本章では、記事のテーマである「わずかなことでもほめる」について、実際の人間関係の中で活用するためのポイントを詳しく解説します。
1.なぜ、褒め言葉は人を大きく成長させるのか?
褒め言葉は、人を見違えるように成長させ、人生を一変させる可能性を持っています。
例えば、トーマス・エジソンは数々の発明を残した発明王として有名です。
しかし、幼少期のエジソンは、学校の勉強についていけず、小学校を途中で退学するような子供でした。
そんなエジソンが自信を失わず自分の能力を発揮できるようになった背景には、彼の事を信じ続けてくれた母親の存在があります。
彼の母親は、ありあまる好奇心を持ったエジソンの行動を褒め続け、エジソンの好きな科学の実験をとことんやらせてあげたそうです。
母親の褒め言葉のおかげで、エジソンは自分の可能性を信じて発明の道を歩み、発明王として歴史に名を残すことができたのです。
褒め言葉には、なぜ人を大きく成長させる力があるのでしょうか。カーネギーは『人を動かす』の中で、心理学者ウイリアム・ジェイムズの言葉を紹介しています。
我々の持つ可能性にくらべると、現実の我々は、まだその半分の完成度にも達していない。我々は、肉体的・精神的資質のごく一部分しか活用していないのだ。概して言えば、人間は、自分の限界よりも、ずっとせまい範囲内で生きているにすぎず、いろいろな能力を使いこなせないままに放置しているのである
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
「私は自分が持っている能力、可能性をすべて使いこなしている!」という人など、この世にはいないでしょう。
あなたが動かしたい、変えたいと思っている相手も同じです。持っている可能性をまったく使いこなせていないのです。
カーネギーは上記に続けて、こう書いています。
「これを読むあなたも、使いこなせず宝の持ち腐れになっている能力を種々備えているのだ。批判によって人間の能力はしぼみ、励ましによって花開く。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーが言うように、私達の誰もが、使いこなせず宝の持ち腐れになっている能力、磨けば光るダイヤの原石を持っています。
それを引き出してくれるのが、褒め言葉です。
エジソンにしても、もし母親が信じて褒め言葉をかけ続けてくれなければ、単なる劣等生として、まったく違う人生を送っていたかもしれません。
褒め言葉が人を大きく成長させるのは、子供に限った話ではありません。
大人も同じであり、ビジネスやマネジメントにも応用して大きな成果を生み出せるとカーネギーは話し、ほめ言葉を人材開発に活用して成果を上げた経営者の事例を紹介しています。
印刷会社を経営するキース・ローパー氏のもとに、刷り上がった印刷物が届きました。
印刷物の出来ばえに満足したローパー氏は、これを仕上げたのが新入りの青年であることを知ります。
ローパー氏は工場に出向くと、近年にない出来栄えだと青年をほめたたえました。
それだけでなく、こんな立派なものを仕上げることのできる人間は、わが社の誇りだとすら話したのです。
実はこの青年は、ローパー氏が認めるまで、職場に馴染めず上司から首を宣言される寸前の状況でした。
青年はローパー氏の褒め言葉にいたく感動し、それからというもの、忠実で献身的な仕事ぶりで会社に貢献したのでした。
このように子供から大人まで、相手が持っている可能性、それを発揮した片鱗を惜しみなくほめることで、私たちの可能性は大きく花開くのです。
2.ほめ言葉は具体性を伴うことで効果性を増す
前節では、首になる寸前の青年が賞賛と褒め言葉をかけられたことで、活躍人材へと生まれ変わった事例を紹介しました。
わずかなことでも惜しみなくほめることは、これほどまでに大きな効果を持つのです。
ただし、カーネギーは、ほめることは、具体性が伴って初めて効果を発揮すると言っています。
先ほどの印刷会社の経営者、キース・ローバー氏の事例の続きを紹介します。
「この場合、ローパーは、お世辞で青年をおだてたのではなかった。製品のどこが優れているか、はっきりと説明したのである。そのために、ほめ言葉が、意味を持って相手の心に伝わったのだった。誰でもほめてもらうことはうれしい。だが、その言葉が具体性を持っていてはじめて誠意のこもった言葉、つまり、ただ相手を喜ばせるための口先だけのものでない言葉として、相手の気持ちをじかに揺さぶるのである」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
もちろん、いつも叱責ばかりで何もほめないよりは、何であれほめ言葉をかけるに越したことはありません。
しかし、カーネギーが言うように抽象的で曖昧なほめ方をしても、相手にはなかなか伝わりません。
「いやぁ君は素晴らしいよ!」「もう、とにかくありがとうね!」などと言われても、相手はぽかんとしてしまうでしょう。
上記の事例でいえば、ローパー氏が、青年が仕上げた印刷物のどこがどう優れているかを具体的に伝えたことで、「自分のことをしっかり見てくれている!その上で認めてくれている!」と青年の心は大きく揺さぶられたのです。
部下をほめる際、ただ「素晴らしいね」ではなく「○○さんの企画は、数字でも根拠が示されていて完成度が高いね」というように、抽象的ではなく具体的に伝えることが、効果的なほめ方の鉄則です。
「わずかなことでもほめる」を実践する上では、とりあえず大袈裟にほめるのではなく、「具体的にほめる」を意識すると、より効果を発揮するでしょう。
なお、HRドクターでは、上司や先輩が知っておきたい「褒め方」のポイントを解説した記事も掲載しています。ぜひ参考にしてください。
3.「わずかなことでもほめる」には成長や変化を見逃さないこと
最後に「わずかなことでもほめる」原則を、ビジネスや私生活の人間関係で活用する上で大切になるポイントをお伝えします。
「わずかなことでもほめる」を実践するためには、相手の小さな成長や変化をよく見ることがポイントになります。
冒頭でも触れたように、目標を達成したり分かりやすい成果を上げたりした相手に対して、心の底からほめることは難しくないでしょう。
あるいは、新人や若手メンバーが、初めて仕事を一人でやり切った時も、「よくやった!すごいじゃないか」と、殆どの人が快くほめ言葉をかけてあげることができるでしょう。
上司や先輩というのは、部下やメンバーには大きな成果を期待するものです。
そして、一度できたことは、“できて当たり前”とみなして次からは何とも思わなくなってしまいがちです。
結果として、部下が分かりやすい成果を上げたり、顕著な成長をしたりしなければ、ほめなくなってしまうということが起こるのです。
このような上司や先輩の心理は期待の裏返しでもあり、とても自然なものです。
しかし、人の成長には時間がかかりますし、上司や先輩が期待するスピードで予定調和的に成長・活躍することはレアケースです。
高い目標の達成、目立った成果ばかり期待して、“一度出来たことは次も当たり前”とみなしてほめずにいれば、相手のやる気は徐々にしぼんでしまいます。
カーネギーは『人を動かす』のなかで、ほめることの重要性について繰り返し述べています。冒頭でも引用した言葉をもう一度紹介します。
「なぜ、鞭むちの代わりに肉を、批評の代わりに賞賛を用いないのだ? たとえ少しでも相手が進歩を示せば、心からほめようではないか。それに力を得て、相手はますます進歩向上するだろう。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
顕著な成果や初めての挑戦ではなかったとしても、先月、先週、昨日と比べて1つでも上手くできたこと、1歩でも前進したことを見逃さず、惜しみなくほめましょう。
これを実践するためには、メンバーが頑張っていること、日々のちょっとした変化をよく見る必要があります。
「わずかなことでもほめる」の原則を実践するために何より大切なことは、相手をよく見るということなのです。
分かりやすい最終的な成果だけでなく、プロセス、努力、出来栄え…といった細かなことをよく見ることで、相手の成長や変化、具体的にほめるポイントがきっと見つかるはずです。