従業員エンゲージメントは、企業のパフォーマンスや社員の定着率などに影響する重要な指標です。最近、授業員エンゲージメントの向上に取り組む企業も増えています。本記事では、従業員エンゲージメントの基礎知識から、高める取り組みや事例を紹介します。
<目次>
- 従業員エンゲージメントとは何か?
- 従業員エンゲージメントが注目されるようになった背景
- 従業員エンゲージメントを高めるメリット
- 従業員エンゲージメントの構成要素
- 従業員エンゲージメント向上のための取り組みチェックリスト
- 従業員エンゲージメントを高めた事例
- 従業員エンゲージメントを高めて企業の業績向上につなげましょう!
従業員エンゲージメントとは何か?
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従業員エンゲージメントとは、従業員の企業に対する信頼や貢献意欲のことです。従業員エンゲージメントの高い従業員は、企業との心理的なつながりが強い状態です。従業員エンゲージメントが高い従業員が多い企業は、従業員の業務へのモチベーションが高く、離職率も低くなります。
従業員エンゲージメントと従業員満足度(ES)の違い
| 従業員エンゲージメント | 従業員が持つ企業への「貢献意欲」を指標にする |
|---|---|
| 従業員満足度(ES) | 従業員満足度(ES) |
従業員エンゲージメントとよく混同されがちな概念が従業員満足度(ES)です。本質的な考え方は変わりませんが、従業員エンゲージメントは従業員満足度(ES)概念を更に発展させたものといえます。
まず従業員エンゲージメントは、従業員の企業への貢献意欲を指標とするため、直接的に企業の業績向上に寄与します。
対して、従業員満足度(ES)は、従業員にとっての企業での居心地の良さに着目した指標です。従業員エンゲージメントと類似する概念ですが、企業の業績向上との相関は従業員エンゲージメントよりも弱くなります。
従業員エンゲージメントとロイヤリティの違い
| 従業員エンゲージメント | 相互理解や信頼をもとにした「対等」な関係性 |
|---|---|
| ロイヤリティ | 企業が主で従業員が従となるような「主従」関係 |
従業員エンゲージメントとロイヤリティも似ていますが、企業と従業員の関係性という点で違いがあります。
ロイヤリティは、日本語に直すと忠誠心であり、愛社精神や帰属意識といった表現がしっくりきます。従業員エンゲージメントと類似した概念ですが、裏側には「企業(組織)が主、従業員が従」となるような主従関係の意識があるといえます。
一方、従業員エンゲージメントは、相互理解や信頼関係をベースとした対等の関係性です。終身雇用と年功序列が崩壊して、個人と企業の関わり方が変化した今の時代におけるロイヤリティの概念だと考えるのが良いでしょう。
従業員エンゲージメントが注目されるようになった背景
従業員エンゲージメントへの注目が最近になって高まっている背景を確認しておきましょう。
- 仕事の価値観が多様化した
- 人材の流動化が進んだ
- 主体的な人材が求められるようになった
仕事の価値観が多様化した
現在では、仕事の価値観が多様化しており、待遇や昇進昇格などを主要なモチベーションエンジンとする人は相対的には減少し、働き方や価値観に共感できるかどうかで仕事を選ぶ人が増えています。そのため、従業員との精神的な結びつきである従業員エンゲージメントの考え方が従来以上に注目されるようになりました。
人手不足と人材の流動化が進んだ
現在、少子化による人手不足、つまり採用の活性化と年功序列の崩壊による人材の流動化が組み合わさって、転職が一般化しています。優秀な人材を社内に引き留めるための取り組みが重要度を増したことで、従業員エンゲージメントへの注目も高まっています。
主体的な人材が求められるようになった
今まで以上に主体的な人材が求められるようになったことも理由の一つです。国内人口の減少、産業のサービス化、グローバルでの企業競争などの時代背景があるなかで、企業が成長していくために、企業への貢献意欲を持って主体的に仕事に取り組む人材へのニーズが高まっています。社員教育などによる主体性の醸成と併せて、従業員エンゲージメントの向上も主体性を引き出します。
従業員エンゲージメントを高めるメリット
- 業績の向上
- 顧客満足度の向上
- 離職率の低下
- 採用力の向上
- 組織風土の改善
従業員エンゲージメントを高めることは、企業に上記のようなさまざまなメリットをもたらします。
業績の向上
従業員の従業員エンゲージメントが高まると、従業員は高い貢献意欲を持って仕事に取り組むようになり、パフォーマンスが向上します。従業員エンゲージメントの高い従業員が増えれば、組織全体のパフォーマンスが上がり、企業の業績向上が期待できます。
顧客満足度の向上
授業員が高い貢献意欲を持って仕事に取り組むことで、顧客対応の質が向上し、顧客満足度の向上につながります。特にサービス業や接客業などを始めとして、人を介してサービスが提供されている業態では、従業員エンゲージメントの向上は顧客満足度の向上に直結するでしょう。
離職率の低下
前述の通り、優秀な人材をいかにして企業に定着させるかは多くの企業が抱える課題です。従業員エンゲージメントを高める取り組みは離職防止の有効な解決手段にもなります。従業員エンゲージメントを高めることで、従業員の企業への愛着や帰属意識が高まり、離職率の低下につながります。
採用力の向上
従業員エンゲージメントを高め、離職率が低下すれば、採用活動時の印象が上がり、採用効果につながります。また、従業員エンゲージメントの高さを伝えられれば、採用活動の印象アップにつながり、採用力の向上が期待できます。
組織風土の改善
従業員エンゲージメントが向上した状態は組織のミッションやビジョン、バリューなどに共感している状態です。また、授業員エンゲージメントが高い従業員が前向きに仕事に取り組む姿勢は、職場の雰囲気を明るくし、コミュニケーション等も活性化します。
従業員エンゲージメントの構成要素
- 組織理念の理解と共感
- コミュニティへの帰属意識や愛着
- 働きやすさ
従業員エンゲージメントの主な構成要素は上記の3つです。
◆企業理念の理解と共感
1つめの構成要素は、企業理念の理解と共感です。つまり、組織の存在理由や生み出したいもの、組織のミッションやビジョン、バリューを理解して共感しているかという要素です。組織論の古典ともいえるアメリカの経営学者チェスター・バーナードが提唱した組織論における「共通の目的」に相当するものです。
組織の存在理由や目的に共感するからこそ、自分が取り組む仕事にも愛着を持てるようになりますし、組織に貢献しようという主体性が生まれます。
◆コミュニティへの帰属意識や愛着
2つめの構成要素はコミュニティへの帰属意識です。1つめの企業理念への理解と共感が崇高な自己実現的な要素であるのに対して、コミュニティへの帰属意識や愛着はより生々しい人間関係や感情的なつながりです。
一緒に働く仲間と良好な人間関係が築かれている、上司や組織の上層部を尊敬できる、そして、その人たちから承認されているといった感覚が帰属意識や愛着につながります。
バーナードの組織論における「コミュニケーション」や「協働の意欲」につながるものであり、マズローの5段階欲求説における社会的欲求や承認欲求に相当する部分と考えるとよいでしょう。
◆働きやすさ
最後に従業員エンゲージメントを考えるうえでは、働きやすさという要素も欠かすことはできません。最近ではワークライフバランスが重視されるようになったり、リモートワークの有無で会社を選んだりする人も出てきています。
また、物理的な働き方やオフィス環境に加えて、評価制度や人事制度、待遇といった部分も働きやすさにつながります。従業員エンゲージメントを考えるうえでは、精神的な共感やつながりに加えて、物理的な働きやすさや待遇も大切になります。
従業員エンゲージメント向上のための取り組みチェックリスト
- ミッションやビジョンを浸透させ続ける
- マネジメント層や管理職層のレベルアップ
- 職場のコミュニケーションを活性化する
- 適切な評価制度を導入して運用する
- 職場環境や労働条件を改善する
従業員エンゲージメントを高めるためには、どうすれば良いでしょうか。従業員エンゲージメント向上のための取り組みチェックリストを紹介します。
ミッションやビジョンを浸透させ続ける
従業員にミッションやビジョン、バリューを理解・共感してもらうためには、そもそも企業としての想いや考え方を明確にしておく必要があります。そのうえで、従業員を巻き込んで議論する、従業員一人ひとりが自分の仕事に紐づけていく、理解を深めるといった浸透施策を実施していくことが重要です。
また、業務を実施するうえではさまざまな壁にぶつかりますし、従業員の新陳代謝もあります。ミッションやビジョンは一度浸透したら終わりではなく、浸透させ続けることが何より大事です。
マネジメント層や管理職層のレベルアップ
コミュニティとしてのつながりを考えるうえで、同僚や従業員同士の人間関係も大切です。なかでも企業においてはマネジメント層や管理職層との人間関係や信頼関係が何より大切です。
最近では、社内に役職や階級がないフラットなホラクラシー組織の概念などもありますが、現実的にはほとんどの企業が一定のピラミッド構造、上下関係のもとで成立しています。
したがって、組織の方向性を決め、自分の評価を決めるマネジメント層や管理職層を信頼できるか、尊敬できるか、良好な人間関係を築けているかという要素は従業員エンゲージメントを考えるうえで外せません。
そして、「上司は部下を見抜くのに3年かかるが、部下は上司を3日で見抜く」といった言葉もある通り、部下は上司をよく見ています。信頼関係を作るためには、小手先のテクニック等ではなく、幹部や上司の人間性やマネジメント能力、コミュニケーション能力などをしっかりと高めていく必要があります。
職場のコミュニケーションを活性化する
職場のコミュニケーションの活性化も重要な取り組みです。コミュニティとしてのつながりを作るうえでは、まずはコミュニケーションを通じた相互理解や信頼関係、人間関係が基盤となります。
マネジメント層や管理職層がリーダーシップを取りながら、風通しが良いコミュニケーション環境を実現していきましょう。仕事のつながりだけでなく、相手を「ひとりの人間」として捉えられるようにプライベートや価値観の共有などをすることもコミュニケーションを活性化させるポイントです。
また、仕事で関係するチームや部門だけでなく、同年次、趣味、経営層とのつながりなど、コミュニケーションをタテヨコナナメに張り巡らせてタコツボ化しないようにする工夫も大切です。
適切な評価制度を導入して運用する
適切な評価制度を導入して運用することは、従業員エンゲージメントのモチベーション向上につながります。「人は評価と承認に向かって行動する」といった言葉もあるとおり、「自分が正当に評価されているか?」というのは、従業員にとって大きな関心事です。
評価制度が適切に運用されているか? 納得感があるか? は、企業と従業員の信頼関係にも関わります。評価制度は、何か完ぺきなものがあるわけではなく、透明性を持ってきちんと運用して、組織の状況や起こった課題に応じて改善していく。積み重ねが重要です。
職場環境や労働条件を改善する
職場環境や労働条件を改善して、従業員が快適な働き方ができる環境を作ることも重要です。職場環境や労働条件は、一定の水準を下回ると従業員の大きな不満や離職の原因になる「衛生要因」です。従業員エンゲージメントが低い、上がらないと感じる場合、職場環境や労働条件に問題がないかも見直してみましょう。
従業員エンゲージメントを高めた事例
ここでは、従業員エンゲージメントを高めた企業の事例を紹介します。紹介する事例はいずれも人事評価制度や労働条件に関する取り組みです。従業員エンゲージメントを考えるうえでは、ミッションやビジョン、信頼関係などの定性的な部分、そして、人事評価制度や労働条件などの定量的な部分、いずれも重要です。どちらかに偏らないように注意しましょう。
味の素株式会社
味の素株式会社では、タレントマネジメントの導入を中心とした従業員エンゲージメント向上のための施策を実践しました。背景には、企業の飛躍的な成長に向けて、世界規模での活動がより志向され始めたことがあります。そのため、適材適所の優秀な人材を特定、育成し、 必要なポジションに登用できる、マネジメント体制の強化が必要となったのです。
適材適所への配置を前提とした人材育成を実施することで、従業員の主体的な行動の増加や、健全な危機感の醸成が見られるようになり、従業員エンゲージメントが向上しました。
株式会社クラレ
化学製品メーカー、株式会社クラレでは、企業のグローバル化にともない、人材マネジメントの基盤整理を行い、事業拡大を目指しました。
その手段として、人事制度にグローバルグレードを導入。グローバル人材の育成やグローバル基準の人事制度への改革を進めました。その結果、事業目標をグローバル全体で達成しようという意識が現場に醸成されてきているという成果が出ています。
株式会社エー・ディー・ワークス
富裕層向け資産関連サービス事業を展開する、株式会社エー・ディー・ワークスでは、人材リテンションを高めるための施策として、競争力の高い報酬水準の設定や従業員への株式の付与などを導入し、人材マネジメントの強化を図りました。その結果、企業規模を3倍に拡大するほどの採用強化に並行して、社員のモチベーションやリテンション、企業への帰属感が上昇したという成果が出ています。
従業員エンゲージメントを高めて企業の業績向上につなげましょう!
従業員エンゲージメントとは、企業と従業員の相互理解や信頼関係をベースとした自発的な貢献意欲であり、企業と従業員を主従関係で捉えていた従来までのロイヤリティや愛社精神という概念に代わる考え方です。
従業員エンゲージメントを高めることで、従業員のモチベーションやパフォーマンスの向上、職場コミュニケーションの活性化、離職率の低下などさまざまなメリットがあります。従業員エンゲージメントを高めて企業の業績向上につなげましょう!







