目標達成に向けて協働・共創できるチームを作るには、心理的安全性を意識した組織開発が欠かせません。
心理的安全性はGoogleが取り上げたことで一気に知られるようになりましたが、初めて心理的安全性の概念に触れる人は言葉の意味や実現した状態をイメージしづらいかもしれません。
記事では、心理的安全性の概要、心理的安全性の不足が引き起こす4つの不安、心理的安全性を高める4つの因子とポイントを詳しく解説します。
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<目次>
- 心理的安全性とは?
- 心理的安全性のデメリット=ぬるま湯組織になる可能性?
- 心理的安全性が高まることで得られる効果
- 心理的安全性の測り方
- 心理的安全性の不足が引き起こす4つの不安
- 心理的安全性を高める4つの因子
- 心理的安全性を高める方法
- まとめ
心理的安全性とは?
心理的安全性とは、組織・チームのメンバーが自分の意見や疑問を伝えることに不安や恐怖を抱かない心理状態のことで、Googleがチームの生産性を高めるうえで最も重要な要素であると発表したことで一躍有名になりました。
ここでの自分の意見や疑問とは、「上司やメンバーと異なる意見を述べる」「懸念を伝える」「初歩的な質問をする」「的外れかもしれない意見を言う」「自分の失敗や力不足を伝える」などのチャレンジングなコミュニケーションを指します。チャレンジング=相手から不快に思われたり、無能やネガティブだと思われたりする可能性がある、という意味です。
「心理的安全性がある=仲が良い、自然体の自分でいられる」といった形で表現されることもありますが、心理的安全性の本質は上記のようにチャレンジングなコミュニケーションを不安なくできることです。
心理的安全性が高い状態になれば、チームのパフォーマンスや生産性が高まるほか、仕事をとおしたスキルアップや成長、自主性・主体性が高まりやすくなるなど個人のメリットも期待できます。
心理的安全性の提唱者:エイミー・エドモンドソン
心理的安全性は、ハーバード・ビジネス・スクールの組織行動学研究者・エイミー・エドモンドソン教授が1999年に論文「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」で提唱した心理学用語です。
エドモンドソン教授は「チーミング」の研究を行っており、「チームが機能するとはどういうことか?」という観点から心理的安全性を提唱。心理的安全性を「チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態」と定義しました。
1999年に提唱された心理的安全性ですが、日本国内でこの10年ほど、一気に注目・浸透したきっかけが「プロジェクト・アリストテレス」です。Googleが2012年から約4年をかけて社内で行った大規模実験「プロジェクト・アリストテレス」は、どんな要素がチームの成功に影響しているかを調査したものです。
研究の結果、Googleは以下の要素が労働生産性を向上させる要素だと発表しました。
- 心理的安全性
- 相互信頼
- 構造と明確さ
- 仕事の意味
- インパクト
そして、各要素の中でもチームの効果性に最も重要な要素としたのが「心理的安全性」です。Googleはデータを基にした組織開発で知られており、この結果を基に、心理的安全性は「成功する組織に欠かせない要素」として世界中の企業から注目されるようになりました。
心理的安全性のデメリット=ぬるま湯組織になる可能性?
「心理的安全性」の概念に対して、「そんなことばかり言っていると、組織が“ぬるま湯”のようになりダメになってしまう」と思われる人もいるかも知れません。
心理的安全性の促進が「ぬるま湯」を作るわけではありません。
しかし、心理的安全性を「安心できる」「自分らしさを出せる」といった一部の側面のみで捉えると、そのリスクを感じるかも知れません。心理的安全性を高めるという概念を「仲が良い状態を作らなければならない」と誤解すると、単なる「仲良しクラブ」の組織を生み出してしまうデメリットにつながります。
もちろん「信頼関係」は重要です。
しかし、「仲が良い」だけの組織は、“仲良し”という関係維持が目的になってしまい、逆に率直な意見交換や相手と異なる意見を述べるといった「人間関係を壊すかもしれないリスクある行動」ができなくなる傾向があります。また「優しいだけ」の組織も、他メンバーとの衝突や人間関係が壊れることを恐れ、本音でフィードバックするといったことは控えがちになってしまいます。これは心理的安全性の高いチームで起こる状態とは正反対です。
心理的安全性の高いチームは、相手の人格や人間性を信頼しているからこそ、チームのビジョンや目標を達成するために、人間関係が壊れることへの恐れやジレンマなく、率直なコミュニケーションが行なわれる状態です。
心理的安全性=仲が良いと捉えてしまうと、「仲良し組織」「ぬるま湯状態」になり、メンバーが新しい挑戦や改善のための発言をしにくい雰囲気が生まれてしまいます。心理的安全性の概念を正しく理解し、チーム作りを行っていくことが重要です。
心理的安全性が高まることで得られる効果
心理的安全性の高い組織では、成功循環モデルにおける「グッドサイクル」と同じ状態だと考えられえます。成功循環モデルは、組織の状況を動的に捉えることで、理想的な組織を生み出そうとするフレームであり、MIT組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キムによって提唱されたものです。
端的にいえば、組織のアウトプット・パフォーマンスを高めるためには、「関係の質」を高める必要があるという考え方です。
心理的安全性の高い組織に生まれる効果
成功循環モデルのグッドサイクルでは、以下の図で示されます。
成功循環モデル(グッドサイクル)を解説すると以下の流れです。
<成功循環モデル:グッドサイクル>
- 「関係の質」
心理的安全性が高い状態は、すなわち関係の質が高まった状態です。関係の質が高まった状態は、メンバー間の人間関係が良好で、「相手を信頼してリスクある行動を取れる」状態です。コミュニケーションも多く、「相談」や「フィードバック」が遠慮なく行われるようになります。 - 「思考の質」
メンバー間で良い意味で「遠慮がないコミュニケーション」が交わされることで、施策がブラッシュアップされ、お互いの意見やフィードバックがヒントになって新しいアイデアやイノベーションが早発されます。 - 「行動の質」
生み出された良質な施策やアイデアを実行していくフェーズでも、お互いを信頼して行われる相談やフィードバックが行動の質を高めます。より良いアウトプットを生み出すために周囲のサポートを求めることも出来ますし、信頼するメンバーと共に生み出した施策を実行しているという感覚は、課題や困難に向き合い、乗り越えていく主体性をもたらします。 - 「結果の質」
相乗効果を発揮して生み出した良質な施策を、意欲の高いメンバーが、相互協力しながら実行していくわけですので、当然、結果も出やすくなります。 - 再び「関係の質」
メンバーとの相互協力により成果を生み出した体験は、互いの信頼関係を深めます。関係の質がさらに良くなることで、新たな意見や提案などがいいやすい風土は確固たるものとなり、次の思考の質、行動の質、結果の質へと繋がっていきます。
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心理的安全性の測り方
組織内の心理的安全性は、Googleが提唱する、以下の7つの質問項目を用いて測定することが出来ます。
- Q1:チーム内でミスをすると、たいてい非難される
- Q2:チームメンバーは、難しい問題や課題を指摘しあえる
- Q3:チームメンバーは、自分と異なることを理由に他者の拒絶をすることがある
- Q4:チームに対して、リスクある行動をしても安全である
- Q5:チーム内の他メンバーに助けを求めることは難しい
- Q6:チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動を取らない
- Q7:チームメンバーと仕事をする場合、自分の才能やスキルが尊重され、活かされていると感じられる
それぞれの質問の詳細は、以下の記事で分かりやすく解説していますので、詳しく知りたい方は関連記事をご覧ください。
心理的安全性の不足が引き起こす4つの不安
心理的安全性が不足すると、先ほどのようなチャレンジングなコミュニケーションをする際に4つの不安が生じます。4つの不安が正直な意見や疑問を述べたり、失敗を開示したり、サポートを求めたりする行為を止めてしまうのです。心理的安全性の不足が引き起こす不安とは以下の4つです。
無知だと思われる不安
一つ目の不安は、ほかのメンバーから「無知」だと思われることへの不安です。「こんな質問をしたら無知だと思われる」「こんなことも知らないのかと他メンバーからバカにされるのではないか」といった不安が生じると無知だと思われることを避けるために、上司やほかのメンバーに不明点の相談や質問をしなくなります。
結果的に、チーム内での質問などが減っていき、理解のズレが生じたり、懸念点やリスクが放置されたままになったりします。また、自己流の方法で作業を進めることで、大きなミスやクレームなどのトラブルにつながってしまうこともあるでしょう。
無能だと思われる不安
二つ目の不安は、自分の欠点をさらけ出すことで「こんなこともできないのか」と言われたり、能力が低いと思われたりすることへの不安です。
例えば、仕事でミスがあったときには、早期の報告・相談でトラブルを最小限にすることが大切になります。しかし、無能と思われることへの不安があると、ミスがあっても相談せずに隠したり、自分の失敗を素直に認められなくなったりするのです。
結果として、ミスや失敗の発覚が遅れて、取り返しのつかない大きなトラブルが起こりやすくなったり、大きな問題への対処は多くの労力を必要とするため、本来目指すべき目標達成にも支障が出てしまったりします。
無能だと思われる不安があると以下のような事象が起こりやすくなります。
- ・ミスが共有されない
- ・分からないことを質問できない
- ・未完成だったり実現可能性が低かったりする意見を提案できない
- ・思い付きやアイデアを発言できない
- ・進捗の遅れが共有されない
邪魔だと思われる不安
三つ目の不安は、ほかのメンバーから邪魔や鬱陶しいと思われることへの不安です。言い換えると、自分の「居場所」が失われることへの不安です。
例えば、課題を抱えたチームが改善策を考えるためにミーティングをする場合、異なる視点や価値観からの意見が相乗効果を導き出すことが良くあります。
しかし、邪魔していると思われる不安があると、意見が求められている状況でも自発的な発言ができず、ほかのメンバーに賛成するだけになってしまいます。自発的な発言ができない結果、活発な意見交換による効果的な課題の改善方法や、新たなイノベーションなどは生まれづらくなります。
自分の「居場所」に対する不安があると、リーダーや声が大きな人の顔色、チームの空気を窺うような状態となり、コミュニケーションも減少しがちですし、独自の意見なども出にくくなるでしょう。
ネガティブだと思われる不安
4つ目の不安は、消極的や否定的といったネガティブな印象をもたれることへの不安です。ネガティブだと思われる不安があると、リーダーや他メンバーの意見に対する懸念点、リスクなどが発言しにくくなり、十分な議論がされないまま危険な意思決定がされてしまうことにつながります。
また、チームが進化していくためには、従来の方法や考え方を否定しなければならないこともあります。しかし、ネガティブだと思われる不安を抱えたチームでは、従来のやり方や誰かの意見を否定するような発言は生じにくくなってしまい、課題が解決できない、進化できなくなってしまいます。
心理的安全性を高める4つの因子
心理的安全性のプロフェッショナルとして知られる株式会社ZENTechでは、心理的安全性を高める4つの因子を定義しています。本章ではZENTechの定義に基づく心理的安全性を高める4つの因子の概要をご紹介します。
話しやすさ
心理的安全性を支える基盤となるのが「話しやすさ」です。話しやすさとは、例えば、メンバー同士が自由に意見を交換したり、疑問や困りごとを遠慮せずしあえるような、環境や企業文化を言います。
話しやすさのある職場であれば、メンバーは「自分の話を真剣に聴いてもらっている」や「自分が受け入れらている」と安心して思えるので、無知や無能であることを心配せず、自分の意見や考えを気軽に話せるようになります。
助け合い
心理的安全性の高いチームには、個々のメンバーが競い合うライバルではなく、新たなイノベーションを一緒に生み出したり、課題を乗り越えたりする協働・共創の風土があります。こうした風土を下支えするのが、「助け合い」の因子です。
助け合いがチーム・職場で浸透すれば、メンバーはお互いに助け合い、共通の目標達成に向けて協力できるでしょう。そして、各自が自分の強みを活かし、他のメンバーの弱点を補うことで、結果としてチーム全体のパフォーマンスも向上します。
挑戦
心理的安全性が高いチームには、前向きにチャレンジしていく雰囲気があります。挑戦には失敗やミスがつきものですから、失敗やミスが起きた場合、同じことを繰り返さないための学びや振り返りは重要です。挑戦を奨励するチームでは、リーダーや先輩は、失敗したメンバーを非難することはせず、代わりに、適切な支援とポジティブなフィードバックを提供します。
結果として、チームは新たな機会を見落とすことなく、より大胆な挑戦ができるようになります。
新奇歓迎
チームが一段上のステージに成長するためには、今までの自分たちとは異なる価値観やスキル、やり方を取り入れていくことも必要です。一方で、価値観の違いは、意見の衝突や人間関係のトラブルなどにつながる側面もあります。
心理的安全性の高いチームには、多様性を受け入れ、新奇なアイデアを歓迎する風土があります。多様性を尊重し、これまでになかったアイデアも建設的に議論することで、チームは課題に対する新しい解決策を見出し、より良い意思決定ができるようになるでしょう。
心理的安全性を高める方法
ここまでお伝えしたように、心理的安全性が高い状態になれば、チームのパフォーマンスや生産性は向上し、仕事をとおしたスキルアップや成長、自主性・主体性が高まりやすくなるなど個人のメリットも期待できます。
記事の最後では、心理的安全性を高める上で重要となる、リーダーや人事がケアすべきポイントを紹介します。
相手の存在を承認する
人との関係構築において最も重要なことは相手の存在を承認することです。ビジネスにおいて、相手の意見や言動に対して、反対意見を述べたり、ネガティブなフィードバックをしたりすることは問題ありません。しかし、大前提として、相手の存在を承認し、“一人の人間”としての相手に敬意を払い尊敬することが大切です。
コミュニケーションに集中する
心理的安全性を担保するための第一歩は「真剣に聴いてもらっている」「正面から受け止めてくれている」という安心感です。相手が話すときには目の前の会話に集中し、言葉以外の相手の感情や仕草に注意を払い、相手の意見から学ぼうという意志を持って受け止めましょう。
真剣に聴く、受け止めていることを示すためには、相手の言葉に反応を示したり、相槌を打ったりすることも効果的です。また、相手の話を理解していることを示したり、認識をすり合わせたりするために、「バックトラッキング」と呼ばれる相手の発言内容を要約して伝えるテクニックも効果的です。
意思決定に参加させる、意見を求める
チームメンバーを意思決定に参加させることも心理的安全性を高めるアプローチの一つです。意思決定に対して意見やフィードバックを求めることは、相手への尊重を示す行為です。ただし、自分と異なる意見をいわれたときに否定的な反応をしてしまうと、心理的安全性に対してマイナスの結果をもたらしますので注意してください。
発言機会が偏らないようにする
意思決定に参画してもらったり、意見やフィードバックを求めたりうえでは、メンバーの発言機会に偏りがないようにすることも大切です。テーマとなる事柄への知見や性格によって多少の偏りは生じがちですが、「自分の意見を言えなかった」と感じるメンバーが生じないように配慮が必要です。
余裕があるようであれば、付箋に自分の意見を書いてもらい、類似の意見の近くに貼っていくような「ラウンドロビン方式」のようなやり方を取り入れると、性格やポジションによる発言機会の差異が出にくくなります。
オンライン会議の場合には、付箋の代わりにオンラインのドキュメントに一斉に意見を描いてもらうやり方も有効です。
共通目的やゴールを作り、協力の風土を作る
組織の共通目的やゴールがあると、チーム内に「競争」ではなく「協力」が生まれやすくなります。ミッションやビジョンの存在は、協力を生み出す協力武器となりますし、OKRによるマネジメントなども協力の風土作りに役立つでしょう。
メンバー間の相互理解を深める
心理的安全性の高い状態を作るうえでは、業務の話だけでなく、お互いの価値観や特性、強み、またプライベートにおける側面について相互理解を深めることが大切です。相手をさまざまな側面を持った「個人」として捉えられるようになると、相手の存在を承認し、「相手の言動」と「相手の存在」を区別しやすくなります。
相互理解を深める方法としては、アメリカの教育学者ピーター・クラインによって開発されたGood and Newなどもおすすめです。字の通り、直近で起きた「新たな発見」や「楽しかったこと」を発表したり共有したりするワークで、仕事のみならずプライベートな側面や相手の価値観を知ることが出来ます。
自己効力感や自己肯定感を高める
お互いが変な遠慮をせず、また、自分と異なる意見や価値観を受け止める適切な自信が必要です。例えば、チームメンバーに意見やフィードバックを求めたり、自分の弱みを見せたりするためには、自分を支える自己肯定感が必要となります。
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まとめ
心理的安全性とは、組織のメンバーが不安や恐怖を抱くことなく、自由に意見や疑問を伝えられる状態のことをいいます。
具体的には、
- ・初歩的な質問をしたり、的外れかもしれない意見を述べたりする
- ・上司や誰かの意見に異論や懸念を述べる
- ・従来までのやり方を否定する
- ・さらには自分の失敗や能力不足を開示する
といったチャレンジングなコミュニケーションを懸念なくできる状態・環境が心理的安全性の確保された状態です。
心理的安全性が不足したチームや組織には4つの不安があり、正直な意見や疑問を述べたり、失敗を開示したり、サポートを求めたりする行為が止まってしまいます。
<4つの不安>
・無知だと思われる不安
・無能だと思われる不安
・邪魔していると思われる不安
・ネガティブだと思われる不安
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