ワークエンゲージメントは、従業員が仕事に対して熱意や愛着などポジティブな感情を持ち、充実しているかを示す尺度です。従業員エンゲージメントとともに、人材開発や、組織の活性化の文脈で注目されている概念の1つです。本記事では、ワークエンゲージメントの概要やメリット、高める方法を紹介します。
<目次>
- ワークエンゲージメントの意味や定義
- ワークエンゲージメントを構成する3つの要素
- ワークエンゲージメントと関連する3つの概念
- ワークエンゲージメントを向上させるメリット
- ワークエンゲージメントの測定方法
- ワークエンゲージメントを高める方法・取り組み
- まとめ
ワークエンゲージメントの意味や定義
ワークエンゲージメントは、オランダのユトレヒト大学の社会科学部 産業・組織心理学科の教授、ウィルマー・B・シャウフェリ(Wilmar B.Schaufeli)氏が2002年に提唱した概念で、従業員が仕事に対して熱意や愛着などポジティブな感情を持ち、充実している状態をいいます。
なお、ここでの熱意や愛着は特定の対象や出来事に向けられたものではなく、仕事全般に向けられる感情と認知を指します。
シャウフェリ氏は、「仕事への態度・認知」と「活動水準」という2つの軸をもとに、「ワークエンゲージメント」「バーンアウト」「職務満足感」「ワーカホリズム」という4つの状態を定義しました。ワークエンゲージメントは最も望ましい状態、仕事への態度・認知がポジティブで、活動水準も高い状態を指します。
ワークエンゲージメントを構成する3つの要素
日本におけるワークエンゲージメントの第一人者である慶應義塾大学の島津教授は、ワークエンゲージメントは、「活力」「熱意」「没頭」の3つの下位概念で構成されると説明しています。
活力
言葉の通り、高いエネルギーを示すもので、活力があれば高いエネルギーで仕事に取り組むことができます。労働者に活力のある状態ではストレスを感じにくく、仕事を楽しみながら行うことができるでしょう。
活力が高い状態は、困難な課題に直面したときも挫けずに積極的に行動できるレジリエンス(心理的な回復力)につながります。
熱意
熱意があるとは、自分の職務にやりがいや誇りを感じており、積極的に取り組もうとする姿勢を指します。熱意が高ければ、新しい商品やサービスを生み出したり、キャリアアップのために努力を続けられたりすることにもつながるでしょう。
没頭
没頭とは、仕事に対して集中して時間が早く進む感覚を得ている状態をいいます。集中力が高まって前の目に集中している、スポーツなどでいう“ゾーン”に入っている状態です。ゾーンと同じように、没頭でしている状態では業務の品質やスピードが向上し、業務の効率化や大きなアウトプット、ミスも削減されるでしょう。
参考)アーノルド・B・バッカー, マイケル・P・ライター編, 島津明人総監訳;井上彰臣ほか監訳,「ワーク・エンゲイジメント -基本理論と研究のためのハンドブック-」, 星和書店, 2014年2月
ワークエンゲージメントと関連する3つの概念
先述したように、ワークエンゲージメントは「仕事への態度・認知」と「活動水準」の2つの軸で、仕事に対する状態を4つに整理した概念のひとつです。ワークエンゲージメントの理解を深めるうえでも、残り3つの状態、「バーンアウト」「職務満足感」「ワーカホリズム」を紹介します。
ワーカホリズム
ワーカホリズムとは、いわゆる日本語にすると“仕事中毒”の状態です。「この仕事をしなければいけない」という強迫観念に駆られ、過度に働いている状態のことを指します。
ワークエンゲージメントと同じように「活動水準」は高く、職場でも評価される傾向にあります。しかし、ワークエンゲージメントの場合は、仕事への態度・認知がポジティブであるのに対して、ワーカホリックの場合は仕事への態度・認知はネガティブです。たとえば、「手にした地位や立場を失うことが不安」「やらなければ居場所がなくなる」といった否定的、強迫観念的な感情が原動力であり、健全な状態とはいえません。
バーンアウト
バーンアウトとは、日本語では「燃え尽き症候群」といわれ、意欲をもって没頭していた人が、ある日突然何かしらの出来事を引き金にやる気を失ってしまう状態を指します。「仕事への態度・認知」も「活動水準」も低い状態で、ワークエンゲージメントとは対極をなす概念といえます。
職務満足感
職務満足感は、自分の職務や組織に対して、前向きに感じている状態を指します。この点はワークエンゲージメントと同じなのですが、職務満足感の場合は活動水準が低い状態であることが、ワークエンゲージメントとの違いです。
職務満足感は、自分のパフォーマンを自己評価して生じるポジティブな心理状態です。ワークエンゲージメントが仕事に取り組んでいる時の感情や認知を指すのに対し、職務満足感は自分のパフォーマンスや成果に対する感情や認知を示すものです。
4つの状態を表す表現
少し語弊が生じる部分もありますが、4つの状態を言葉で表すと以下のようにも表現できるかもしれません。
ワーカホリズム ⇒「仕事しなければいけない」
バーンアウト ⇒「もう仕事はしたくない」
職務満足感 ⇒「自分は十分仕事している」
ワークエンゲージメントを向上させるメリット
組織が従業員のワークエンゲージメントを向上させると、下記3つのようなメリットが得られます。
生産性の向上
ワークエンゲージメントが高い状態は、仕事や会社に対してポジティブな感情を持ち、高い熱量で仕事に取り組む状態です。業務の生産性向上につながりますし、新たなアイデアの創出やビジネスチャンスの獲得などにもつながるでしょう。
離職率の改善
ワークエンゲージメントが改善すれば、バーンアウトやワーカホリズムといった状態の発生を食い止めることができます。職務満足感とは異なり、実際のアウトプットも生じますので、待遇などに反映していくことも可能です。結果的に、定着率の向上や離職率の低下につながります。
職場の雰囲気が良好になる
仕事に対してポジティブな感情を持ち、日々充実感を得ている従業員が増えれば、他の従業員ひいては組織全体に伝播し、職場の雰囲気が良好になります。チームワークの向上や組織へのエンゲージメント向上につながり、さらに良い結果を生み出すでしょう。
ワークエンゲージメントの測定方法
ワークエンゲージメントを測定する方法としては、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度が有名です。ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度、また他にも2つの測定方法を紹介します。
ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度/UWES(Utrecht Work Engagement Scales)
ワークエンゲージメントのスコア測定を行う方法として、もっともポピュラーなのがユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(UWES)です。活力・没頭・熱意の3カテゴリ、17の質問項目で構成されており、「まったくない」(0点)から「いつも感じる」(6点)の6段階で回答してもらい、点数を集計して、ワークエンゲージメントの状態を示します。
ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(UWES)の詳細や実施フォーマットは、前述した日本におけるワークエンゲージメント研究の第一人者である島津教授のページで確認・ダウンロードできます。
バーンアウト測定尺度/MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
名前のとおり、疲労感(5項目)、シニシズム(5項目)、職務効力感(6項目)の合計16項目の質問からバーンアウト度を測定する手法です。バーンアウトの度合いを測ることで逆説的にワークエンゲージメントの測定ができます。バーンアウトの数値が高ければ、ワークエンゲージメントが低く、バーンアウトの数値が低ければ、ワークエンゲージメントは高いと判断することができます。
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
MBI-GSと同様に、バーンアウトを測定する方法です。「離脱」と「疲弊」の2つの尺度に分類された16の質問項目に回答することでスコアを算出します。MBI-GSと同じようにスコアが低ければワークエンゲージメントが高く、スコアが高ければ、ワークエンゲージメントが低いとみなすことができます。
ワークエンゲージメントを高める方法・取り組み
仕事における要求と資源という軸でワークエンゲージメントが高まる仕組みを表しているのが仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル:Job Demands-Resource model)です。
JD-Rモデルによれば、ワークエンゲージメントは、裁量権、仕事のやりがい、成長機会、上司や同僚との関係性などを包括する「仕事の資源」と、レジリエンス、楽観性、自己効力感などを内包する「個人の資源」の2つの要素を改善することで、高められるとされています。本章では、2つの資源要素を改善する具体的な手法を紹介します。
職場環境の整備
人員が不足している、長時間労働が常態化している、従業員同士の関係が悪い、心理的安全性が低いなど職場環境が不健全だと、ワーカホリズムやバーンアウトの状況に陥ってしまいます。
ツール導入やIT化などによる業務の自動化・効率化、業務プロセスの見直しなどによって業務負荷を適切な水準にしたり、チームビルディングやピアボーナスなど従業員同士のコミュニケーションの機会を増やす施策を実施したりすることが、職場環境の改善につながります。
従業員のスキル向上、強み活用
個人の資源を改善するには、従業員のスキル向上や強み活用が有効です。特別な技術力などだけでなく、タスク管理やタイムマネジメント、コミュニケーションなどの基礎的なポータブル向上が、個人の資源改善につながることも多々あります。
また、従業員個々が自分の強みを認識し、仕事で成果をあげるために活用できるようになることも個人の資源改善、ワークエンゲージメント向上に効果的です。
適切な人材配置や役割分担
資源を有効活用するうえでは、人材配置や役割分担も大切です。組織全体の業務量を適切化するアプローチ、個々人の能力・パフォーマンス向上に併せて、個々人のスキルや強みをどう組み合わせるかという視点です。
経営学者として著名なドラッカーは、“強みを生かす”ということの重要性を何冊もの著者で繰り返し述べています。
「組織の目的は人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある」
「成果をあげるには、人の強みを生かさなければならない。弱みからは何も生まれない」
「人のもつあらゆる強み、活力、意欲を動員することによって全体の能力を増加させることである」
このように従業員の能力や強みを生かす、適切な人材配置や役割分担は従業員が本来持っているスキルや能力を発揮し、組織全体のパフォーマンス、ワークエンゲージメントを向上させることにつながります。
まとめ
ワークエンゲージメントは、従業員が高いエネルギーを持って、前向きに仕事に取り組んでいる状態を指す言葉です。
「仕事への態度・認知」と「活動水準」という2つの軸をもとに、「ワークエンゲージメント」「バーンアウト」「職務満足感」「ワーカホリズム」という4つの状態を定義されており、ワークエンゲージメントは最も望ましい状態、仕事への態度・認知がポジティブで、活動水準も高い状態を指します。
仕事に必要な資源という側面でみると、ワークエンゲージメントを改善するには、業務の見直しや自動化などによる職場環境の整備、また、個人のスキル向上や強み活用、そして、適切な人材配置や役割分担などが有効です。
従業員がイキイキと働き、高い成果をあげる働きがいある組織をつくるうえで、本記事が少しでも参考になれば幸いです。