人生には楽しい事や嬉しいことだけでなく、「自分は大変な立場にいる」「苦しい状況に耐えている」と感じるような悲しい事や辛いこともたくさんあります。仕事をしていると、自分の感情よりも優先しないといけないことも増え、余計にそう感じる機会が多くなるかもしれません。
そういった思いや悩みを“愚痴”として吐き出す人もいますが、自分の中でじっと抱えている人も多いでしょう。だからこそ、私たちは自分の「辛い」「我慢している」「理不尽だ」「大変だ」「しょうがない」といった気持ちに共感してくれる人がいたとき、その相手を信頼します。
コミュニケーションやリーダーシップ分野の権威として知られるデール・カーネギーも、私たちがコミュニケーションする相手の大半は“同情”に飢えている。だからこそ、相手に共感・同情を示すことが、相手との信頼関係を作り、人を動かすことにつながると話しています。
記事では、書籍『人を動かす』よりデール・カーネギーが提唱する原則「同情を寄せる」の詳細や実践するためのポイントを解説します。
こちらに動画での簡単な解説もありますので、動画でご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
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<目次>
「同情を寄せる」の詳細と実践のポイント
まず初めに、記事のテーマである「同情を寄せる」の詳細と、実際の人間関係の中で活用するためのポイントを詳しく解説します。
1.同情・共感は、相手の敵意を好意に変えることもできる
「あなたの立場であれば、私も同じように思うでしょう」と伝えるのが同情や共感のメッセージです。カーネギーは、共感の気持ちを示すことで、たとえ、相手があなたに嫌悪感や敵対心を持っていたとしても和らぐものだといっています。
書籍『人を動かす』では、実際にカーネギーが体験したエピソードが紹介されています。
カーネギーがラジオのパーソナリティーをしていた時のこと、ラジオの中である間違いをしてしまいました。児童文学として有名な『若草物語』の作者ルイーザ・メイ・オルコットに関して間違った情報を口にしてしまったのです。
この間違いに対して、同書の熱心なファンである1人の女性がひどい剣幕で抗議し、カーネギーに怒りの手紙が届きました。
「もし私が彼女だったら、やはり彼女と同じように感じたに違いない」
カーネギーはこのように自分に言い聞かせて、女性に電話をかけることにしました。電話の中でカーネギーは、わざわざ手紙を寄こしてくれたお礼、自分が情けない間違いをしてしまったこと、相手の礼節に非常に感銘を受けたこと…など、相手の女性にひたすら共感の姿勢を示しました。
カーネギーの姿勢が功を奏した結果、当初は怒りに燃えていた女性の態度は見違えるほど穏やかになり、最後にはカーネギーの立場に同情すら示すようになったのでした。
このエピソードを基にカーネギーは、「相手をやっつけるよりも、相手に好かれるほうが、よほど愉快である」、そして、相手に好かれるためには共感を示すことが大切であると強調しています。
2.共感を示すことで、人を動かすこともできる
同情や共感の気持ちを示すことは、相手の敵意を好意に変えるだけでなく、相手に動いて欲しい時にも効果を発揮します。
カーネギーは『人を動かす』の中で、共感を示したことで頑固だった相手を期待通りに動かした、あるピアノ教師の事例を紹介しています。
そのピアノ教師は、教え子のバベットという少女の長い爪がピアノの練習の妨げになっていたため、何とかしたいと考えていました。
教師という立場であれば、「ピアノを弾く邪魔になるのだから、いい加減爪を切ってしまいなさい!」と伝えて、生徒に言うことを聞かせるのも順当なやり方かもしれません。
しかし、このピアノ教師は、無理やり生徒に言うことを聞かせようとはしませんでした。なぜなら、彼女は、生徒が自分の爪を誇りに思っており、自慢の爪を失いたくないという気持ちを深く理解していたからです。
そこで、ピアノ教師は「あなたの手はとってもきれいだし、爪も素晴らしいわ」と、生徒の爪を褒め、最初に共感の気持ちを示すことをしました。このように、生徒の気持ちに十分共感した後に、「でも、あなたが望みどおりにピアノの腕を上げたかったら、爪をもう少し短く切ってごらんなさい。」と伝えたのでした。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
ピアノ教師は、生徒を頭ごなしに叱ったりすることはありませんでした。しかし、生徒は次の日には素直に爪を短く切ってきたわけです。
もしも、ピアノ教師が生徒に有無を言わさずいう事を聞かせたり、その場で強引に爪を切ってしまったりしたら、どうなったでしょうか。生徒は「絶対に爪は切らない!」と反発したり、ピアノのレッスンに顔を出さなくなってしまったりしたかもしれません。
生徒は本人なりに思うところがあって、爪を伸ばしていたわけです。だからこそ、教師が自分の気持ちを分かってくれて、自分の努力を認めてくれた、爪をきれいだと褒めてくれたことに満足し、もう一つの「もっと上手くピアノを弾きたい」という願いをかなえるアドバイスに従ったのです。
相手の行動がよくない、明らかに間違っている時、相手のやることを頭ごなしに否定し、無理に何かを強制しようとして、なかなか期待通りの結果にはならなかった経験をしたことがある人も多いかもしれません。
いきなり相手を否定するのではなく、まずは相手の気持ちと行動に寄り添い、共感・同情する気持ちを伝えてあげる方が遥かに良い結果を生むものです。
3.共感性を示すことは、部下指導にもつながる
ここまで「同情を寄せる」というカーネギーの原則に関して、相手の敵意を好意に変えたり、子供を指導したりする際のエピソードを引用しながら解説しました。
相手に同情・共感することの重要性は、ビジネスシーンでも同じです。
全国の社会人を対象にした、“嫌いな上司”に関するアンケート結果があります。結果による、回答者の60.4%、3分の2近くの社会人に「嫌いな上司がいる」そうです。嫌いな上司の特徴としてどんなものが挙がっているでしょうか。
同じアンケートの「嫌いな上司の特徴ランキングTOP10」を見ると、「高圧的で偉そう」がダントツの1位になっています。
*出典:Job総研調査
職場に「いつも命令形の口調で指導する」「部下を叱る時に威圧的な雰囲気を出す」「有無を言わさず自分のやり方を押し付ける」といった管理職の人はいないでしょうか? なんでも自分のやり方が正しいと思って指導したり、部下の話も聞かずに一方的に押し付けたりする上司や管理職はメンバーから嫌われてしまいます。
「ビジネスの人間関係は好き嫌いではない」「上司は部下に好かれる必要はない」、もちろんこれはこれで事実です。しかし、好かれる必要はないにしても、嫌われてしまうと、たとえ、指示が正しくもメンバーは言うことを聞かなくなります。たとえ聞いたとしても、姿勢は受け身なものであり、そこに主体性や熱意は発揮されないでしょう。
部下・メンバーから嫌われてしまうと、管理職としてチームのパフォーマンスを高めることはできなくなってしまうのです。
他者の気持ちや感情に寄り添う共感力は、部下指導やチームビルディングでも非常に重要です。
共感力の高い管理職であれば、会話の中で部下の気持ちを理解しようとしたり、どうすれば部下が仕事を楽しくできるのかを考えて関わろうとしたりするでしょう。それだけでなく、共感する力が高ければ、相手の立場に立った提案もできるでしょうから、商談や顧客との人間関係においても、高いパフォーマンスの発揮につながるでしょう。
このように、相手に「同情を寄せる力」、共感する力は、チームワーク、部下指導、リーダーシップの発揮など、ビジネスシーンで成果を上げるために重要なスキルになるのです。
HRドクターでは、共感力(エンパシー)に関する詳細と、共感力を高めるための方法について、より分かりやすく解説した記事を用意しています。「同情を寄せる力」を高めたいと思う方は、以下の記事をぜひ参考にしてみてください。
『人を動かす』とデール・カーネギー
「同情を寄せる」原則を提唱したデール・カーネギーは、自己啓発やスピーチ、リーダーシップトレーニングの分野で名を馳せた人物です。販売職や俳優の経験を経て、YMCAの話し方教室で講師を務めたことが転機となり、コミュニケーションやリーダーシップといったスキルに注目しました。独立後は研究所を設立し、人間関係に関する研修や講座の提供で成功します。
そんなカーネギーの代表作が書籍『人を動かす』です。『人を動かす』は、世界で1500万部以上を売り上げたベストセラーで、「自身の態度や振る舞いを変えることで、他人の行動を変えられる」という考えを中心に、人間関係の改善やリーダーシップの原則を解説しています。
書籍『人を動かす』の内容とデール・カーネギーをもっと詳しく知りたい方は、以下の記事で紹介していますのでご覧ください。
人を説得する12原則
書籍『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。本記事のテーマである「同情を寄せる」は、「人を説得する12原則」のひとつです。
「人を説得する12原則」には、自分の要望を受け入れてもらい、相手に主体的に動いてもらう上で重要な12の原則が書かれています。本章では「人を説得する12原則」の一覧を簡単に紹介します。
1.議論を避ける
議論で相手を打ち負かしても、自尊心を傷つけられた相手は感情的に反発し、意見を変えることはほとんどありません。人を説得する上では、正面から議論を交わすことは避けた方が賢明です。意見の相違がある場合でも、相手の気持ちに配慮し、共感を基盤にした話し合いを目指しましょう。
2.誤りを指摘しない
相手の言動が明らかに間違っているならば、指摘することが相手のためだと思っている人は大勢いるでしょう。しかし、正面から「相手の間違い」を指摘してしまうと、議論で負けた時と同じように、間違いを指摘された相手の自尊心は傷つけられ、反発心を抱きます。間違いを指摘する際は、相手が自ら気づくように工夫したり、言葉の前置きに配慮しながら伝えるなど、相手の自尊心を傷つけないようにすることが重要です。
3.誤りを認める
ミスや失敗に気づいた時は、言い訳をせず、速やかに謝罪することが大切です。相手に指摘されるよりも先に、素直に自分の落ち度を認め謝罪することで、相手も寛大な態度を取りやすくなるものです。あなたが提案するリカバリー策などにも納得してもらいやすくなるでしょう。
4.穏やかに話す
人は、話の内容よりも話し方や態度で印象を判断します。感情的な態度や刺々しい話し方は相手を遠ざけ、対立を生み出します。一方、穏やかで落ち着いた話し方は、相手に安心感と信頼感を与えます。説得や交渉の際は、「味方だ」と思ってもらえるような柔らかな話し方と笑顔を意識しましょう。
5.“イエス”と答えられる問題を選ぶ
人を説得したいとき、相手が合意できない話題から入ることは禁物です。人は一度「ノー」を口にすると、なかなかそれを引っ込めることは出来ません。何かを交渉、調整したいときほど、相手が「イエス」と答えられる話題、相手と合意していることの確認から入ることが大切です。「イエス」を繰り返した先で、調整・交渉が必要なテーマに入っていきましょう。
6.しゃべらせる
人は自分の話を聞いてもらうことで満足感を得ます。相手を説得する際、まずは相手に思う存分話をさせることが重要です。こちらの意見を伝える前に相手の意見を十分に聞き、共感を示すことで、相手はあなたの話に耳を傾けやすくなるでしょう。
7.思いつかせる
人は他者から言われたことよりも、自分で思いついたアイデアや考えを大切にしています。質問や提案などを通じて、相手に「自分が思いついた」「自分の意見だ」と思ってもらえるようなコミュニケーションをすると、相手の気持ちが動かせるでしょう。
8.人の身になる
相手の行動や考えには、必ずその人なりの理由があります。相手を説得するには、批判するのではなく、まず相手の立場に立って「なぜそう考えるのか」を理解することが重要です。相手の視点を尊重しながら話を進めることで、信頼と共感を得られるでしょう。
9.同情を寄せる
人は誰しも自分の感情や状況を理解してほしいと思っています。「あなたがそう思うのはもっともです」といった同情の言葉をかけることで、相手の自尊心を満たし、信頼を得ることができます。共感を示すことが、相手の心を開く第一歩です。
10.美しい心情に呼びかける
人は誰しも「自分は立派な人物である」「道徳的で高潔である」「正義感が強い人間だ」などと思っている、もしくは思いたいものです。だからこそ、相手の気持ちを動かしたいときには、このような人の持つ美しい心情に呼びかけることも効果的です。
11.演出を考える
人を説得する上では、演出も大切です。事実をそのまま伝えるよりも、演出を交えて伝えることで、同じ事実でも相手の捉え方は変わるものです。
12.対抗意識を刺激する
「ゲーム等でも順位が決まるとなると、つい本気になってしまう…」という人も多いでしょう。人は誰でも、他者に負けたくないという対抗意識を持っているものです。取り組みに競争性やゲーム性を取り入れて、対抗意識を刺激することも人を動かす効果的な方法のひとつです。
「人を説得する12原則」は、以下の記事で全体像を解説していますので、ぜひご覧ください。
まとめ
記事では、デール・カーネギーの『人を動かす』で紹介されている「同情を寄せる」の原則を解説しました。
私たちは誰しも「自分の気持ちを分かって欲しい」「自分を肯定して欲しい」と思っています。その気持ちや心情に共感を示し、同情の言葉を伝えることで、相手の自尊心は満たされ、あなたを信頼する方向に近づいていくことでしょう。
他者の気持ちや感情に寄り添う力、共感する力は、プライベートの人間関係だけでなく、ビジネスシーンでも有効です。今回の内容が、部下指導や顧客との関係づくりなど、普段の業務の中でより良い成果に繋げるためのヒントとして役立てば幸いです。
HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、デールカーネギー研修の詳細をご覧ください。
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