キャリアオーナーシップ推進に感じていた課題
東宮御社は「働きがい」の醸成に関する取り組みの中心に、キャリアオーナーシップを据えています。なぜ、キャリアオーナーシップを重視しているのでしょうか。
蒲原私が着任した当時、すでに価値観の多様化や若手社員の離職率の上昇、社員のエンゲージメントなど、今後対応すべき課題がいくつもある状態でした。
思えば、これまでは「従来の会社と社員の関係は、会社が社員に対して、目指すべき人材像と道筋(キャリアパス)を提示し、一律に定義した上で、会社の期待に応える社員を高く報いる」といった考えが当たり前だったように思います。
しかしこれから先は「多様な価値観を持つ社員が、主体的に「キャリア」をデザインし、その実現に向けて成長するのを会社が支援する関係(会社と社員がイコールの関係)」のようなイメージを作っていくことが大事ではないかと考えていました。
これはまさに「働きがい」の領域であり、キャリアオーナーシップの概念とも近しいものだと思います。

蒲原こうした私自身の課題意識と、すでにMKIキャリアフォーラムなどを通してキャリアオーナーシップを啓蒙していた状況を合わせ、キャリアオーナーシップを軸に「働きがい」を形作っていこう、という方向性になりました。
よって、2022年度からキャリアオーナーシップを前面に押し出し始め、2023年度には当社としてもキャリアオーナーシップ宣言を出し、現在もさまざまな取り組みを実施しています。
キャリアオーナーシップを推進するための施策
東宮キャリアオーナーシップを推進するため、どのような施策を実施しているのでしょうか。
蒲原本格的な取り組みを始めた2023年度は、まず「キャリアって何だっけ?」と、キャリアや仕事について考える、内省する機会を多く設けました。
社員にいきなり「ここから先は、自分でキャリアについて考えましょう」と伝えても、面を食らってしまいます。そこで、キャリアとは何か、なぜキャリアについて考える必要があるのか、キャリアオーナーシップに関する動画や説明会、MKIキャリアフォーラムでの外部有識者の講演などを通して、考えるきっかけを持ってもらうようにしました。
なお、キャリアオーナーシップに関する動画は延べ約2,300名が視聴し、全社員向けのキャリアオーナーシップ推進説明会や世代別キャリア観・マインド醸成ワークショップは、それぞれ計27回、計10回開催され、どちらも約2,400名が参加しています。
このほか、管理職向けの説明会やキャリア面談研修も実施し、130名以上の管理職が参加するなど、その目的や立場に合わせた機会を設けています。
キャリアオーナーシップを社員に「押しつけない」
東宮キャリアオーナーシップを推進するためのステップを用意し、そのステップに見合う取り組みを的確に実施されているのですね。こうした取り組みの中で、蒲原様が意識されていることは何でしょうか。

蒲原キャリアオーナーシップを社員に押しつけないことです。企業が社員に対して「キャリアオーナーシップが大切だから、自分で考えましょう」と言うことは、これまで企業が社員に対して一本道のレールを敷いていたことと大差がないと思っています。
企業がキャリア自律やキャリアオーナーシップを押しつけたら、その時点で「自律」でも「オーナーシップ」でもなくなります。
とはいえ、いきなり「キャリアについて考えなさい」と、“キャリアの海”に放り込むのも違うと思います。だからまずは、海での泳ぎ方を教えること、つまりキャリアについて初歩の初歩から一緒に考えていくことが大事だと考えています。
東宮「押しつけない」というのは、とても大事な観点だと私も思います。企業にキャリアオーナーシップを押しつけられると、社員の心理的な“ガード”も上がります。それで結局、施策が失敗に終わるケースも散見されます。キャリアオーナーシップの導入を丁寧に行うことは必要なことだと感じました。
2年目は「一歩を踏み出す」ための施策を実施
東宮キャリアオーナーシップ推進に本腰を入れて2年目の2024年度からは、どのような取り組みを進められましたか。
蒲原2年目は、自分なりに考えたキャリアに向けて一歩踏み出してもらうような施策を用意しました。例えば、社内インターンの実施です。業務時間の20%を別部署での業務に充て、本来の所属チームでは得られない経験を積めるような制度「社内インターン」を作りました。
社内インターン制度の目的は「気になる部署の中身を知ってもらうこと」です。本業を軸にして他部署の経験を得ることができるので、公募制のような完全な異動よりも手上げのハードルは下がりますし、受入部署や本人の所属部署にとっても対応しやすいのではないかと考えました。
並行して、テーマ別の集合研修やeラーニング、英語学習プログラム、キャリア面談研修なども実施したところ、延べ1,900名が参加しました。社員が登壇するセミナーを開催し、社内でロールモデルを見つけられるような取り組みも展開しています。
また、キャリア関連の施策ではないのですが、社員が希望する全国のオフィスに訪問できる「オフィス見学ツアー」も実施しました。これは、社員アンケートで「他部門の業務内容を知らない」という意見が多く寄せられたことがきっかけになっています。
「他部門を知らないことがマイナスに捉えられているなら、そのマイナスを払拭しよう」という発想です。結果的にオフィス見学ツアーがキャリアを考えるきっかけになった社員も多いようでした。
こうした取り組みを通して、社員それぞれのキャリア観が少しずつ開けていけばよいと考えています。
東宮社員の皆さんは、動き出すまでに時間がかかりますし、何より動き出すのは「怖い」と感じると思います。だからこそ、最初の一歩を踏み出しやすくしている点がすばらしいですね。

蒲原やはり「ゼロからイチ」、最初の一歩を踏み出すことが一番難しいと思います。それに、全員が全員、新たな道に進みたいと思っているとも限りません。だから、全員の背中を押すのではなく、動き出したいと思っている社員の背中を押してあげたいと思っています。
東宮そうですね。また、ここまでお話を伺っていて「一歩を踏み出す人を応援しよう」というメッセージを強く感じます。
中には、キャリアオーナーシップに関する制度をさまざま用意しながらも、制度を把握するところから社員の皆さんに委ねてしまい、キャリアオーナーシップが育つ前にこぼれ落ちてしまう社員が多く出てしまい、制度が活用されていないケースもあります。
しかし御社の「委ねすぎず、選択肢を提供する」「動きたいと思っている社員を後押しする」という姿勢から、安心感を得ている方は多いのではないかと感じました。