「しゃべらせる」の詳細と実践
記事のテーマである原則「しゃべらせる」について詳しく解説します。
1.相手自身にしゃべってもらうことで、相手を理解する
「相手に話してもらう」「相手の話を聞く」ことの大切さは、多くのセミナーやビジネス書に書かれており、何度となく見聞きしたことがあるでしょう。
カーネギーも以下のように言っています。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
引用したように、カーネギーは相手を説得する上では、相手に思う存分しゃべらせることが重要だと話しています。とくに相手を説得したいと思っているときほど、「相手自身にしゃべってもらう」ことが大切です。なぜなら、相手のことを一番よく知っているのは相手自身だからです。
例えば会話の中で、自分の思い込みで相手を評する言葉を口にするとどうなるでしょうか。自分は良かれと思って口にしたことでも、じつは相手が気にしていること、コンプレックスに触れているかもしれません。
これは大げさかもしれませんが、あなたがコメントしたことが相手にとっては的外れだったり、「そんなことは分かっているよ」と思うことだったりするかもしれません。だからこそ、“相手のことは相手が一番よく知っている。だから、その当人にしゃべらせることだ。”というカーネギーの言葉にあるように、相手を説得したいときには、まずは相手自身にしゃべってもらうということが重要になるのです。
2.話を聞いてもらうことで、人間の承認欲求は満たされる
繰り返しになりますが、私達は多かれ少なかれ、「自分の話を誰かに聞いて欲しい」という欲求を持っているものです。
冒頭で触れたように、FacebookやTwitter、インスタグラム・・・など身近なSNSを見てみれば、「有名人と食事した」「世界遺産を100箇所まわった」「ヒッチハイクだけで、北海道から沖縄まで旅した」といった自慢話、手柄話をこれでもかというほど目にできます。
フランスの哲学者ラ・ロシュフコーの言葉に、こういうのがある──
『敵をつくりたければ、友に勝つがいい。味方をつくりたければ、友に勝たせるがいい』
その理由──人間は誰でも、友より優れている場合には重要感を持ち、
その逆の場合には、劣等感を持って羨望や嫉妬を起こすからである。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
私たちが、誰かに自分の話を聞いて欲しいと願う根底には、「自分はこれこれこういう人間だ」「私は○○について、誰よりも良く知っている」といったことを、周囲の人に認めてもらいたいという承認欲求が大きく影響しています。
「友達同士の間柄でも、相手の自慢話を聞くよりも、自分の手柄話を聞かせたいものなのだ。」とカーネギーが言うように、自分が相手よりも優れている事を示そうとする(いわゆる「マウントを取る」)のも承認欲求を満たす行為です。
逆にいえば、相手の自慢話、手柄話をひたすら聞いて承認欲求を満たしてあげることで、相手を説得できる可能性を大きく高めることもできるのです。
交渉や説得したいという場においては、相手の承認欲求は「いまの状況についてよく理解している」「自分は深く考えている」「さまざまな視点から考えた」といった形で出てきます。そうした話を聞くことで、相手の承認欲求を満たすと同時に、相手がどんな風に考えているを深く理解することもできます。
3.ビジネスシーンにおける、相手に「しゃべらせる」具体例
カーネギーは、相手に「しゃべらせる」原則を象徴する事例として、採用面接の面接官に心置きなく話をさせて、見事採用を勝ち取った求職者のエピソードを紹介しています。
面接の前に、彼はウォール街に出かけて、その会社の設立者について詳しく調べた。面接の際、彼は『こういう立派な業績のある会社で働くことができれば本望だと思います。聞くところによりますと、28年前にほとんど無一文でこの会社をおはじめになったそうですが、本当でしょうか』と社長に尋ねた。
(中略)
キュベリス氏は、相手の業績を調べる手数をかけた。相手に関心を示したのである。そして、相手にしゃべらせて、好印象を与えたのだ。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
採用面接というと、自己PRや志望動機をいかに上手にプレゼンするか、職務経歴をどう魅力的に伝えるか、といった、「自分自身のアピール」をすることに力を注ぐものです。もちろんそれも大切です。しかし、上記に登場するキュベリス氏は、面接官である経営者のプロフィールを事前に詳しく下調べしました。
成功した経営者は得てして、大変な苦労を重ねて会社を成長させ、今の地位を築いているものです。創業期の困難や若い時の苦労話に興味を示せば、喜んで話したがる人も多い事でしょう。そのことが分かっていたキュベリス氏は、面接の場で、自分の話をするのではなく、相手に関心を示し相手にしゃべってもらうことに集中しました。その結果、満足するまで喋り、機嫌を良くした社長は、彼の採用を快く決めたのです。
相手を説得しようとしたり、好印象を残そうとしたりして、自分の話ばかりする人は少なくありません。しかし、自分の話で多弁になってしまうのは、相手を説得する上では、逆効果です。
経営者に限らず、ほとんどの人は「自分の話を聞いてもらいたい」と思っており、聞き手になりたいと思っている人は極少数です。だからこそ、心置きなく、思う存分、相手に話をさせてあげることで、自分の話をするよりもはるかに相手の自己重要感を満たし、相手の信頼を得ることができるのです。
相手の自己重要感を満たし、相手の信頼を得ることが出来れば、相手もこちらの話に耳を傾けてくれます。説得もうまくいく可能性も高まるでしょう。
4.相手に心置きなくしゃべってもらう「傾聴」の実践
ここまでで、相手に話をさせて承認欲求を満たすことが、人を説得する上で大きなカギを握るという事をお伝えしました。
しかし、私たちは「自分自身」のことに一番関心を持っているからこそ、相手の話に真摯に耳を傾けているつもりでも、つい口をはさんでしまったり、話を聞きながら他の事を考えてしまったりするものです。
相手の言うことに異議をはさみたくなっても、我慢しなくてはいけない。相手が言いたいことをまだ持っている限り、こちらが何を言っても無駄だ。大きな気持ちで辛抱強く、しかも、誠意を持って聞いてやる。そして、心おきなくしゃべらせてやるのだ。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
相手に心置きなくしゃべってもらうためのポイントは、相手に関心を集中し、どっしりと辛抱強く、誠意を持って相手の話に耳を傾ける姿勢です。
相手に心置きなく話をしてもらえる聞き手になるためには、どのようなことを実践すればよいでしょうか?
よい聞き手になる具体的な方法は、『人を動かす』と並ぶ自己啓発の名書であるスティーブン・R・コヴィー著書『7つの習慣』が非常に分かりやすく解説しています。『7つの習慣』の第5の習慣「まず理解に徹し、それから理解される」は、相手を理解するためのコミュニケーションの原則が書かれています。
コヴィー博士は、私たちが普段相手の話を聞くときの聴き方には、5つのレベルがあると言います。
上記の図のなかで、最も高いレベルにあるのが、相手の言葉、意志、気持ちを理解しようとする聴き方である感情移入の「傾聴」です。
「感情移入の傾聴」を実践するやり方は以下のとおりです。
(2) 相手の気持ちや感情を言葉にして反映します。
(3) 相手の言った内容と気持ちの両方を、自分の言葉にして表現します。
もう少し具体的にイメージいただけるように、具体例を挙げて説明します。
「上司であるあなたに対して、会社の部下や後輩が話しかけてきた」という想定で感情移入の傾聴を実践する具体例として、2つの事例を紹介します。
→「うちの会社は会議が多すぎる、と思っているんだね?」
(相手の話の内容を繰り返す)
→「会議が多すぎて面倒だな・・・と思っているんだね?」
(相手の気持ちや感情を言葉にする)
→「うちの会社は会議が多すぎて面倒だな・・・と思っているんだね?」
(相手の話と気持ちの両方を言葉にして反映する)
→「そんな短い納期では間に合うわけがない、と思っているんだね?」
(相手の話の内容を繰り返す)
→「無茶だ!と思っているんだね?」
(相手の気持ちや感情を言葉にする)
→「そんな短い納期では間に合うわけがない、無茶だ!と思っているんだね?」
(相手の話と気持ちの両方を言葉にして反映する)
具体例では、分かりやすいように言われた言葉を本当にそのまま返していますので、日本語として違和感をもつ人もいるかと思います。ただ、感情移入の「傾聴」を実践するポイントは、上記で示したように「相手が言った内容を確認(反映)する」ということです。
相手の言ったことをオウム返しすることで、相手は「この人は自分の話を聴いてくれているんだな」と感じます。また、さらに自分の言葉で言い換えたり、相手が言葉にはしていない気持ちを反映したりすれば、「この人は自分のことを理解してくれている」と感じ、相手はさらに安心してしゃべりやすくなるでしょう。
感情移入の傾聴は、トレーニングを繰り返すことで誰でも身に付けることができます。すべての会話で感情移入の傾聴をする必要はありませんが、ここぞという時、“相手にしゃべらせたい”という時には、ぜひ実践してみてください。
7つの習慣 第5の習慣「まず理解に徹し、それから理解される」に興味があれば、以下の記事で解説していますのでご覧ください。








