関心のありかを見抜く|デール・カーネギー『人を動かす』

関心のありかを見抜く|デール・カーネギー『人を動かす』

私たちにとって、一番の関心事は常に「自分自身」です。従って、自分が興味・関心あるテーマを誰かに話す時に私たちは心地よさを感じ、その話題を振ってくれて熱心に話を聴いてくれた相手には好感を覚えるものです。コミュニケーションとリーダーシップに関するベストセラーである『人を動かす』の中で、著者のデール・カーネギーは「人の心をとらえる近道は、相手が最も深い関心を持っている問題を話題にすること」だと書いています。

 

本記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より、「人に好かれる6原則」のひとつとして紹介されている「関心のありかを見抜く」について解説します。

 

なお、本原則は書籍では「関心のありかを見抜く」ですが、デール・カーネギー研修の受講者に配られるゴールデンブックでは「相手の関心に合わせて話をする」と表記されています。“何をすればいいか?”がより明確になった表記ですが、記事内では書籍の表現に合わせて解説していきます。

 

こちらに動画での簡単な解説もありますので、動画でご覧になりたい方はこちらをご覧ください。

<目次>

「相手の関心を見抜く」の詳細と実践

本記事のテーマである「関心のありかを見抜く」の原則を詳しく解説します。

 

相手の関心のありかを見抜くためには

相手の心を捉え、距離を縮める一番の近道は、相手が最も関心を持っている事柄を把握して話題にすることです。

 

では、相手の関心のありかを見抜くためにはどうすればよいでしょうか。

 

カーネギーは本書の中で、“相手の関心事を捉える達人”と評された、セオドア・ルーズヴェルトのエピソードを紹介しています。

 

アメリカ大統領であったルーズヴェルトは、相手が誰であろうと、その人の関心を捉えた話題を豊富に持ち合わせていたといいます。なぜルーズヴェルトは、そのような芸当ができたのでしょうか?

 

「(中略)種を明かせば簡単だ。ルーズヴェルトは、誰か訪ねてくる人があるとわかれば、その人の特に好きそうな問題について、前の晩に遅くまでかかかって研究しておいたのである。ルーズヴェルトも、他の指導者たちと同じように、人の心をとらえる近道は、相手が最も深い関心を持っている問題を話題にすることだと知っていたのだ。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

 

私たちにしても、自分の関心がある話題、よく知っている分野であれば、話を続けることはそれほど難しくはないかもしれません。しかし、もし相手の関心事が、自分のよく知らない事柄の場合、盛り上がった会話をすることが難しいと思うのではないでしょうか。このことは、博学で有名なルーズヴェルトであっても例外ではありません。

 

だからこそ、上記で引用したように、ルーズヴェルトは事前に相手の関心事を下調べして準備することに余念がなかったのです。

 

同様のケースは、ビジネスシーンでも身近に見ることができるでしょう。例えば、高い成果を上げるインサイドセールスやフィールドセールスは、提案先の企業情報や広報ニュース、あるいは、商談相手のプロフィールを事前に確認したり、SNSなどをチェックしたりして商談の望むものです。

 

ルーズヴェルトの「前の晩に遅くまでかかかって研究する」という行為は、ビジネスでいえば「事前の情報収集」に他なりません。相手のことについてしっかりと調べて、相手が関心をありそうなテーマを考えて準備する手間を惜しまないことが大切だということです。

 

「私はあなたに関心がある」ということを示す

相手の関心事を話題にするに当たって、もう一つ重要なポイントがあります。それは、会話を通じて「私はあなたに関心があります」と思ってもらうということです。

 

カーネギーは『人を動かす』の中でボーイ・スカウトの仕事をしているエドワード・チャリフという人物のエピソードを基に解説しています。

 

“ある日、私は、人の好意にすがるより他に方法のない問題と取り組んでいました。ヨーロッパで行なわれるスカウトの大会が間近に迫っており、その大会に代表の少年を一人出席させたいのですが、その費用を、ある大会社の社長に寄付してもらおうと思っていたのです。その社長に会いに出かける直前に、私はいい話を聞きました。その社長が百万ドルの小切手を振り出し、支払い済みになったその小切手を額に入れて飾ってあるというのです。

 

社長室に入ると、まず私はその小切手を見せてくれと頼みました。百万ドルの小切手! そういう多額の小切手を実際に見た話を、スカウトの子供たちに聞かせてやりたいのだと、私は言いました。社長は喜んでその小切手を見せてくれました。私は感心して、その小切手を振り出したいきさつを詳しく聞かせてもらいたいと頼みました。

 

読者もお気づきのことと思うが、チャリフ氏は、話のはじめにボーイ・スカウトやヨーロッパの大会、あるいは彼の希望などについては、いっさい触れていない。相手が関心を持っていることについて話している。その結果は、次のようになった──

 

そのうちに、相手の社長は『ところで、あなたのご用件は、何でしたか』と訪ねました。そこで、私は用件を切り出しました。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

 

チャリフ氏は、商談相手の社長が、自分が支払った高額の小切手に誇りを持っていることを知り、その小切手の話題を振ります。上記のエピソードにもある通り、チャリフ氏は、自分の要件であるボーイ・スカウトや大会への参加費について一切触れず、先方の関心事だけにフォーカスしています。

 

チャリフ氏の事例では、最終的に社長は要望を引き受けてくれただけでなく、以降も様々な便宜を図ってくれるなど想像以上の大成功に終わったということでした。もしチャリフ氏が、最初に「相手の関心事」に触れず、自分の関心事=寄付をしてほしいという話から始めていたら、きっと結果はまったく違うものになったでしょう。

 

たとえば、ビジネスでの商談や交渉をするとき、私たちは相手の関心事を話題にして、相手のことを知るためにヒアリングしているつもりでも、本音では「さっさと商品・サービスのプレゼンに入って買ってもらいたい!」と思ってしまっているケースが少なからずあります。しかし、自分の要望・自分の関心事を念頭に置いて臨めば、無意識のうちにこちらの意図や本音が伝わってしまい、相手に簡単に見透かされてしまうでしょう。

 

しっかりとその場に集中して、自分の関心ではなく、相手自身・相手の関心事に集中しながら「私はあなたに関心がある」ということを示すことが大切です。

 

相手の関心を見抜き、話題にすることは双方の利益になる

ルーズヴェルトのエピソードでお伝えしたように、相手の関心を見抜いて話題にすることは、想像以上の大きな成果につながる可能性を秘めています。しかし、実際のビジネスや人間関係では、手間をかけて相手の情報を調べ、話題に出したとしても、じつは相手の関心事と違っていたり、仮説が外れたりして、期待するような結果に結びつかないことも多々あります。

 

このような経験をしていると、「そこまでして相手の関心事に寄り添おうとする意味は、本当にあるのだろうか?」と疑問が湧いてくるかもしれません。この疑問に対して、カーネギーは『人を動かす』の中で、以下のような考え方を示しています。

「相手次第で成果も違うが、概して言えば、どんな相手と話をしてもそのたびに自分自身の人生が広がる ー それが、何よりの成果だ」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

 

自分の話に関心をもって聞いてもらえたことで、相手は心地よさや自己重要感を得られるというのは、既にお伝えした通りです。同時に自分にとっても、相手の関心事を見抜いて話題を振ることで、自分と違う人生を歩んできた相手から新しい知見を得るという成果が生まれます。

 

また、今すぐの成果につながらないとしても、相手との好ましい人間関係構築には、確実にプラスの影響をもたらすことでしょう。相手の関心を見抜き寄り添うことは、短期的な成果につながらないとしても、中長期的に自分にとっても必ず利益があることです。

 

『人を動かす』とデール・カーネギー

書籍『人を動かす』の著者であるデール・カーネギーは、作家・講演者であり、コミュニケーショントレーニングの権威として世界的に知られる人物です。地元大学を卒業後、さまざまな職を経験し俳優を目指しましたが、目立った成果を上げられず挫折。しかし、YMCAの話し方教室講師として成功し、独立後は研究所を設立して多くのトレーニング分野で実績を残しました。

 

カーネギーの代表作『人を動かす』は、他者と良好な関係を築くための原則を示した名著で、全世界で1500万部を超えるベストセラーとなっています。書籍『人を動かす』の内容とデール・カーネギーをもっと詳しく知りたい方は、以下の記事で紹介していますのでご覧ください。

 

 

「人に好かれる六原則」とは?

『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4パートで構成されており、全部で30の原則が紹介されています。「関心のありかを見抜く」は、「人に好かれる六原則」のひとつです。本章では「人に好かれる六原則」の全体像を紹介します。

 

1.誠実な関心を寄せる

私たちが最も関心を持っているものは「自分自身」です。だからこそ、良好な人間関係を作りたい、相手に影響力を与えたいと思うのであれば、相手に関心を持つことが第一歩と言えます。私たちは、自分自身に一番の関心があるからこそ、自分に対して関心を寄せ、自分を尊重してくれた相手には、好感を抱くようになります。

 

 

2.笑顔で接する

笑顔の人と接すると、気持ちが和らいで、こちらの表情もついつい緩んでしまった…このような経験は誰にでもあるのではないでしょうか。笑顔がもたらす恩恵について、カーネギーは本書の中で以下のように述べています。

 

「元手がいらない。しかも、利益は莫大。与えても減らず、与えられた人は豊かになる。 一瞬の間、見せれば、その記憶は永久に続く。どんな金持ちもこれなしでは暮らせない。どんな貧乏人もこれによって豊かになる。家庭に幸福を、商売に善意をもたらす。友情の合言葉。家庭に幸福を、商売に善意をもたらす。友情の合言葉。疲れた人にとっては休養、失意の人にとっては光明、悲しむ人にとっては太陽、悩める人にとっては自然の解毒剤となる。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

 

 

3.名前を覚える

「自分の名前」は、人生で最も多く耳にし、自分自身を象徴する特別な言葉です。名前を覚えられ、呼ばれることで、多くの人は「重要な存在」と認められた喜びを感じます。名前への関心は強く、会社名やYouTubeチャンネル名に創業者や本人の名前が使われるのもその表れです。出会った相手の名前を覚え、会話で意識して使うことは、相手への関心を示し、重要感を与える行動であり、良好な人間関係を築くための効果的な方法です。

 

 

4.聞き手にまわる

コミュニケーションにおいて、上手に喋ること以上に大切なのは「上手く聞く」ことです。先述のように、私たちは自分自身に一番の関心があるからこそ、自分の話に耳を傾け、自分の話を大事なものとして尊重し、自分に重要感を与えてくれる相手に対して好感を抱きます。

 

 

5.関心のありかを見抜く

相手に気持ちよく喋ってもらうために何より効果的なのは、相手が興味・関心を持っている事柄を話してもらい、相手の話に真摯に耳を傾けることです。だからこそ、相手がどんなことに最も関心を持っているかを見抜き、話題にすることが、人の心を捉える近道です。

 

6.心からほめる

多くの人は心の中で「自分は重要な存在だ」と思い、他人からその重要性を認められることを求めています。だからこそ、相手を称賛し、相手の自己重要感を満たすことが、相手から信頼を勝ち取る上で欠かせない行為になります。褒める時のポイントは、表面的なお世辞ではなく、心から賞賛するということです。純粋な目で、相手が努力していること、気づいていない長所、素晴らしいと思うことを見つけ、素直に伝えましょう。

 

 

人に好かれる6原則の全体像は以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

 

 

まとめ

記事では、デール・カーネギーの原則「関心のありかを見抜く」を解説しました。

 

相手の心を捉え、距離を縮める一番の近道として、本記事では、相手が最も関心を持っている事柄を事前に下調べして話題にすると言う方法を紹介しました。

 

HRドクターを運営する株式会社ジェイックは、正社員の人材紹介や法人向けの企業研修・セミナーを事業とする上場企業です。ジェイックの営業メンバーにとって仕事で成果を上げるためには、何をおいてもまず顧客企業の担当者から信頼を勝ち取ることが不可欠です。弊社でもやはり、コンスタントに成果を上げる営業メンバーは、相手・相手の関心事を下調べすることに時間を惜しみません。

 

たとえ、短期的な成果には結びつかなかったとしても、相手は、自分の話に関心をもって聞いてもらえたことによる喜びや自己重要感を感じられ、こちらは自分と違う人生を歩んできた人から新しい知見を得ることができます。「関心のありかを見抜く」ということは、お互いがWin-Winの関係になれる人間関係構築の確かな原則だともいえるかもしれません。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修を参照してください。

 

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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