“ストレス社会”ともいわれる現代、ストレスを一切受けずに生きていくことは困難です。「適度なストレスはパフォーマンスを高める」とも言いますが、過大なストレスを感じると、パフォーマンスの低下はもちろん、仕事や人間関係の悪化、精神状態への問題が生じかねません。
従って、ビジネスの世界で仕事するうえで、ストレスとうまく付き合うスキルを身に付けることは、ビジネスパーソンにとって不可欠です。
また、人材の採用やマネジメントをするうえでは、一人ひとりのストレス耐性について知っておくことが望ましいでしょう。応募者やメンバーのストレス耐性レベルを把握することで、適切な採用やマネジメントをすることが出来ます。
記事では、「ストレス耐性」の見極め方と鍛え方を解説します。ストレス耐性のレベルを診断できる適性検査も紹介しますので、採用活動でもお役立てください。
<目次>
ストレス耐性とは?
「ストレス耐性」とは、生じるストレスに対して、抵抗する能力や適応するスキルを測る指標です。
ストレス耐性が高い人ほど、大きなストレスを受けても乗り切ることができます。逆にストレス耐性が低い場合は、ストレスによるパフォーマンス低下や気分の落ち込みが生じやすいといえます。
なお、ビジネスのなかでストレス耐性という単語は、2つの意味合いが混在して使われています。
ストレスに対する跳ね返したり受け流したりする「レジリエンス」のスキルと対比したり、「適性検査」で計測したりする場合、ストレス耐性は「性格特性」に限定して「ストレスへの感受性や耐久性」という意味合いで使われます。
この場合の「ストレス耐性」は人生の前半で確立された性格特性であり、一般的に「鍛える」ことや「高める」ことはできません。採用時に注目すべきストレス耐性は、性格特性的なストレス耐性です。
一方で、マネジメントなどのなかで使う場合には、ある意味でレジリエンスの要素まで含んでストレス耐性と表現する場合もあります。この場合は、「性格特性」と「ストレスを跳ね返したり受け流したりするスキル」までを含んでおり、後者のスキルは「鍛える」やこと「高める」ことが可能です。
本記事でも、「ストレス耐性を見極める」という章では「性格特性(狭義のストレス耐性)」について、「ストレス耐性を鍛える」という章では「ストレスを跳ね返したり受け流したりするスキル(レジリエンスまで含んだ広義のストレス耐性)」を記載していますので、あらかじめご了承ください。
ストレス耐性が注目される理由
ストレス耐性は昔からある概念ですが、この10年ほど、あらためて注目されている背景には、メンタルヘルス疾患の増加があります。
メンタルヘルス疾患が増加している理由は、IT化や自動化による感情労働や創造的な仕事の増加、求められるスピードの上昇、また世代間ギャップや生まれ育つ環境の変化など、さまざまな要因が考えられます。
ただし、事実として、うつ病などの精神疾患で医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しており、2000年前後から仕事に由来する労災の請求件数や認定件数も増えています。また、厚生労働省が発表している「過労死等の労災補償状況」を見ると、請求件数・決定件数・支給決定件数ともに、年々増加傾向にあることがわかります。
メンタルヘルスの発症事例が明らかに増えるなかで、組織構成メンバーの「心の健康」を守ることは、企業にとって重要なテーマとなりつつあります。その一環として、採用時の「ストレス耐性の見極め」、また、既存社員の「ストレス耐性(レジリエンス)の向上」を重視する企業が増加しつつあります。
ストレス耐性を測る6つの要素
ストレス耐性は、さまざまな定義がありますが、一つの考え方として、ストレス耐性は、「感知能力」、「処理能力」、「転換能力」、「回避能力」、「経験値」、「耐久容量」という6つの要素で構成されるという考え方があります。
6つの要素のうち、「感知能力」「耐久容量」は性格特性からくる要素であり、「処理能力」「転換能力」「回避能力」がレジリエンスにつながる“鍛えることができる要素”だといえるでしょう。
なお、一般的に「ストレス耐性は高いほうが望ましい」と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。たしかに、処理能力や転換能力など、レジリエンスにもつながる能力は高いことが望ましいですが、すべての要素が高ければ高いほど良いというわけでもありません。
例えば、「ストレス耐性が高くなる」要因の一つに「感知能力が低い」という要素があります。ストレスに対する感知能力の低さは、裏返すと「鈍感さ」でもあります。例えば、ホスピタリティが求められたり、感情労働の要素があったりする仕事において、「鈍感すぎる」人は高いパフォーマンスをすることが難しいでケースもあるでしょう。
したがって、性格特性、特に「感知能力」の要素は、高ければいい(低ければいい)というものではなく、それぞれの仕事に応じた適正なストレス耐性レベルが求められます。採用活動においても、「ストレス耐性は高いほど良い」という考え方をすることは避けたほうがいいでしょう。
ただし、繰り返しになりますが、処理能力や転換能力などの要素は、いわば「レジリエンス」につながるスキルであり、後天的に鍛えることができるものです。それぞれの能力の鍛え方は後ほど詳しく説明します。
ストレス耐性の高い/低いの見極め方
ストレス耐性が高い人もいれば、低い人もいます。採用活動においては、自社業務で求められるレベルのストレス耐性をもともと持っている人材を採用できると理想的です。個々人のストレス耐性レベルを見極めるためのヒントをお伝えします。
ストレス耐性の高い人の特徴
ストレス耐性が高い人は、多くの場合、下記のような特徴を持っています。あくまでも傾向ですので、下記に当てはまれば必ずストレス耐性が高いとは限りませんが、個々人のストレス耐性を予想する手がかりとして知っておくとよいでしょう。
- マイペース
- 周囲からの評価に左右されない
- ポジティブで楽観的
ストレス耐性の低い人の特徴
一方でストレス耐性の低い人には、多くの場合、下記のような特徴が見られます。こちらもあくまで傾向です。下記の特徴があるからといって即座にストレス耐性が低いと決めつけることはおすすめしません。
- 周囲との協調性が高い
- おとなしい
- 真面目
ストレス耐性の高い/低いを見極める方法
採用時にストレス耐性を見極める方法として、まず適性検査が挙げられます。面接での受け答えや印象には、経験値やコミュニケーション力の要素も入ってくるため、面接だけでストレス耐性を見極めるのは困難です。
ストレス耐性のうち、性格特性の部分を見極めるうえでは、適性検査を使うことがおすすめです。
面接では、ストレスを感じたときの対処法や大きな課題や挫折経験をどのように乗り越えてきたかを尋ねることで対処能力を見ることがおすすめです。
ストレス耐性の鍛え方・高め方
次に、ストレス耐性を向上させる方法をお伝えします。ストレス耐性を構成する要素のうち、感知能力や耐久容量は先天的な気質によるところが大きくなります。したがって、ストレス耐性を上げるために着目したいのは、後天的に鍛えられる処理能力、転換能力、回避能力の3つです。
処理能力
処理能力はその言葉どおり、ストレスを処理する能力のことです。ストレスの原因となるもの(ストレッサー)をなくしたり、弱めたりする能力です。
ストレスは基本的に外部からの刺激によって生じるものです。ビジネスにおけるストレス要因は、人間関係、仕事の負荷、仕事の見通しや成果、周囲からの評価などがあるでしょう。
処理能力は仕事への姿勢や考え方、また実務的な対応力によって、改善することができます。例えば、「仕事が終わらない」というストレスを感じている場合、
- 自分が何にストレスを感じているかの把握
- 上司や周囲への報連相による業務量の調整
- 業務フローの見直しや自動化による仕事量の削減
- 業務処理スピードの向上
- 仕事の重要度や緊急度に応じた優先順位付け
- やらなくても良い仕事の見極め
- 仕事とプライベートの切り分け、気分転換の習慣作り
などで改善できる可能性があります。上記は実務的な改善方法を多く挙げましたが、実務的な対応力に加えて、仕事への姿勢や考え方、ストレス対応の方法論を身に付けることなども、ストレッサーを小さくして、処理能力を高めます。
転換能力
転換能力は、物事のとらえ方、意味付けのスキルです。同じ出来事に対して、大きなストレスを感じる人と、さほどストレスを感じない人がいます。違いは「ストレスへの感度」である感知能力に加えて、出来事のとらえ方が人によって異なるからです。
出来事のとらえ方は、人の価値観や常識・経験値に影響されます。同時に、理性によっても物事のとらえ方、解釈の仕方は変えることができます。
例えば、困難な仕事を前にしたとき、「難しそうだ……」「自分にはできないかも知れない……」ととらえるのか、「成長できる機会」「将来のキャリアにプラスになる」と解釈するのかで感じるストレスは変わってくるでしょう。
転換能力を鍛えるということは、都合の悪いことや厳しい側面から目を背けることではありません。複数の異なる視点で物事を捉えられるようになり、大変さやリスクなども把握したうえで、「現実的な楽観主義者になる」ということです。
日頃から「自分はどのような視点でこの出来事を見ているか?」「この出来事の物事の良い側面はどこか?」「潜んでいるリスクは何か?」「やり遂げたら何が得られるか?」「○○の視点で見たらどう見えるか?」といった複数の視点で物事をとらえる習慣を身に付けるとよいでしょう。
回避能力
ストレスを回避する能力は、もちろん個々人の気質による部分もあるのですが、後天的に高めることもできる能力です。回避能力の高さは、自律神経系の状態によっても変わってきます。
当たり前の話かもしれませんが、「精神的な健全な状態であれば、多少のストレスを受け止めたり、ポジティブにとらえたりすることもできるが、肉体的・精神的に弱っていると、ストレスを強く感じたり、ネガティブに考えてしまう」ということです。
従って、自律神経系を安定させて精神を良い状態に保つことが、ストレス耐性の向上につながります。基本的なことですが、定期的な運動、バランスの取れた食事、日光を十分に浴びること、十分な睡眠(6~7時間)などの健全な生活習慣がストレス耐性の向上に役立ちます。
なお、ここまで紹介したストレス耐性の高め方に興味がある方は、レジリエンスの記事もぜひ併せてご覧ください。
経験値
「過去にどのようなストレスを乗り越えてきたか?」という経験値も、ストレス耐性に関わる要素です。
経験値はいうなれば自己効力感のようなもので、「前にこれぐらいの(ストレスを感じる)場面を無事乗り切ったのだから、今回も何とかなるだろう」という感覚です。成功体験による慣れ、自信を身に付けることで、ストレス耐性が高まっていきます。
ただし、経験値は“鍛えようと思って鍛える”のはリスキーです。ストレスの回避能力や耐久容量は人によって違いますので、「とにかくストレスに慣れさせれば良い」という単純な発想は危険です。安易な考えでストレスをかけると、場合によっては回避能力を弱めてしまったり、自分を追い込んでしまったりする可能性もあります。
ただし、ストレス耐性に限らず、リーダーやマネジメント、新しい仕事の機会に積極的に取り組むことで、結果的に多くの経験を積むことができず、ストレス耐性も高まることは事実です。
ストレス耐性のチェックツール(適性検査)5選
前述した通り、ストレス耐性の性格特性的な側面を把握するためには適性検査がおすすめです。以下にストレス耐性を測ることができる適性検査を5つ紹介します。採用やマネジメントに適性検査を導入していないようであれば、ぜひお試しください。
株式会社ヒューマネージ「コーピング適性検査 G9」
コーピング適性検査 G9は、「コーピング理論」に基づくストレス耐性を測る検査で、株式会社ヒューマネージによって提供されています。
コーピングとは、ストレスに対処する行動特性のことで、個人ごとに習慣化されています。コーピング適性検査G9では、一人ひとりのコーピングのあり方を測定することで、将来的なストレス耐性を予測できます。
https://www.humanage.co.jp/service/assessment/service/g9.html
ダイヤモンド社「ストレス耐性テスト(DIST)」
DISTは、ダイヤモンド社が提供している適性検査です。ストレスを解決する資質があるかどうかに加えて、どのようなストレスに強いかをテストすることも可能です。
自社で実施から診断までを行なう自社採点方式、大量受験者をスピーディーに一括処理できるコンピュータ診断方式、インターネットで受験できるWeb-DISTなどさまざまな形式が用意されており、ニーズに合わせて選べます。
https://jinzai.diamond.ne.jp/test/dist/
雇用問題研究会「OSI 職業ストレス検査」
OSIは、アメリカの心理学者によって開発されたチェックツールです。雇用問題研究会で提供されている日本版は、単なる翻訳ではなく、日本の心理学者がアメリカのOSIに日本の職場環境などを加味して新たに開発したものです。
OSIでは、ストレスの原因、ストレスへの対処、ストレス反応という一連のストレス連鎖を包括的にチェックできます。
http://www.koyoerc.or.jp/company/assessment_tool/236.html
株式会社ヒューマンキャピタル研究所「HCi-AS」
株式会社ヒューマンキャピタル研究所が提供しているHCi-ASは、採用に特化したストレス耐性チェックツールです。検査時間10分、報告書の返却まで最短15分と、スピーディーに検査が完了するため、面接前の補足資料として多くの企業で使われています。
英語・タイ語・インドネシア語・中国語(簡体字)・ベトナム語・台湾語・ミャンマー語と、外国語での受験に対応しており、インターネットで受験・管理できるシステムも用意されています。
https://hci-inc.co.jp/product_as/
株式会社レイル「MARCO POLO」
株式会社レイルのMARCO POLOは、個々人のストレス耐性を測定できるだけでなく、自社の業務に最適なストレス耐性レベル・性格特性の分析を行なって、業務に最適なストレス耐性・性格特性と個々人の検査結果をマッチングできる検査です。
測定結果を踏まえて次の「打ち手」を検討するための分析&アドバイザリサービスが用意されていることも、MARCO POLOの魅力です。
まとめ
現代社会では、グローバル化やIT化により、ビジネスパーソンには感情労働や創造的な仕事が求められ、求められる対応スピードも上がっています。そのなかでメンタルヘルス疾患の発症率も上昇しており、ストレスと向き合うスキルはビジネスパーソンにとって必須ですし、組織にとっても構成メンバーの「心の健康」に向き合うことが重視されています。
広い意味での「ストレス耐性」は、性格特性から来る変えにくい部分(狭義のストレス耐性)と、後天的に鍛えることができるストレス対応スキル(レジリエンス)から成ります。後者のストレス対応スキルを高めることで、ストレス耐性は高めることができます。
組織をマネジメントされる方は、自らのストレス耐性を高めること、また、メンバーのストレス耐性を把握してストレス状態をマネジメントしたりストレス耐性を高めたりして「心の健康」を保っていくこと、双方が必要な時代です。