誠実な関心を寄せる|デール・カーネギー『人を動かす』

誠実な関心を寄せる|デール・カーネギー『人を動かす』

植物が育つのに水分と日光が不可欠であるように、“社会的動物”である人間にとって、他者からの関心を得ることは心に欠かせない栄養です。

 

私たちは生きていく上で、他者からの関心を渇望しており、下記のような名言もあります。

「人から関心を持たれないほど寂しいことは無い」 マザー・テレサ

だからこそ、相手に対して誠実な関心を寄せることは、良好な人間関係を築き、人に影響力を発揮する上で非常に重要になります。

 

アドラー心理学で有名なアドラーも下記のように言っています。

「他人のことに関心を持たない人は苦難の人生を歩まねばならず他人に対しても大きな迷惑をかける。人間のあらゆる失敗はそういう人たちの間から生まれる」 アルフレッド・アドラー

記事では、コミュニケーションとリーダーシップに関する名著『人を動かす』に書かれている、相手に好かれ良い関係を築く上での基盤となる原則「誠実な関心を寄せる」を解説します。

<目次>

書籍『人を動かす』とデール・カーネギー

最初に「誠実な関心を寄せる」の原則が紹介されている書籍『人を動かす』と、著者であるデール・カーネギーの生い立ちを簡単に紹介します。

 

デール・カーネギーの生い立ち

『人を動かす』の著者デール・カーネギーは、1888年にアメリカ・ミズーリ州の貧しい農家で生まれました。

 

カーネギーは大学を卒業後、雑誌記者や通信機器の販売職など様々な仕事を転々としながら、役者を目指していましたが、役者としての才能が開花することはありませんでした。

 

失意の日々を過ごす中、ある時、YMCAで弁論術の授業を担当することになります。

 

カーネギーの授業は瞬く間に人気を博し、その後、カーネギーは独立して研究所を設立し、話し方やスピーチ、プレゼンテーション、人間関係の構築などに関する数々の人材育成プログラムを世に送り出すことになりました。

 

『人を動かす』の概要

『人を動かす』は、私たちが幸せな人生を送る上での土台となる人間関係の原則について書かれた書籍です。

 

カーネギーが長年にわたり丹念に集めた実話と、実践で磨き上げた事例がふんだんに盛り込まれた同書は、1936年に世に出て以来、世界中でベストセラーとなりました。

 

80年以上も前に出版された『人を動かす』ですが、現在でもamazonのビジネス書籍ランキングに入り続ける定番書籍、さまざまな自己啓発書の原点として、現在でも不朽の名書となっています。

 
『人を動かす』について知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。

人に好かれる六原則とは?

『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4パートで構成されており、“人を動かす”を実践するための30の原則が紹介されています。

 

本記事のテーマである「誠実な関心を寄せる」は、上記のうちの「人に好かれる六原則」の中のひとつです。

 

「誠実な関心を寄せる」の詳細に入る前に、本章では「人に好かれる六原則」の全体像を簡単に紹介します。

 

1.誠実な関心を寄せる

ほとんどの人は、自分自身の事に一番の関心を払っています。その一方で、他者に対して積極的に関心を持とうとする人は意外と少ないものです。

 

だからこそ、相手にしっかりと関心を寄せることで、相手から自分に関心を向けてもらえます。「誠実な関心を寄せる」の詳細は、次章で詳しく解説します。

 

2.笑顔を忘れない

笑顔を向けられて嫌な気持ちになる人は、殆どいないでしょう。ムスっとした表情の人と笑顔の人がいたら、笑顔の人の方が、話しかけるハードルは圧倒的に低くなります。

 

笑顔の人の周りには自然と多くの人が集まってきます。おだやかな笑顔は、人の心と気持ちを安心させ、相手の警戒心を和らげ、打ち解けるきっかけを作ってくれます。

 

人と接する時は、意識して笑顔になることが大切です。

 

3.名前を覚える

私たちは、生まれてからずっと一緒に過ごしてきて、とても数多く呼ばれてきたものが“自分の名前”です。

 

私たちにとって、名前は最も身近であり、自分のパーソナリティともいえるかけがえのない存在です。だからこそ、「相手の名前を覚える」ことは、人に好かれるための一番の近道です。

 

初めての人に会う時は、相手の名前をしっかりと覚え、そして相手に対して名前で呼びかけることを習慣にしていきましょう。

 

4.聞き手にまわる

コミュニケーション能力を考えるとき、私たちは「いかに上手くしゃべるか?」を考えがちです。しかし、良好な人間関係を作り、人を動かす上で大切なのは、実はしゃべることよりも聞くことです。

「自分の言おうとすることばかり考えていて、耳のほうが留守になっている人が多い……お偉方は、とかく、話し上手よりも聞き上手な人を好くものだ。しかし、聞き上手という才能は、他の才能よりはるかに得がたいもののようである」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

カーネギーも話しているように、自分がたくさん話す人よりも相手の話を聞ける人の方が、相手から遥かに好感を持たれます。話し上手になるよりも、まず聞き上手を目指しましょう。

 

5.関心のありかを見抜く

人は自分が興味を持つ話題ほど、耳を傾け、饒舌になります。したがって、相手との距離を縮めるには、相手が深く関心を持っている事柄を話題にすることが一番の近道です。

 

人に会う時には、相手が何に関心があるかを事前に下調べする習慣を持つとよいでしょう。

 

また、会話の時は、どんな話題に相手が前向きな反応を示すのか、どんなテーマになるとよく喋るかなど、相手をしっかり観察すると、関心を見抜く手がかりになります。

 

6.心からほめる

カーネギーは『人を動かす』の中で、「人間は皆、他人から自分の存在、重要性を認めてもらうことを渇望している」と一貫して強調しています。

 

従って、話を聞いてくれる人と同様に、自分の重要性を認めてくれる人は、相手に好感を持たれるものです。

 

相手に重要感を感じてもらうには、心から相手を褒めることがポイントです。本心で思ってもいないことをお世辞で伝えても相手の心には響きません。

 

感性を磨き、相手の長所や強みを見つける習慣を身に付け、素晴らしい!と感じたことを、素直に伝えるようにしましょう。シンプルな方法ですが、とても大切なことです。

「誠実な関心を寄せる」の詳細と実践のポイント

本記事のテーマでもある「誠実な関心を寄せる」について詳しく解説していきます。

 

1.相手の気を惹こうとするのではなく、相手に関心を寄せる

カーネギーは、“相手に関心を寄せる”を実践している最良の先生として、ペットの「犬」を例に挙げています。

 

犬は飼い主が近くに来たら、全力でしっぽを振り、嬉しそうに駆けまわって喜びを見せます。多くの場合、犬は純粋に飼い主に関心を寄せて心からの好意を示しています。
飼い主もそのことが分かっているから、犬を家族のように大切に可愛がります。

 

純粋な関心を寄せる犬とは対照的に、私達人間は、テクニックで“相手の気を惹こう”とするワナに陥りがちです。

 

「相手の気を惹こうとする」というのは、例えば、相手に好かれたいからと言って、自分を不自然に着飾ったり、相手が喜びそうなことを並び立てたりするなどのことです。

 

しかし、表面的なテクニックで相手の気を惹こうとしたところで、相手に簡単に見透かされてしまうものです。

 

表面的なテクニックで相手の関心を引こうと考えるのではなく、まず自分が相手に関心を寄せることが、何より大切です。

 

2.人は自分に興味を持ってくれる人に、関心を寄せる

“世の中には、他人の関心を引くために、見当違いな努力を続け、その誤りに気づかない人がたくさんいる。
これでは、いくら努力しても、もちろん無駄だ。人間は、他人のことには関心を持たない。ひたすら自分のことに関心を持っているのだ──朝も、昼も、晩も。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

上記の引用にもあるように、人は基本的に「自分自身」に対して一番の関心をもっています。

 

「他人に関心を寄せる100倍の関心を自分に持っている」などと言ったりもするくらいで、とにかく一番気になる存在は、自分自身だということです。

 

だからこそ、一番の関心事である“自分”に関心を寄せてくれる相手がいたら、人はその相手に関心を持ちますし、好意を感じるようになるのです。

 

3.相手に誠実な関心を寄せるためのポイント

相手に誠実な関心を寄せることの重要性は、ここまででお伝えした通りです。とはいえ、「相手に誠実な関心を持ちましょう!」と言っても、あまりにも漠然としすぎていると感じるかもしれません。

 

どんなに相手に関心を持っていたとしても、そのことが相手に伝わらなくては意味がありません。

 

「私はあなたに心の底から関心を抱いているのですよ!」という事が、相手にしっかり伝わるよう、伝え方の工夫もポイントになります。

 

伝え方の工夫の例として、カーネギーは『人を動かす』の中で、機密調査に必要な情報を握っている社長の元を訪れたチャールズ・ウォルターズ氏のエピソードを紹介しています。

 

当初、社長は口が重く情報を引き出すことは叶わないように思えました。
しかし、ウォルターズ氏は社長秘書と交わした会話の中で、社長の息子が切手の収集に熱心であるという情報を掴みます。

“社長と私は、それから三十分ほど、切手の話をしたり、彼の息子の写真を眺めたりしていたが、やがて社長は、私が何も言い出さないうちに、私の知りたがっていた情報を話しはじめた。一時間以上にわたって、知っている限りのことを教えてくれ、さらに部下を呼んで尋ねたり、電話で知人に問い合わせたりしてくれた。私は、十二分に目的を達したわけだ。いわゆる〝特ダネ〟を手に入れたのである”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

ウォルターズ氏は、当初の用件ではなく、社長の関心事である息子のこと、切手のことを話題にするようにしました。この試みが功を奏し、ウォルターズ氏は見事に目的を果たします。

 

身近なビジネスシーンの例で考えてみましょう。

 

例えば、お客様との商談において「自分たちの商品・サービスをアピールしたい」ということに意識が向かうあまり、相手の関心事や抱えている課題のヒアリングが表面的なものとなり、信頼関係を築けず失敗してしまったというのはよくある話です。

 

相手に誠実な関心を寄せるためには、相手が関心を持っていることを話題にして、耳を傾けることが大切です。

 

一見すると、相手の関心事と自分の関心事は、かけ離れているように感じるかもしれません。
相手の関心事に耳を傾けたところで、自分の提案したいものにはつながらないように感じるかもしれません。

 

しかし、相手の関心事に耳を傾けることによって、相手への誠実な関心が伝わり、好印象やその後の人間関係となって返ってきます。

 

相手への誠実な関心を伝えるためには、「相手が何に関心があるかを聞く」という行為を実践することが大切です。

まとめ

本記事では、デール・カーネギーの「人に好かれる六原則」のひとつである、「誠実な関心を寄せる」をテーマにお伝えしました。

 

人間にとって最大の関心事は自分自身です。だからこそ私たちは、自分に関心を寄せてくれる相手に関心を持ち、好印象を抱きます。

 

従って、相手に誠実な関心を寄せることは、良好な人間関係を作って人を動かす上で、最も大切になります。

 

ただし、関心があってもそれを示せなければ、相手には伝わりません。しっかり相手に伝わるための工夫も重要です。

 

いずれにしても、私たちにとって「誠実な関心を寄せる」というのは、決して言うほど簡単なことではありません。
職場や家族など身近な人間関係の中で、普段から相手の興味・関心を考える習慣を持つことを心がけましょう。

 

なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。
 

「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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