心からほめる|デール・カーネギー『人を動かす』

心からほめる|デール・カーネギー『人を動かす』

私たちは多かれ少なかれ、「自分は何らかの点で秀でている」「人よりも優れたものを持っている」と考えているものです。だからこそ、自分がひそかに努力している事や誇りを持っていることを、誰かが賞賛してくれると、とても嬉しく思い、相手に好意を持つようになります。

 

デール・カーネギーも著書『人を動かす』の中で、「人は誰でも他人より優れた点を持ちたいと思っている。相手の心を確実に手に入れるには、相手の重要性を素直に認め、そのことを素直な気持ちで相手に悟らせることである」と強調しています。相手の優れた点を見つけて褒めることは、相手にとって何よりも大切な「自分自身の重要感」を満たすことのできる、大切でかけがえのない行為です。

 

本記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』の中で紹介されている、人を動かす原則のひとつ「心からほめる」について解説します。

 

なお、デール・カーネギー研修プログラムの受講者に配られる30の原則をまとめたデール・カーネギー・ゴールデンブックでは、「心からほめる」の原則が、「重要感を与える―誠意をこめて」となっています。「心からほめる」よりも若干分かりづらいように感じますが、「心からほめる」と併せて見ると、何をすべきか、どんな姿勢で実践すべきかが、より伝わってきます。同じ原則ですが、本記事内では、書籍の表記「心からほめる」に則って解説していきます。

 

こちらに動画での簡単な解説もありますので、動画でご覧になりたい方はこちらをご覧ください。

<目次>

原則「心からほめる」とは?

人は誰もが「自分が重要な存在だと周囲から認めて欲しい」と思っています。心から称賛することは、相手が欲する自己重要感をしっかりと満たすことにできる行為です。

 

上辺のお世辞ではなく、心の底から相手を褒める

相手を褒める時は、上辺ではなく、心の底から褒めることが大切です。相手に好かれようとして、本心で思ってもいないお世辞を口にすれば、相手から簡単に見透かされ、むしろ逆効果にもなってしまうでしょう。

 

“誰でもほめてもらうことはうれしい。だが、その言葉が具体性を持っていてはじめて誠意のこもった言葉、つまり、ただ相手を喜ばせるための口先だけのものでない言葉として、相手の気持ちをじかに揺さぶるのである。我々には、他人から評価され、認められたい願望があり、そのためにはどんなことでもする。だが、心のこもらないうわべだけのお世辞には、反発を覚える”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

 

引用したように、カーネギーもうわべだけのお世辞を口にすることは、相手に反発を抱かせるだけであるとして、厳に戒めています。

 

事実や行動を具体的な言葉にして褒める

先述のカーネギーの言葉をもう一度引用します。

”誰でもほめてもらうことはうれしい。だが、その言葉が具体性を持っていてはじめて誠意のこもった言葉、つまり、ただ相手を喜ばせるための口先だけのものでない言葉として、相手の気持ちをじかに揺さぶるのである。我々には、他人から評価され、認められたい願望があり、そのためにはどんなことでもする。だが、心のこもらないうわべだけのお世辞には、反発を覚える”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

 

カーネギーは「言葉が具体性を持っていてはじめて」「相手の気持ちをじかに揺さぶる」と述べています。

 

確かに、ほとんどの人は、多かれ少なかれ褒められれば嬉しく感じるものです。ですが、その言葉の中に具体性が伴っていない場合、「何となくノリで褒めてくれてるのかな」「心からの言葉じゃないんだろうな」と、なかなか本心から喜びづらいものです。

 

ですから、褒めるときには、「相手のどこがどのように素晴らしいのか」をしっかりと具体的に伝えるようにしましょう。具体的な内容やエピソードがあることで、相手に「自分のことをしっかりと見てくれた上で、褒めてくれているのだな」と伝わります。

 

「ただ頑張ったね」と漠然と褒めるのではなく、例えば「この間作ってくれたマクロのおかげで、○○の作業工数が半減して、とても助かったよ!」というように、事実や行動を具体的な言葉にして伝えることが大切です。

 

相手を観察し、小さな進歩や成長を見つける

何度も触れたように、人間は誰もが「自分が重要な存在でありたい」と思っています。心から称賛することによって、相手の自己重要感はしっかりと満たされます。相手が努力していること、誇りを持っている事など、相手が自分でも気づいていない良い点を見つけ、積極的に褒めるようにしましょう。

 

一方で、私たちは、相手の良いところに気づくよりも、できていないところ、至らない部分の方がどうしても目につきがちです。ビジネスシーンでいえば、「仕事でろくに成果も出せない相手には、そうそう褒める言葉なんて出てこない!」と感じる管理職の方も多いかもしれません。

 

“なぜ、鞭むちの代わりに肉を、批評の代わりに賞賛を用いないのだ? たとえ少しでも相手が進歩を示せば、心からほめようではないか。それに力を得て、相手はますます進歩向上するだろう。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

 

相手を褒めることは求める基準や絶対値を下げるということではありません。どんな小さなことであっても、進歩や成長があれば心から褒めることが大切であると、カーネギーは話しています。普段から相手に関心を持って接していれば、些細な変化や成長はきっとたくさん見つかるに違いありません。私たちの心掛け次第で、相手を褒める言葉はいくらでも出てくるのです。

 

デール・カーネギーと『人を動かす』

「心からほめる」の原則が収められているのは書籍『人を動かす』です。

 

著者であるデール・カーネギーは、自己啓発やコミュニケーションの分野で成功した講演者・作家であり、『人を動かす』『道は開ける』で有名です。貧しい家庭に生まれた彼は、教師を目指して大学を卒業後、販売職などを経験しましたが長続きせず、YMCAの話し方講座で転機を迎えます。講師として人気を博し、独立後に数多くのトレーニングプログラムを開発しました。

 

カーネギーの代表作『人を動かす』は1936年に出版され、良好な人間関係を築き、人を動かすための実践的ノウハウを実例と共にわかりやすく解説した書籍です。発売から90年近く経過した現在も売れ続け、1500万部を超える世界的ベストセラーとなっています。

 

書籍『人を動かす』の内容とデール・カーネギーを詳しく知りたい方は、以下の記事で紹介していますのでご覧ください。

 

 

「人に好かれる六原則」とは

カーネギーの著書『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4つのパートで構成され、全部で30の原則が紹介されています。原則「心からほめる」は、「人に好かれる六原則」のひとつです。本章では「人に好かれる六原則」の概略を簡単に紹介します。

 

1.誠実な関心を寄せる

私たち誰もが、もっとも深い関心を注いでいる対象は「自分自身」です。ですから、一番の関心事である「自分」に対して関心を寄せてくれる相手は、特別な存在となり好意を抱くようになります。しかし、表面的なお世辞を言ったり、小手先のテクニックは逆効果になってしまいます。大切なのは「誠実な関心」であり、素直な心で相手に興味を持って接するという姿勢に他なりません。

 

 

2.笑顔を忘れない

人は目の前の相手の本音を判断する時、発した言葉以上に、表情や声のトーンなど非言語コミュニケーションを本能的に重視すると言われています。だからこそ、友好的な感情が一目瞭然である「笑顔」は、百の着飾った言葉よりも、人に好印象を与えることになります。カーネギーは本書の中でも、「動作は言葉よりも雄弁である」として、笑顔でいることの重要性を強調しています。

 

 

3.名前を覚える

私たちは、生まれてからずっと一緒に過ごしてきた「自分の名前」に対して、格別な親しみや思い入れを持っています。自分の名前は、自分自身を象徴するかけがえのない存在です。だからこそ、親しみを込めて名前で呼びかけられたり、久しぶりに会った相手が自分の名前を覚えていてくれたりすると、「自分の存在を認めてくれている」「自分に関心を持ってくれている」と感じるものです。好ましい人間関係を作る上では、相手の名前を大切にする姿勢が重要です。

 

 

4.聞き手にまわる

相手は、“あなた”に対して持っている何百倍もの興味・関心を“自分自身”に持っています。だからこそ、自分が興味・関心を持っているテーマを心置きなく話している時は、誰にとっても心地良い時間になります。そして、そんな幸せな時間を提供してくれる聞き手に対しては、自ずと好感を抱きます。良い関係を築くには相手の話を聞いてあげること、すなわち、良い聞き手になることが重要です。

 

 

5.関心のありかを見抜く

何度もお伝えしていますが、人は自分が関心を持つ話題を話すことが好きで、興味のある話題になると自然と饒舌になります。相手の話を聞くだけでなく、相手の関心を見抜き、それを話題にすることが効果的です。相手が気持ちよく話せる環境を作るために、相手の興味を把握し、適切な話題を振ってみましょう。

 

 

6,心からほめる

カーネギーは「人は誰でも他人より優れた点を持ちたいと思っている。相手の心を確実に手に入れるには、相手の重要性を素直に認め、そのことを素直な気持ちで相手に悟らせることである」と話しています。相手の優れた点を発見し、素直に褒めてあげることで、相手は満足感を得られることでしょう。

 

「人に好かれる六原則」の全体像は、以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

 

まとめ

記事では、原則「心からほめる」をテーマにお伝えしました。

 

何度か触れたように、人間は誰しも「自分が重要な存在だと、人から認めてもらいたい」と思っています。相手を心から称賛し、言葉にして伝えてあげることで、相手の自己重要感をしっかり満たせることでしょう。誰にでも心からほめることが自然に出来る人は、相手の心をしっかりと掴むことができる人でもあるのです。もちろん、取ってつけたようなお世辞ではなく、心からの賛辞が大切であるのは言うまでもありません。

 

「まだ全然求めるレベルに達していないのに褒め過ぎたら相手をだめにしてしまう」と考える人もいるかもしれません。しかし、褒めることは求める基準やレベルを下げることではありません。相手に関心を持って接していれば、日々のちょっとした変化や成長、努力など、相手を心からほめるための材料は、思っている以上にたくさん見つかります。絶対的な基準としては合格点に達していなくても、小さな進捗や成果を褒めればいいのです。そのためにも、周囲の人に積極的に普段から関心を持って接するということを、日々の習慣にしていきましょう。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修を参照してください。

 

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
・社長が知っておくべき、業績達成する目標管理と人事評価
・社長の右腕 ~ナンバー2の上司マネジメント / 部下マネジメント~
・オーナー経営者が知っておきたい!業績があがる人事評価制度と組織づくりのポイント
・社長の右腕 10の職掌 など

関連記事

  • HRドクターについて

    HRドクターについて 採用×教育チャンネル 【採用】と【社員教育】のお役立ち情報と情報を発信します。
  • 運営企業

  • 採用と社員教育のお役立ち資料

  • ジェイックの提供サービス

pagetop