リクルートが提唱している真因も踏まえて、キャリア自律支援のサービスを提供する中で感じる現場の課題を紹介します。
「仕組み先行」のキャリア自律支援
キャリア自律は本人の意識が非常に重要であり、また、描くキャリアビジョンは千差万別です。その中で目に見える仕組み、人事制度や学習機会等を先に整えるというアプローチを取る企業も多くあります。社内公募や異動希望、自己啓発の学習環境、副業や兼業の承認などの人事制度は、キャリア自律を実現する上で、もちろん素晴らしい制度です。
一方でこれらの人事制度は、キャリアビジョンが描けている人が活用できる制度という側面もあります。キャリアビジョンが描けていない状態では、こうした学習環境やキャリアプランの実現の機会提供の仕組みだけを導入しても、活用されない状況も起こり得ます。
半期や通期毎等のキャリアプラン提出等も、キャリアについて考えるきっかけとしては重要です。しかし後述する日々の忙しさとも相まって、きちんと考えている余裕が無いというのも多くの企業における実情です。
日常の「竜巻」
日常業務では、日々さまざまな仕事が飛び込んできます。そして、短期的には「業績目標」を追いかけるということが最優先になりがちです。
労働者個人のキャリア形成への関心は非常に強まっていますが、キャリア形成というテーマは、重要度は高くても短期的な優先度は上げづらいものです。キャリア形成について思考したり自己啓発に取り組んだりすることはどうしても後回しにされがちです。
目の前で優先度が高い業務に忙殺されてしまうと、締め切りもないキャリアビジョンの構築や、実現に向けたアクションは後回しになってしまいます。そうなってくると、なかなか着手できず、キャリア形成への不安だけが残ってしまう状態も起こりがちです。
社内対話における「心理的安全性」確保の限界
キャリア自律を促すうえでは、個人との対話が非常に大切です。一方で、社内でのキャリア対話は、心理的安全性の確保に課題が生じがちです。
転職や独立、副業・兼業等が当たり前の選択肢となった今の時代、キャリア形成において個人と企業の立場・利益が、表面的にずれてしまうことも多くなります。
たとえば「キャリア形成が不安で転職を考えている」「今の仕事にやりがいを見いだせない」「もっと挑戦したいので転職・独立を考えた方が良いかもしれない」といった不安や考えは、深く対話していくと、いまの仕事でも解決すると気づく、また社内公募制度等の活用で解決すると腑に落ちる可能性もあります。
しかし、上記のような不安や考えを抱いた従業員からすると、こうした相談はかなり強い信頼関係がないと、上司や会社には言いにくいでしょう。
キャリア形成というテーマは、通常のビジネスで必要とされる上司と部下、会社と個人の信頼関係よりもかなり深いものが必要とされ、社内対話における心理的安全性の確保に限界が生じやすいでしょう。
管理職への「過剰負荷」
現在の管理職は、業績達成・部下育成という2つのメインミッションを持つ中で、求められる業務の高度化、分業の促進によって自分以上の専門性を持った部下、成果主義等による“年上の部下”、さらにハラスメントへの懸念、ワークライフバランスや多様性・ウェルビーイングへの配慮、部下のキャリア・ライフ支援と、かなり多くのことが求められています。
キャリア自律支援においても、上司が重要な存在になることは間違いありません。しかし、上司にキャリア自律支援の責任を担わせてしまうようなアプローチは、過剰負担となり得るものです。業績目標の達成に加えて、人材育成、その中で部下のキャリア自律支援まで万全に実施できる管理職は、決してそう多くはないでしょう。
キャリア観の「多様化」
キャリア面談等の対話施策を実施する中で、管理職への負荷を軽減しようと思うと、人事がキャリア面談を実施するケースが多くなります。数十名~数百名規模の組織の場合、従業員の年代・性別・職種等も多様化していきます。
それに伴い、人事が対応しようと思うと、工数の負荷に加えて実施の難易度も増加していきます。たとえば、20代・30代で営業出身の人事が、40代の経理や法務のキャリア相談に乗ることは難しい側面があるでしょう。同じ性別・年代、職種でも、キャリア観の多様化によって社内での昇進・昇格だけでなく、専門性の追求、独立、兼業、ワークライフバランスなど関心あるテーマも様々になっています。
こうしたことから昔以上に個別対応が必要であり、かつ、個別対応の難易度も増しています。社内でのキャリア対話を人事主導で進めていこうとする場合、心理的安全性に加えて、このような課題を抱えている組織もあります。