「リスキリング」というキーワードが出る度に、”IT”が接頭語として付いてきます。リスキリングは、ITだけに注目すべきなのでしょうか?「組織」の根幹にある「人間の力」を引き出すスキル、すなわちリーダーシップも、令和に合わせてリスキリングする必要があります。
今回は、真のリーダーシップを引き出すための具体例を、株式会社サイバーエージェント常務執行役員CHO曽山哲人氏に語って頂きました。
*本レポートは2023年7月26日開催したセミナーを基に作成したものです。予めご了承ください。
本記事は、全2部構成でお送りします。Vol.2は下記よりどうぞ。
<目次>
令和に求められるリーダーシップのリスキリング
今日は、リーダーシップのリスキリングというテーマで話を進めます。リスキリングという言葉はITやDX分野で非常に盛んに使われていますが、一方で、リーダーシップ自体もリスキリングが重要となってきています。従来のリーダーシップから変えていく必要があるからです。
今日は大きく3つの話をします。
- 1)リーダーシップのトレンド
- 2)サイバーエージェントのリーダーシップの変遷
- 3)サイバーエージェントのリーダー育成の取り組み
1つ目は、リーダーシップのトレンドです。これは社会的な構造変化の中で、リーダーシップがどう変わってきているかという話です。
その上で、サイバーエージェントのリーダーシップがどう変わってきているか?リーダー育成においてどのような点を重視しているか?という話をしたいと思います。
“サイバーエージェントの”と言いましたが、できるだけ概念化して、どの会社でも、どのリーダーでも適用可能な、横展開できる内容を中心に紹介します。
さて、皆さまが最近、社会の変化の中で気になっている言葉はありますか?エンゲージメント、Z世代、人的資本経営、生成AI、増税、ハイブリッドワーク、などの言葉が注目されていますが、その中で私が特に注目しているのは、①「デジタル化」つまり「DX」と、②「人生100年時代」の2つです。
これらは人事、組織、そして社会において大きな変化を引き起こしています。DXやデジタル化については、システム化やデータドリブン、生成AIなどが進化しています。また人生100年時代とともに長く働けるようになることは重要なポイントです。
長く働けるということは、嫌な職場でずっと働きたくないという気持ちが増幅することになり、自分がどうありたいか?自然体でどう働きたいか?という価値観が重視される世の中になっていくことに繋がると思われます。
「デジタル化によって加速する機械化」により、基本的に人がやりたくない業務はどんどん機械化されていきます。それにより価値観、個々人の特性、感情の重要性が増してきているということになります。
デジタル化と人生100年時代というのは繋がっているわけですね。
感情マネジメントvs論理マネジメント
例えば、デール・カーネギーの『人を動かす』を読んだことはありますか?
この本は、「人を動かす」ことに対して非常に丁寧に描かれています。そして、やはり感情の重要性ということに早くから注目しており、どうやったら相手の感情がポジティブになり、前向きに主体的に動いてくれるのかということがテーマです。
リーダーシップのリスキリングについて、私が今後一番重要になると思うのは、感情のマネジメントです。感情のマネジメントがうまくできる人とできない人との間で、マネジメントのパターンが新旧に分かれます。感情に配慮している人はリーダーとして非常に成長が速くなるということです。
是非感情の重要性というのを意識して頂ければと思います。
リーダーシップのトレンド 〜3つのe~
では、相手の感情を大事にする工夫には、どんなものがあるでしょうか?
「否定をしない」「話を遮らない」「受け入れる」「オウム返し」「承認欲求を満たす」「世代の違いを理解する」「自分の前提を常に疑う」「立場を入れ替えて話をする」・・
これらはとても重要で全て必要です。
私の場合は、次の「3つのe」です。
1つ目は「Exposure」です。
エクスポージャーは「さらけ出す」という意味ですが、これはリーダーが人間性をさらけ出すことで人望を獲得できる、というポジティブな意味があります。
一方で、エクスポージャーには「暴く」というネガティブな意味もあります。例えば、最近のセクハラやパワハラのニュースなどを見ると、LINEのスクリーンショットや録音された音声が流出していることがあります。
このようなネガティブなものは全て暴かれてしまう、エクスポージャーされてしまう時代であり、マネジメントを注意しなければいけませんが、これは逆にメリットの方が重要なのです。
本当に良いマネジメント、本当に良い雰囲気の会社は、スタートアップ・大企業に関わらず存在していますよね。こういった本当に良い組織というのは、今、良い意味でバレる時代、エクスポージャーされる時代になっています。
例えば、サイバーエージェントはどういう会社か?というのは、口コミサイトにたくさん書かれています。就活の様子も、サイバーエージェントの面接でどんな質問をされるか、など全てがバレています。
しかし本当に中身が良い会社は、それが全部バレているので、大企業もスタートアップも採用力が上がっており、良い人材が採れているのです。
エクスポージャー(さらけ出し)をきちんと取り組めているか。企業風土そのものを良くし、きちんと伝えていく。このあたりが採用力において重要になってきます。
2つ目のeは「Esteem needs」承認欲求です。
大学生ぐらいになると、インスタグラムのストーリーズを頻繁に使ったり、X(旧Twitter)やTikTokを使ったりして、「いいね」という承認を受ける機会がとても多いです。SNSを通じて「いいね」をもらうことで、発信したら見てくれるという承認が満たされる。承認欲求の重要度が非常に高いのです。
こういった承認欲求が高い人たちが会社に入ってきたにもかかわらず、SNSを全く使っていない上司や先輩方が、全く認めない、全く褒めないとなると、やはり承認欲求が満たされないのです。
会社のルールを押し付けることも良いのですが、「業績を上げてもらう」ことを考えた場合、個人の承認欲求を満たしてあげて、スイッチを入れてあげるということが非常に重要だということになります。
3つ目のeは「Emotion」、つまり「感情報酬」です。これは承認欲求と近いですが、あえて区別します。
人には報酬が2つあるというのが私の考え方で、1つは感情の報酬、もう1つはお金の報酬(金銭報酬)です。この2つの報酬をうまくマネジメントしていくことがとても大事なのです。
特に今は、GDPもそんなに上がっておらず、経済成長を感じる人は減る流れになっています。社会構造的に経済成長に対する閉塞感があるので、お金をもらうことに加えて感情の部分の価値が上がっているわけです。
ただし感情報酬は多様です。良いビジョンを掲げる会社で働きたい、良い仲間と働きたい、褒められるだけで嬉しい、ありがとうと言われるだけで嬉しい……など、人によって感情の報酬は違います。自分自身の嬉しいと感じる感情報酬と、みなさんの部下の感情報酬は異なります。
特に自分の上司がバブルを享受していた世代だったりすると、金銭報酬メインのマネジメントを受けていたりします。今の20〜30代は置かれている社会環境が大きく違うので、マネジメントを変える必要があります。
このように社会構造が変わりつつあるこの時代において、リーダーシップがどのように変化しているのか、お話したいと思います。
サイバーエージェントのリーダーシップ・マネジメント
ここで少しだけサイバーエージェントの概要をご紹介します。
昨年の売上が7100億円でしたが、20年前は30億円規模の会社でした。
管理職の男女比率では、女性が22%ぐらいとなっています。また、直近で新たに管理職になった人を見ると、女性がほぼ4割となっています。
「働きがいがありますか?」という匿名のアンケートを取ったところ、87%の人が「あります」と回答してくれています。また退職率8%はインターネット業界では標準の数字だと思いますが、2000年から2003年までの3年間、退職率30%が続いた時期がありました。
私がサイバーエージェントに入社したのは従業員がわずか20人の時でしたので、その変化を間近で見てきました。
組織風土というのは、決意すれば必ず変えることができます。それには少し時間がかかりますが、必ず改善することができるというのがポイントです。
本記事は、全2部構成でお送りします。Vol.2は下記よりどうぞ。






