相手に好感を抱いてもらえるでしょう。

 

相手が話したいことや得意なことに関心を持ち、それを引き出すような質問をすることが大切です。

 

例えば、相手が「海外旅行が好き」とわかったら、「どんな国に行ったことがありますか?」「どんな旅行が好きですか?」「一番印象的だった場所はどこでしたか?」というように、相手がもっと喋りたくなるような質問をしてみると良いでしょう。

人に好かれる6原則⑤「関心のありかを見抜く」

この原則は、相手がどのような価値観や関心を持っているかを理解し、その上で自分自身の意見や考え方を伝えることが大切だということを表しています。

 

人は自分の興味や関心のある話題に対して、積極的に話すものです。

 

相手の興味や関心を見抜くには、例えば以下の方法があります。

  • 相手の話からヒントを探す
  • 相手に質問して探る
  • 相手の表情や態度から探る
  • 相手の服装や持ち物から探る
  • 相手のSNSやブログから探る

自分が相談や依頼したいテーマの周辺、関連領域における相手の関心を見抜き、話題を振ることが出来れば、相手から好意を得られるだけでなく、提案や依頼する参考となる情報をたくさん得ることもできるでしょう。

人に好かれる6原則⑥「心からほめる」

相手の良いところを見つけ、ほめることの大切さを表した原則です。褒めることの重要性は、自己重要感の話と同じです。

 

人は自分のことをほめてくれる人に感謝や信頼を抱き、ほめられることで自信ややる気が湧いてくるものです。

 

カーネギーは、相手の心に届く確かな方法は、相手の重要性をそれとなく認めること、しかも、心から認めているのを相手に感じさせることだと話しています。

 

つまり、相手の優れた点や貴重な点を見つけ、心からの賛辞を贈ることが重要です。ほめるときは、本心から感じたことを口にし、嘘やお世辞は厳に慎むよう注意しましょう。

第3章 「人を説得する12原則」

人を説得する12原則では、先述の人を動かす3原則、人に好かれる6原則を踏まえた上で、相手を説得するうえで役立つ12の具体的な方法が書かれています。

人を説得する12原則①「議論を避ける」

相手と意見が異なるとき、議論や反論をしても相手の考えが変わることは期待できません。

 

それどころか議論で相手を論破してしまえば、反発や敵意を招くだけの結果に終わってしまうことも多いでしょう。

 

カーネギーは、賢人ベンジャミン・フランクリンの次の言葉を引用しています。

 

「議論したり反駁したりしているうちには、相手に勝つようなこともあるだろう。しかし、それはむなしい勝利だ ── 相手の好意は絶対に勝ち得られないのだから」

 

つまり、議論で勝つことは、相手を動かすという結果につながらないのです。最善の結果を得たいなら、議論自体を避けたほうがよいでしょう。

 

相手を動かすために、相手に小さな勝ちを譲ったほうが上手くいくことも多いものです。

人を説得する12原則②「誤りを指摘しない」

この原則は、「盗人にも5分の理を認める」を細分化したものと言えます。もしいきなり誰かから「あなたは間違っています」と言われたら、どう思うでしょうか。

 

多くの人は自分の正しさを証明しようとして、相手に反論するのではないでしょうか。正面からの議論になれば、先述したように相手の考えを変えることは難しくなります。

 

人は自分の間違いを認めたくないものです。従って、相手の誤りを指摘すれば、相手は自分を守ろうとして、自分の考えに固執するようになります。

 

その壁を打ち破って相手を論破したとすれば…。相手の自尊心を傷つけて重要感を損ねますので、関係性は悪化し、その人に影響を与えることは難しくなってしまうでしょう。

 

相手に反発されずに、注意や指摘するにはどうすればいいのでしょうか。ポイントはあなたが指摘するのではなく、相手に自分で気付かせること、もしくは自分で気付いたと思わせることです。

 

“教える”のではなく、“気付かせる”アプローチが有効です。

人を説得する12原則③「誤りを認める」

「誤りを認める」という原則は、自分が間違っていることに気づいたら、すぐ素直に謝ることの重要性を示しています。どんな人にも、多かれ少なかれ、間違いを犯すものです。

 

間違いをしてしまった時に、自分の間違いを隠したり、言い訳したりすれば、相手は不信や怒りを募らせるでしょう。

 

自己重要感と似た概念ですが、人は「自分の方が相手よりも優秀である」という自己有用感を欲しています。

 

先に自分の落ち度を認めて素直に謝罪することで、相手の自己有用感は満たされ、それを維持するために「許す」という選択肢を選ぶ確率が高まります。

 

つまり、自ら誤りを認めることで、相手の許しを得やすくなり、その先での対応や打開策も相手に承認してもらいやすくなるのです。

人を説得する12原則④「穏やかに話す」

人は声のトーンや表情の厳しさ、態度の強さなどによって、相手の感情や態度を判断します。

 

もし、強い口調や、高圧的な態度で接すれば、相手は自分への敵意や威圧感だと感じて、あなたに対して警戒態勢をとるでしょう。それでは、コミュニケーションはうまく進みません。

 

だからこそ、意識して穏やかで物腰柔らかな話し方・態度を取ることが大切です。

 

穏やかに話すことで、相手はあなたを「友好的な人物」であると捉え、好意的な印象を持ち、あなたに対して心を開いてくれるでしょう。

人を説得する12原則⑤「“イエス”と答えられる問題を選ぶ」

相手からポジティブな返事を引き出したいときは、相手が同意できる話題から話を始めること、できるだけ相手が「イエス」と答えやすいような質問を選ぶことが大切です。

 

「イエス」と答えてもらうことで、この人は「自分の側にいる、自分の仲間である」という印象を与えることができます。

 

具体例を挙げましょう。例えば、営業で、顧客へのヒアリングを終えて商品・サービスを提案する場面を想像してみてください。

 

いきなり「今までの話を踏まえると、このサービスが御社のニーズに一番フィットしています。そう思われませんか?」と質問したら、相手は「イエス」とは答えにくいでしょう。

 

相手は自分のニーズについて考えたり、商品の特徴について疑ったりするかもしれません。

 

これに対して、「今まで伺ったお話を整理していいですか?」「御社の課題はこれでしたね?」「解決する必要性を感じているということでしたね?」「解決策を選ぶうえでは、この要素で考えたいという話でしたよね?」「そうしたら、これらをクリアしているサービスがあれば聞かれたいですか?」といった流れで話していくと、相手は「イエス」という答えを繰り返してくれるでしょう。

 

そして、そのうえでサービスを提案する流れになると、相手はより真剣に聞いてくれますし、商品への興味を得られる確率も高まるでしょう。

 

このように、何かについて相手の同意を得たいのであれば「イエス」と答えられる問題から入っていくことです。そうすることで、本題にも同意してもらいやすくなります。

人を説得する12原則⑥「しゃべらせる」

先ほどのブロックでも、人間関係をつくるうえでは「聞き手にまわる」ことが大切だという原則がありました。人を説得するうえでも、相手の話を聞くことが重要です。

 

カーネギーは、「多くの人が“相手の考えを変えよう”とたくさん話しすぎる」と指摘しています。自分が話しても、相手の真意を聞き出すことはできません。

 

また、相手も“意見を押し付けられている”と感じて抵抗感、反発心を感じます。

 

説得するためには、自分が話すよりも相手の話を聞くことの方が遥かに大切です。

 

相手の話を聞くことで、相手に“自分に関心を持ってくれている”という印象を与え、信頼感や好意を抱いてもらえるでしょう。

 

また、相手の話を聞くことで、相手の興味・関心や状況も見えてきます。相手に共感したり、質問したりする中で、自分の考えを提示したりするタイミングや方法も見えてくるでしょう。

 

「しゃべらせる」ことこそが、じつは人を説得するうえで有効な方法なのです。

人を説得する12原則⑦「思いつかせる」

人は、他人から言われたことよりも、自分自身で思いついた考えやアイデアを大切にするものです。

 

従って、相手に思いつかせれば、相手は「自分で考えて決めた!」と感じて、実行するうえでも主体性を発揮し、優先順位を高めてくれるでしょう。

 

しかし、相手が思いつくものが、あなたが誘導したい方向と全然違っていては困ってしまいます。従って、大切になるのは、「あなたの説得したい方向で、相手に思いつかせる」アプローチです。

 

これには様々な方法があります。例えば「あなたは、この商品があなたにとって最適だと思いますか?」という質問は、「思いつかせる」方法ではありません。

 

相手は自分で考えるのではなく、「はい」か「いいえ」を答えるだけになります。

 

しかし、「もし、この商品を選ぶとしたら、何が理由になりますか?」という質問にすれば、相手に「思いつかせる」アプローチとなります。

 

相手は自ら商品のメリットを考え、選ぶ理由を考えてくれるでしょう。

 

思いつかせるアプローチを取ることで、相手に「自ら考えた」「自分で決めた」感覚を提供し、相手の意思決定や行動を後押しすることが出来ます。

人を説得する12原則⑧「人の身になる」

「人の身になる」とは、相手の視点から物事を見るということです。つまり、自分が相手の立場だったらどう思うか、どう感じるか、どうしたいかを考えることです。

 

人を説得するためには、相手にこちらの考えや提案に納得してもらう必要があります。しかし、意見を押し付けたり、論理的に説明したりするだけでは、相手はなかなか納得してはくれません。

 

なぜなら、人は自分の感情や欲求に基づいて行動するからです。

 

例えば、あなたが部下に新しい仕事を任せたいとき、単に「これをやってくれ」と言っても、部下はやる気にはならないでしょう。

 

しかし、「この仕事はあなたのスキルアップにつながりますよ」「この仕事はあなたの得意分野の知識を活用できますよ」このように伝えればどうでしょうか。

 

人の身になって考え、成長欲求や承認欲求に訴えることで、部下のやる気を動かすことができるでしょう。

人を説得する12原則⑨「同情を寄せる」

「同情を寄せる」は、相手の立場に立って考え、相手の気持ちになって共感することの大切さを示しています。

 

例えば、相手が何か悩みを抱えている場合、「そんな風に悩んでいるのですね」「その状態に苦しんでいるのですね」などと、相手の気持ちに寄り添えば、共感の気持ちを示すことができます。

 

同情を寄せることで、相手は自分自身が理解されていると実感し、あなたのことを信頼するでしょう。

 

ただし、同情を寄せるときは、誠実に行うことが求められます。口先だけで、「分かります、分かります!」などと相槌を打っても信用はされません。

 

相手の感情に「同感」できないときは、「共感」しましょう。同感と共感をうまく使い分けることが「同情を寄せる」を実行するポイントです。

 

HRドクターでは、“相手の立場になって相手の意思や感情を共有する”ことを意味する「エンパシー」と、”同感”を意味する「シンパシー」について、分かりやすく解説した記事を用意しています。

 

より深い理解をしたい方は、以下のリンクよりご覧になってみてください。

人を説得する12原則⑩「美しい心情に呼びかける」

人は心のどこかで「自分は高潔な人間である」「道徳的で、倫理を大切にする存在だ」と思いたがっています。

 

だからこそ、相手の高潔な感情や理想に訴えることが、時に相手を説得することにつながります。

 

例えば、誰かに寄付を依頼するときは、「寄付の代わりに何らかのお礼をもらえる」と伝えるよりも、「寄付することで社会的に困窮している人が救われる。寄付してくれる人は弱者の困窮を見逃さない高潔な人物なのだ」と伝える方が有効かもしれません。

 

また、たとえば、部下にやむを得ず必要な残業をお願いするとき、単に「仕事が終わっていないから」と言うのではなく、「この仕事を待っているお客さまがいる。お客さまも納期までに受け取れないと、こういう事情で困ってしまうらしい。あなたと一緒なら1時間もあれば終わる。お客さまを助けるためにあなたの力を貸してもらえないか?」と伝えるとどうでしょうか。

 

部下のプライドや使命感に訴えることで、仕事へのモチベーションを高めることができるかもしれません。

 

このように相手の高潔な感情や理想、つまり、美しい心情に訴えることは、ときに自分の期待する方向に相手を導いていく上で大きな効果を発揮します。

人を説得する12原則⑪「演出を考える」

自分の考えや提案を単に言葉で伝えたたけでは、なかなか相手は動いてくれないかもしれません。

 

ただ言葉で説明するのではなく、具体的な事例やエピソード、比喩やイメージなどを用いて、相手の感情や想像力に訴えることで、結果が驚くほど変わることは意外なほど多くあるものです。

 

大勢の前でプレゼンテーションをするのであれば、スライドやグラフィックスなどを使って、視覚的に分かりやすく説明したり、話の進行に合わせて効果的な演出を考えたりすることで、聞き手の興味を引きつけることができるでしょう。

 

たとえば、YouTubeなどで見ることのできる、アップルのスティーブ・ジョブズが初代iPhoneを発表した時のプレゼンテーションは非常に有名です。

 

しかし、もしこのとき、ジョブズ氏が演出の工夫をせずに、「こんな新製品が出ました」と話すだけだったらどうでしょうか? iPhoneは世界中に広がっていないかもしれませんし、アップルの隆盛もなかったかもしれません。

 

人は感情的な動物であり、理屈だけでは動かされません。相手にとって興味深く、印象的な演出を考えて工夫してみましょう。

 

幸いにも私たちの身の回りには、優れた演出をしているものがたくさんあります。CMや広告、店頭のディスプレイやサービスのUXなど、現在はいたるところに「演出」が埋め込まれています。

 

自分が体験した演出を分析してみると、さまざまなノウハウに気づくでしょう。

人を説得する12原則⑫「対抗意識を刺激する」

人は誰でも「他人より優れていたい!」「自分が1番でありたい!」といった競争心を心の中に持っているものです。

 

従って、競争心が強い相手に挑戦や競争の機会を与えることで、対抗意識を刺激して、やる気やパフォーマンスを向上させることができます。

 

例えば、あなたが部下に仕事を任せたいとき、どのように伝えるとよいでしょうか。

 

「これは簡単な仕事だから、あなたに任せます。」と伝えれば、部下は自分の能力を低く見られていると感じて、本気になって取り組もうとはしないかもしれません。

 

「対抗意識を刺激する」の原則を踏まえたら、どんな伝え方になるでしょうか。

 

たとえば、「これは正直難しい仕事だけど、うちのメンバーの中でもあなたのスキルと専門性があれば対応できると思うんだ」と言われたら、部下は「自分の能力を認められている」と感じると同時に、「何とかやってやろう」という気持ちが芽生え、高いモチベーションで仕事に取り掛かるかもしれません。

 

「美しい心情に呼びかける」と同じで、すべての状況や相手に通じるわけではありませんが、対抗意識を刺激することは競争心が強い相手に対して、大きな効果を発揮するでしょう。

第4章 「人を変える9原則」の概要

『人を動かす』最後の章となるのが、「人を変える9原則」です。人を変える9原則は、これまでの3ブロックも踏まえて、他者を変えるための原則です。

人を変える9原則①「まずほめる」

相手に何か指摘したり改善したりして欲しい時は、まずは相手の良いところや成果をほめることが大切です。

 

例えば、部下が仕事でミスをしたときに、「お前は本当にダメだな!」と言ってしまうと、部下は落ち込んで、改善する気も失せてしまうかもしれません。

 

しかし、「プロジェクトは君のおかげで大きく進んだよ。君は素晴らしい能力を持っている」とほめた後に、「ただ、この部分はもう少し注意してほしい。次回からはこうしてみよう」と言うと、部下は感謝したり納得したりして、改善しようという気持ちになってくれるでしょう。

 

最初にほめて相手の自尊心を満たすことで、相手に、耳が痛いことを聞く心を余裕が生まれます。指摘や苦言を伝える前に、良い所を伝えるようにしましょう。

人を変える9原則②「遠まわしに注意を与える」

注意などをするときには、相手のプライドや感情を傷つけずに、自分の意図を伝えることが大切です。

 

繰り返しお伝えした通り、相手の自尊心や重要感を傷つけるようなアプローチをしてしまうと、相手は反発したり、意固地になったりしてしまいます。

 

例えば、部下のプレゼン原稿を添削するケースを考えてみましょう。

  • 1)直接指摘する⇒「これでは堅苦しすぎて、聞いている人は眠くなるよ」
  • 2)遠回しに指摘する⇒「プロジェクトの内容を網羅した正確な内容だね!今回の参加者を考えると、少し専門用語が多い、また情報量が多すぎるようにも感じるけど、今回の参加者に一番伝えたいことは何だろう?」

直接指摘する伝え方だと、努力を否定されたり自分が批判されたりしたと相手は感じてしまいます。

 

遠回しな表現に工夫することで、良いところを認めた上で、改善の余地があることをそれとなく伝えることができます。

 

遠回しに注意を与えることは、自分の指摘を相手に受け入れてもらう上で大きな効果を発揮します。

人を変える9原則③「自分の過ちを話す」

相手に改善や指摘を伝えるときに大切なのは、「上から目線」と相手に感じさせないということです。

 

間違いを指摘したり、アドバイスしたりする行為自体が、善意によるもので何の思惑もないとしても、相手からすると「偉そうだ」と感じさせてしまう傾向があります。

 

カーネギーは、何かを指摘するときには「自分も同じような失敗をしたことがあるのだ」といった失敗談を織り込むやり方を勧めています。

 

例えば、「私も以前は同じように考えていたけど、ある時こんなことが起きて・・・」というように自分の経験談を話すのです。

 

自分の失敗談を話すことで、相手にとってあなたは親しみやすい存在になります。

 

相手は「この人も同じだったんだ」と思って、共感したり安心したりするかもしれません。そして、「この人の言うことなら聞いてもいいかもしれない」とアドバイスにも耳を傾けやすくなるでしょう。

 

私たちは誰もが自尊心を持っています。従って、自分の失敗を認めることは恥ずかしい、自分の格を下げてしまうような気がするかもしれません。

 

しかし、自分の過ちを伝えることで、相手のプライドを傷つけずにアドバイスや指摘を受け入れてもらいやすくできるのです。

人を変える9原則④「命令をしない」

「思いつかせる」の原則で紹介した通り、人は一方的に指示をされたり、命令されたりすることを嫌うものです。

 

従って、相手に指示や要望がある時、一方的に命令してしまうと、相手は反発したり、形だけ従ったりするものです。

 

だからこそ、相手に何かをさせたい、主体性を引き出したいときは、命令するのではなく、質問を投げかけて自分で気づかせることがポイントです。

 

例えば、部下にレポート提出の納期を守らせたいとき、「レポートはいつまでに提出してくれ」などと一方的に命令するのではなく、「レポートの進捗はどう?納期までに間に合いそう?」と質問する方が効果的です。

 

このように質問して、部下自身に「納期までに提出します」と言わせれば、一方的に指示した時よりも納期が守られる確度は高まるでしょう。

 

相手に質問するときには「あなたがやることは何?」や「あなたはどう思う?」といった形で、相手に考えさせたり選択させたりすることが大切です。

 

考えて選択することで、相手に「自分で決めたことだ」という感覚が生まれ、主体性や責任感が生じます。

人を変える9原則⑤「顔をつぶさない」

人前で誰かを非難したり、名誉を傷つけられたりすれば、相手はあなたのことを恨むかもしれません。

 

自分の面子を傷つけられるということは、人間にとって極めて大切な自己重要感を傷つけてしまう行為です。従って、相手を変えたいとき、相手の顔をつぶすようなことは絶対にNGです。

 

相手の間違いや欠点を指摘するときは、人前で叱責したり、上から目線にならないよう十分配慮したりする必要があります。

 

場所やタイミングを考えたり、遠回しに注意を与えたり、自分の失敗談を話したりすることで、相手の面目を保つことが大切です。場合によっては、外部環境の変化のせいにしてしまうのもひとつです。

 

例えば、部下が仕事でミスをしたとき、上司はどうすればいいでしょうか。

 

「君は仕事が早くて正確だからこの仕事を任せたんだよ。今回のミスは誰にでも起こりうることだから気にしないでね。ただ、もう一度確認して修正してくれると助かるよ」このように伝えれば、相手の面目は保たれ、相手も「すいません、すぐ修正します!」と言いやすくなるでしょう。

 

繰り返しになりますが、人間は感情の生き物です。相手の顔を立てて、相手が受け入れやすくすることが大切です。

人を変える9原則⑥「わずかなことでもほめる」

人は誰でも、「自分の行動や能力に対して自信を持ちたい」という欲求があります。

 

だからこそ、目標に向かって努力している途中でほめられると、相手は自分の能力や価値を認められたと感じ、「さらに良くなろう」という気持ちが強まります。

 

だからこそ、人を成長させたり、改善させたりしたいのであれば、小さな進歩を見逃さずに称賛することが大切です。

 

カーネギーは、この原則を実践するためには、「心から評価し、惜しみなく称賛する」という態度が必要だと話しています。

 

ほめることを習慣にし、相手の良い点を探す目を持ち、素直に称賛する、それを習慣にしましょう。

 

ほめる際は、具体的で適切であることが望ましいでしょう。

 

例えば、「君は素晴らしい貢献をしてくれたよ。ありがとう」といった一般的なほめ言葉よりも、「あなたが、●●の場面で出してくれた▲▲のアイデアで会議の雰囲気が変わったよね。アイデア自体は採用されなかったけど、停滞した雰囲気の中で、勇気をもってアイデアを発言してくれたおかげで、全然違うアプローチもあるかもしれない!とみんなの思考が切り替わったよね。あなたの発言が転換点だったよ」といったような具体的にほめる方が効果的です。

人を変える9原則⑦「期待をかける」

人を成長させたいのであれば、期待をかけることが大切です。場合によっては、今の相手の実力以上の評価、理想の姿を伝えることで、相手の自信を引き出すことも出来るでしょう。

 

例えば、仕事が遅い人に対して「お前は本当に仕事が遅いな!」ではなく、「仕事が早くなってきたね。あなたの能力ならまだまだ早くなると思うんだよね」と伝えれば、相手に「自分はもっとできる」というイメージを持たせることができます。

 

期待を伝えることは、相手の自己イメージを高め、そして、高まった自己イメージに合わせて行動しようとする心理を生み出します。

 

期待をかけることで、相手は評価に応えよう、期待に見合う存在になろうと努力してくれます。期待をかけることで、相手の自信や意欲を引き出すことができるのです。

 

「期待をかける」の原則は、人を伸ばすために強力な効果を持ったテクニックですが、注意点もあります。まず、嘘やお世辞ではなく、本当に相手の可能性や成長点を見つけて伝える必要があります。

 

また、期待をかけすぎても良くありません。相手のタイプによっては過大なプレッシャーやストレスを与えてしまう可能性があります。

 

期待をかける際は、相手の現状や目標に応じて適切なレベルで行うことが大切です。

人を変える9原則⑧「激励する」

「激励する」とは、相手の才能や可能性を信じて、改善点をわかりやすく伝えたり、簡単にできると思わせたりすることです。

 

「激励する」の原則は、新しく何かを始めようとしていたり、自信を持てずにいたりする相手に対して、とくに有効です。

 

例えば、英語を勉強しようとしている人に対して、「あなたは語学の才能があると思うよ。発音も上手だし、文法の理解も早そうだよね。」と言ってあげると、相手は、「自分はやれば上手く行くんじゃないか」という気持ちになります。

 

また、「英語が話せるようになったら、どんなことがしたい? 旅行に行ったり、外国人の友達を作ったり? それは楽しそうだね。私も一緒に頑張ろうかな。」と伝えてあげると、相手は目標に向かってさらにやる気が出るでしょう。

 

このように、「激励する」ことによって、人は、自分が認められたと感じ、気持ちが高まり、自信を持てるようになります。

人を変える9原則⑨「喜んで協力させる」

「喜んで協力させる」とは、人を動かす30の原則の締めくくりとなる原則です。「喜んで協力させる」という言葉だけを読むと、「それができれば苦労しない!」と思ってしまうかもしれません。

 

しかし、じつは非常に重要であり、人の心理をついた原則です。

 

人を変えたい、動かしたいと思うなら、「動かす」のではなく、相手が「自ら動く」ように仕向けることが大切です。

 

例えば、相手に何かを依頼したいとき、相手が嫌な気持ちになったり、めんどくさいなぁと思わせてしまったりすれば、協力は得られません。

 

大切なことは、相手が自分から「協力したい」と思ってもらえるような頼み方です。そのためには、相手の気持ちを理解し、相手にとってメリットがあるような提案をすることが大切です。

 

例えば、子供に勉強をさせたいとき、どのような伝え方が効果的でしょうか。

 

「勉強すると将来何ができるようになるかな?」と問いかけたり、「勉強するとお父さんやお母さんが喜ぶよ」と言ったりすることで、子供の好奇心や承認欲求を刺激して、勉強する気持ちを引き出せるかもしれません。

 

相手を動かしたいとき、自分の意見や提案を押し付けるのではなく、相手が自分から納得して行動するように誘導する、相手が欲しいと思うものを行動の先に掲げることで、相手は主体的に動くようになるでしょう。

まとめ

この記事では、デール・カーネギーの名著『人を動かす』における30の原則をご紹介しました。30の原則は、人間関係の基本であり、ビジネスシーンや学校教育、私生活など、あらゆる場面で役立つものです。

 

30の原則は知っているだけでは意味がありません。大切なのは、実際に行動に移すことです。実践してみると、きっと変化を感じされるでしょう。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、デール・カーネギーのトレーニングの権利者である米国デール・カーネギー・アソシエーションと連携して、日本で公式に『人を動かす』デール・カーネギー・トレーニングを提供しています。

 

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著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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