社員が自然に動く組織へ!価値観浸透で生まれる“自走する力”

更新:2025/10/06

作成:2025/09/26

企業が掲げる理念や価値観は、単なるスローガンではなく、社員の意思決定や行動を方向づける重要な指針です。しかし、経営層がどれほど立派な言葉を掲げても、社員の日常業務に浸透しなければ、行動や成果には結びつかず、形骸化してしまいます。

 

特に組織が成長し、社員数や拠点が増えるほど、価値観を共有し続ける難易度は高まります。一方で、価値観が深く根付き、社員が自ら判断し動ける「自走する組織」は、変化の激しい環境においても高い成果と一体感を発揮します。

 

本コラムでは、当社の事例を交えながら、社員に価値観や行動指針を浸透させ、自走力を引き出す具体的なプロセスと施策を紹介します。自社で文化を根付かせ、社員の主体性を引き出すための実践的なヒントになれば幸いです。

 

<目次>

組織文化・価値観浸透の重要性

企業で掲げられる理念や価値観は、ポスターや社内報の単なるキャッチコピーではありません。社員の意思決定や行動の基準となり、組織としての一体感や方向性を生み出す「軸」の役割を果たします。

 

例えば営業現場で顧客対応の判断に迷ったとき、明確な価値観が共有されていれば、社員がその基準に基づいて行動することで、組織として一貫した対応をして成果を出すことができます。逆に価値観が浸透していないと、判断が属人的になったり、逆に上の指示を逐一仰ぐことになったりして、顧客対応の品質や意思決定のスピードがバラバラになりがちです。

 

価値観の共有は社員の内発的な動機づけにもつながります。社員が「自分の業務が組織の目指す方向性とつながっている」と実感できていると、主体的な行動が増え、エンゲージメントや定着率の向上にも寄与します。

 

一方で、価値観が浸透しないまま成長を続けると、組織内でのコミュニケーションや意思決定が分断されるリスクが高まります。例えば、成長企業では様々な業務が新たに発生する可能性が高いですが、それらを担う部署がそれぞれの価値観で動いてしまえば、組織全体としての強みを発揮しにくくなります。結果として、部署や担当者間での優先順位の不一致や連携不足による業務の重複といった非効率が生じます。

 

さらに、価値観の不一致を放置すると、部署同士がいがみ合う構図にも繋がりかねません。部署が異なるだけでまるで別会社かのように価値観がずれていれば、相容れない価値観の部署と敵対する可能性が高まり、ひいては組織文化の分裂を招きます。当然、ここまで来ると離職や士気低下も発生するでしょう。

 

さらに近年はリモートワークの浸透、またオンライン会議の定着によって地方拠点やサテライトオフィスの開設といった多拠点化も進み、社員同士が直接顔を合わせる機会が減っています。こうした環境では、価値観や行動指針を意図的かつ継続的に共有しなければ、組織としての一体感を維持することが難しくなります。だからこそ、価値観の浸透は経営戦略の一部として計画的に取り組む必要があります。

 

価値観浸透の5つの柱

価値観を社員に浸透させるには、「伝える」だけでなく、社員が「理解し、行動につなげる」プロセスが必要です。多くの企業が理念や行動指針を掲げながらも、現場で活用されず形骸化してしまうのは、「理解し、行動につなげる」プロセスが欠けていることが原因です。

 

ここでは、当社(エッジ・コネクション)が実践している価値観浸透の5つの柱を紹介します。

 

1.理念・行動指針の明確化

まずは企業としての理念や価値観を具体的な言葉で定義し直すことが価値観浸透の出発点です。「顧客第一主義」や「挑戦を恐れない」といった抽象的な表現だけでは、社員が実務でどう判断すべきかが曖昧になりがちです。

 

例えば、「顧客第一主義」という同じ表現でも、対応の速さを重視するのか、対応の丁寧さを重視するのかで行動は分かれます。大切なことは、社員が迷わず行動できるように具体的に定義することです。

 

明確化のゴールとしては、社員が日常業務の中でブレなく行動できる状態を作ることです。これにより、組織として一貫した成果を生み出しやすくなります。

 

参考として、当社の行動指針をご紹介します。このくらいの抽象度だと、日々の行動に反映させやすいとともに、適応範囲も限定的になりすぎないかと思います。

還元:受け取っている給料、頂いている料金を上回る価値を還元しよう。
共感:自分目線ではなく、相手が受け取り感じ取るまでがコミュニケーションだと心得よう。
自責:身の回りのトラブルは、他人のせいにするのではなく、常に自分に原因を求めよう。
両立:仕事とプライベートを両立させ、生きる為に働くということを忘れないようにしよう。
素直:𠮟責やアドバイスは期待の裏返し。今後、自分はどうすれば良いのかという姿勢で素直に受け止めよう。

 

2.社内コミュニケーション手段の設計

価値観を共有するには、日常的なコミュニケーションの仕組みが欠かせません。具体的には、常に全社員が価値観に触れ、いやでも忘れないという状況を作ります。そうすることで、上司が部下を指導するときに行動指針を織り交ぜて話をするようになるなど、日常業務に価値観が浸透しやすくなります。

 

具体的には、入社時の研修で価値観を紹介することに加えて、なぜこの価値観が重要なのかまで説明する時間を設けたり、執務室に掲示して折に触れてマネージャー層が価値観を絡めながら部下にアドバイスや指導できるようにするといった施策が有効です。

 

3.定期面談で社員理解度を確認・共有

どれだけ価値観が目に触れるようにしても、それぞれの社員がどこまで理解しているのかは個人差があります。そこで、理念や価値観が実際に理解され、活用されているかは、定期的な面談でも確認します。定期的にこのようなセッションを行うことで価値観の浸透度を正確に把握することができます。

 

当社では2週間に1回上司と部下が面談を設けていますが、面談時に行動指針にちなんだ指導が行われます。たとえば、「あなたはまだ共感の意識が足りないね。だから、よくミスコミュニケーションでトラブルが起きているね。」といった会話が行われます。内容も議事録として残し、あとから見返せるようにしています。

 

4.行動変化の観察とフィードバック

最後に、社員の行動がどの程度変化しているかを観察し、フィードバックします。具体的には、人事査定の中に価値観にちなんだ行動がどれだけできているか評価する項目を設け、価値観に近いふるまいができている社員を高く評価します。

 

そうすることで、模倣すべき社員にスポットライトが当たるとともに、本人も自信がつき、ますます価値観にちなんだ行動を取るようになります。

 

具体的な浸透施策

価値観や行動指針を組織に定着させるには、「言葉を掲げるだけ」で終わらせず、社員が日常の業務の中で自然と価値観を意識し、行動に反映できる仕組みづくりが必要です。当社で実践している施策を中心に、効果的な取り組みを紹介します。

 

1.徹底的に価値観に触れる環境を作る

・社内掲示やメール配信で行動指針を常に目に触れさせる
・上司から部下への指導にも自然に取り入れる

【Point:継続的な発信と接触機会の確保】
価値観は一度伝えただけでは浸透しません。時間の経過とともに社員の記憶から薄れ、日常業務の中で意識されなくなりがちです。複数チャネルで繰り返し触れることで、社員が自然に価値観を思い出す環境をつくることが重要です。

 

2.上司から部下への指導も行動指針に準じる

・指導やフィードバックを行動指針と紐づける
・部下の行動改善を具体的に促す

会社として行動指針を掲げていても、直属の上司が行動指針とは違う指導を部下にしてしまっては意味がありません。よって、当社の行動指針は、「還元」「自責」「共感」「両立」「素直」と、内容が実務に近い文言にしています。そして、以下のような場面で指導と紐づけることで、行動指針に沿った行動を誘発しやすくしています。

・営業成績が良くない
 →「受け取ってる給料をしっかり還元できてる?」
・仕事ぶりに責任感がない
 →「あなたの振る舞いは、自責といえる?」
・説明が不明瞭で伝わらない
 →「相手目線に立って共感したうえで、その言葉を使ってる?」
・残業が多い
 →「仕事とプライベートを両立する意識はある?」
・指摘を受けたあとの態度が悪い
 →「指導を素直に受け取ってる?」

【Point:双方向の対話と学びの場を設計する】
指導は一方的ではなく、部下自身が考え言語化できる場を設けることで、理解度と納得感が高まり、実践行動につながります。研修や面談の中で伝えるだけでなく、ディスカッションやグループワーク、社員同士の情報交換の場を通じて、価値観を自分の業務に置き換えて考える時間を確保することが重要です。

 

3.行動指針に基づいた人事査定

・行動指針ごとにA~D評価を行い、成果や改善につなげる

【Point:成果との結びつきを明確化する】
価値観は「人事査定の成果や成長にどう影響するのか」が理解されなければ形骸化します。評価制度を通じて、抽象的な理念を具体的な行動や成果指標に結びつけることで、社員は「この行動が組織や自分の成果につながる」と実感しやすくなります。

 

当社では各行動指針に沿った行動をA~Dで評価し、成果や改善に直結させます。これにより、行動指針に沿った行動が成果につながることを社員が実感でき、苦手な項目は定期面談で重点的に成長させていきます。

 

4.定期面談での価値観に基づく行動評価

・2週間に1回の面談で改善状況を確認
・上司もサポートに入り、行動指針の定着を促す

【Point:定期的な振り返りと改善サイクル】
浸透状況を可視化し、定期的に振り返る仕組みを作ることで、取り組みが一過性で終わらず、組織の成長プロセスの一部として機能します。「どの程度浸透しているか」「どの部分が改善余地として残っているか」を確認し、次の取り組みにつなげるサイクルを回すことが大切です。

 

これにより、「部下の改善促進」「上司のアウトプット機会の創出」と価値観浸透の取り組み自体が組織の成長プロセスの一部として機能します。

 

5.リーダーの率先垂範

・経営層・管理職が日常判断で価値観を体現
・背景や理由を社員に共有

【Point:定期的な振り返りと改善サイクル】
リーダー自身が価値観を体現する姿勢です。言葉だけでなく、実際の判断や行動において価値観が反映されていることを示すことで、社員は「組織として本気で取り組んでいる」と認識します。特に経営層や管理職が日々の意思決定の中で価値観を意識し、その背景や理由を社員に共有することが、価値観浸透の最も強力なメッセージとなります。

 

当社では毎月2回、経営層と管理職のみの会議を実施し、管理職からマネジメント上の悩みを吸い上げます。そして、出てきた悩みに価値観を絡めて経営層がアドバイスすることで、どの価値観が日常業務にどうつながっているのかを管理職が深く理解します。

 

また、経営層と自身の価値観にズレが無いことを確認して、自信をもって価値観を体現したり、部下に伝えたりできるようなります。

 

まとめ

価値観の浸透は、組織全体で継続的に取り組むべき経営課題です。以下のポイントを押さえることで、社員が自ら考え行動に移せる「自走する組織」を作ることが可能です。

・繰り返しの発信や成果との結びつきの明確化
・双方向の対話の設計
・振り返りと改善サイクル
・リーダーの率先垂範

特に重要なのは、一過性の施策で終わらせず、日常業務や評価制度、面談などあらゆる接点に価値観を組み込むことで、価値観を実務や行動に紐づいた基準として浸透させることです。

 

こうした取り組みが積み重なることで、価値観は単なる言葉ではなく、組織の判断基準や行動規範として定着します。そして、組織は社員一人ひとりが主体的に動ける「自走する組織」へと進化します。今日からでも、まずは発信や対話の機会を増やす一歩から始めることで、組織文化の変革は確実に前進するはずです。

 

著者

大村 康雄氏
株式会社エッジコネクション
代表取締役社長
大村 康雄氏
宮崎県延岡市出身。慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、米系金融機関であるシティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に、現在は人事・財務課題も対応する「営業・人事・財務課題伴走型支援企業」として展開。経営危機を乗り越えた経験を生かし、コンサルティング業のほか、ラジオコラムなど、各種メディアで経営や営業に関する情報を発信中。また、YouTubeでは、経営・営業ノウハウをわかりやすく解説!これまでに1600社以上を支援し、継続顧客割合は平均75%台。地元宮崎でも地域振興に尽力し、延岡市立地促進コーディネーターや延岡デジタルクロス協議会人材支援委員長を務める。2024年7月、「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。エッジコネクションでは、共に成長できるメンバーを募集しています。詳しくはこちら

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