「誤りを指摘しない」の詳細と実践
最初に、原則「誤りを指摘しない」の詳細と実践のポイントを解説します。
1.そもそも私たちは「過ち」を判断できるのか?
私達は、周囲の誰かが間違った言動をしているのを見ると、「それは間違っている」と思わず指摘したくなるものです。面と向かって伝えないにしても、「そのやり方じゃダメだ」「あいつは分かっていない」など、心の中で突っ込みを入れる人も多いかもしれません。「人が間違ったことをするのを見たら、それを正してあげるのは当たり前じゃないか?」と主張する人もいます。
実際に、間違いを指摘する人の多くは、悪意があるわけではなく、相手のためを思って善意で声をかけることが殆どではないでしょうか。たとえば、部下指導で上司が部下のミスを指摘する時は、「成果を出して欲しい」「もっと成長して欲しい」といった想いが背景にあることが多いでしょう。
それでも、カーネギーが相手の誤りを指摘すべきでないと主張とするのは、なぜでしょうか。
まず大前提には、私たちは、物事が正しいのか・間違ってるのかを、果たして正確に判断することができるのか?という視点があります。
カーネギーは『人を動かす』の中で、セオドア・ルーズヴェルトの言葉を紹介しています。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーは他にもソクラテスの言葉を引用しています。
「私の知っていることは一つだけだ──自分が何も知っていないということ」
博学で知られるルーズヴェルトであっても、100のうち75正しかったらベストだ。歴史上に名を残すソクラテスも、自分は何も知らないのだと話しています。
このような歴史に名を残すほどの人でも、判断を誤ることは多々あるし、知らないことが無数にあるあるわけです。だとすれば、ごく普通の人である私たちが、物事の正誤を正しく見極め、一方的に誤りを指摘することはできるのでしょうか。
とはいえ、たとえば、ビジネスや育児、日常生活の中では、「明らかに誤っている!」と思うことも決して少なくはありません。それなのに、なぜカーネギーは誤りを指摘しない方がいいというのでしょうか。次節で2つ目をお伝えします。
2 明らかに間違っていても誤りを指摘しない方がよいのは何故か?
誤りを指摘しないほうがよい2つ目の理由は「人を動かす」「誤りを正す」という目的から照らし合わせた視点です。
もし、真っ向から自分の間違いを指摘されたとき、相手はどのように感じるでしょうか。カーネギーは以下のように言っています。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーが言うように、過ちを指摘される、すなわち「お前は間違っている」と正面から言われると、人は自尊心を傷つけられるものです。問題は、論理の正誤ではなく相手の「感情」です。理屈として正しいかどうかではありません。たとえ、相手の意見や行為が実際に誤っていたのだとしても、それを否定して生じるのは、大抵の場合「自尊心を傷つけられた」という相手の感情です。
相手は、指摘した人に感謝するどころか、むしろ反発心やマイナスの印象を抱き、あなたの説得を受け入れたり、積極的に誤りを正したりしようとは思わないでしょう。
つまり、正面から相手の誤りを指摘しても、「人を動かす」「誤りを正す」というゴールにたどり着けないことが多いのです。
3 相手自身に誤りを気づかせる
お伝えしたように、正面から手厳しく間違いを指摘されれば、人は反抗心が抱き、自分の自尊心を守ろうとするものです。従って、誤りを指摘しても、相手を説得したり、期待通りに動いてもらったりすることは叶いません。しかし、ビジネスシーンでの部下指導など、相手に間違いを認識させ、修正してもらう必要があることも多々あります。そのような時、どうすればよいでしょうか。
カーネギーは、相手の誤りを正すための処方箋は「相手自身に誤りを気づかせること」だと話しており、『人を動かす』の中で具体的に2つ手法を紹介しています。
1つ目は、控えめな表現を使い、自分の意見を断定的に言わない、ということです。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
2つ目は、直接間違いを指摘するのではなく、質問して相手に考えさせるということです。たとえば、部下が提出した企画書に不備があったとします。このとき上司であるあなたは、間違いをピンポイントで指摘するのではなく、次のように聞くこともできるでしょう。
「良い企画書だね!でも、この部分について理解できないので詳しく説明してくれないかな?」
「今回ターゲットにしているユーザーに、このビジュアルで伝わるだろうか?」
このように、質問することで相手に誤りを気づかせると、相手の自尊心は傷つきません。もちろん、すぐ修正しないと困るなど、正面から間違いを指摘して、指示として強制的に直させることが必要な場合もあるでしょう。すべての場合に誤りを指摘してはいけないということではありません。
ただし、ここまでお伝えしたように「相手に主体的に誤りを直してもらう」ためには、正面から誤りを指摘するよりも、相手自身に間違いに気付いてもらう、考えてもらうことが肝心だということです。






