メタ認知能力は、日々のトレーニングで高められるスキルです。本章では、すぐに実践できる5つのトレーニングや考え方を紹介します。
セルフモニタリング
まず、鍛える必要があるのは、メタ認知的技能の一つである「セルフモニタリング」です。セルフモニタリングは、普段の自分が無意識にやっている思考・行動への気付きを、自分自身がえるトレーニングになります。
最初のうちは、「今の状況」「思考」「気分」「行動」「身体の反応」の5観点を紙などに書き出すのがおすすめです。たとえば、「メンバーに怒ってしまう自分」をセルフモニタリングすると、以下のようになります。
- 今の状況:報連相ができなかったメンバーAとBに対して、今日も大声で怒ってしまった。
- 思考:彼らの報連相が遅いと、自分が上司のC部長から怒られてしまう。なぜ彼らは、報連相をちゃんとしないのか。自分の指導方法が悪いのか。
- 気分:怒りと不安と自己嫌悪。
- 行動:クールダウンするために、好きな喫茶店で昼食をとることにした。
- 身体の反応:体温や血圧が上がってそう、表情もこわばっている。
1~5のセルフモニタリングをすると、メンバーを怒る背景に以下のような感情や思考があることが見えてきます。
- 不安:自分も部長Cから怒られるのではないか?
- 自己嫌悪:自分の指導方法が悪いのか?
セルフモニタリングを行なうと、喫茶店に行くなどの「クールダウンの方法を知っている自分」にも気付けるでしょう。セルフモニタリングを通じた解決法の気付きは、類似の問題が起きたときに自分をコントロールするメタ認知的知識として活用できます。
ライティングセラピー
ライティングセラピーとは、自分の不安・悩みなどのネガティブな感情や考えなどを、紙に書き出して(writing)可視化する方法です。
先述のセルフモニタリングとライティングセラピーの違いは、ライティングセラピーが「頭に浮かんだことを、自由に10分~20分ぐらい書き出し続けるところ」です。
たとえば、先述の「メンバーに怒ってしまう自分」の例でいえば、ライティングセラピーによって以下のような新しい気付きがえられることもあります。
- 最近、C部長から怒られることが増えた(だから部長を恐れている)
- 一方で自分は、メンバーAとBばかりに怒っている
- なぜ彼らばかりに怒ってしまうのか?(強く怒っても反論しないメンバーから)
- C部長に怒られたストレスもあるし、疲れもかなり溜まっている(だからイライラしている) など
ライティングセラピーは、感情や思考を紙に書き出すことで、精神が安定化する効果もあります。
瞑想
瞑想は、マインドフルネス(自分自身に意識を集中させ、いまの気持ちや身体状況をありのままに受け入れること)のトレーニングとしても注目されている技法です。Googleなどでも導入されていることは有名で、近年では、瞑想の効果・メリットに注目する経営者やビジネスマンも増えています。
瞑想には、以下のようにさまざまなやり方があります。
なかでも実践しやすいのは、Googleの社員研修プログラムSIYでも実践されている歩行瞑想法です。歩行瞑想法に慣れてくると、最寄り駅まで歩く途中や、お昼休みにお弁当を買いに行く途中などにも瞑想ができるようになります。
歩行瞑想法などの詳しいやり方は、以下の記事をチェックしましょう。
認知療法
トレーニングをはじめても、最初のうちは、自分の思考の癖や習慣などをなかなか客観視できないこともあります。客観視できないときには、第三者からのいわゆるコーチングを受ける方法(認知療法)もおすすめです。
第三者に観察してもらい、気付くきかっけをもらうことで、モニタリングがどういうものかの理解もしやすくなります。
なお、認知療法には、専門的な知識と技術が必要です。
そのため、メタ認知向上に向けたコーチングは、プロにお願いしたほうがよいでしょう。
パラダイムという概念の理解
スティーブン・R・コヴィー氏の著書『7つの習慣®』では、私たちの態度や行動は、私たち自身の“パラダイム”から生じているとしています。また、『7つの習慣®』では、“パラダイム”のことを、以下のように解説しています。
誰しも、自分は物事をあるがままに、客観的に見ていると思いがちである。だが実際はそうではない。私たちは、世界をあるがままに見ているのではなく、私たちのあるがままの世界を見ているのであり、自分自身が条件づけされた世界を見ているのである。
(スティーブン・R・コヴィー著「完訳 7つの習慣® 人格主義の回復」 より引用)
わかりやすくいえば、私たちは、物事を“客観的(メタ認知的に)に見ている”のではなく、それぞれが“自分の見方・とらえ方” をしている(主観的に見ている)ということです。
それぞれの主観的な、自分なりの見方・とらえ方が「パラダイム」と呼ばれるものです。
たとえば、ある上司に「報連相ができないメンバーAに厳しく怒ってしまう」という問題があるとします。報連相において、メンバーAと上司には、以下のように大きく異なるパラダイム(見えている世界)がある可能性もあるでしょう。
- 上司:報連相は迅速に行なうべき、自分は報連相のやり方をしっかり教えたはずだ
- メンバーA:報連相の何が重要かわからない、上司も忙しそうだから後日にしよう
上司が、自分のパラダイムを理解し、また、メンバーAのパラダイムを想像すると、報連相を迅速に行なわない本質的な理由が見えてくるかもしれません。
- 報連相の重要性がわからない ⇒ 怒る前に、報連相の意味や重要性を先に伝える
- 上司も忙しそうだと感じている ⇒ 声をかけやすい雰囲気、信頼関係の構築に力を入れる
また、自分のパラダイムを考える、相手のパラダイムを想像するなどには、理性を使うことで、感情が落ち着いてくるという効果もあります。