「対抗意識を刺激する」の詳細と実践のポイント
記事のテーマである「対抗意識を刺激する」の詳細と、実際の人間関係の中で活用するためのポイントを解説します。
1.「人に負けたくない」という対抗意識が、人を本気にさせる
人は無意識に周囲への「対抗意識」を持っており、競争や勝敗と言ったゲーム的な要素があると、なぜか本気になってしまうものです。
カーネギーは、対抗意識の存在を象徴するエピソードを『人を動かす』の中で紹介しています。ある工場の責任者チャールズ・シュワッブは、工場の業績を向上させるためにとった手法の話です。
「君の組は、今日、何回鋳物を流したかね?」
「六回です」
シュワッブは何も言わずに、床の上に大きな字で〝六〟と書いて出ていってしまった。夜勤組が入ってきて、この字を見つけ、その意味を昼勤組の工員に尋ねた。
「親分がこの工場へやってきたのさ。今日、何回鋳物を流したか、と聞かれたので、六回だと答えると、このとおり〝六〟と書きつけていったのだ」
シュワッブは、翌朝またやってきた。夜勤組が〝六〟を消して、大きな字で〝七〟と書いてあった。
昼勤組が出勤してみると、床の上に〝七〟と大書してある。夜勤組のほうが成績を上げたことになる。昼勤組は対抗意識を燃え上がらせて頑張り、退勤時には〝十〟と書き残した。
こうして、この工場の能率はぐんぐん上がっていった。業績不良だったこの工場は、やがて他の工場を圧して生産率では第一位を占めるに至った。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
上記にあるように、シュワッブ氏は、昼勤組の工員と夜勤組の工員の間で、何回鋳物を流すことができたのか、お互いに回数を競わせたのです。
じつは、工場ではこれまで、工員たちを叱咤激励するなどして効率を上げようと試みていました。しかし、どんなに叱咤激励しても、工員たちの効率は一向に上がっていませんでした。それが、お互いに鋳物を流す回数を競争させる、単に「数字を書いて対抗意識を刺激した」だけで、工員たちのやる気・本気度が変わったわけです。
両者はお互いに、「相手には負けられないぞ!」と本気になり、必死になって作業効率を上げようとまい進したのです。その結果、他の工場を圧倒して生産性一位という結果が生まれました。
シュワッブ氏は、この出来事を踏まえて、「仕事には競争心が大切である。あくどい金儲けの競争ではなく、他人よりも優れたいという競争心を利用すべきである」という言葉を残しています。
私達は皆、「相手には負けたくない」「人よりも秀でていたい」という気持ちを多かれ少なかれ持っているものです。このような気持ち、すなわち対抗意識を刺激されると「相手には負けられない」と私達はつい本気になってしまうものです。
2.相手に負けん気を起こさせる
対抗意識を刺激する方法として、カーネギーは他に、相手に負けん気を起こさせる、という話をしています。
『人を動かす』の中では、負けん気に訴えることで、相手を本気にさせたエピソードが紹介されています。
ローズを呼び出して、スミスは「どうだね、君、シン・シンの面倒を見てくれないか。相当な経験のある人物でないと務まらないのだ」と快活に言った。
ローズは当惑した。シン・シンの所長になることは考えものだ。政治勢力の風向き次第でどうなるかわからない地位なのだ。所長はしょっちゅう代わっている。任期がわずか三カ月という例もある。うっかり引き受けるのは、危険だとローズは考えた。
彼が躊躇しているのを見て、スミスはそり身になって笑いながら、こう言った──
「大変な仕事だから気が進まないのも無理はないと思うね。実際、大仕事だよ。よほどの人物でないと務まらないだろう」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
上記の事例では、アル・スミスは所長を引き受けることに躊躇しているルイス・ローズに対して、「よほどの人物でないと務まらないだろう」と伝えました。このように言われたルイス・ローズは「私では務まらないとでも言いたいのか!よし、それならやってやろうじゃないか!」と仕事を引き受けることになりました。
対抗意識が発揮される先は必ずしも実在の人物である必要はありません。架空の人物、過去の自分、世間からの評判…といったものも対抗意識が発揮されるひとつです。また、ビジネスで結果を出している人間は、結果に対して執着心があり、「何としても勝ちたい」「絶対に負けたくない」という負けず嫌いな気質を持っていることが多いものです。
「相手に負けん気を起こさせる」というやりかたは、上記のような結果を出している人間に、思い切った挑戦をしてほしい時に大きな効果を発揮します。やればできるのに、守りに入っていたり、弱腰になったりしている相手に対して、ここぞというタイミングで負けん気を刺激すると、大きな効果を生むでしょう。
3.本質は、仕事そのものを面白く感じさせること
ここまでで、対抗意識を刺激することは、人を本気にさせたり、相手に負けん気を起こさせたりする上で効果を発揮する、といったことをお伝えしました。私たちの誰もが持っている対抗意識に訴えるやり方は、適切に活用することで、相手を説得したり、高いパフォーマンスを引き出したりすることが可能になります。
ただし、この原則は使いどころを間違えると、マイナスになってしまう可能性もあります。例えば、使い方を誤ると以下のようになる恐れもあります。
・周囲との比較だけで評価されて、個人の努力や成長を評価してくれないと感じさせる
・勝敗だけを重視した結果、成果が出なかった時に、自尊心が損なわれてしまう
使いどころには十分配慮が必要です。
カーネギーは、『人を動かす』の中で動機付け要因と衛生要因の二要因理論で有名な心理学者フレデリック・ハーズバーグの言葉を紹介しています。
仕事への意欲を最も強くかき立てる要件として、この行動科学者が発見したのは何であったか?
金? 良い労働条件? 諸手当? いずれも否。最大の要件は、仕事そのものだったのである。仕事が面白ければ、誰でも仕事をしたがり、立派にやり遂げようと意欲を燃やす。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
対抗意識を刺激したり、負けん気を起こさせたりすることは、仕事に面白くワクワクして本気になって取り組んでもらうための手段です。
社員の性格によっては、競争をあおられるとプレッシャーを感じるタイプもいますし、対抗意識が薄い人もいるでしょう。
最も大切なことは「仕事そのものをいかに面白くするか、モチベーション高く取り組んでもらうためにはどうすればいいか?」ということです。「対抗意識を刺激する」というアプローチはそのための手段の1つとして考えるとよいでしょう。







