ワークエンゲージメントとは、社員の精神面における健康状態、仕事へのコミットメント状態を示す概念で、ワークエンゲージメントの向上は、生産性はもちろん、組織へのエンゲージメントや従業員の定着率にプラスの影響を与えます。
ワークエンゲージメントを向上させるには、ワークエンゲージメントの基本を十分に理解しておくことが重要です。記事では、ワークエンゲージメントの定義や構成要素、計測尺度などを解説したうえで、ワークエンゲージメントを高める方法をお伝えします。
<目次>
- ワークエンゲージメントとは?定義と計測尺度
- ワークエンゲージメントを構成する3要素
- ワークエンゲージメントを高める「仕事の資質」
- ワークエンゲージメントを高める「個人の資質」
- ワークエンゲージメントを下げてしまう要素
- まとめ
ワークエンゲージメントとは?定義と計測尺度
ワークエンゲージメントとは、仕事に誇りを感じ、仕事に熱中し、仕事から活力を得ている状態を指す言葉です。関連したり混同されたりする概念として「ワーカーホリズム(ワーカホリック)」や「リラックス」といったものがありますが、両者ともワークエンゲージメントとは全く異なるものです。
まず、ワーカーホリズム(ワーカホリック)はいわゆる「仕事中毒」の状態で、ワークエンゲージメントと同じく仕事へのコミット度は高いものの、仕事に対する認知はネガティブな状態です。
ワークエンゲージメントが「仕事をやりたい」だとすると、ワーカーホリズム(ワーカホリック)は「仕事をやらなければいけない」だといえます。
一方、リラックスは、仕事には満足しておりポジティブな認知ですが、活動水準は低い状態であり、「現状満足」とも言い換えられます。これもワークエンゲージメントが高い状態とは大きく異なるものです。
なお、ワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授らが考案した「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale」を使って測定することが可能です。
ユトレヒト尺度では、「活力」「没頭」「熱意」の3要素に関する17個の質問(9個・3個の短縮版も存在)に対して、7段階で点数を付けていくことでワークエンゲージメントを測定します。
- 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
- 仕事に熱心である
- 私は仕事にのめり込んでいる
- 「まったくない」(0点)
- 「ほとんど感じない」(1点)
- 「めったに感じない」(2点)
- 「時々感じる」(3点)
- 「よく感じる」(4点)
- 「とてもよく感じる」(5点)
- 「いつも感じる」(6点)
ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale(UWES))の設問や解説は以下のページからダウンロード可能ですので、ご興味あればぜひご覧ください(研究目的の場合は無料で利用できます)。
https://hp3.jp/tool/uwes
ワークエンゲージメントを構成する3要素
ワークエンゲージメントは「活力」「没頭」「熱意」の3つの要素から構成されており、3つの要素が満たされているほどワークエンゲージメントが高い状態となります。
「活力」が満たされている状態
仕事に対して高いエネルギー水準が維持されており、心理的な回復力が高い、仕事に費やす努力をいとわない、困難な状況にも粘り強く立ち向かえるといったことにつながります。
- 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
- 職場では、元気が出て精力的になるように感じる
- 朝に目が覚めると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる など
「熱意」が満たされている状態
自身の仕事に対して情熱や誇り、意義を感じており、挑戦しようという意欲がある状態です。
- 仕事に熱心である
- 仕事は、私に活力を与えてくれる
- 自分の仕事に誇りを感じる
「没頭」が満たされている状態
時間を忘れて仕事にのめり込んでいる状態で、いわゆるフロー状態に近いものです。
- 仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる
- 私は仕事にのめり込んでいる
- 仕事をしていると、つい夢中になってしまう
ワークエンゲージメントを高める「仕事の資質」
ワークエンゲージメントを高めるためには、「仕事の資質」に着目したアプローチが有効です。仕事の資質とは、ストレッサー自体、また、ストレッサーによる身体的・心理的ストレスを低減させたり、目標達成や個人の成長を促進させたりする物理的・社会的・組織的な要因を指します。
ワークエンゲージメント研究の第一人者である慶應義塾大学の島津明人教授によれば、ワークエンゲージメントは仕事の資質に左右されやすい傾向があり、以下のようなアプローチが効果的です。
裁量性・コントロール
仕事の要求度とコントロールのバランスが取れていない場合、社員は仕事にストレスを感じるとともに、自分がアクセスできる様々な資源も活用できなくなり、ワークエンゲージメントが低下します。
したがって、社員に仕事の裁量権、自己決定権を与え、仕事の進め方を自分自身でコントロールできるようにすると、ワークエンゲージメントが向上します。
仕事のパフォーマンスに対するフィードバック
社員は上司からの良質なフィードバックを「自分が見られている」という承認、また自分の動きを効率的にするものだと考えます。したがって、良質なフィードバックがないと「働きにくい」と感じやすくなってしまい、ワークエンゲージメントが低下します。
ワークエンゲージメントを高めるには、周囲から仕事の成果や過程に対するフィードバックを受ける機会を与えることが大切です。もちろん、上司や管理職は良質なフィードバックを実施するためのスキルも身に付ける必要があります。
上司によるコーチング
コーチングは、社員の成長を促進させる効果があり、また、自主的な行動を促したり、課題を解決したりできます。したがって、フィードバックの技法と併せて、上司・管理職層にコーチングの技術を学ばせ、一方的な指示・命令ばかりではないマネジメントを実践することが有効です。
マネジメントにコーチングを取り入れることは、社員の裁量性や自己決定権の感覚を高めることにもつながります。
社会的な支援(環境づくり)
心身の健康を維持するための制度や、出産・育児といったライフステージの変化に対応する支援など、社員が仕事に没頭できる環境をつくるためには、組織による環境づくりを充実させることも不可欠だといえます。
正当な評価
活躍に見合った正当な報酬や評価は、社員のモチベーションを上げるとともに、活躍に対する承認行為にもつながり、ワークエンゲージメントの向上に効果的です。正当な評価を実現できるように人事評価制度の運営や改善に取り組みましょう。
キャリア開発の機会
社員にキャリア開発の機会を積極的に提供し、キャリアや将来に対する不安を解消することも大切です。いまの仕事に集中した先に未来があるとイメージできることが、ワークエンゲージメントの向上につながります。
ワークエンゲージメントを高める「個人の資質」
個人の資質とは、自分を取り巻く環境を上手にコントロールする能力やレジリエンス、自尊心などで構成される「個人」に紐づく要因を指します。
個人の資質はワークエンゲージメントに対する重要な予測因子となるため、個人の資質へのアプローチもワークエンゲージメントの向上につながります。
自己効力感
自己効力感は個人の資質のなかでも特に重要性が高く、「今の仕事をうまくこなせる能力が自分にはある」「きっとやれるはず」といった確信の度合いを示します。自己効力感が高まると、自分を取り巻く環境を上手にコントロールできている感覚が得られます。
組織での自尊心
「組織において自分は役立っている」「必要とされている」といった感覚で、マズローの欲求5段階説でいう「所属と愛情」「自尊」の欲求と類似します。社員一人ひとりの良さを見出し、自信をつける言葉をかけるようにするなど、個別に関わるようにすることが効果的です。
楽観性
楽観性とは、リスクを想定して現実的な対策を取りつつも、「何とかなる」というポジティブな気持ちを保つことです。単に物事を楽観視するわけではない、現実的な楽観主義といえるでしょう。完璧主義を手放すとともに、周囲や環境に感謝する機会を増やすことも楽観性につながります。
レジリエンス
レジリエンスとは、ストレスによって生じるダメージを減らし、素早くストレスから回復できる能力です。ABC理論などの認知行動療法や成功体験の積み重ね、自分の強みを知って活かすことで鍛えることができます。
粘り強さ・やり抜く力
目標に向けて自発的に動き、最後までやり遂げることができる能力を育てるには、社員の自己決定権を尊重すること、社員の自己肯定感を高めること、失敗を恐れない環境を構築することが重要です。
個人の資質を高めるためには、このように仕事の資質、職場環境、マネジメント、人材育成などのアプローチが大切です。
ワークエンゲージメントを下げてしまう要素
以下の要素はワークエンゲージメントから遠ざけ、ワーカホリックやバーンアウトのリスクを高めてしまうものです。ゼロにすることはできませんが、過度なものになり、悪影響を与えていないか注意が必要です。
過度なプレッシャー
過重なノルマや高すぎる目標、厳しい納期など、組織からの期待やプレッシャーが高すぎると、何とか今の仕事を達成しようと過剰に仕事にのめり込んでしまい、ワーカホリックの状態を呈しやすくなります。なお、同じ目標だとしても、目標から感じるプレッシャーの重さは人によって異なりますので、注意が必要です。
対人業務における情緒的負担
仕事の中で「気持ちや感情がかき乱される」ことが生じるといった感情面の負担を指します。情緒的負担は客室乗務員や銀行の窓口スタッフ、飲食店スタッフ、販売員、営業職、看護師、保育士、教師など、「感情労働」と呼ばれる仕事で働く人に多い傾向があります。
感情労働においては、ときに本来の感情を押し殺して、表面的に感情を作る場面が出てきます。このように相手からの要求を処理したり、信頼関係を構築したりするために本来とは異なる感情をつくることは、多くのエネルギーが必要となります。こういったストレスや負担がバーンアウトを引き起こしやすくなります。
肉体的・精神的負担
身体的負担の大きい作業、長時間勤務、膨大な業務量、結果へのプレッシャー、評価に対する不安などは、「仕事がしたい」という前向きな気持ちではなく、「仕事をしなくてはいけない」というワーカホリック的な要素を誘発します。
こういった負担やストレスはすべてがネガティブなものだけでなく、個人の成長を促す「挑戦的なストレッサー」でもあります。ただし、本人が前向きにとらえていなければ「妨害的なストレッサー」となり、ワークエンゲージメントを下げてしまうので注意しましょう。
まとめ
ワークエンゲージメントとは、仕事に誇りを感じ、熱中し、仕事から活力を得ている状態を指します。活力・熱意・没頭の3つから構成されおり、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale(UWES))を使って計測することができます。
ワークエンゲージメントを高めるには「仕事の資質」と「個人の資質」の両面へのアプローチが不可欠となり、両者が増強されることでワークエンゲージメントが高まる好循環を生むことができます。
ワークエンゲージメントは組織へのエンゲージメントや定着率、生産性にも大きく影響してくるので、今回の記事を参考に、ワークエンゲージメントを高めるための仕組みや人材育成を整備してください。