本章ではビジネスシーンや人間関係の中で、人を変える9原則を実践するためのポイントをお伝えします。
1「まずほめる」を実践するポイント
まずほめることが、人を変える第一歩になる理由は、褒めることによって、相手には話を聞く心の余裕ができるからです。
まず相手をほめておくのは、歯科医がまず局部麻酔をするのによく似ている。もちろん、あとでがりがりとやられるが、麻酔はその痛みを消してくれる。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーは歯科治療の麻酔に例えて、最初に称賛することの大切さを説いています。「まずほめる」を実践するためには、ほめる材料(ネタ)を用意しておくことがポイントです。
その場になって「えっと、どこをほめようかな・・・」と考え出していると、タイミングを逸してしまいます。普段から相手の頑張りや気遣いなど細かいところを観察しておくと良いでしょう。
HRドクターでは、「まずほめる」の解説記事で、他にも実践のコツを解説しています。相手をほめるノウハウをより詳しく知りたい方は、以下のリンクよりご覧ください。
2「遠回しに注意を与える」を実践するポイント
注意や指摘をするときは、直接的な表現は避け、相手に気づかせるような伝え方が重要です。
人の気持ちや態度を変えようとする場合、ほんの一言の違いが、成功と失敗の分かれ目になることがある。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーが言うように、伝え方ひとつで結果は大きく変わってしまいます。職場での部下指導などでは、相手に厳しいことを伝える必要がある局面もあるでしょう。こうした場面で相手が受け入れてもらえるように注意するにはどうすればいいのでしょうか。
「遠回しに注意を与える」伝え方の一例として、カーネギーは次のようなエピソードで解説しています。
ライマン・アボットという牧師が着任した教会で初の説教をすることになりました。じつはアボット氏は名演説で知られた牧師が亡くなった後任として赴任してきたのです。従って、大変なプレッシャーがあるわけです…。説教に際してアボット氏は、懸命になって原稿を書いて、まずは妻に読んで聞かせることにしました。
アボット氏が初めに準備したスピーチの内容はというと、名演説とは程遠い散々な出来栄えでした。しかし、アボット氏の妻は「面白くないわ」などとは言いませんでした。代わりに「『北米評論』にお出しになれば、きっといい論文になるでしょう」と伝えました。表向きは褒めているような伝え方ですが、「演説としてはダメね」と遠回しにほめのかしているわけです。
アボット氏は妻の言わんとすることを察し、原稿を破り捨てて、改めて書き直したということです。
上記の表現は2人の関係性によっては“皮肉“と捉えられてしまいますので、注意が必要です。ただし、「ストレートなダメ出しではなく相手自身に気付かせる」ことが、遠回しに注意を与えるポイントです。
HRドクターでは、「遠回しに注意を与える」について効果的な伝え方や実践する際の注意点により詳しく解説した個別記事も公開していますので、ご興味あれば以下のリンクよりご覧ください。
3「自分の過ちを話す」を実践するポイント
やむを得ず相手に指摘が必要な時は、自分の失敗談を織り混ぜながら伝えることが有効です。教師と生徒、上司と部下の関係のように、「指導する側」と「指導される側」の間には上下関係の雰囲気がどうしても生じますし、指導する側のアドバイスや助言は“説教”臭く、また“上から目線“になりがちです。
人に小言を言う場合、謙虚な態度で、自分は決して完全ではなく、失敗も多いがと前置きして、それから間違いを注意してやると、相手はそれほど不愉快な思いをせずに済むものだ。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーが言うように最初に自分の過ちや失敗もオープンに話すことで、助言や指摘は説教臭くならず、相手も素直な気持ちで注意を受け入れやすくなるものです。
「自分の過ちを話す」を実践する上では、自分の「隙」を見せることがポイントです。先ほど、「指導する側」と「指導される側」の間には、どうしても上下関係の雰囲気が生まれやすいとお伝えしましたが、隙のない相手にはなかなか心を開くのは難しいものです。
「私も失敗してしまうことがあって…」と自分の失敗体験をオープンにすることで、相手に心を開いてもらえる余裕が生まれるのです。
「自分の過ちを話す」という原則は、人材育成でも活用することができます。
「自分の過ちを話す」の解説記事で、組織の人材育成で「自分の過ちを話す」を活用・実践するポイントを解説しています。マネジメントや部下指導で「自分の過ちを話す」の活用に関心をお持ちの方は、以下のリンクよりご参考ください。
4「命令をしない」を実践するポイント
相手に指示や要望がある時は、命令ではなく、「自分で気付いた」「自分で決めた」と相手に思わせる伝え方が大切だとお伝えしました。
相手自身に気づかせる伝え方とは、具体的にどういうものでしょうか。これに対するカーネギーの回答は、「命令を質問の形に変えて相手に伝える」というシンプルなものです。例えば、「〇〇しなさい」「○○をやっておいてください」という場合を考えてみましょう。
「これを〇〇してほしいのですが、〇〇さんの都合はいかがですか?」
上記のように、会話の最後に「相手の都合を確認する」というのが1つのやり方です。相手の都合を確認することで、相手が依頼に応えることが難しい場合に断りやすい雰囲気が生まれます。また、相手が一方的に命令する場合に比べて「相手が自分自身の意思で承諾した」感覚を生み出すことができます。
なお、この伝え方をするときは「してほしい要望は明確に言う」ようにしましょう。相手が受諾できるかどうかを適切に判断するためにも大切です。
HRドクターでは、同原則をテーマにした個別記事の中で、他にも「命令を質問の形に変えて相手に伝える」方法を詳しく解説しています。詳しく知りたい方は、以下のリンクよりご参考ください。
5「顔をつぶさない」を実践するポイント
「相手の顔をつぶさない」よう配慮するためには、具体的に何が大切になるのでしょうか。
相手の顔を立てる! これは大切なことだ。しかも、その大切さを理解している人は果たして何人いるだろうか? 自分の気持ちを通すために、他人の感情を踏みにじっていく。相手の自尊心などはまったく考えない。人前もかまわず、使用人や子供を叱り飛ばす。もう少し考えて、一言二言思いやりのある言葉をかけ、相手の心情を理解してやれば、そのほうが、はるかにうまくいくだろうに!
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
カーネギーが言うように「相手の顔を立てる」関わり方がポイントです。自分の気持ちや感情ではなく、相手の立場になって考えることで、どのような配慮をすれば、相手の自尊心を満たせるかも自ずと見えてくるでしょう。
相手の顔を立てるということは、良い指導者になる上でも重要です。部下の顔をつぶさない上司、相手の立場に配慮できるリーダーは、信頼を集めることのできる人物でもあるのです。
HRドクターでは、「顔をつぶさない」の個別記事の中で、新人・若手の指導で、相手のプライドやメンツを傷つけないための伝え方のコツについても解説しています。部下指導に関わる方にとって役立つ内容ですので、ぜひご覧ください。
6「わずかなことでもほめる」を実践するポイント
前章で述べた通り、誰かからの褒め言葉は、人を大きく成長させる上で重要な役割を持っています。褒められることで、人はどのように大きく成長し変わることができるのでしょうか?
女優やタレント、そしてUNICEF親善大使としても活躍する黒柳徹子さんのエピソードを例に紹介します。
黒柳さんは幼少期、机を何度も開け閉めするなど、落ち着きのない変わった子供と見なされ、問題児扱いされ小学校を退学になってしまったそうです。
しかし、その後入学したトモエ学園の校長先生はそれまでの大人とは違いました。校長先生は「君は、本当は素晴らしい子だ」といつも声をかけてくれ、黒柳さんは校長先生の言葉を励みにして自分を取り戻すことができました。その後の大活躍は、ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』や長寿番組となった「徹子の部屋」でもご存じのとおりです。
このように、褒め言葉は人を見違えるように成長させ、人生を一変させる力を持っています。私達の中には、まだ使いこなせていない素晴らしい能力がたくさん眠っています。
それを引き出してくれるのが、ほめ言葉なのです。
「わずかな事でも褒める」を実践するポイントを1つ紹介します。それは、相手の良いところ、小さな長所を見つけたら「拡大して褒めてあげる」ことです。褒める行為には遠慮はいりません。ちょっとしたこと、小さな長所でも、大きく膨らませてどんどん褒めてあげることが、人が成長する原動力になります。
「わずかなことでもほめる」を実践するコツは他にもいくつかあります。同原則の個別記事で紹介していますので、ご興味あればご覧ください。
7「期待をかける」を実践するポイント
人は「他者から期待を受けると、その期待に応えようと頑張れる」とお伝えしましたが、これは、教育や人材育成の分野でよく耳にする「ピグマリオン効果」と同じことです。「期待をかける」の原則は、ピグマリオン効果を活用して人を期待する方向へ導いていく方法とも言えます。
カーネギーは、期待をかけるということについて、次のように述べています。
相手に美点を発揮させたければ、彼がその美点を備えていることにして、公然とそのように扱ってやるがよい。良い評判を立ててやると、その人間はあなたの期待を裏切らないように努めるだろう
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
期待事項は、現時点ではまだ相手に完璧には備わっていないかも知れません。しかし、現状できているかどうかは置いておいて、相手が既にその美点を備えている、発揮しているものとして扱うということがひとつのポイントです。
「期待をかける」を実践するにはどうすればいいでしょうか。最初に、相手の期待する姿を自分の中で明確にしておくことが大切です。その上で、普段の関わりの中で期待事項や理想像に相手が近づいた瞬間があれば、そこを逃さずしっかり確実に承認してあげることです。つまり、「スモールステップ(期待の人物像へと成長する途中段階)を承認してあげる」ことが肝要です。
より具体的な期待をかける声掛けや伝え方ついては、「期待をかける」原則の個別記事の中で紹介していますので、詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
8「激励する」を実践するポイント
前章では、激励の言葉は、相手のパフォーマンスの大きな向上につながるとお伝えしました。
激励の言葉は「期待をかける」と同じように私たちの中に眠る才能を開花させる上でも重要な役割を持っています。才能というのは、得てして自分では当たり前すぎてなかなか自分では気づかないものです。だからこそ、才能や能力が開花するきっかけには、他者からの励ましや激励の言葉が重要になるのです。
激励や励ましの言葉を送る時は、「もしかしたら自分もできるかも?」と相手に思わせる言葉を選ぶことがポイントです。人を励ますのは決して難しいことではありません。人間関係の中でお互いに激励の言葉をプレゼントすることが習慣になれば、自信が芽生え、人生も大きく開けてくるに違いありません。
HRドクターでは、個別記事で同原則をさらに詳しく解説していますので、詳しく知りたい方は以下のリンクよりご覧ください。
9「喜んで協力させる」を実践するポイント
前章では、「喜んで協力させる」がうまかった人物として兵士たちをその気にさせて数々の武勲を挙げたナポレオン1世の事例に触れました。勲章や大袈裟な肩書と言った子供だましに見えることでも、相手に喜んで協力してもらうためのやり方は意外と多くあるものです。
マーク・トウェインが書いた有名な児童小説「トム・ソーヤの冒険」の中にも「喜んで協力させる」の原則を象徴する面白いエピソードがあるので紹介します。
ある日のこと、主人公のトムは、いたずらの罰として、壁のペンキ塗りを命じられました。
トムは壁塗りが嫌で嫌でしかたなく、友達に「手伝ってほしい」と頼みますが、もちろん、手伝ってくれる友達は誰一人としていません。そこでトムは、一計を案じることにしました。
しばらくして、トムが壁塗りをしている最中の壁の前を友達が通りかかります。
そして、トムを見かけた友達は「やあトム!何をしてるんだい?」と声をかけました。
しかし、トムは壁塗りに夢中で返事がありません。
友達はもう一度、「トム!そんなに夢中になって何をしてるんだい?」と今度は少し大きな声を出しました。
トムはようやく気付いてこう返します。「ああ、ビックリした!見ればわかるだろ!ペンキ塗りだよ!邪魔をしないでくれよ」
それだけ言うと、トムはまたすぐに壁塗りに没頭し始めます。
トムのあまりの熱中ぷりが気になった友達は、続けて質問します。「ペンキ塗りってイヤじゃないかい?」
「とんでもない!こんな楽しいこと、他にないよ!邪魔しないでくれよ」
興味を持った友達は重ねて聴きます。
「えっ、ペンキ塗りってそんなに楽しいかい?」
「何を言っているんだ!君はペンキ塗りの楽しさを知らないのかい!」
トムがあまりに楽しそうに話すので友達は段々と興味が沸いてきます。
「そんなに楽しいなら、僕にやらせてよ」
しかし、トムはすぐには譲ってはくれません。「とんでもない!こんな楽しいこと、君には譲れないよ」
「そんなこと言わずに!ちょっとだけでいいから!」
「だめだめ!これは僕にしかできないんだから」
あまりにトムが渋るので、友達は遂にペンキ塗りの権利と、自分の宝物の交換を申し出始めます。
「じゃあ・・・ビー玉をあげるから」
「えっ、ビー玉かあ。いくつ持ってる?」
「ええと・・・10個あるよ」
「えっ、10個かあ・・・しかたないなあ。じゃあ、1メートルだけだよ」
「ありがとう!」
こうしてトムは、通りかかった友達に次々と宝物と交換しながらペンキ塗りの仕事をさせていきました。
そして夕方になる頃には大きな壁のペンキ塗りが終わっただけではなくたくさんの宝物まで手にしたのでした。
このように、自分がしてほしいことに関して、相手の興味関心を引き、相手の利益になるように見せる、そこに焦点を当てることで、人は思いのほか喜んで協力してくれるものです。
カーネギーは、人に喜んで協力してもらうための具体的なやり方として、他にもいくつかの方法を挙げています。「喜んで協力させる」の解説記事で、詳しく紹介していますので、ご興味あれば以下のリンクをご覧ください。