キャリアオーナーシップとは「自分のキャリアに対する責任を自身で持つ」という考え方や姿勢を指します。
終身雇用が崩れた中で、自身のキャリアを自らが主導して築き上げていくことで、働き方や生き方に自由度と可能性が広がります。
また、企業側も終身雇用を保証できず、また、成果主義やジョブ型導入によって待遇向上等も約束できないなかで、キャリアオーナーシップの支援により、エンゲージメント向上や離職低下につなげたいという狙いがあります。
本記事では、キャリアオーナーシップの意義や背景、推進方法、また、企業が直面する課題と解決策を解説します。
<目次>
- キャリアオーナーシップとは?
- キャリアオーナーシップが注目される背景4つ
- キャリアオーナーシップ支援する企業メリット4選
- キャリアオーナーシップを推進するために企業が取り入れるべき施策
- キャリアオーナーシップについて個人が取り組めること
- キャリアオーナーシップを推進するうえで乗り越えるべき4つの課題
- キャリアオーナーシップを企業で進める取り組み方法の例6選
- まとめ
キャリアオーナーシップとは?
キャリアオーナーシップは前述の通り、「自分のキャリアに対する責任を自身で持つ」という考え方や姿勢を指します。
高度経済成長の時代には終身雇用を前提として、会社が従業員のキャリアを設計し、その代わりにある程度、転勤や人事異動に関して会社が主導権を持って実施するという雇用状態がありました。
しかし、日本経済のあり方も変わる中で終身雇用は崩壊し、大手企業でも倒産やM&Aの対象となる時代になりました。
かつてのような安定、右肩上がりの経済環境を前提にした会社主導のキャリア形成は難しくなりました。同時に雇用の流動化も進み、転職が当たり前の世の中となっています。
このような背景から、個々の労働者も自分自身のキャリアを自身で設計し、主体的に管理する必要性が高まっています。
自分の興味や能力、価値観を理解し、自分で目指す働き方やライフスタイルをデザインし、実現すること。これがキャリアオーナーシップと呼ばれる考え方です。
企業側も、従業員のキャリアを保証することは出来なくなった中で、成果主義やジョブ型の導入を進めると共に、従業員が持っている「会社にキャリア構築を依存する意識」を改めてもらう必要が生じています。
また、転職が当たり前となった中で従業員のエンゲージメント向上、離職防止の施策としても、キャリアオーナーシップやキャリア自律を支援する企業が非常に多くなっています。
キャリアオーナーシップが注目される背景4つ
キャリアオーナーシップが近年になって注目されるようになった背景には4つの理由があります。
- 1.終身雇用制度の崩壊
- 2.定年後も働く必要性
- 3.評価制度の変化
- 4.選択肢の多様化
ひとつずつ見ていきましょう。
1. 終身雇用制度の崩壊
高度経済成長期には前提となっていた終身雇用制度は、現在では完全に崩壊したといっても過言ではありません。
戦後の高度成長期~バブル期くらいまでは「一度就職すれば定年まで安定した雇用が約束される」ことが一般的でした。
しかし、日本経済の立ち位置も変わる中で、前述のとおり、企業も終身雇用や年功序列による賃金上昇を約束できない時代となりました。
労働者個人としても自分のキャリアを真剣に考えていかないと、キャリアを構築できない時代ですし、企業側としても従業員にキャリアオーナーシップの意識を持ってもらうことが必要となっています。
2. 定年後も働く必要性
近年、65歳以上の高齢者の就労率は増加傾向にあり、定年後も働き続ける人々が増えています。
少子化に伴って、労働人口の減少を最小限に食い止めるためにも定年延長などが国策となっており、個人としても生活資金の確保や健康維持、社会参加の一環として働く高齢者が増えています。
前例のない高齢社会を迎え、一度リタイアしてから再就職するといった働き方も広がっており、生涯現役の時代を迎えつつあります。
定年退職を迎えてからも働き続けるためには、自身がこれまでに培ったスキルや知識を活かし、終身学習や経験の積み重ねを忘れないことが求められます。
「定年したら年金生活」という時代ではなくなっていることも、キャリアオーナーシップが求められている理由のひとつです。
3. 評価制度の変化
終身雇用の崩壊と並んで、人事評価制度も大きく変わってきています。すでに多くの会社で、年功序列型から成果主義へと評価制度は移行しています。
さらに、大企業などを中心にメンバーシップ型からジョブ型へと雇用制度も変わりつつあります。
こうした制度変更の中で、個人は主体的に自分自身のスキルや能力を高め、成長することがより一層求められるようになっています。
自分のスキルアップに取り組むうえでは、自己のキャリアを自らが主導して形成するキャリアオーナーシップの視点が重要になります。会社に在籍し続けるだけでは賃金もあがらず評価もされない時代です。
能力や成果による評価が行われるようになった現在では、自分のキャリアは自分で形成するものだという意識を持つことが求められているわけです。
評価制度の変化に対応するためにも、自己のスキルアップやキャリアの見直しが必要不可欠となります。
会社側としてもキャリアオーナーシップを通じて、従業員の意欲やエンゲージメントを高め、生産性向上につなげることが求められています。
4. 選択肢の多様化
繰り返しになりますが、昭和の時代は「新卒で就職した会社で異動に対応しながら昇進・昇格して、定年を迎える」というのがキャリアのロールモデルでした。
また、女性は結婚・出産を契機に退職することも多かった時代です。
しかし、現在は先述のようなロールモデルは崩壊し、転職は当たり前となり、副業やパラレルワーク(複業)、また、育児や介護と仕事の両立、さらにはフリーランスとしての独立、会社を離れての学び直しなど、キャリアについて選べる選択肢は多様になっています。
選択肢が増えたからこそ「どの選択肢を取りたいか?取るべきか?」といったことを、各個人が真剣に考える必要があります。
自己のキャリアを自分自身で設計・構築していくのが「キャリアオーナーシップ」です。
「自分の能力やスキルを高め、いかに市場価値に変えていくか?」という視点や、「キャリア設計を通じてどんな人生にしていくか?」ということへの主体性が重要となります。
大切なのは自分自身のキャリアとライフについて主体的に考え、計画を立て、行動することです。
キャリアオーナーシップ支援する企業メリット4選
キャリアオーナーシップの概念に対して、「キャリア自律を促すことは従業員の退職につながるのではないか?」と懸念される企業の方もいます。
しかし、実際には真逆で、企業が従業員のキャリアオーナーシップを支援することには多くのメリットがあります。
企業が受けられるメリットは、以下の4つです。
- 1.従業員のエンゲージメントが向上する
- 2.従業員の離職防止につながる
- 3.生産性が向上する
- 4.優秀な人材を確保しやすくなる
順番に見ていきましょう。
1. 従業員のエンゲージメントが向上する
キャリアオーナーシップを取り入れることで、自分の仕事に対して意味付けがされたり、働きがいを見出しやすくなったりします。これは、仕事への満足度やエンゲージメントの向上につながります。
エンゲージメントが高まると組織への所属意識を高められ、仕事への取り組み方を変えられるでしょう。成果を出す意欲にもつながり、チームや組織への貢献度も上がることも期待できます。
エンゲージメントが高い組織は顧客満足度の向上や、新商品・新サービスの開発など、イノベーションにつながる可能性も高まるでしょう。
2. 従業員の離職防止につながる
キャリアオーナーシップの支援は、従業員のキャリアを自社内に抱え込もうとするものではありません。
しかし、事業や仕事内容をよく理解し、人的なネットワークをすでに持っている現職の中で自分のキャリアを見いだせれば、多くの従業員が継続して働くことを選ぶものです。
「キャリアオーナーシップを推進すると従業員が離職するのではないか?」と心配する経営層の人もいます。
しかし、キャリアオーナーシップを推進することは所属する組織に対する愛着や忠誠心を高め、離職率の低下につながります。
広告やSNSなどにも転職情報があふれ、“隣の青い芝生”の情報が意図せずとも目に飛び込んでくる現在、情報を遮断することで従業員を社内に囲い込もうというのは不可能です。
逆に、キャリアオーナーシップを支援して、自身のキャリアについて考えてもらう、そして、社内を一種の“市場”にすることで、社内でのキャリア構築を考えてもらえる比率を増やす方が有効なのです。
3. 生産性が向上する
キャリアオーナーシップの推進を通じて、離職防止やエンゲージメント向上が実現すれば、組織の生産性は高まります。
また、キャリアオーナーシップは従業員が自分のキャリアを自己管理し、自身で選択していくものです。
このように、自己決定が尊重される環境になってくると、従業員が自身の能力を最大限に発揮しやすくなります。
従業員が自らの仕事に関心を持ち、クリエイティビティを持って取り組めるようになれば自己効力感も高まり、生産性の向上につながるでしょう。
組織がキャリアオーナーシップを尊重・支援する風土を構築することで、従業員が持っている可能性を開花させ、高い成果を生み出す環境が醸成されるのです。
4. 優秀な人材を確保しやすくなる
優秀な人材は自己成長を求め、自分のキャリアを主体的に決めたいと考えています。
だからこそ、キャリアオーナーシップを尊重し、キャリア自律を実現できる環境を整備した企業は優秀な人材の関心を引きます。
また、優秀な人材は、優秀な仲間を働きたいと思うものです。そういう意味でも、優秀な人材をいかに引き留めるかが、次の優秀人材の確保に繋がります。
優秀な人材が集まれば組織の競争力は自ずと高まり、新たな価値を創造したり生産力の向上へつながったりするでしょう。
キャリアオーナーシップを推進するために企業が取り入れるべき施策
キャリアオーナーシップを推進するために、企業に取り入れることをお勧めしたい施策は以下の3つです。
- 1.キャリア研修とキャリア面談
- 2.社内制度の整備
- 3.成果主義とジョブ型へのシフト
1. キャリア研修とキャリア面談
いきなりキャリアオーナーシップと言われても、ミドルやシニアの従業員はぴんと来ないことが多いでしょう。
また、Z世代などの若手層はキャリアオーナーシップやキャリア自律の考え方はすでに身につけていても「自分が何をしたいのか?」「何が強みなのか?」「どうすればキャリアを構築できるのか?」といったことは分からない人が多いものです。
したがって、従業員のキャリア形成を実現するうえでは、企業側の支援が大切となります。
企業として、目の前の仕事のパフォーマンスだけでなく、キャリアプランも含めた従業員の成長を一緒に考えることが大切です。
具体的な方法は後述していますが、まずはキャリア研修やキャリア面談、社内公募制度などが基礎的なサポートになるでしょう。
まずキャリアオーナーシップを考えてみるきっかけを作るがキャリア研修であり、自分事として真剣に考える、考えを整理する機会がキャリア面談です。
キャリア研修とキャリア面談を通じて、まずはキャリアオーナーシップを持ってもらうことが何より大切です。
そのうえで、キャリアオーナーシップを持った従業員に、実現機会を提供するのが次の紹介する社内制度の整備です。
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2. 社内制度の整備
企業に求められる具体的な施策のひとつが、キャリア形成を支援するための社内制度の整備です。具体的には自己啓発制度やスキルアップ支援制度、また社内公募や異動希望などの制度です。
自己啓発制度を設けることで、従業員が自己学習に取り組む機会を広げられるようになるでしょう。たとえば、教材や受講費用の補助や資格取得による評価、報酬の見直しといったものです。
また、スキルアップ支援制度を設けることで、具体的な職務への適応能力や専門性を高める機会も拡大します。
社内研修や外部研修の補助、海外研修への参加支援など、従業員がスキルを磨くための環境作りです。
さらにキャリア形成という意味では、社内公募制度や異動希望制度なども大切です。
社内公募制度を取り入れることで、自分が進みたいキャリアを見出したときに、社内で実現できる可能性を高められます。
社内を一種の“転職市場”にすることで、人材を社外に流出させるのではなく、社内で流動化させるのです。
3. 成果主義とジョブ型へのシフト
キャリアオーナーシップを推進するためには、従業員が自身の成果やスキルUPを意識しやすい成果主義やジョブ型へシフトすることも重要です。
成果主義の風土になれば従業員それぞれが、自分の業績が自身の評価や報酬に直結するという認識を持てるようになり、より自発的な行動や主体的な仕事への取り組みを促せるでしょう。
成果主義を導入することで、従業員は自分自身の仕事の成果を手にするというイメージを持てるようになり、自身のキャリアプランに対する意識も高まります。
ただし、成果主義を導入する際には公平性を保てる評価基準の明確化や、評価結果に対するフィードバックの徹底など細部にわたる配慮は不可欠です。
従業員から評価基準に対して不公平・不平等・不明瞭などの印象を持たれてしまうと、不満につながってしまい、却ってエンゲージメントが低下してしまいます。
成果を上げた従業員が報われると感じられる制度にするために、各々が自己の成長と組織の成長の両方を追求しながらキャリアを築き上げていくための環境を整備することが期待されます。
また、ジョブ型を導入することで、専門性を磨くというキャリア構築を思考しやすくなります。ジョブ型を導入すると運用型も従業員の市場価値、能力と報酬バランスなどを意識しやすくなります。
結果的に、社内公募などとあわせて社内が疑似的な「転職市場」となることで、離職防止やエンゲージメント向上が実現していきます。
キャリアオーナーシップについて個人が取り組めること
キャリアオーナーシップを企業が取り入れるにあたって、従業員自身も意識を変えることが大切です。各従業員が取り組めることは、以下の3つです。
- 1.キャリアを点ではなく線で捉える
- 2.ポータブルスキルの向上
- 3.キャリアの3か年計画を策定する
従業員に浸透させられるように、一つひとつ解説していきましょう。
1.キャリアを点ではなく線で捉える
キャリアオーナーシップやキャリア自律を考えるうえで、自分のキャリアを「点」ではなく、「線」で捉えることが大切です。
キャリアは非常に中長期的なものです。
「今この瞬間」だけでキャリアを考えると、思うようにならないこと、希望通りにならないことも多いでしょう。
「線」として数年スパンの視点を持って、自分の望むキャリアに近づけていく意識が大切です。
また、人生はキャリアのことだけを常に考えられるわけではありません。育児や介護など、キャリアを中心に据えられない時期もあるでしょう。
キャリアを「点」ではなく「線」で捉えることで、こうした時期も捉えやすくなります。
2.ポータブルスキルの向上
キャリア自律を図る上では、専門性とポータブルスキルのバランスが大切です。
キャリア構築というと、つい専門能力やスキルを意識してしまいがちですが、専門能力やスキルを支えるのは、コミュニケーション能力やタスク管理、そして、主体性や論理的思考といったポータブルスキルです。
社内外で通用する力を身につけるためには、専門性とポータブルスキルのバランスを意識する必要があります。
とくに、若手世代は専門性を身につければ市場価値が身に付く、成果をあげられると勘違いしがちです。もちろん成果を上げて、社内外で通用する市場価値を持つためには専門性は大切です。
しかし、専門知識だけを身につけても、土台となるポータブルスキルのレベルが低ければ、せっかくの専門知識も十分に発揮できなくなってしまいます。
従業員一人ひとりのポテンシャルを発揮させるために、しっかりとポータブルスキルを磨くように意識づけましょう。
3.キャリアの3か年計画を策定する
キャリアを線として捉えたうえで能力を磨き、自分の望むキャリアに近づけていくためには、3年をひとつのスパンとして考えるとよいでしょう。
会社の中期経営計画のように、個人も3か年程度のキャリア計画を作成し、それを毎年更新していくといったやり方がおすすめです。
3か年程度の時間軸で考えると、市場価値の向上を考えながら成果創出やスキルUPに取り組んだり、社内公募や転職、副業などの選択肢も有効に生かしたりすることができるでしょう。
キャリアオーナーシップを推進するうえで乗り越えるべき4つの課題
キャリアオーナーシップを推進する際には、以下のような課題が生じがちです。
- 1.主体的に学習する習慣が身に付いていない
- 2.ベテラン社員の意識が低い傾向にある
- 3.若手社員の考える時間軸が短い
- 4.チームプレーへの弊害を及ぼす
課題を先回りして理解しておけば、よりスムーズにキャリアオーナーシップを推進できるようになるはずです。ひとつずつ見ていきましょう。
1. 主体的に学習する習慣が身に付いていない
現代は一度習得したスキルをずっと使い続けるだけではなく、新しい知識や技術を取り入れて進化し続けることが求められます。
自分で能力やスキルを磨き上げるために、主体的に学び続ける力が不可欠です。また、キャリアオーナーシップを推進するうえでも自分が望むキャリアを築くために、自ら学ぶ習慣も非常に大切です。
しかし、多くの社員が「主体的に学習する習慣」が身についていないことが多いものです。
日本のこれまでの働き方は会社が決めたキャリアを歩めば定年まで勤められたために、ある種、キャリアを自分で考える必要がなかったことが原因とされています。
主体的に学習する習慣を従業員が習得するためには、まず自己啓発、成長の重要性を理解させることが大切です。
企業側から常に新しい知識や技術を学び、自分自身をアップデートすることの重要性を伝え続けることが必要です。
また、学び続ける意欲を養うためには学ぶ機会を提供し、その結果を評価する制度を設けるなど、組織内の支援も欠かせません。
自己啓発は労力がかかるものなので、取り組んだ分に見合う価値があると感じさせることもまた重要です。
個々の取り組みを評価し、活動内容や結果により報酬を得られるような仕組みを採用することで、学び続けることの恩恵を体感させられるでしょう。
2. ベテラン社員の意識が低い傾向にある
社内で役職のある立場についている従業員は、さまざまな経験と実績を持っている者です。
その一方で、自身の職場や業務に対する意識やモチベーションが低下し、新たなチャレンジから遠ざかってしまうベテラン社員も少なくありません。
自己のスキルや経験に自信があり、それまで通ってきた道が正解だと信じて疑わないため、新たな考え方や手法を取り入れるのに抵抗があるのです。
また、バブル期~1990年代後半に就職活動をした世代の従業員は、入社した時点ではまだ終身雇用や年功序列が普通でした。
当時の感覚が残っている人の場合、キャリアオーナーシップやキャリア自律と言われてもピンとこない層も多いでしょう。
意識が低いベテラン社員に対する解決策は、組織全体の意識改革を行うことです。
「自己のスキルや知識をさらに伸ばし、新しい価値を創造するためには、失敗を恐れずに新たな挑戦をし、自己成長を追求し続けることが重要である」というメッセージを伝え続ける必要があります。
また、ベテラン社員が新たな試みを行う際にはリーダーを中心に具体的な支援を行い、失敗したとしても学んで成長していける風土をつくることも大切です。
さらに、ベテラン社員自身が自分のキャリアを主導する意識を持つためには、自己のスキルや知識を活かして新たな価値を生み出す展望を示し、その実現に向けた支援を行うことも重要となります。
時にはある種のショック療法が必要となることもあるでしょう。
3.若手社員の考える時間軸が短い
前述した通り、キャリアというのは「点」ではなく「線」で考える、また3か年程度のスパンで考えていくことが適切なものです。
しかし、社会人経験が短く、一方でキャリア構築や自己成長への焦りが強い若手世代は、短いスパンでキャリアを考えてしまいがちです。
「いま望んでいる仕事ができていない」「今回の人事で希望する仕事への異動がかなわなかった」といった形で、短いスパンの事象で物事を捉えて「この会社ではキャリアを作れない」と捉えてしまう層が一定数います。
従って、キャリアに対する適切な時間軸を持ってもらうことも、キャリアオーナーシップを推進するうえでは大切です。
4. チームプレーへの弊害を及ぼす
キャリアオーナーシップの推進は、個々の従業員が自身のキャリアを主導することから生まれます。
そのため、各社員が自己の目標や意識に集中するあまりにチーム全体としての一体感が失われ、協力や連携が乏しくなるという課題も生じることがあります。
過度の個人主義は組織としての生産性や効率性を妨げ、場合によってはメンバー間の摩擦を生む原因ともなり得ます。
この問題を克服するためにはキャリアオーナーシップを持ちつつ、個々の目標が組織全体のビジョンといかに連動しているかを意識することが重要です。
そのためには、明確な組織ビジョンの提示と各メンバーがビジョンを達成するためにどう寄与するかを可視化する必要があります。
そのうえで、組織としては個々の社員が自身のキャリア成長を追求しつつも、他者と協力して共同の目標に取り組むことの価値を強調し続けることが大切です。
チーム内で協調性を保ちながら個々の成長を促進するための教育や研修を提供することも効果的です。
キャリアオーナーシップを推進することで組織成長だけでなく、社員一人ひとりの働きがいや成長にもつなげられます。しかし、その推進の過程で上記のような課題が生じることは避けられません。
そのため、組織としては早い段階で対策を立て、ハードルを乗り越える姿勢が求められます。
キャリアオーナーシップを企業で進める取り組み方法の例6選
ここからは、キャリアオーナーシップを企業で進めるうえでの具体的な方法を6つ紹介します。
- 1.社内公募制度
- 2.キャリア研修
- 3.キャリア面談
- 4.1on1ミーティング
- 5.リスキリング支援
- 6.副業の許容
ひとつずつ見ていきましょう。
1. 社内公募制度
キャリアオーナーシップを推進するにあたって有効な手段の一つが、社内公募制度です。社内公募制度は企業内のポジションやプロジェクトに関して、社員から志願者を募るものです。
選考を経て採用されれば、従業員は新たな役割に異動したりアサインされたりすることができます。
つまり、従業員自身が自らの能力を活かせる場を選べるだけでなく、プロフェッショナルとして新たな経験を積むことが可能になります。
社内公募制度は従業員に自ら進んで挑戦する機会を提供するだけでなく、企業にとっても新たな視点やアイデアを生み出す基盤となるため、オープンイノベーションの推進にも効果的です。
また、異なる部署間の交流や理解を深める一助となる場合もあります。
ただし、社内公募の成功には企業が公平な選考フレームワークを整えることが不可欠です。選考基準や流れを明確にし、結果のフィードバックも必要です。
さらに、異なる業務に移る場合の教育やサポート体制の確立も重要となります。
社内公募制度を活用している大手企業の一社に富士通があります。富士通の平松CHROのインタビューにご興味があれば下記よりご覧ください。
また、異動希望制度について、HRドクターを運営するジェイックの事例を下記で詳しく紹介しています。
2.キャリア研修
キャリア研修を取り入れることで従業員のキャリア意識を高め、自身のキャリアパスを明確にするきっかけを与えられます。
キャリアオーナーシップの支援をする上で、まず基礎となるものだといえるでしょう。
なお、キャリア研修だけでキャリアオーナーシップが完成するものではなく、あくまでキャリアオーナーシップの意識を持つ、考え始めるきっかけだと捉えることが適切です。
3.キャリア面談
きちんとした資格や経験を持ったキャリアコンサルタントに依頼して、キャリア面談の時間を設けるのも有効です。
キャリア面談を実施する場合には、社内で専任者を設けたり、外部に依頼したりすることがおすすめです。
上司や人事によるキャリア面談は、社内だからこそ話の理解やアドバイスはしやすいものですが、一方で、従業員からすると本音を語りにくいものです。
従業員が安心して話せるキャリア面談をベースとして、そのうえで、社内事情や制度を踏まえたアドバイスが欲しい際には人事と面談できる、といった二階建ての形で外部と内部を組み合わせることがおススメです。
4. 1on1ミーティング
従業員の主体的なキャリア形成をサポートするためには、直接的なコミュニケーションも重要です。
その手段のひとつが、1on1ミーティングです。
1on1ミーティングでは従業員と上司や人事担当者が定期的に対話する時間を設けるもので、その中でキャリアの課題や目標、展望について議論することもよくあります。
1on1ミーティングで、上司が部下の課題や不安、将来に向けた希望や目指す方向性などを知ることで、マネジメントや支援もスムーズになるでしょう。
部下も自分自身の成長やキャリアの進行を自らの言葉で表現することにより、自分自身のキャリアについて再考する機会が得られるのはキャリア面談と同じです。
1on1ミーティングは定期的に実施することで、より高い効果が期待できます。理想の頻度は週1回~隔週に1回ですが、最低でも月1回は実施できると効果的です。
継続的な対話により信頼関係を築くことができ、キャリアのサポートへと繋がります。
5. リスキリング支援
現代の労働市場は急速に変化しており、新たなスキルや知識が求められることも珍しくありません。
企業としては状況に応じて従業員が時代の変化に対応できるように、リスキリングの機会を提供することが必要です。
リスキリングにより従業員は自らのキャリアを広げられるだけでなく、企業にとっても競争力を維持できるようになります。
リスキリングを推進する主な方法は社内研修制度やオンライン学習支援、外部の専門家を招くセミナーや資格取得支援制度などが挙げられます。
従業員が新たなスキルを学び、自身のキャリアを拓くことは個々の成長だけでなく、組織全体の知識や技術の向上にもつながります。
リスキリング支援を行う際には従業員の意欲を引き出すことが必要です。制度やプログラム提供だけでなく、学習の機会を活用するための風土づくりやモチベーション支援が求められます。
リスキリングによるキャリア開発については、HRドクターを運営するジェイックが実施したウェビナーのアーカイブ動画でも解説しています。無料で閲覧できるので、ご興味あればご覧ください。
6. 副業の許容
副業の解禁・推進をすることも、キャリアオーナーシップを育むうえで有効な方法です。従業員が自分自身で副業を選択し、社外での経験を積むことで新たなスキルや視点を身につけられます。
副業により従業員は自分の興味や能力を活用でき、自身の働き方やキャリアの選択肢を広げられます。
異なる業界や職種から得た知識や経験は本業に対する新たな視点を提供し、組織全体の多様性を高めることにも寄与するでしょう。
一方で、副業を推進するためには企業が明確なガイドラインを設けることが求められます。具体的には自社の利益を損なわないために、本業と同業種の業務には携わらないなどが挙げられます。
このように、許容範囲について明確な線引きをしてから従業員に伝え、推進することで誤解やトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
まとめ
キャリアオーナーシップとは、自分のキャリアに対する責任を持つという考え方や姿勢を指します。
個人にとってキャリアオーナーシップを持つことが必要となっていることに加えて、企業も従業員に対してキャリアオーナーシップの支援をすることで、生産性の向上や離職率の低下などが期待できるため、従業員のキャリア支援に取り組む企業は増えています。
企業が支援する中では、従業員個々の意識への働きかけと、キャリア支援の整備制度のバランスが大切です。
HRドクターを運営するジェイックでは従業員のキャリア形成を目的としたプログラム「キャリア自律支援プログラム」を提供しています。
従業員の強みにフォーカスしてキャリアイメージを描けるように支援するサービスです。ご興味あればぜひ詳細をご覧ください。