「人の身になる」の詳細と実践のポイント
「人の身になる」の原則の詳細と、実際の人間関係の中で活用するためのポイントを詳しく解説します。
1.なぜ、人の身になって考えることが大切なのか?
私達は、幼少期から今に至るまでの様々なタイミングで、人の身になって考えることの大切さを言われてきています。
なぜ、人の身になって考えることが大切なのでしょうか。
例えば、職場に頻繁に遅刻して出社する若手社員がいたとします。
もちろん、そのままにしておくわけにはいきませんので、きちんと定時前に出社するよう指導することは大切です。しかし、相手の話を聞かず、頭ごなしに叱っていいものでしょうか。
カーネギーは以下のように言っています。
そうすれば、相手の行動、相手の性格に対する鍵まで握ることができる。本当に相手の身になってみることだ。『もし自分が相手だったら、果たしてどう感じ、どう反応するだろうか』と自問自答してみるのだ。これをやると、腹を立てて時間を浪費するのが、馬鹿馬鹿しくなる。原因に興味を持てば、結果にも同情を寄せられるようになるのだ。おまけに、人の扱い方が一段とうまくなる。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーが言うように、どんな人であってもその行動には何かしらの理由が存在します。
もちろん定時前に出勤することは社員としての義務です。定時前にきちんと出勤するために「もっと早く家を出ればいいのに」「朝が弱いなら近いところに引っ越せばいいのに」といった意見も当然のことです。
それでも、一歩立ち止まり、「なぜ彼/彼女は、朝時間通りに来られなかったのか?どんな理由があるのだろうか?」と考えて探っていくことで、相手の背景、相手の事情も知ることができ、より良い解決策が見つかることもあるでしょう。
若手社員の例でいえば、重い貧血で満員電車を乗り継ぐ体力が心もとなく途中で少し休む必要があるのかもしれません。あるいは、家族の介護があるため、会社から遠くても実家から引っ越せないといったケースもあるでしょう。
相手の身になって考えた結果、このような事情が判明したのであれば、フレックス制度の導入や検討を考えてもいいかも知れません、また、家から近い支店への配属やリモートワークを考えることもできるようになるでしょう。若手社員ひとりのためにと思うかもしれませんが、背景を知ることで「今後ほかにも出てくるかもしれない…」といった思考も生まれます。
制度的な変更は難しいとしても上記の事情を知ったうえで、若手社員と共に解決策や対応を考えれば、相手の行動も変わりやすいでしょう。
相手の身になって考えるというのは、決して相手の言動をそのまま肯定したり許容したりすることではありません。そうではなく、相手自身や相手の行動の背景を、より深く理解することで、好ましい人間関係を維持しながらより良い解決策を発見する、まさに「相手を動かす」ための原則なのです。
2.相手の身になって考えるとは、どういうことか?
相手の身になって考えることは、私たちが好ましい人間関係を築く上でも、より良い未来を手にするためにも極めて大切です。しかし、私達はみな、異なる人生を過ごし、異なる考えや価値観を持っています。その意味では、本当の意味で「相手の身」になって考えることは不可能なことです。
カーネギーがいう「相手の身になる」というのは、「もし自分が相手の立場だったらどう感じるだろうか?」「彼/彼女は、どうしてあのような行動に至ったのだろうか?」と一歩立ち止まって考える、相手を理解しようとする姿勢や行動です。
相手の身になるとは、相手の視点を想像する姿勢や行動であり、意識と心がけ次第で誰にでもできることです。
相手の立場、相手の身になって考えて想像しても分からない、考えた結果が事実とは違っていたというケースもあるでしょう。しかし、それをネガティブに捉える必要はありません。
きちんと確認すれば、相手はこちらが理解しようとしてくれた姿勢、行動を肯定的に捉えてくれるでしょうし、事実と違っていたら改めて認識をすり合わせていけばいいだけのことです。また、相手の事情を考えてみて「分からない」からこそ、「訊いてみる」という行動も生まれるはずです。
3.実際の人間関係の中で、「相手の身になる」を実践するためには?
最後に実際に「相手の身になる」を実践するポイントと注意点を紹介します。
職場での部下指導を例に見ていきましょう。
職場で部課長やマネージャーなど、部下メンバーの育成も担当している人がいることでしょう。言うまでもなく、部下を持つ上司にとって、部下を成長させ目標達成できるよう指導することは、とても大切な業務です。もし、部下が同じ失敗を繰り替えしたり、目標未達が続いたりするようであれば、行動を是正できるようにサポートすることが必要です。
ただ、部下が失敗したり、なかなか目標達成できずにいたりする場合、部下には部下なりの理由や事情があるでしょう。だからこそ、「相手の身になって考える」ということが重要になってきます。
この時、指導する側の上司が「部下の身になって考える」を実践する上で、やってしまいがちな注意点が2つあります。
1点目は、上司-部下のように、立場や経験、力量の差が大きいケースに起こりがちな注意点です。
管理職というのは、以前のポジションで実績を出してきて能力があるからこそいまのポジションにいるわけです。当然、部下と比べてスキル、能力も経験も上です。そうすると、部下の立場を想像して考えてみたとき、上司からすると打ち手や対処法はいくらでも思いつくものです。
そのことを忘れてしまい、「お前の立場でも、考えればやれることなんていくらでもあるじゃないか!考える気が無いのか?」ともなってしまいかねません。
部下の身になって考えるうえでは、自分とは能力やスキルのレベルが違うことを前提に、「どのステップに苦手意識を感じるのか?」「どこで失敗してしまうのか?」など部下が上手くいかない理由をきちんと考え、また、聞いてみて指導することが大切です。
2点目は、部下の話が“言い訳”や“弁解”に聞こえたときの対応です。少し古いデータですが、職場の上司と部下の関係性について調査したアンケート*があります。
アンケート結果をみると、部下が「上司との信頼関係が損なわれた」と思うエピソードの第1位は、「部下自身がミスしたことによって、上司との信頼関係が損なわれた」という回答です。
成功も失敗もしてきた上司からすると、「失敗も成長の糧だから」というように、失敗そのものをそこまでネガティブには考えないかもしれません。しかし、アンケートからも分かるように、部下は上司の想像以上にミスや失敗を恐怖し不安に感じています。
失敗を繰り返してしまった時、目標未達が続いた時、部下の口からは、「それには、これこれこういう事情があったんです」「製造部がバタバタしていたせいで納期に間に合わなかったんです」といった言い訳や弁解が出てくるのは、保身だけでなく、上司が思っている以上に「不安」を感じているから出てくる側面もあるのです。
*調査結果:職場の上司と部下の関係実態調査 2010年 ~上司と部下のよりよい関係づくりに関する調査報告書~(満井就職支援奨学財団・静岡経済研究所 共同調査(2010))
カーネギーの原則にもあるように、過ちを認め素直に謝罪する姿勢は大切です。
しかし、だからといって、部下の言い訳を一切許さず、弁解の余地を与えず、「言い訳ばかりして、素直に謝罪も出来ないのか!?」と対応すればどうでしょうか。部下は上司との信頼関係が無くなったと感じて、精神的に委縮して、パフォーマンスもますます低下してしまうかも知れません。
部下の弁解や言い訳を最終的に許容するかどうかは置いておいて、部下の弁解や言い訳をいったんは受け入れることも大切です。
「相手の身になって考える」ことを突き詰めていくと、時には“物事の道理として正しいかどうか?”とぶつかることも出てきます。上司にとって難しい判断を迫られるかもしれませんが、お互いの信頼関係と未来の成功を念頭に置いて、判断することが大切です。







