「人の立場に身を置く」の詳細と実践
はじめに、記事のメインテーマでもある「人の立場に身を置く」について詳しく解説します。
1.人が何か行動を起こす時には何かしらの動機がある
人が行動を起こす時、そこには何かしらの動機・理由が存在します。冒頭ではイソップ童話の「北風と太陽」を引用しましたが、北風のように力づくで動かそうとしても、大概の人は反発したりガードを固めたりするので、期待する結果にはなりません。
太陽のように、相手に自らの欲求で動いてもらうための働きかけこそが重要になります。
職位や権力を使って“無理やり従わせる”、“力づくで相手を動かす”といったことも、表面的あるいは一時的には出来るかもしれません。
しかし、このやり方では、相手は“言われたから”、“指示を破って怒られたくないから”という理由で行動するに過ぎません。熱意や工夫はなく、当然、高いパフォーマンスが発揮されることもないでしょう。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
2.相手の求めるものが何か知る
相手に強い欲求を起こさせるための大切なポイントは、相手の求めるものが何かを知ることです。このことについて、カーネギーは魚釣りの例えを用いて分かりやすく説明しています。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
イチゴミルクが好きな人は多いかもしれません。しかし、自分がイチゴミルクを好きだからといって、イチゴミルクを餌にしても魚は釣れません。魚が好きなのはイチゴミルクではなく、ミミズだからです。
私たちが苦手とするミミズを魚が好むように、好むもの・求めるものは様々であり、自分とは異なります。相手に欲求を起こさせるためには、まず相手の求めるものが何かを理解することが大切です。
このことは、言われてみると当たり前の話です。しかし、私たちはビジネスの現場でついついこの原則を忘れてしまいがちです。
例として、組織における業務の目標設定について考えてみましょう。
多くの組織では、期首に事業計画が立てられ、それが部門や支店の目標へとブレイクダウンされ、さらにチーム、そして、個人の目標へと落とし込まれます。この仕組みは、社員個人の努力を組織全体の成果につなげるという意味では、非常に合理的です。
しかし、この時、各個人に設定された目標は「本人にとって達成したいと思う目標」、一人一人にとって「求めるもの」になっているでしょうか。「何としても達成したい!」と思える目標にするためには、「目標を達成すること」と「各個人が望んでいるもの」がどうつながるかを紐づけて伝えてあげる必要があります。
目標達成のために頑張る理由は、ある人にとっては昇進かもしれませんし、別の人にとっては賞与かもしれません。夏休みに家族と少し豪華な海外旅行を楽しみにする人、転職しても通用するスキル・能力向上が一番だという人、「この会社で自分はやっていける!」という自信が欲しい人・・・などなど、求めるものは社員それぞれ様々です。
しかし、多くの組織や上司が、社員が何を求めて仕事や目標達成に取り組んでいるのか?を理解するプロセスを怠って、「給与をもらっているのだから、文句を言わずに与えられた目標を達成しなさい」と相手の立場にならず、指示と命令で人を動かそうとしています。これは論理的に間違っているわけではありません。しかし、人を動かすアプローチにはなっていません。
「何のために目標達成を頑張るのか?」「何を求めて仕事に取り組むのか?」は、ひとりひとり違います。
だからこそ、「給与をもらっているのだから、与えられた目標を達成しなさい」と当たり前のように指示するのではなく、各メンバーが仕事を通じて得たいものをテーマにして、それを得る方法を一緒に考え伝えてあげることが大切です。
それが、結果として、メンバーのモチベーションやパフォーマンスを大きく引き上げて、組織の目標を達成することにつながります。
3.相手の立場に身を置き、相手の視点から物事を考える
相手が何を求めているか?は、相手の立場に身を置いて、相手の視点から考えることで、ようやく理解できます。『人を動かす』の中で、カーネギーは自身が目にしたエピソードを引用して分かりやすく説明しています。
“エマーソンとその息子が、小牛を小屋に入れようとしていた。ところがエマーソン親子は、世間一般にありふれた誤りを犯した──自分たちの希望しか考えなかったのである。息子が小牛を引っ張り、エマーソンが後ろから押した。小牛もまたエマーソン親子とまったく同じことをやった──すなわち、自分の希望しか考えなかった。四肢を踏んばって動こうとしない。
見かねたアイルランド生まれのお手伝いが、加勢にやってきた。彼女は、論文や書物は書けないが、少なくともこの場合は、エマーソンよりも常識をわきまえていた。つまり、小牛が何をほしがっているかを考えたのだ。彼女は、自分の指を小牛の口に含ませ、それを吸わせながら、優しく小牛を小屋へ導き入れたのである。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
「自分の視点、自分の都合」で考えている限り、相手が何を求めているか?は見えてはきません。上記のエピソードでは、エマーソン親子が自分たちの都合で子牛を動かそうとしましたが、ビクともしませんでした。それとは対照的に、お手伝いの女性は「子牛は何を欲しがっているのだろうか?」とまず考えました。
子牛の目線・気持ちになって考えた結果、母牛の母乳に見立てて誘導することで、子牛をすんなりと小屋へ入れることに成功したのです。
このように、自分ではなく、「人の立場、相手の気持ち」に焦点を当てて考えてみることで、相手が望むものが見えてきます。相手が望むものが見えてくれば相手を動かすことができます。
時には、相手の要望をなかなか掴めない場合もあるかもしれませんが、心配することはありません。分からない時は、シンプルに相手に訊けばよいのです。
お互いの人間関係ができてさえいれば、きっと相手は喜んで教えてくれるでしょう。その上で、相手が欲しいものを手に入れる方法を一緒に考え、伝えてあげることで、相手は自発的に行動を起こすでしょう。







