本章では、記事のテーマである「期待をかける」について、実際の人間関係の中で活用するためのポイントを解説します。
1.人はなぜ、期待をかけられると応えたくなるのか?
私達はなぜ、他者から期待をかけられると、嬉しくなり期待に応えたくなるのでしょうか。
その理由は、人間誰もが持っている「他者から認められたい」「重要な存在だと思ってもらいたい」という承認欲求が深く関係しています。
身近な例として、「上司が新人に少しチャレンジングな仕事をまかせる」というケースを考えてみましょう。
「あなたの仕事ぶりはいつも丁寧で堅実だから、安心して任せることができて助かるよ。
今回はいつもより念入りなチェックが必要な仕事だけど、あなたならきっと抜け漏れなくできると思うから、ぜひお願いしたい!」このように伝えれば、きっと新人は期待に応えようと、頑張って仕事に取り組もうとするでしょう。
なぜなら、上司の期待の言葉は「自分の仕事ぶりを認めてくれている、そして、期待している」というメッセージになっているです。
新人にしてみれば、上司の期待の言葉を通じて、自分の仕事ぶりが認められたと実感でき、承認欲求も満たされます。
このように「期待をかける」という行為は、相手の承認欲求を満たし、自信を持たせることにつながります。
さらには、相手の「期待に応えよう」とする自発的な行動を引き出す原動力にもなるのです。
期待をかけられた相手には、どのような変化が生まれるのでしょうか?
カーネギーは、期待の言葉を通じて人が見違えるように変わった具体例を、ジョルジェット・ルブラン女史の回顧録を引用して紹介しています。
あるところに、調理場で皿洗いをしていることから“皿洗いのマリー”と呼ばれている娘がおりました。
マリーはまるで童話に出てくる灰かむりのシンデレラのように、不器量で見るからに貧相な出で立ちをしていました。
そんなマリーに対し、ある日ルブラン女史は、次のような言葉をかけました。『マリー、あなたは自分の中に素晴らしい宝物を持っているのに、気がついていない』。
マリーはルブラン女史の言葉を大きな衝撃を受けます。そこから、マリーは自分を大切にし始め、身なりにも気遣うようになりました。
二カ月後、マリーからコック長の甥と結婚することになったと報告がありました。
ルブラン女史のたった一言の期待の言葉が、まさにマリーの人生を一変させることになったのです。
このエピソードが象徴するように、「期待をかける」という行為は、相手の潜在能力を引き出し、人を見違えるように変える可能性すら持っています。
2.期待の言葉をかけるときは、相手が既に期待通りになっているものとして考える
相手に期待の言葉をかける時は、「相手が既に期待通りになっているもの」として接することがポイントです。
以下に挙げた例を基に、具体的に見ていきましょう。
自分からはなかなか主体的に動こうとしない若手社員に対し、「率先垂範して仕事に取り組んで欲しい」という期待があったとします。
この場合の「率先垂範」はあくまで期待事項であり、現状はまだ発揮されていません。
上司がこの状況を変えたいと思ってストレートに伝えるとしたら、「そんな受け身の姿勢ではダメだ。もっと率先垂範して仕事に取り組む姿勢を見せなさい!」といった表現になるかもしれません。
ただ、上記のようなメッセージでは、それが相他のためを思って言った言葉だとしても、相手の自尊心は傷つけられ、上司の言葉に素直に従おうとはなにづらいものです。
これに対して、カーネギーは次の言葉を残しています。
「相手に美点を発揮させたければ、彼がその美点を備えていることにして、公然とそのように扱ってやるがよい。良い評判を立ててやると、その人間はあなたの期待を裏切らないように努めるだろう」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
もちろん完全に備わっていないのであれば別ですが、相手の中にある美点、強み、能力を発揮してほしいと思うのであれば、相手が既にその美点を備えている、発揮しているものとして扱うことが大切だという事です。
このように、「あなたは既に備えているし、ときに発揮もしている。だからさらに発揮していこう」という形で期待事項を伝えることで、相手を期待通りに導いていくことも可能になるのです。
上記を踏まえた上で、先ほど例に挙げた率先垂範を期待する若手社員に対しては、どのような伝え方をすれば効果的でしょうか?
例えば、「こないだの●●で発言した姿勢は良かった!率先垂範して行動できるリーダーになってもらうことを期待しているよ!」といった形で伝えると良いでしょう。
ただし、自分の中で “嘘” になってしまうと、その気持ちが相手に伝わってしまいますので注意が必要です。
塩梅は難しいものですが、相手が期待通りになっているとして接することで、相手は「期待通りになろう、期待を裏切らないようにしよう」と感じ行動するようになるものです。
3.相手のどこにどんなことを期待しているのか?を明確にして伝える
上記で説明したように、期待を伝える際には、相手が期待通りになっているものと考えて伝えることが大切です。
また、期待を伝えるに当たっては、気を付けるべきポイントがあります。
それは、「相手のどんな部分に、どんな事を期待しているのかを、具体的な言葉で伝える」ということです。
具体例を挙げて説明します。
たとえば、上司が「あなたにはとても期待しているよ。それじゃあこの件よろしくね」といった形で伝えると、部下はどう感じるでしょうか?
この伝え方では、部下は、自分のどんなところにどんな期待をかけられているのか、さっぱり分かりません。
自分の何を認められているのかも釈然としないので、当然、自尊心や承認欲求も満たされません。
それどころか「上司は自分に何を期待しているのか示さないくせに、結果だけは求めてくる…。小手先で自分を操ろうとしているのではないか」と不信感を感じ、モチベーションを下げてしまう結果にもなりかねないのです。
従って、「期待をかける」にあたっては、相手の「どこ」「どんなところ」に期待をかけるのか、認めているのかを明確にして伝えることが重要です。
「〇〇君の提案資料は、数字に説得力があって素晴らしいね。お客さんが納得できるプレゼンになることを期待しているよ!」「●●さんの対応がとても丁寧で良かった、とお客さんが感心していたよ。これからも安心してアフターフォローを任せられるよ!」というように、相手の「どこ」「どんなところ」に期待をかけているのかを具体的な言葉にして伝えるようにしましょう。
また、期待事項があまりにも相手の現状とかけ離れている場合も問題です。
なぜなら期待と現状のギャップが大きく乖離していれば、相手は「期待に応えよう」「応えられるように策を練ろう」と自分でも思えなくなってしまいます。
なお、「具体的に」と書きましたが、相手が新人・若手社員などで、今後の伸びしろや潜在能力を信じている場合であれば、多少抽象的なニュアンスで期待を伝えても良いでしょう。
ただし、いずれにしても、あなたが「信じている」「心から期待している」のか、それとも相手を動かすための ”嘘” なのかは、相手は敏感に感じ取ります。
相手の姿勢、相手のいま、相手の強み、相手の潜在能力、相手の可能性…そういったものに焦点を当てて、言葉も吟味したうえで、心からの言葉として相手に期待事項を伝えましょう。