本章では、「まずほめる」の原則の詳細、および実際の人間関係の中で活用するポイントを解説します。
1.「まず」ほめるとは、どういうことか?
カーネギーは、「ほめる」ということに関して、当記事で解説する「まずほめる」の原則の他に、人に好かれる6原則でも「心からほめる」を記しています。
さらに、同じ人を変える9原則のなかには、もうひとつ「わずかなことでもほめる」という原則があります。
カーネギーは、それだけ「ほめる」ということを重視しているということです。
では、人に好かれる6原則にある「心からほめる」と、人を変える9原則の「まずほめる」「わずかなことでもほめる」はどのように違うのでしょうか?
前者の「心からほめる」は、ほめるうえでの基本姿勢を示したものです。
心からほめるとは、心の底から賞賛できる相手の事柄を、噓偽りなく、率直に伝えることによって、相手に重要感を与えるということです。
ほめることが大切だからといって、心では思ってもいないのに、口先だけでお世辞をいっても、すぐに伝わってしまうものです。
だからこそ、「心からほめる」という心構えがほめるうえではまず大切なのです。
そして、「心からほめる」を踏まえたうえで、実際に人を影響を与えたいときに重要なやりかたが、「まずほめる」と「わずかなことでもほめる」です。
「まずほめる」の原則では、相手に何か変えて欲しいことがあるならば、「まず」ほめて、その後に要望を伝えるということを言っています。
「まずほめる」で重要なポイントは、相手に変わって欲しい、改善して欲しい、という目的が最終的にはあるということです。
カーネギーは『人を動かす』のなかで、「まず相手をほめておくのは、歯科医がまず局部麻酔をするのによく似ている。もちろん、あとでがりがりとやられるが、麻酔はその痛みを消してくれる」と書いています。
相手に変えて欲しい、改善して欲しい、という目的がある以上、最終的には何らかの形で、そのことを相手に認識してもらわなければなりません。
しかし、最初からダメ出しをすれば、相手は心を閉ざし、こちらの話を素直に聞いてはくれないでしょう。
したがって、カーネギーが麻酔に例えたように、厳しい話を受け入れる心の準備を整えると言う意味で、「まず」ほめるという事が重要になってくるというわけです。
そして、「わずかなことでもほめる」は「まずほめる」を実践する上で、相手のどこに着目すべきかという視点にもなります。
ほめることができない人は、「ほめることがない」「基準を満たしていないのにほめたりしたら、本人のためにも悪影響だ」などで悩んだりします。
それに対して、「わずかなことでもほめる」は、わずかなこと、ほんの小さく芽吹いている相手の可能性、日々の少しの成長、などを見逃さず惜しみなくほめることが、その芽を大きく育てることになると伝えているのです。
2.「まずほめる」ことで、何が変わるのか?
カーネギーは『人を動かす』の中で、「まずほめる」を実践したビジネスシーンの具体例を紹介しています。
とある建設会社が、請け負ったビルの建設作業を進めていました。
ところが、竣工一歩手前のタイミングになって、協力会社から納品が間に合わないと連絡がありました。
建設会社の担当者は、先方の社長と交渉するため、協力会社に赴きました。担当者は社長室に入ると、開口一番に社長の珍しい苗字を話題に話し始めます。
社長の珍しい姓は、200年前にオランダから渡ってきた先祖に由来することを聞き、担当者はいたく感心してほめたたえました。
それが終わると、今度は先方の工場や機械設備についてほめはじめました。
ほめられたり感心されたりが続いてすっかり気を良くした社長は、昼食後、次のように話を切り出したのです。
「さて、いよいよ商売の話に移りましょう。もちろん、あなたがいらっしゃった目的は十分承知しています。あなたとこんなに楽しい話をしようとは予想していませんでした。他の注文は遅らせても、あなたのほうはきっと間に合わせますから、安心してお帰りください」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
大事なタイミングで納品が遅れている状況を考えると、怒り心頭、もしくは、真っ青な状態で、「とにかく何とかしてくれ!約束した納期に間に合わせてくれなければ困る!」とまくし立ててもおかしくないところです。
しかし、この担当者は、社長の姓や一族のこと、先方工場の設備や機械を話題にしてほめ称賛しながらも、納期の交渉という本来の要件を自分から切り出すことをしませんでした。
「まずほめる」を徹底したことで、結果的に担当者の目的は達せられたのです。
本来の要件・目的が何であれ、「まずほめる」ことで、相手はあなたを友好的で信頼できる人物だと感じやすくなります。
一度味方だと思ってもらえば、そのあとに要望を切り出したとしても、「この人は自分のことを気にかけて言ってくれているんだ」「こちらのことを分かったうえで、相手にも事情があるのだ」と相手も前向きに、そして、ポジティブに考えてくれることでしょう。
3.「まずほめる」を実践するためには?
「まずほめる」が実践できれば、たとえ苦言や厳しい話を伝える場合でも、相手との人間関係を良好に保ちながら望む結果を得ることができるでしょう。
ビジネスシーンや普段の人間関係の中で、「まずほめる」を実践するためのコツを2つお伝えします。
1つ目は、普段からほめるポイントを具体的に見つける癖をつけるということです。
「心からほめる」の原則でも触れていますが、「ほめる」ことと「お世辞を言う」ことは違います。
自分が思ってもいないお世辞を表面的に言ったところで、相手には簡単に伝わってしまいます。
先ほど例に挙げた建設会社の担当者も、相手の社長が誇りを持っているであろう一族のこと、会社の設備・機械といった具体的な内容、そして、素直に感心したことをほめているからこそ効果があるのです。
訪問先の様子、相手の持ち物やアクセサリーなど、普段からさまざまなものへの興味、素直な感性を持つことが大切です。
隙あればダメ出しや粗探しをするような評論家的な姿勢では、まずほめる、心からほめるを実践することは難しいでしょう。
子供のように、何事にも興味を持ち、素直に感動する姿勢を意識しましょう。
2つ目は、「会話のなかで1回は相手をほめる」を日ごろから習慣にするということです。
上述した通り、ほめるためには、様々なものや相手の良いところに興味を持ち、素直に感心する感性が重要になります。
感性は生まれつきものだけでなく、磨くこともできます。
日ごろから、会話の中で「ほめるものを見つける」、そして、「伝える」習慣をつくることで感性を磨きましょう。
普段から習慣にすることで、人を動かすための「まずほめる」を実践する際にも、ぎこちない、口先だけのものになることを避けられるでしょう。