強い組織を作るためには、メンバーのマインドセットが前向きに整っていることが重要です。組織づくりや仕事のパフォーマンスには、スキルや能力だけでなく、考え方が非常に大きな影響を与えます。
本記事ではマインドセットの意味や種類、マインドセットを整える方法を解説します。
<目次>
- ビジネスで広く使われる「マインドセット」とは?
- マインドセットの種類
- 組織のマインドセットを形成する要因
- 組織のマインドセットを変えるメリット
- 社員のマインドセット教育が大切な理由
- マインドセットを整える方法
- 組織に求められるマインドセット
- マインドセット研修のポイント
- まとめ
ビジネスで広く使われる「マインドセット」とは?
ビジネスシーンでよく使われる「マインドセット」とは、何を指すでしょうか。まずは言葉の意味や重要性を確認しておきます。
マインドセットの意味
マインドセットとは、先天的な性質や過去の経験・環境・教育などによって形成された『考え方』や『思考パターン』のことです。
もともと心理学用語として使われていたマインドセットは、アメリカの心理学者であるドゥエック教授の提唱により、ビジネス用語としても広く使われるようになりました。
マインドセットの考え方は個人だけでなく、組織にも当てはめることができます。個人や企業が成果を上げるうえで、マインドセットを意識することは非常に大切です。
マインドセットの重要性
マインドセットは人の言動や意思決定の土台をなすものであり、私たちの言動や意思決定はすべてマインドセットの影響を受けていると言っても過言ではありません。
例えば、『失敗を恐れない』というマインドセットがある場合、高い壁にぶつかっても自ら乗り越えようとするでしょう。また、『人は変われない』というマインドセットを持つ人は、メンバーや部下を育成しようとはしないでしょうし、自分自身の成長にも懐疑的でしょう。
前向きなマインドセットを持っていれば物事への取り組み方も前向きになり、どのような仕事も積極的に取り組もうと考えられるようになります。逆に後ろ向きなマインドセットであれば、すべての言動や意思決定に一種の“ブレーキ”が踏まれた状態となるでしょう。
マインドセットの種類
前述の通り、マインドセットという単語自体は、幅広く『考え方』や『思考パターン』を指すものです。ただ、最近組織開発や人材育成において注目されるのが「2つのマインドセット」という概念です。
ここでは最近注目される『成長』と『固定』という2つのマインドセットを紹介します。
成長マインドセット
成長マインドセットとは、学びや成長を大事にするマインドセットのことです。人は成長できるという価値観に基づいて、積極的に学習したり何事にも挑戦したりする傾向があります。
ポジティブな思考が働きやすく、逆境にも強い成長マインドセットは、すべての個人や企業が持つべきものです。成功者の多くが成長マインドセットを持っているとも言われます。
固定マインドセット
固定マインドセットは、「能力や資質は何をしても変わらない」と考えるマインドセットです。自らの成長に対しても懐疑的であり、学ぶ姿勢を持とうとしません。固定マインドセットを持つと保守的な思考に偏り、現状維持の状態の方向に進みやすくなります。
個人や組織が成長を目指すうえでは、固定マインドセットから成長マインドセットに変えなければなりません。
個人のマインドセット
個人のマインドセットは、前述の通り、人の基本的な思考パターンのことです。これまでの経験や自分が置かれてきた環境など、さまざまなことに影響を受けています。まったく同じ経験をしてきた人はいないため、広い意味でのマインドセットは、まったく同じ人も存在しません。
また、上述した「成長」と「固定」という2つのマインドセットですが、すべての人に「成長マインドセット」と「固定マインドセット」の両方が内在しています。いずれか片方のみを持っているわけではなく、環境や経験による影響を受けてどちらかが強く出るようになっているのです。
従って、先ほど成長を目指すうえで、成長マインドセットに「変える」と記述しましたが、正確には「自分の中にある成長マインドセットを自覚して表に出す、強く働かせる」というイメージです。
組織のマインドセット
組織のマインドセットは、組織独自の信念や価値観を指します。歴史・経営スタイル・ビジョンなどの影響を受けて形成され、マーケットや顧客からも影響を受けます。
組織内にいるメンバーのマインドセットが組織のマインドセットに影響を与えますし、逆に組織のマインドセットが新たに合流した個人のマインドセットにも影響を与えるという相互的な関係があります。
組織のマインドセットは、組織風土とも似た概念です。企業を成長させるためには、良い組織風土を醸成することが大切になります。
組織のマインドセットを形成する要因
組織のマインドセットはさまざまな要素から影響を受けて形成されています。特に大きな影響を与える要因を確認しておきましょう。
製品特性や事業特性
組織のマインドセットを作る要因の一つに、製品特性や事業特性が挙げられます。組織風土や業務スタイルは、製品特性や事業特性からも影響を受けて構築されていくものです。
たとえば、製品のライフサイクルが短い企業は、よりスピーディーな意思決定を求められるでしょうし、市場の変化や顧客の動きに対して敏感な傾向があります。また、製品のライフサイクルを見ていく中で「物事も人も変化する」という価値観を持つ傾向があります。
このように、企業のマインドセットは製品や事業の特性に影響を受ける側面もあります。
ミッション・ビジョン・バリュー
ミッションやビジョン、バリューは企業文化の醸成に欠かせないものです。組織のマインドセットは、ミッション・ビジョン・バリューから強い影響を受けて形成されます。
経営陣やリーダーが中心となり、ミッションやビジョン、バリューを組織全体に分かりやすく伝えることで、組織全体のマインドセット形成につながっていきます。
とくにミッション・ビジョン・バリューの中に、成長マインドセットに繋がるようなものが入っていると、きちんと浸透した場合には、社員のマインドセットにも良い影響を与えるでしょう。
企業が経験してきた出来事
組織のマインドセットは過去の経験にも影響を受けます。成功・失敗した出来事から気づきを得て、経営戦略や事業方針が変わることで、マインドセットにも影響を及ぼすのです。
例えば、組織が大きな失敗を経験して這い上がって来たような場合、その出来事を経験した社員は成長マインドセットが身に付きやすいでしょう。逆に、組織に大きな変化が起こらないまま年月が経過すると、組織や社員のマインドセットは固定マインドセットになりやすい傾向もあります。
組織のマインドセットを変えるメリット
前述の通り、社員と組織が成長マインドセットを身に付けることが企業によい影響を与えます。組織のマインドセットを成長マインドセットに変えるメリットを紹介します。
チャレンジする風土ができる
組織のマインドセットが成長型になると、何事にも積極的に取り組む社風を作れます。
例えば新規事業に取り組む際は、課題や困難を乗り越えなければなりません。しかし、チャレンジする風土ができていれば、新規事業が軌道に乗るまで努力を続けられます。
一方、固定マインドセットが強い企業の場合は、新規事業に挑戦する発想すら生まれてこないでしょう。リスクを恐れるあまり現状維持を重視するため、企業として成長するチャンスが少なくなってしまいます。
生産性の向上につながる
生産性の向上を期待できることも、組織のマインドセットを変えるメリットの一つです。チャレンジする風土が醸成された組織では、社員それぞれが自ら考えて行動します。さまざまなことに挑戦することで、一人ひとりの能力が磨かれ、生産性の向上につながります。
組織のマインドセットを変えるためには、社員のマインドセットを変えることが必要です。マネジメントや教育を通じて、社員のマインドセットに影響を与えていきましょう。
従業員のモチベーションアップにつながる
成長マインドセットを持つ企業の従業員は、自分も組織も変化できると考えますので、「未来」に希望を持ちやすくなります。また、チャレンジが許容される環境で、主体的に仕事することもモチベーションアップに繋がります。
社員のマインドセット教育が大切な理由
近年は社員のマインドセット教育に力を入れる企業が増えています。社内でのマインドセット教育がなぜ重要なのか再度確認しましょう。
自己効力感が高まる
社員が成長マインドセットを獲得すれば、何事にもチャレンジすれば、能力が伸びて成長することを実感できるようになります。これによって、自己効力感が高まり、自信を持って仕事に臨めるようになるでしょう。
自信がつけば気持ちがポジティブになり、目標に向かって努力できます。そして、成功体験を積み重ねていくことで、さらに自信を強めていけるでしょう。社員が努力してスキルアップしたり目標を達成したりすることは、組織の生産性UPや目標達成につながります。
キャリア形成に前向きになる
社員が成長マインドセットを持てば、キャリア形成にも前向きになります。自らが変われる、という信じられるからこそ、ネガティブなフィードバックも前向きに受け止められるようになりますし、今すぐは得られないポジションや待遇を思い描く意味も出てきます。
責任のある仕事を恐れず期待に応えようとするのも、成長マインドセットを持つ社員の特徴です。
ポジティブシンキングになる
マインドセットは周囲に伝播しやすい特性があります。教育により成長マインドセットを獲得する社員が増えると、組織全体に良いマインドセットが波及していくでしょう。
成長マインドセットは、ポジティブシンキングにもつながります。単なる楽観視ではなく、自分たちが行動することで問題や課題、現状を変えられるという現実的な楽観性です。
ポジティブシンキングをする社員が増えれば、社内の雰囲気が良くなり、積極的に意見を出し合える協力的な環境ができていくでしょう。
マインドセットを整える方法
個人が成長マインドセットを獲得する方法を紹介します。
目標を定め具体的な行動を決める
マインドセットを変えるには、最初に目標を明確にし、目標達成に必要となる具体的な行動を決めていきましょう。組織目標を定めた後、役割に応じた個人目標に落とし込むとよいでしょう。
目標は言語化し、具体的な行動としてしっかりと認識させることも重要です。目標を言語化することで、具体的に想像した未来を意識の中に定着しやすくなります。
目標に合わせて継続的に行動する
目標を定めても頭の中でイメージするだけでは、マインドセットはなかなか変わりません。目標を決めたら、実際に行動する必要があります。行動を振り返り、改善点を踏まえた上で、目標に合わせて継続的に行動することが大切です。
周囲からフィードバックをもらい、どうすれば次の成功につながるのか検証しなければなりません。計画・実行・評価・改善のサイクルを繰り返すPDCAを意識しましょう。
小さな成果を積み重ねる
最初から大きな目標を目指すことはおすすめできません。成果を得るまでに時間がかかってしまいますし、必ずしも目標達成できるものではなく、自信やモチベーションを維持しにくくなります。
成長マインドセットを獲得するためには、目標のレベルをできるだけ下げましょう。もちろん大きな目標を持つことは素晴らしいのですが、同時に小さなミニゴールを沢山つくることがお勧めです。
ミニゴールを達成したり、自分自身の成長を実感するといった小さな成功体験を積み重ねたりすることで、自信やモチベーションが高まり、人は成長できるという成長マインドセットが大きなものへと育っていきます。
組織に求められるマインドセット
社員のマインドセットを変えるためには、組織のマインドセットを見直す必要があります。組織のマインドセットを考える上でポイントになるのはリーダーや管理職のマインドセットです。
リーダーに求められるマインドセットとは?
ここでのリーダーは部下を導く立場、管理職を指しています。リーダーが持つマインドセットはチームや組織に大きな影響を与えます。
リーダーは、常に前向きに挑戦していく姿勢を意識しなければなりません。成長マインドセットを持ち、周囲にポジティブな行動を見せることで、組織の雰囲気を良い方向に変化させられます。
リーダーが成長マインドセットを持っていれば、率先して物事に取り組む姿勢により、周囲の心を動かせるでしょう。
指導する側のマインドセットを整える
社員のマインドセットを強化するためには、指導する側のマインドセットを整えておくことも大切です。前述したように、リーダーや指導者が固定マインドセットを持っていては、社員を良い方向に導きにくくなります。
固定マインドセットを持つ社員に対しては、前述の成長マインドセットを獲得するステップを指導して小さな成功体験を積ませていきましょう。自らの努力で成長できるという体験を積ませることが大切です。
マインドセット研修のポイント
組織や社員のマインドセットを強化していくためには、研修を実施することもおすすめです。研修だけでマインドセットが変わるものではありませんが、個人と組織のマインドセットを整えるきっかけ、ターニングポイントになり得ます。
本章ではマインドセット研修を考える上でのポイントを解説します。
定着させたいマインドセットを決める
マインドセット研修を実施する場合は、最初に定着させたいマインドセットを決めましょう。自社で実績を上げている社員の成長マインドセットは共通要素となります。その社員のマインドセットを分析してベースにすれば、定着させたいマインドセットを決めやすくなるでしょう。
組織に根付かせたい文化や共有したい価値観、大切にしたい行動も同時に考えれば、定着させたいマインドセットがより明確になるでしょう。
役職別に行う
マインドセット研修は役職別に行うことがお勧めです。求められるマインドセットの強さは立場や環境によって異なります。
前述の通り、リーダーや管理職、指導者側が成長マインドセットを持っていなければ、部下育成をしたり、組織のマインドセットを整えたりすることは困難です。従って、組織のマインドセットを変えていく上では、“上から”やっていくことが大切です。
ただし、実践する上では、組織全体でマインドセットに関する「共通言語」を持つことがお勧めです。研修自体は役職別に行うとしても、なるべく短期間で、組織全体に同じフレームワーク、共通言語を作ることが有効です。
入社早期に実施する
マインドセット研修は入社早期に実施することがお勧めです。「鉄は熱いうちに打て」とも言う通り、入社して吸収意欲が高いうちに、マインドセット研修を実施するようにしましょう。
とくに新卒やポテンシャル層は、入社前に楽観的・理想的なイメージを持っていることが多く、入社後にリアリティショックが生じやすくなります。リアリティショックとは、期待していたものと現実とのネガティブなギャップによる動揺や衝撃です。
マインドセットがない状態でのリアリティショックは、会社への不信感につながりやすいものです。そして、組織への不信感が生じた状態でマインドセット研修をしても効果は薄くなってしまいます。
したがって、新卒やポテンシャル層であれば、入社後すぐに「仕事へ向き合う姿勢」や「プロとしての心構え」などのマインドセット研修を実施しましょう。中途であれば、「自社のバリュー」や「行動規範」などの研修を行うことが大切です。
繰り返し実施する
マインドセットの内容は、『知っていても、していない』ことが多くなりがちです。
例えば、「挑戦することで得られるものがある。失敗しても経験を経て成長できる」というバリューがあるとしましょう。その存在を知っていたとしても、徐々に仕事に馴染んで成功体験を得たり、社内でのポジションができたりするにつれて、保守的になって実践できなくなるのが人間の性質です。
一方で、上記のバリューを社内に浸透させるためには、幹部・管理職・ベテラン層こそが挑戦する姿勢を見せることが重要になります。
『知っている』と『している』は小さな『っ』が違うだけですが、この『っ』をなくせるか、が非常に大切です。なくすために重要なのは『何度も振り返る』『思い出す』ことに尽きます。
だからこそ、マインドセット研修は『知っているから良い』『わかっている』ではなく、『している』状態にするために層を問わず繰り返し実施することが大切です。
下記の記事でもマインドセットについて解説していますのでご覧ください。
まとめ
マインドセットには広く「考え方」や「姿勢」を指す言葉です。同時に、HR分野や組織開発の分野では、『成長マインドセット』と『固定マインドセット』という2種類のマインドセットを指すこともあります。
個人が「人は成長できる」という成長マインドセットを持つことが、努力や挑戦する風土、組織の成長や目標達成につながります。社員のマインドセットに大きな影響力を与えるリーダーや管理職が成長マインドセットを実践すると共に、マインドセット研修なども活用して、個人と組織のマインドセットを整えていきましょう。