職場の同期や同僚を横目で見て「こいつにだけは負けたくない!」と頑張ったり、順位が付くキャンペーンなどで上位を取りたくて奮闘してしまったりという経験がある人は多いのではないでしょうか。仕事に限らず、勝敗やランキングがつくゲームになると、ちょっと本気になってしまう…という人もいるでしょう。
「人より優れたことを証明したい」「1位を取りたい」「周囲に負けたくない」など、周囲への対抗意識というものは多かれ少なかれ誰もが持っているものです。自己啓発や成功哲学分野のパイオニアとして広く知られるデール・カーネギーも、「人より優れていたい」と思う気持ちは誰にでもあり、対抗意識を刺激することが、相手を説得したり、モチベーションやパフォーマンスを高めたりする上で有効だと話しています。
記事では、デール・カーネギーの「対抗意識を刺激する」をテーマに、「対抗意識を刺激する」とはどういうことか、そして、人間関係の中で「対抗意識を刺激する」をどうすれば実践できるかを解説します。
こちらに動画での簡単な解説もありますので、動画でご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
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<目次>
「対抗意識を刺激する」の詳細と実践のポイント
記事のテーマである「対抗意識を刺激する」の詳細と、実際の人間関係の中で活用するためのポイントを解説します。
1.「人に負けたくない」という対抗意識が、人を本気にさせる
人は無意識に周囲への「対抗意識」を持っており、競争や勝敗と言ったゲーム的な要素があると、なぜか本気になってしまうものです。
カーネギーは、対抗意識の存在を象徴するエピソードを『人を動かす』の中で紹介しています。ある工場の責任者チャールズ・シュワッブは、工場の業績を向上させるためにとった手法の話です。
「君の組は、今日、何回鋳物を流したかね?」
「六回です」
シュワッブは何も言わずに、床の上に大きな字で〝六〟と書いて出ていってしまった。夜勤組が入ってきて、この字を見つけ、その意味を昼勤組の工員に尋ねた。
「親分がこの工場へやってきたのさ。今日、何回鋳物を流したか、と聞かれたので、六回だと答えると、このとおり〝六〟と書きつけていったのだ」
シュワッブは、翌朝またやってきた。夜勤組が〝六〟を消して、大きな字で〝七〟と書いてあった。
昼勤組が出勤してみると、床の上に〝七〟と大書してある。夜勤組のほうが成績を上げたことになる。昼勤組は対抗意識を燃え上がらせて頑張り、退勤時には〝十〟と書き残した。
こうして、この工場の能率はぐんぐん上がっていった。業績不良だったこの工場は、やがて他の工場を圧して生産率では第一位を占めるに至った。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
上記にあるように、シュワッブ氏は、昼勤組の工員と夜勤組の工員の間で、何回鋳物を流すことができたのか、お互いに回数を競わせたのです。
じつは、工場ではこれまで、工員たちを叱咤激励するなどして効率を上げようと試みていました。しかし、どんなに叱咤激励しても、工員たちの効率は一向に上がっていませんでした。それが、お互いに鋳物を流す回数を競争させる、単に「数字を書いて対抗意識を刺激した」だけで、工員たちのやる気・本気度が変わったわけです。
両者はお互いに、「相手には負けられないぞ!」と本気になり、必死になって作業効率を上げようとまい進したのです。その結果、他の工場を圧倒して生産性一位という結果が生まれました。
シュワッブ氏は、この出来事を踏まえて、「仕事には競争心が大切である。あくどい金儲けの競争ではなく、他人よりも優れたいという競争心を利用すべきである」という言葉を残しています。
私達は皆、「相手には負けたくない」「人よりも秀でていたい」という気持ちを多かれ少なかれ持っているものです。このような気持ち、すなわち対抗意識を刺激されると「相手には負けられない」と私達はつい本気になってしまうものです。
2.相手に負けん気を起こさせる
対抗意識を刺激する方法として、カーネギーは他に、相手に負けん気を起こさせる、という話をしています。
『人を動かす』の中では、負けん気に訴えることで、相手を本気にさせたエピソードが紹介されています。
ローズを呼び出して、スミスは「どうだね、君、シン・シンの面倒を見てくれないか。相当な経験のある人物でないと務まらないのだ」と快活に言った。
ローズは当惑した。シン・シンの所長になることは考えものだ。政治勢力の風向き次第でどうなるかわからない地位なのだ。所長はしょっちゅう代わっている。任期がわずか三カ月という例もある。うっかり引き受けるのは、危険だとローズは考えた。
彼が躊躇しているのを見て、スミスはそり身になって笑いながら、こう言った──
「大変な仕事だから気が進まないのも無理はないと思うね。実際、大仕事だよ。よほどの人物でないと務まらないだろう」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
上記の事例では、アル・スミスは所長を引き受けることに躊躇しているルイス・ローズに対して、「よほどの人物でないと務まらないだろう」と伝えました。このように言われたルイス・ローズは「私では務まらないとでも言いたいのか!よし、それならやってやろうじゃないか!」と仕事を引き受けることになりました。
対抗意識が発揮される先は必ずしも実在の人物である必要はありません。架空の人物、過去の自分、世間からの評判…といったものも対抗意識が発揮されるひとつです。また、ビジネスで結果を出している人間は、結果に対して執着心があり、「何としても勝ちたい」「絶対に負けたくない」という負けず嫌いな気質を持っていることが多いものです。
「相手に負けん気を起こさせる」というやりかたは、上記のような結果を出している人間に、思い切った挑戦をしてほしい時に大きな効果を発揮します。やればできるのに、守りに入っていたり、弱腰になったりしている相手に対して、ここぞというタイミングで負けん気を刺激すると、大きな効果を生むでしょう。
3.本質は、仕事そのものを面白く感じさせること
ここまでで、対抗意識を刺激することは、人を本気にさせたり、相手に負けん気を起こさせたりする上で効果を発揮する、といったことをお伝えしました。私たちの誰もが持っている対抗意識に訴えるやり方は、適切に活用することで、相手を説得したり、高いパフォーマンスを引き出したりすることが可能になります。
ただし、この原則は使いどころを間違えると、マイナスになってしまう可能性もあります。例えば、使い方を誤ると以下のようになる恐れもあります。
・周囲との比較だけで評価されて、個人の努力や成長を評価してくれないと感じさせる
・勝敗だけを重視した結果、成果が出なかった時に、自尊心が損なわれてしまう
使いどころには十分配慮が必要です。
カーネギーは、『人を動かす』の中で動機付け要因と衛生要因の二要因理論で有名な心理学者フレデリック・ハーズバーグの言葉を紹介しています。
仕事への意欲を最も強くかき立てる要件として、この行動科学者が発見したのは何であったか?
金? 良い労働条件? 諸手当? いずれも否。最大の要件は、仕事そのものだったのである。仕事が面白ければ、誰でも仕事をしたがり、立派にやり遂げようと意欲を燃やす。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
対抗意識を刺激したり、負けん気を起こさせたりすることは、仕事に面白くワクワクして本気になって取り組んでもらうための手段です。
社員の性格によっては、競争をあおられるとプレッシャーを感じるタイプもいますし、対抗意識が薄い人もいるでしょう。
最も大切なことは「仕事そのものをいかに面白くするか、モチベーション高く取り組んでもらうためにはどうすればいいか?」ということです。「対抗意識を刺激する」というアプローチはそのための手段の1つとして考えるとよいでしょう。
『人を動かす』とデール・カーネギー
「対抗意識を刺激する」の原則が収められた書籍『人を動かす』を執筆したデール・カーネギー(1888年生)は、アメリカ・ミズーリ州の農家に生まれました。大学を卒業後、営業職や俳優を目指して活動しましたが上手くいきませんでした。
しかし、カーネギーはYMCAでの話し方教室の講師経験を通じて天職を見出します。カーネギーは人間関係やリーダーシップ、プレゼンテーション分野の権威として知られるようになり、自分の研究所を設立して大成功を納めます。
カーネギーが1936年に出版した書籍『人を動かす』は、歴史上の人物のエピソードや実体験を交え、他者と良好な人間関係を築くための実践的な原則を体系化した名著です。本書は全世界で1500万部以上のベストセラーとなり、出版から80年以上経った現在も愛読されています。
書籍『人を動かす』の内容とデール・カーネギーをもっと詳しく知りたい方は、以下の記事で紹介していますのでご覧ください。
人を説得する12原則
書籍『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。本記事のテーマである「対抗意識を刺激する」は、「人を説得する12原則」のひとつです。
「人を説得する12原則」では、自分の要望を相手に受け入れてもらう、相手に主体的に動いてもらう上で重要な12の原則が書かれています。本章では「人を説得する12原則」の一覧を簡単に紹介します。
1.議論を避ける
人と議論をすれば、たとえ相手を論破できたとしても、負けた相手はあなたに反発心、時には恨みを抱くことになるでしょう。お互い意見が食い違う時、正面から議論するような状態に陥らないように注意しましょう。
2.誤りを指摘しない
相手の誤りを厳しく指摘すると、自尊心を損ね、感情的な反発を招くことがよくあります。誤りを指摘する際は、婉曲に伝えたり、「自分の理解が正確ではないかもしれない」と控えめに切り出すことで、相手に自ら気付いてもらうのが効果的です。
3.誤りを認める
自分の過ちを素直に認めることで、相手は寛容な態度を取りやすくなります。誤魔化しや言い訳をせず、速やかに謝罪し改善案を示すことで、相手との信頼関係が強まり、次のステップへ進むきっかけを作れます。
4.穏やかに話す
穏やかで落ち着いた話し方は、相手の警戒心を和らげ、信頼を築く鍵です。感情的にならず、笑顔や柔らかな物腰を意識することで、相手に「自分は味方である」と感じてもらい、円滑な対話が可能になります。
5.“イエス”と答えられる問題を選ぶ
交渉の際は、相手が「イエス」と答えられる質問から始めるのが効果的です。最初に肯定的な会話を重ねることで、相手の心情を前向きに変え、合意形成に向けた土壌を整えることができます。
6.しゃべらせる
人は自分の話を聞いてもらえると満足感を得ます。相手に心置きなく話してもらうことで信頼が深まり、こちらの話にも耳を傾けてもらいやすくなります。良い聞き手になることが、相手を動かす第一歩です。
7.思いつかせる
人は自分で考えたアイデアを重視します。一方的に指示すれば反発が生じるため、質問や提案を通じて相手に「自分が決めた」と思わせることで、主体的に行動してもらいやすくなります。
8.人の身になる
人の行動には、何かしら理由があるものです。相手を説得したり、動いてもらいたかったりする時は、まず相手の立場になって考えることが大切です。「相手はどうすれば気持ちよく動いてくれるだろうか?」「相手は何を望んでいるだろうか?」相手の身になって考えることで、相手を動かす手がかりが見えてくるでしょう。
9.同情を寄せる
多くの人は、「自分の気持ちを分かって欲しい」と心の中で思っています。「私があなたの立場であれば、同じように行動すると思います」と、相手の気持ちや感情に共感する言葉を伝えることで、相手はあなたに好印象を抱くでしょう。そうすれば、説得の言葉も相手に届きやすくなるものです。
10.美しい心情に呼びかける
人は「自分は立派な人間だ」と思いたいものです。相手の道徳心や大義に訴えかけることで、相手を動かす力が強まります。相手を高潔な人物として扱うことで、その期待に応えたいという気持ちを引き出しましょう。
11.演出を考える
相手に何か頼むとき、用件をそのまま伝えるのではなく、演出を工夫することで相手の感情を動かすこともできるでしょう。「どんな伝え方をすれば、相手は気持ちよく動いてくれるのだろうか?」を考えてアプローチすることが大切です。
12.対抗意識を刺激する
人は「周りより優れていたい」「みんなから注目されたい」と心の中では思っています。相手を説得したり、パフォーマンスを引き出したりする上では、このような対抗意識を刺激することも効果的です。ゲームや競争の要素を工夫して取り入れることもよいでしょう。
以下の記事で、「人を説得する12原則」の全体を解説していますので、ご興味あればぜひご覧ください。
まとめ
記事では、デール・カーネギーの『人を動かす』で紹介されている「対抗意識を刺激する」の原則を解説しました。
私達は誰しも、「1位になりたい」「この分野では誰にも負けたくない」といった対抗意識を多かれ少なかれ持っているものです。だからこそ、仕事にゲーム性を持たせたり、複数人の間で成果を競わせるなど、対抗意識を刺激することで、相手を説得したり、高いパフォーマンスを引き出したりすることが時には有効です。
ただし、記事でもお伝えしたように、対抗意識を刺激するやり方は、使いどころを間違えると、意図しない結果につながってしまう可能性もあるので、使いどころには十分配慮が必要です。「負けん気を起こさせた方が本気になりそうかどうか?」など、相手の性格や気質を見極め検討したうえで、上手に活用していきましょう。
HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修を参照してください。
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