議論を避ける|デール・カーネギー『人を動かす』

更新:2022/10/28

作成:2022/10/28

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

議論を避ける|デール・カーネギー『人を動かす』

 私たち、一人ひとり違った考え方や価値観を持って生きています。ビジネスシーン等であれば、立場や役割に応じて異なる利害を持っていることも多いでしょう。

 このように違った考え方や価値観、立場が様々な人間関係の中で仕事や取引するうえでは、関係者同士で議論して決着をつける、結論を出す必要があることも多々あります。

 しかし、コミュニケーションとリーダーシップに関する名著『人を動かす』の著者であるデール・カーネギーは、「議論に勝つことは不可能だ。もし負ければ負けたのだし、たとえ勝ったにしても、やはり負けているのだ。なぜかと言えば 仮に相手を徹底的にやっつけたとして、その結果はどうなる? やっつけたほうは大いに気をよくするだろうが、やっつけられたほうは劣等感を持ち、自尊心を傷つけられ、憤慨するだろう。」と言っています。

 相手との継続的な人間関係、相手の心を動かすという視点では、議論に勝つことは不可能だと言っています。

 デール・カーネギーは、『人を動かす』の中で議論に勝つ唯一の方法は「議論を避ける」だといっています。

 これは一種の禅問答のようにも聞こえるかもしれません。

 しかし、私たちにとって、仕事やプライベートで良好な人間関係を維持し、さらに相手に対する影響力を発揮する上で、カーネギーの言葉は、非常に蘊蓄に富んだ意味合いを持っています。

 本記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より、「人を説得する12原則」のひとつとして紹介されている「議論を避ける」について解説します。

 なお、本原則は書籍では「議論を避ける」ですが、デール・カーネギー研修の受講者に配られるゴールデンブックでは「議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける」と表記されています。

 記事内では、よりシンプルに表現された書籍の表記に合わせて解説します。

<目次>

『人を動かす』とデール・カーネギー

 記事では最初に、書籍『人を動かす』と著者であるデール・カーネギーを簡単に紹介します。

デール・カーネギーについて

 書籍『人を動かす』の著者として有名なデール・カーネギーは、1888年アメリカ・ミズーリ州の農家に生まれました。

 大学を卒業したカーネギーは、対人セールスや俳優業といった仕事を転々とする中、ある時YMCAの夜間学校で話し方講座を担当することになります。

 カーネギーが登壇した話し方講座は大評判を博しました。

 その後、カーネギーは独立して自分の研究所を設立し、数々の成果を残しました。

 そして、多くの講義や調査研究も踏まえて蓄積した知見やメソッドを1冊の本に凝縮したのが、カーネギーの名前を有名にした著書『人を動かす』です。

 カーネギーが設立した研究所はカーネギーが亡くなった後も人材育成機関、研修会社として活動を続け、現在では、世界90ヶ国、900万人以上の修了生を輩出するまでになっています。

書籍『人を動かす』の概要

 先ほど説明したように、『人を動かす』は、カーネギーが話し方講座の中で培った様々なメソッドや知見を集大成としてまとめ上げた書籍です。

 『人を動かす』という書名にある通り、本書には、相手に気持ちよく動いてもらうためには、どのように他者と関わっていくべきかという人間関係とコミュニケーションのノウハウが、様々なエピソードとともに記述されています。

 同時期にも、マネジメントやリーダーシップに関する本は存在していましたが、それらの多くは、資本家などの富裕層や経営者といった、一部の限られた人に向けて書かれたものでした。

 これに対し『人を動かす』は、人間関係やコミュニケーションで悩み抱えている、ごく普通の一般市民の気持ちに寄り添っており、誰もが取り入れやすい内容でした。

 結果的に、『人を動かす』は世界中で1500万部という大ベストセラーを記録し、出版から80年以上経過した現在でも、多くの人から支持される一冊となっています。

「人を説得する12原則」とは

 『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

 本記事のテーマである「議論を避ける」は、上記の中の「人を説得する12原則」のひとつめとなる原則です。

 「議論を避ける」の詳細をお伝えする前に、「人を説得する12原則」の一覧を簡単に紹介します。

1.議論を避ける
 冒頭で触れたように、カーネギーは、相手との人間関係を良好に保ち、人を心から動かすという意味において、議論に勝つことは不可能であり、唯一の道は議論を避けることだと説いています。

 正面から相手を論破して負かしたとしても、負けた側の自尊心は傷つき、相手の意見や主張は変わらないことが多いということです。

 「議論を避ける」の詳細と実践は次章で解説します。

2.誤りを指摘しない
 相手のミスや間違いが明らかなとき、あたかも鬼の首を取ったかのように指摘する人は少なくありません。

 しかし、人は誰しも「自分は正しい」「この判断にはそれなりの理由がある」と思って行動・判断をしています。

 そのため、議論の勝敗と同じように、人は誤りを指摘されると自分を否定されたかのように感じがちです。

 だからこそ、相手を動かしたり、間違いを正したりするためには、誤りを正面から手厳しく指摘するのではなく、自分自身で気づいてもらう、やんわりと気付かせるアプローチが大切です。

3.誤りを認める
 人間である以上、誰でもミスや間違いはあります。自分に間違いがあったときは速やかに認め、必要であれば躊躇せず謝罪することが大切です。

 自ら誤りを認めることで、相手や周囲の感情は和らぎ、寛容な態度もとりやすくなるものです。

 カーネギーは、相手から指摘されるよりも先に、先に自分の落ち度を口にすることが大事だとしています。

4.穏やかに話す
 人を説得する時に、喧嘩腰になったり、イライラした態度で話したり、命令口調になってしまう人も多くいます。

 自分はそんなことはない、という人でも、苦手な人を前にすると無意識のうちにガードを固めたり、緊張が伝わったりしまうということはあるでしょう。

 相手を説得したいという時に、イライラした口調やけんか腰の雰囲気が出てしまうと、何一つ良い結果にはなりません。

 相手を尊重し、穏やかで柔らかな態度で対話に臨みましょう。

5.”イエス”と答えられる問題を選ぶ
 人は、自分とは意見が違う相手だと判断すると、否定的な態度になりがちです。

 とくに会話の冒頭で、相手と意見が対立する話題を出してしまうと、そこから後の話に対しても、敵対心やネガティブな意識が生じてしまいます。

 だからこそ、意見が一致している問題、お互い合意できるテーマから話を切り出すことが肝心です。

6.しゃべらせる
 相手を説得するには、相手に心置きなく喋ってもらうことが一番の近道です。自分の意見や言いたいことあっても、相手の話を遮ってはいけません。

 相手を説得したいと思うならば、話を“する”ことよりも“聞く”ことです。相手が思う存分しゃべり切ってから、自分の話に入るようにしましょう。

7.思いつかせる
 人は、他人に言われた意見より、自分の意見を大切にする傾向があります。

 だからこそ、相手に何かして欲しい時は、相手が自分自身で思いつくように誘導することが有効です。

8.人の身になる
 相手の考え・行動にはそれなりの理由があります。だからこそ、相手を非難するのではなく、まず理解しようとする姿勢が大切です。

 そのために有効なのが、「自分が相手の立場なら・・・」と考えてみることです。相手の身になって考えることで、相手の思惑や背景も少しずつ見えてくるでしょう。

9.同情を寄せる
 人は共感されるのが何よりも大好きな生き物です。相手に共感する、それだけで相手にとってのあなたの位置づけが大きく変わります。

 相手の立場や気持ちを理解しているのだということを、積極的に伝えましょう。そうすることで、相手もあなたの主張に耳を傾けてくれるようになるでしょう。

10.美しい心情に呼びかける
 人は誰しも理想主義的な側面、自分自身を高潔で立派な人物であると思いたい側面を持っています。

 したがって、相手の理想主義的な側面、良心や人情、道徳心や大義に訴えかける伝え方・物言いが、時に大きな効果を発揮します。

11.演出を考える
 テレビ、映画、SNS…私たちの身近にあるメディアを眺めると、いずれにおいても、演出や見せ方が重要であることを痛感させられます。

 ドラマチックな演出は、エンターテイメントや広告等だけでなく、対人コミュニケーションの場でも効果を発揮します。

 SNSで「インスタ映え」といった言葉が流行ったように、人を動かすには、事実をそのまま伝えるのではなく、演出を加えることも効果的です。

 どんな演出をすると、相手の感情が動くのか?を考えてみましょう。

12.対抗意識を刺激する
 テストやスポーツの結果など、様々な順位に一喜一憂した経験は誰にでもあるでしょう。

 “他者よりも秀でていたい”という想いは私たちの誰もが持っている感情です。

 競争意識や対抗意識を刺激することが、相手の感情を動かすまたとない一手になる場合も多々あります。

「議論を避ける」の詳細と実践

 本章では、記事のテーマである「議論を避ける」について詳しく解説します。

「議論に勝つ」ことは不可能である

 『人を動かす』で述べられているカーネギーの結論は、「議論に勝つことはできない」ということです。

 しかし、ビジネスや日常生活の議論では、議論が決着しないこともありますが、議論して勝ち負けが決まることも少なくありません。

 では、カーネギーは何をもって「議論に勝てない」と言っているのでしょうか。

 冒頭でも紹介した通り。『人を動かす』の中で、カーネギーは以下のように述べています。

「議論に勝つことは不可能だ。もし負ければ負けたのだし、たとえ勝ったにしても、やはり負けているのだ。なぜかと言えば - 仮に相手を徹底的にやっつけたとして、その結果はどうなる? - やっつけたほうは大いに気をよくするだろうが、やっつけられたほうは劣等感を持ち、自尊心を傷つけられ、憤慨するだろう。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

 つまりカーネギーは、「議論に勝つ」ことはできても、「人を動かす」という目的から考えると、たとえ議論に勝ったとしても目的は達成できない、結果的に負けるのと同じことだと言っているのです。

 自分自身の経験を思い出してみても、「議論には勝ったけど、結局相手が動かなかった」、逆に「議論でやりこめられて非常にムカついたので、相手の言うことに従うもんか!」といった経験は誰もが持っているのではないでしょうか。

議論に負けても、その人の意見は変わらない

 カーネギーは『人を動かす』の中で、「議論に負けても、その人の意見は変わらない」ということを繰り返し述べています。

 私達人間は、論理よりも感情で動く生き物です。

 だからこそ、議論という論理の世界で勝敗を決めたとしても、相手のことが感情的に気に入らなければ、従わないといった話は多々起こります。

 マーケティングの世界では、「人は感情で意思決定して、論理で理由をつける」といわれます。

 論理を基に相手を打ち負かしても、相手の感情を損ねてしまうと、多くの場合、相手の意見・行動は変わらないのです。

議論に勝つ最善にして唯一の方法

 カーネギーは議論に勝つ最善にして唯一の方法は、「議論を避けることだ」と言い切っています。

 議論に勝つ方法が議論を避けることであるというのは、まるで禅問答のよう思えます。

 もちろん、実際の場面では、思考を深める、適切な解決策や施策を見出す、重要な決断をするために、議論することが不可欠なことも多いでしょう。

 カーネギーがいう「議論を避ける」とは、議論を一切しない、議論を拒否するということではありません。

 相手を打ち負かす、徹底的にやりこめる、といった議論を避けるということです。

 正面から議論で相手を論破して、一方が勝者、もう一方が敗者になれば、負けた方には感情的なしこりが生じ、相手を動かすという目的からは大きく遠ざかってしまいます。

 人を動かすためには、「議論で勝ち負けを決める」ではなく、「異なる視点、異なる意見を持ち寄ることで、よい解決策を共同で生み出す」という意識が大切です。
 共通のゴールを確認する、相手の言い分を認める、ポジティブなフィードバックを与える、相手の意見を取り込んで新たな提案をするといった形で議論に臨みましょう。

 『人を動かす』では、『片々録』という本からの引用で「議論を避ける方法」が書かれているので、以下に紹介します。

 少し硬い表現もありますが、非常に実践の参考となる言葉たちです。

  • 意見の不一致を歓迎せよ
  • 最初に頭をもたげる自己防衛本能に押し流されてはならない
  • 腹を立ててはいけない
  • まず相手の言葉に耳を傾けよ
  • 意見が一致する点を探せ
  • 率直であれ
  • 相手の意見をよく考えてみる約束をし、その約束を実行せよ
  • 相手が反対するのは関心があるからで、大いに感謝すべきだ
  • 早まった行動を避け、双方がじっくり考え直す時間を置け

まとめ

 記事では、デール・カーネギーの『人を動かす』で紹介されている「議論を避ける」の原則を解説しました。

 日常生活、また仕事の場面で議論が必要な場面に置かれたとき、私達はつい「自分の意見の正しさを理路整然と主張しよう」「相手を論破して説得しよう」と考えてしまうことがあります。

 しかし、議論を闘わせて、一方が勝ち、もう一方が負けてしまう形をつくると、負けた側に不満や恨み、感情的なしこりが残ります。

 そして、議論で勝ったとしても、相手の考えや行動が変わることはなく、むしろそれまでの人間関係が台無しになってしまう、といった結果に終わってしまうことも多々あります。

 このように、相手を打ち負かそう、徹底的にやりこめようとして議論をする限り、議論の行きつく先が期待する結果になることはまずありません。

 カーネギーがいうように、「人を動かす」という目的からすると、議論で相手を打ち負かしても目的を達成することは叶いません。

 共通のゴールを確認し、相手を尊重し、win-winとなる結論を協働で見出していくという姿勢が何より大切です。

記事の内容がビジネスや私生活でのより良い議論の形、より望ましい結果を生むヒントとして、お役に立てば幸いです。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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