レジリエンスとは?高める方法、折れない心の鍛え方を解説

更新:2025/09/13

作成:2023/05/26

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック

レジリエンスとは何か?ビジネスパーソンに欠かせない折れない心の鍛え方

レジリエンス(resilience)はもともと、弾力、弾性、回復力、立ち直る力、跳ね返す力などの意味を持つ英単語です。ビジネス領域では “しなやかな強さ”や“折れない心”などの意味合いで使われ、仕事におけるストレスや困難を受けとめ、跳ね返し、適応・回復していく力となります。

 

本記事では、レジリエンスの概要や基礎知識を確認。また、ヒューマンスキル研修を得意とする研修会社としての知見を踏まえて、レジリエンスの実践編として、ビジネスで求められるレジリエンスや、レジリエンスを高めるうえで知っておきたいこと、レジリエンスの高め方を解説します。

<目次>

レジリエンスとは?

まずは、レジリエンスという言葉の意味と、心理学的視点から見るレジリエンスとは何かを確認しましょう。

 

レジリエンスの意味

レジリエンス(resilience)という英単語は、

弾力、弾性、回復力、立ち直る力、跳ね返す力

などの意味を持つ言葉です。

 

心理学的視点から見るレジリエンス

ビジネス領域において、レジリエンスは、“しなやかな強さ”や“折れない心”といった意味で使われ、仕事におけるストレスや困難を受けとめ、跳ね返し、適応・回復していく力を指しています。

 

心理学者の小塩真司らの研究グループでは、レジリエンスを導く「精神的回復力」は、以下3つの個人内因子で構成されるとしています。

  • <精神的回復力を構成する3つの因子>
  • ① 新奇性追求:
  • レジリエンスに欠かせない要素で、新しいことに興味を持ち、常識・習慣にとらわれず前向きなチャレンジをする姿勢
  • ② 感情調整:
  • 自分の感情のなかで、喜怒哀楽の「怒」「哀」のようなマイナス感情をコントロールすること
  • ③ 肯定的な未来志向:
  • 前向きな未来を予想し、明確な目標・ビジョンを持ち、プランを描き、実践をすることで精神的に回復していくこと

 

ストレスとレジリエンス能力の関係は、“風”と“木”にたとえるとわかりやすいです。ストレスを「風」、ストレスを受ける人を「木」として考えてみます。

 

まず、木が地面にしっかりと根を張り、幹が太くなれば、多少の風が吹いてもびくともしなくなります。本章での「幹の太さ」は先天的な因子や経験値によるストレス耐性です。しかし、風が強くなって台風レベルの強い風になってくると、柔軟性のない硬い木は、一定まで耐えられても、いきなり“ポキッ”と折れてしまうこともあるでしょう。

 

一方で、木が“柔軟な柳の木”などであれば、強い風もしなやかに受け流しながら、折れることなく立ち続けることができます。

 

レジリエンスとよく似た概念であるストレス耐性は、字の通り、ストレスに対する耐性を示す言葉ですが、意外とあいまいな意味で使われています。

 

狭義でのストレス耐性、採用時に適性検査などでチェックするストレス耐性は、先天的なストレスに対する因子、一種のストレスへの鈍感性/敏感性などを示します。

 

狭義のストレス耐性は、いわば生来のキャパシティーと耐久性であり、先述の木でいう “幹の太さ”です。ストレス耐性は、仕事をするうえで大事ではありますが、上述のように“耐える力”であるため、耐性を上回るストレスがかかってしまった場合、折れてしまう可能性が高くなります。

 

対して、広義のストレス耐性は、先天的な因子、経験によって拡げられたキャパシティー、そしてレジリエンス能力などを含んだ「ストレスに対応する力」です。

 

先天的なストレス耐性は幼少期までに確立された性格特性であるのに対して、レジリエンスは後天的に高めたり鍛えられたりするスキルになります。

 

 

 

ビジネスで求められるレジリエンス

近年では、レジリエンスを高める重要性が増すようになりました。本章では、レジリエンスへの注目度が増す背景と、レジリエンスが生む効果を解説します。

 

レジリエンスがビジネスで重要視される背景

最近、レジリエンスへの注目度が高まる背景には、以下のような要因が考えられます。

 

◆目標達成に向けてハードルを越える力◆

仕事でもプライベートでも、さまざまな目標を達成しようと思ったとき、すべてが計画通りにすんなり進むことはあまりありません。大枠としては計画通りだとしても、実行する過程では細かな問題や課題が生じます。

 

また、ときには計画自体を作り変えないといけないような外部環境の変化や前提としていた条件の変化などもあるでしょう。

 

こうした目標達成に向かうプロセスで生じるハードルは精神的に大きなストレス要因です。目標達成に向かうには、生じたストレスをうまく受け流しながら、柔軟に計画や施策変更などをしてハードルを乗り越えていく必要があります。

 

特に、知識労働社会といわれるなかでは、個々人が計画立案を行ない、ハードルを乗り越えながら目標達成に向かっていく力が必要です。

 

◆社会や市場の急激な変化、予測不能な環境◆

VUCA時代と呼ばれる現代、たとえば、コロナショックやウクライナ侵攻、市場のグローバル化、DX化など、ビジネス環境の変化は今まで以上に急激かつ予測不能な状況となっています。

 

そもそも環境変化は人間に大きなストレスを生じさせるものです。変化が激しいなかでは、今まで以上に“ストレスに耐える”よりも“受け流すスキル(レジリエンス)”が大切になってきます。

 

◆IT発達による扱う情報量の増加、求められるスピードの向上◆

ITが発達するなかで、私たちが日々扱う情報量は急激に増加し、対応スピードも迅速化が求められるようになりました。また、同時に、上述したように、外部環境などの変化への対応もスピードが求められるようになっています。

 

多くの情報処理と意思決定をハイスピードで行なっていくことは、大きなストレス要因です。そのため、ストレスを受け流すレジリエンスの重要性が高まっています。

 

◆求められるサービス品質の上昇◆

最近では、商品・サービスへの感想が、SNSやレビューサイトに投稿・拡散されてしまう時代になりました。また、IT進化にともない、顧客は1対1の対応、カスタマイズされた対応などにも慣れています。

 

こうしたなかで高品質な商品・サービスを提供し続けるには、各メンバーのレジリエンス向上によって、精神面や集中力、パフォーマンスを上げることが大切です。

 

レジリエンス向上を通じて各メンバーのストレス状況が改善すると、イライラなどによる組織内の衝突も生じにくくなり、チームの仕事の質も高まりやすくなるでしょう。

 

◆メンタルヘルス対策◆

近年、生育環境と労働環境のギャップ、人手不足やビジネス環境の急激な変化への不安などもあり、職場で強い不安や悩み、ストレスを感じている人は増加傾向にあります。ストレスの蓄積はメンタルヘルスの発症にもつながります。

 

厚生労働省の調査によれば、令和3年11月1日から令和4年10月31日までの期間に、メンタルヘルスの不調により連続1か月以上休業した労働者、または退職した労働者がいた事業所の割合は13.1%となっており、メンタルヘルスの発症は身近なものになっていることが分かります。従業員の休業・退職は、企業の生産性を大きく下げる要因になります。

 

労働者のメンタルヘルス対策としても、レジリエンスを高めることが有効です。
*参考:厚生労働省 令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況

 

レジリエンスが生むリスク対応力と創造性

近年では、組織のリスクマネジメント(危機管理)や創造性の分野でも、レジリエンスの効果が注目されるようになりました。

 

従来型のリスクマネジメントは、事前の評価分析・予測によって特定された事象に対して、短期的な対処を目的に検討されるものでした。一方で、近年では、外部環境の変化が激しさを増し、不確実性が高まるなかで、ビジネスにおけるリスクを正確に予測することが、そもそも難しくなっています。

 

こうしたなかで注目されているのが、困難を柔軟に受け流したり、精神状態を回復したりする“レジリエンス”です。

 

リスク対応力とレジリエンスの関係は、身体の病気と基礎体力・免疫力などにたとえると、わかりやすいかも知れません。

 

たとえば、普段から健康管理を行ない、基礎体力や免疫力を高めておけば、風邪などをひいても“早く寝る”や“身体を温める”などの簡単な対処で、早期の症状緩和につながりやすくなります。また、基礎体力・免疫力を高めておけば、風邪以外の病気にかかりにくくなったり、病気にかかっても早く回復できたりする可能性も高まるでしょう。

 

今までのリスク管理が「感染予防」などだとすると、レジリエンスの強化は「基礎体力や免疫力の向上」にも近いアプローチです。ウイルスを完ぺきに遮断することは難しいなかで、症状を緩和する、早期に回復することが大切なわけです。

 

困難やストレス要因に対するレジリエンスを高めておくと、柔軟な視点で状況をとらえ、適切な方向性や解決法を見出す創造性も向上しやすくなるでしょう。

 

キャリア・レジリエンスとは?

レジリエンスという言葉が一般に浸透するなかで、キャリア・レジリエンスという言葉も登場しています。キャリア・レジリエンスとは、キャリア上の困難に直面したときに、困難を機会ととらえてキャリアの見直しや対処を行なう力です。

 

キャリア・レジリエンスはつまり、レジリエンスの考え方を、個人のキャリアに当てはめたものになります。

 

終身雇用と年功序列の崩壊にともなう転職の一般化や成果主義の導入、また、企業買収や事業譲渡などのM&Aの普及に加えて、近年ではジョブ型、働き方改革、リモートワーク、副業・複業など、雇用環境や働き方に大きな変化が生じています。
こうしたなかで、個人が望むキャリアを築くためには、キャリア・レジリエンスの向上が不可欠です。

 

東京大学の高橋美保教授らは、キャリア・レジリエンスに以下5つの構成要素があるとしています。

  1. 長期的展望
  2. 継続的対処
  3. 多面的生活
  4. 楽観的思考
  5. 現実受容

 

レジリエンスを構成する資質的要因と獲得的要因

レジリエンスを高めるために知っておきたいこと

 

レジリエンスを高めるための基礎知識として、レジリエンスを構成する2つの因子を確認しましょう。

 

資質的要因は、持って生まれた気質とされやすいものであり、一方で獲得的要因は、後天的に身に付けやすいものです。

 
レジリエンスを後天的に高めるためには、獲得的要因に目を向けていくことが大切です。

 

それぞれの要因は、以下の項目で構成されます。

 

  • 【資質的要因】
  • ・楽観性
  • ・統率力
  • ・社交性
  • ・行動力
  • 【獲得的要因】
  • ・問題解決志向
  • ・自己理解
  • ・他者心理の理解

 

参考:資質的・獲得的レジリエンス要因と傷つきへの対処―コーピングおよび求めるサポートの個人差の検討― 平野真理(東京大学大学院教育学研究科)
参考:レジリエンスの資質的・獲得的要因からみた小学 4 年生のレジリエンスの構造(都築 繁幸・山辺 由紀)

 

レジリエンスに寄与する6つのコンピテンシー

6つのコンピテンシーは、レジリエンス研究の第一人者、米国ペンシルバニア大学のカレン・ライビッチ博士が提唱したものです。別名「レジリエンス・コンピテンシー」とも呼ばれており、レジリエンスを発揮するうえで、密接に関わる要素になります。

 

獲得的要因と同じ考え方であり、6つのコンピテンシー、つまり行動特性を身に付けていく、習慣化することがレジリエンス強化につながります。

  • ① 自己認識:
  • ⇒ 自分の感情や考え方、価値観、長所・短所などを、客観的に認識する能力。メタ認知能力。
  • ② 自制心:
  • ⇒ セルフコントロール力。目的とする結果を出せるように、自分の感情や行動などを制御・変化させられる能力。
  • ③ 精神的柔軟性:
  • ⇒ 困難に陥ったときにも、焦ったり感情的になったりすることなく、物事を多面的にとらえながら本質を見極め、対処する能力。
  • ④ 現実的楽観性:
  • ⇒ 「自分は今から先の状況を改善できる、未来をよくできる」ととらえ、そのための行動を起こしていける能力。
  • ⑤ 自己効力感:
  • ⇒ 「自分ならできる」という自信。困難にひるまず行動をするうえでも、大切なもの。
  • ⑥ 人とのつながり:
  • ⇒ 他者との信頼関係を構築する能力。信頼関係があるからこそ、困難に直面したときにも、上司・メンバーへの協力を求められる。

レジリエンスが高い人の特徴

レジリエンスが高い人には、共通する特徴があります。先ほど紹介したコンピテンシーにも通じますが、こうした特徴、思考パターンやスキルを意識的に身に付けることでレジリエンスが鍛えられます。

 

思考の柔軟性

レジリエンスが高い人は、物事を一つの角度からだけでなく多面的に捉える能力、思考パターンを持っています。そして、「こうでなければならない」という固定観念にとらわれず、状況に応じて考え方を変えることができます。

 

たとえば、プロジェクトが予定通りに進まない場合でも、レジリエンスが高い人は「失敗した」と落ち込むのではなく、「別のアプローチを試すチャンスだ」と発想を転換できます。このように捉え方を柔軟に変えることで、困難な状況でもポジティブな側面や可能性を見出して、新たな解決策を見つけ出そうとします。

 

感情のマネジメント

強いストレスや困難に直面すれば、誰しも焦りや不安、ネガティブな感情が生まれるものです。しかし、レジリエンスの高い人はネガティブな感情に振り回されることなく、自分の感情を客観的に認識し、建設的な行動につなげることができます。メタ認知したうえでの主体性を発揮するのです。

 

感情のコントロールができることで、周囲に悪い影響を広げることもなく、チーム全体の安定性を保つ役割も果たします。感情のマネジメント能力はリーダーシップを発揮する上でも欠かせない要素といえるでしょう。

 

 

 

自己肯定感が高い

レジリエンスが高い人は、自己肯定感が養われていることも特徴です。自己肯定感はセルフ・エスティームとも言い、「自分のありのままの姿を認め、自分には価値がある」と肯定する感覚のことです。

 

自分の価値を認めているため、失敗や批判を受けても「自分はダメな人間だ」と自己否定することなく、客観的に受け止め、建設的な行動を取ることができます。

 

自己肯定感の土台の上に、「自分はできる」という自己効力感(エフィカシー)を積み上げることで、非常に強いレジリエンスとなります。

 

 

楽観的である

楽観的であることも、レジリエンスが高い人の特徴です。ここでいう楽観的とは、「何とかなるだろう」と安易に考えて、課題や問題を放置する楽観主義とは異なります。現状の課題や問題を把握し、コントロールできる部分、できない部分を冷静に区別した上で、意識的に問題や課題を「きっと乗り越えられる」と捉えることが「楽観的」です。これは「現実的楽観性」と言われます。

 

レジリエンスが高い人は、過去の成功体験を活かし、「今度もきっとうまくいく」という信念を持っています。そのため、ネガティブな出来事も一時的なものと捉え、長期的な視点で物事を見ることができるため、一時的な困難に動揺することが少ないといえます。

 

失敗しても諦めない

ビジネスは課題や困難の連続です。レジリエンスが高い人は、困難に直面したり、失敗を繰り返しても目標を諦めることなく、継続的に挑戦する粘り強さを持っています。

 

「一歩一歩、成長している」「今回は失敗したが、違う方法なら成功できるはず」と考え、失敗を挫折と捉えず、学習の機会やプロセスの一部であるとする価値観を持ちます。そのため、失敗しても諦めることなく、目標に向かい続けることができます。

 

従業員のレジリエンス強化に取り組むメリット

従業員それぞれのレジリエンスが高まることは、パフォーマンス向上やメンタルを守ることにつながります。つまり、企業としても従業員のレジリエンス強化を支援する取り組みが価値やメリットがあることです。組織が従業員のレジリエンス強化を支援するメリットを紹介します。

 

環境変化に対応できる組織になる

従業員のレジリエンスを高めることは、変化対応力の向上につながります。

 

現在は、VUCAの時代ともいわれる通り、未来が予測できず、またインターネットやAIの発達によって変化がビジネス環境の与える影響が大きく、また早くなっています。組織にはそれだけ柔軟な変化対応が求められます。

 

ただ、変化というのは人間にとってストレスがかかるものです。とくに日本人は保守的であり、変化に対して感じるストレスも大きいと言われています。

 

しかし、従業員のレジリエンスが高ければ、変化対応のストレスを乗り越えることができます。また、従業員のレジリエンスが高まれば、組織としてのレジリエンスも高い状況となります。組織レジリエンスが高ければ課題に対しても前向きに挑戦していけますし、イノベーションも生まれやすくなるでしょう。

 

従業員のメンタルヘルス不調を予防できる

上述した通り、この数十年でメンタルヘルス問題は深刻化しています。レジリエンスを高めることで、従業員のメンタルヘルス不調を予防することができます。

 

従業員がメンタルヘルス不調に陥った場合、企業の対応工数は非常に大きくなります。休職等になれば、担当していた業務を代替する工数が必要となりますし、本人のケア、また、復帰後の業務アテンドなどにも工数や費用が生じます。

 

働いている従業員が心身ともに健康を維持して働き続けてくれることは、少子化が進んで採用の難易度が上昇していく中で、さらに重要性を増すでしょう。そのためにも従業員のレジリエンスを高めることでメンタルヘルス不調を予防することが有効です。

 

組織の生産性が向上する

個々のレジリエンスが高まれば、環境変化に対応し、また、目標達成に向けて柔軟に計画を変更してハードルを乗り越えていくなど、持っている能力をしっかりと発揮することができます。

 

従業員のレジリエンスが高い組織は、難易度の高いコミュニケーションも臆せずに取り組み、課題解決にもチームで取り組みます。その結果、前向きに課題を乗り越えていく組織となっていくでしょう。

 

目標達成力が高まる

高いレジリエンスを身に付けると、目標を追う過程で困難な状況が発生しても、負けずに立ち向かうことが出来ます。

 

仕事は問題解決の連続です。仕事が計画通りに進まなかったり、問題が生じたり、成果が上がらなかったりすることはいくらでも生じます。また、顧客に対峙する販売や営業、接客などであれば、クレームやトラブルといった問題も生じるでしょう。

 

これらの問題が生じたときに、人はストレスを感じます。ストレスを感じること自体は当たり前の生理反応です。そこで、「ストレスを上手く受け止めて早く切り替える力」がレジリエンスです。

 

レジリエンスを高めることで、自分が持っている力を目標達成に向けてコンスタントに発揮することが出来ます。

 

レジリエンスを鍛える方法

レジリエンスの高さを左右するのは先天的な因子もありますが、トレーニングによって誰もが高めることができます。レジリエンスを鍛える主な方法を紹介します。

 

ABC理論の考え方を身に付ける

レジリエンスを高めるうえで、土台となるスキルの一つが「ABC理論」です。ABC理論はアルバート・エリスが提唱した心理療法で、「ABCDE理論」とも呼ばれます。

 

<ABC理論>

ABC理論

 

・A(Activating Event) =出来事、事実

・B(Belief) =信念(考え方、価値観、思い込み、クセ…)

・C(Consequence) =結果(捉え方によって生じる感情や行動、身体反応)

 

人は、出来事や事実をそのまま捉えているわけではなく、自らが持っている信念(考え方、価値観、思い込み、クセ……)で出来後や事実を解釈します。そして「どう解釈したか?」に応じて、感情や行動・身体反応が引き起こされます。

 

少し極端な例を出すと、「外出した直後に雨が降ってきた」という出来事に対して、「濡れてしまった!何で雨が降ってくるんだ!」と怒りの感情を持つ人がいれば、「外出する前は天気予報を見よう」と考える人、「やっぱり自分は運が悪い」と捉えて落ち込む人もいるわけです。

 

私たちが、身の回りに起こる出来事や事実(A)をコントロールすることは困難です。しかし、自分の考え方や価値観、思い込み、思考のクセ(B)に気づき修正することは可能です。

 

つまり、ストレスの要因となる出来事や事実を変えることは困難ですが、出来事や事実からストレスを受けるかを選択することはできます。そして、ネガティブな感情に振り回されることなく、適切な行動を取ることもできます。

 

自分の考え方や価値観、思い込み、思考のクセに気づき、修正するプロセスがDとEです。

 

<ABCDE理論>

ABCDE理論

 

・D(Dispute) =反論(自分の捉え方への気づきと疑問・反論)

・E(Effect) =効果(修正した捉え方によって得られる新たな結論と影響)

 

捉え方によって生じる感情や行動、身体反応(C)が好ましいものではなかった場合、自分の捉え方(B)に戻って、「この捉え方は正しいのか?」「それ以外の捉え方はないのか?」と自分に問いかけます。

 

自分自身の捉え方に対する反論は「学習者の問い」と呼ばれ、自分の捉え方を自覚し、違う捉え方を生み出します。結果として捉え方が変化して、より好ましい捉え方をすることができます。

 

事例でいうと、雨が降ってきたことに対する「やっぱり自分は運が悪い」という考え(C)に対して、「ちょっと待って!本当にそうなの?」と自分に問いかけることが学習者の問い(D)です。学習者の問いにより、「冷静に考えると、雨が降ることは単なる偶然だよな。そもそも自分は“運が悪い”が思い込んでいるのか……」という気づき(E)を得られます。

 

ABCDE理論の考え方を身に付けることは、レジリエンスを鍛えるうえで非常に有効ですので、ぜひ日常生活のなかでトレーニングしてください。

 

なお、ABCDE理論は、7つの習慣®の「パラダイム」や「See-Do-Getサイクル」といった考え方とも非常によく似ています。下記の資料も参考にしていただくと、理解がより深まるでしょう。

 

 

 

成功体験を積み自己効力感を高める

自己効力感とは、課題や困難に対して「自分ならできる」という自信の高さを示します。

 

自己効力感を高めれば、困難な目標や仕事に対して、萎縮することなくチャレンジが可能です。壁にぶつかったときにも「自分ならきっと壁を乗り越えられる」と考えて、方法を探す思考へとすぐに切り替えることができます。

 

自己効力感を高める方法として効果的なのが「成功体験を積む」ことです。成功体験を積むというと、何か逆境を乗り越えたり、大きな成果を生み出したりする必要があると捉えられがちです。

 

しかし、実は「振り返り方」を工夫することでも、成功体験を積んで自己肯定感を高めることができます。例えば、日々のなかで「今日できたこと」を振り返ってみましょう。

 

  • 些細なことでも良いので、数値を動かしたり、成果を出したりすることができたことは?
  • 自分の感情が上がって嬉しくなったり、達成感を得たりしたことは?
  • 誰かに喜んでもらえたり、感謝されたり、笑顔をもらったことは?

 

上記3つの視点で振り返ると、必ず「今日できたこと」があるはずです。ぜひ日記などに書き出してみましょう。繰り返すことで成功体験が積み重なり、自分に対して自信を持てるようになります。

 

また、「自分との約束を守る」ことも自己効力感の向上に有効ですので、毎日やる習慣を決めましょう。続けることで、自己効力感が高まっていきます。

 

ポイントは「毎日実行できるものにする」「ハードルを下げる」ことです。例えば、「1日30分本を読む」という目標を継続することは困難です。「ビジネス書を毎日1回は開く」といったハードルの低い目標にすることが習慣化を成功させるコツです。

 

 

自分の強みを活かす

自分の「強み」を理解することも、自己効力感やストレスに対する緩衝力を高めて、レジリエンスが鍛えることにつながります。自分の強みを活かすと幸福度が高まり、自己肯定感の向上も期待できます。

 

自分の強みを理解するには、アメリカのコンサルティング企業であるGallup社が提供している「クリフトンストレングス34」がおすすめです。クリフトンストレングス34は、強みの心理学の父として知られるドン・クリフトンが開発した“クリフトンストレングス”をもとにした才能テストです。

 

177問の質問に答えることで、34種類のクリフトンストレングスの資質から自身の才能を明確にし、自分の強みとなりうる資質と活用方法を知ることができます。

 

クリフトンストレングス34

 

 

従業員のレジリエンスを高める

レジリエンスの高め方

従業員のレジリエンスを高めるには、企業側でも以下のような取り組みを通じて、環境整備をすることが有効です。

 

心理的安全性の高い組織をつくる

心理的安全性とは、上司やメンバーから無知・無能などと思われることを恐れず、自然体の自分で率直な意見をいったり、仕事ができたりする状態です。心理的安全性が高いと、メンバーは逆境などが生じたときに「自分は大丈夫、みんなが応援してくれている」「相談してみよう」という想いが生まれやすくなります。

 

 

ミッションやビジョンを浸透させる

自社のミッション(何のために存在するか?)やビジョン(ミッションの実現でどのような世界を作り出したいか?)は、企業における中長期的の目的や目標です。短期目標ではなく、中長期目標やそもそもの目的を強く認識していると、短期的な失敗やハードルが相対的に小さなものとなり、前に進む力となります。

 

たとえば、「いまの地域の野菜をブランド化して、農家さんを元気にしたい」などのミッション・ビジョンを共有し、各メンバーの仕事と紐づけられると、ブランド化までの過程で困難が生じても、遠くのゴールや夢に向かう行動が選択できるようになるでしょう。具体的な浸透方法は、以下の記事を参考にしてください。

 

 

レジリエンスを高める教育を実施する

メンバーのメタ認知能力や、ストレス・感情コントロール方法などを高めるには、まず、教育を通じて基本的なやり方を教えることが有効です。

 

教育のポイントは、一度教えて終わりではなく、1on1ミーティングやフォローアップ研修などを通じて、学習定着率を高める仕組みをつくることになります。

 

 

 

内省ができる仕組みをつくる

メタ認知能力や感情コントロール力の向上には、自分の気持ちや行動を内省(振り返り)する習慣が有効です。

 

ただ、メンバーが日々の仕事に忙殺されていると、先述の教育で教えたやり方は、実践されないこともあるでしょう。日誌・日報などを通じて、毎日の振り返りができる仕組みをつくってあげることが効果的です。

 

忙しいチームでシンプルな日報・日誌を導入する場合、3要素でシンプルかつポジティブな振り返りのできるKPT法などのフレームワークを活用してもよいでしょう。

 

 

 

レジリエンスは、企業の成長に必要不可欠

従業員のレジリエンス強化を通じて企業が得られるメリットを紹介した通り、いまのビジネス・経済環境のなかで、企業が継続的に成長していくためには、組織が持つレジリエンスを強化する必要があります。AIの発達や少子化の加速により、企業を取り巻く変化のスピードは今後もますます加速するでしょう。

 

こうした環境の変化、逆境や困難な状況を乗り越え、企業は成長をしていくことが求められます。そのためには組織のレジリエンスを高めることが必要不可欠です。

 

本記事を参考に、レジリエンスの高い組織づくりにぜひ取り組んでください。また組織レジリエンスでも解説していますので、参考になれば幸いです。

 

 

まとめ

ビジネス領域でよく使われるようになったレジリエンスという言葉は、“しなやかな強さ”や“折れない心”などの意味があります。近年では、以下のような時代背景やストレス要因から、レジリエンスへの注目度が高まるようになりました。

  • 知識労働社会における「目標達成に向けてハードルを越える力」の必要性
  • 社会や市場の急激な変化、予測不能な環境
  • ITの進化による扱う情報量の増加、求められるスピードの向上
  • 求められるサービス品質の上昇

レジリエンスを高めるうえでは、「資質的要因と獲得的要因」、「6つのコンピテンシー」などの理論を知っておくことも有効になります。また、企業側では、各メンバーがレジリエンス向上しやすい環境整備をすることも大切になるでしょう。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、レジリエンス強化に役立つ以下の研修を提供しています。ご興味あれば、ぜひ詳細資料をダウンロードしてご覧ください。

 

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、執行役員・取締役等を歴任後、現在に至る。

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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