本章では、記事のテーマである「自分の過ちを話す」について、詳細と実際の人間関係の中で活用するためのポイントを詳しく解説します。
1.自分の過ちを話すとはどういうことなのか?
人を変える9原則の1つである、「自分の過ちを話す」とはどういうことでしょうか。
カーネギーは書籍『人を動かす』の中で、具体例として以下のエピソードを挙げています。
あるときカーネギーは、姪のジョセフィーンを秘書として雇いはじめました。
ところがジョセフィーンは、秘書の仕事はおろか社会人として働いた経験もほとんどなく、仕事でミスや失敗ばかりしてしまいます。
さすがのカーネギーも堪忍袋の緒が切れ、彼女に小言を言いそうになりましたが、ふと思いとどまりました。
「ちょっと待った。デール、お前はジョセフィーンより倍の年上ではないか。それに仕事の経験は彼女の何万倍も持っている。彼女にお前と同じ能力を期待するのがもともと無理だ。もっとも、お前の能力といったところでたいしたものではないのだが。第一、お前は19の時どんなことをやっていたか、思い出してみろ。へまばかりやっていたではないか…」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
寸前で冷静になったカーネギーは、ジョセフィーンに次のように伝えました。
ジョセフィーン、これはいけないよ。しかし、まあ、私が今までにやった失敗にくらべると、これくらいは物の数ではないさ。はじめは間違うのが当たり前だよ。経験を積んではじめて間違いもなくなるのだ。私の若い頃にくらべれば、今のお前のほうがよほどましだ。私はずいぶんへまをやった覚えがあるから、お前に小言を言う気にはなれないが、どうだろう…こんなふうにしてみては…
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーは頭ごなしに叱責する代わりに、かつての自分自身の失敗談を話したのです。
たとえば、学生時代にアルバイトとして働き始めた当初、新入社員として仕事した時のことを思い出してみてください。
右も左も分からない中で、皆さんも失敗した経験が多くあるのではないでしょうか。
誰かがミスをした時、相手を注意することは、成果のためにも相手の成長のためにも大切です。
その時、注意するあなた自身も昔は同じように失敗したことを伝えるとどうなるでしょうか。
相手も頭ごなしに言われた感覚は受けないでしょうし、素直にこちらの話を聞こうという気持ちにもなりやすいでしょう。
このように、最初に自身の過ちを伝えることによって、相手はあなたの注意や指摘を素直に受け入れる心の準備ができるようになるのです。
2.「自分の過ちを話す」原則を人材育成に活用する
「自分の過ちを話す」という原則は、人材育成で大いに活用することができます。
書籍『人を動かす』では、自分自身の過ちを引き合いにして、相手に改善を促したエピソードが紹介されています。
技師のディリストン氏は、秘書のタイプミスの多さにほとほと手を焼いていました。
本来であれば、綴りの難しい単語は単語帳で確認すべきなのですが、秘書にそのように指導してもなかなか改善されません。
ある日、秘書がタイプした手紙を見ると、例のごとく単語のミスが見つかりました。そこでディリストン氏は、次のように秘書に話しました。
『この単語は、どうも綴りが怪しいように思うのだが、実を言うと、この単語には私自身いつも悩まされる。それで、私はこの単語帳を調べるんだ〔ここでそのページを広げて彼女に見せる〕。ほら、ここにある。私は単語の綴りにはとても気を遣っている。世間の人は、私たちの手紙で私たちのことを判断するらしいからね。手紙に綴りの間違った単語があると、私たちの技術にもどこか欠陥があるような印象を与えるんだよ』
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
「自分自身も間違えるから、間違わないよう単語帳を調べているのだよ」とディリストン氏は伝えたわけです。
“上から目線”で叱るのではなく、ディリストン氏のように自分自身の過ちを引き合いにして「自分も間違えるから、これこれこのようにしているのだ」という伝え方は、相手に改善を促す効果的な方法のひとつです。
3.人材育成で「自分の過ちを話す」を実践する時のポイント
記事の最後では、マネジメントや部下指導で「自分の過ちを話す」を実践する時のポイントを3つお伝えします。
1つ目のポイントは、相手に改善を促したいときほど、成功事例ではなく、失敗事例を話すのが大切だと言うことです。
繰り返しになりますが、人は自分が正しいと思いたい性質を持っていますし、自分の過ちを認めることは自尊心を傷つけることにもつながります。
そんな性質を持った人間に、成功事例を話して、「だから、お前もこうしなさい。今のやり方を変えなさい」と伝えるとどうなるでしょうか。
本気で相手のことを思ってのアドバイスだとしても、相手にとっては自慢話を聞かされ、さらに自分の自尊心の傷口に塩を塗り込まれるような思いをするでしょう。
相手が失敗した時、相手の自尊心がへこみそうなときほど、横に寄り添う姿勢で失敗談を伝えることが有効です。
2つ目は、上司の失敗談は挑戦を促す、という事です。新人・若手社員にしてみると、全体的には上司は「すごい人」に見えるものです。
“すごい人”として尊敬されることはもちろん喜ばしいことですが、一方で、相手に「自分は課長のようにはできない」というプレッシャーを与えたり、挑戦を躊躇させたりする要因にもなりえます。
指導する側がオープンに自分の失敗体験を伝えることは、「課長でも失敗は付きものなんだし、よしやってみよう!」と新人・若手社員のチャレンジを促したり、「上司も昔は失敗が多かったんだ。それなら自分も上司のようになれるかもしれない」と意欲を与えたりすることにつながります。
3つ目は、失敗体験を伝えることで、不安を払拭できるということです。そもそも失敗体験が無ければ失敗がどんなものかは想像できません。
そして人は想像できない事には過剰に不安を抱くものです。特に下の世代になればなるほど、失敗を恐れる傾向があります。
そのためにも、当事者として上司側が失敗事例をオープンにすることが大切です。
「失敗しても大丈夫」ということが分かると、部下・メンバーは安心します。
「失敗するとどうなるのか」「ミスした時はどう行動すれば良いか」を伝えることで、失敗に対処するイメージも具体的になるでしょう。
そして、「失敗した時はしっかりフォローする」と話しておくことで、新人・若手は一層安心して仕事に取り組めるようになるでしょう。