EQは、感情を扱う力のことで、「心の知能指数」とも呼ばれます。近年では、知識労働や感情労働が増えるなかで、EQを高める重要性も増しています。
本記事では、EQ研修講師としての知見も踏まえて、EQの概要とEQに含まれる4つの能力、EQが高い人の特徴を確認します。また、後半ではEQを高める方法も紹介しますので、参考になれば幸いです。
<目次>
EQ(心の知能指数)とは?
EQ(Emotional Intelligence Quotient=心の知能指数)は、感情をうまく扱う能力です。
EQは、私たちが日常生活で普通に使っている能力でもあります。たとえば、自分や相手の気持ちを感じる力も、EQの一つです。また、ほかにも気持ちを切り替える、他の人の感情に配慮する、感情を載せたコミュニケーションをする、相手の感情を動かすといった力も、EQにつながるものです。
EQは、エール大学のピーター・サロベイ博士(現学長)とニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士が、 1990年に論文“Emotional Intelligence”で発表したのが始まりです。
IQとEQの違い
EQとよく対比されるIQ(Intelligence Quotient)は、知能指数のことです。知能とは、問題解決や記憶、情報処理、見たり聞いたりする力などの集合体で、IQは、いわゆる“頭の良さ”を測る指標です。IQは、知能レベルを数値化したもので、知能検査の結果で判定されるものです。
IQとEQは、「知能」と「感情」という測っている対象の違いに加えて、IQ(知能指数)がある程度は先天的であるのに対して、EQ(心の知能指数)には、先天的要素が少なく、教育・学習・訓練を通じて高められる特徴があります。
EQが注目される背景
近年、EQは、世界的に注目されています。きっかけとなったのは、2017年に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)のレポート内容です。
レポートでは、「2020年に必要なビジネススキル」の6位としてEQが取り上げられました。
【2020年に必要なビジネススキルTOP10】
1位:Complex Problem Solving(複雑な問題解決力)
2位:Critical Thinking(クリティカルシンキング力)
3位:Creativity(クリエイティビティ力)
4位:People Management(マネジメント力)
5位:Coordinating with Others(人間関係の調整力)
6位:Emotional Intelligence(EQ)
7位:Judgement and Decision Making(決断力)
8位:Service Orientation(サービス設計力)
9位:Negotiation(交渉力)
10位:Cognitive Flexibility(柔軟な認識力)
(参考:World Economic Forum “The 10 skills you need to thrive in the Fourth Industrial Revolution”2017)
従来は、“IQが高い人材が、ビジネスで成功する”という考えが一般的でした。しかし、近年では、IQが高くてもビジネス社会で成功しない人が大勢いることがわかってきています。また、学校やキャリアのなかで積んできた経験やスキルだけでも、ビジネス現場で成果をあげるには不十分です。
いまの時代は、AIの台頭によって、“人間の仕事が奪われる”ともいわれています。こうした時代にビジネスを通じた成果を出し続けるには、EQのように、AIの能力がおよばない人間だけが成し得るスキルが強みになってくるわけです。
EQを高めるメリット
EQを高めると、セルフマネジメント力が増し、パフォーマンスが安定します。
また、営業や販売、管理職などの対人業務が多い仕事では、お客様やメンバーなどの他者の気持ちを感じて信頼関係を築いたり、自分の感情をコントロールしたりすることが大切です。そのため、こうした人が関わる仕事では、高いパフォーマンスをあげるためにはEQが不可欠です。
また、知識労働は、自分一人で成果創出の最初から最後までのプロセスを担当することがほとんどありません。知識労働で成果を上げるためには、自分の仕事の前後(上流・下流)や関わる人と協同作業を進めていくことが大切です。
上記に紐づいて、メンバーのEQが高い組織は、短期間で業績をあげられることもわかっています。また、メンバーのEQを向上させると、心理的安全性が高まり、生産性の高いチームづくりも可能になるでしょう。
こうした点を踏まえても、知識労働が増え、チームで成果をあげることが求められている現在、EQを高めることの重要性は増しているともいえるでしょう。
EQは測定できる?
EQは、「EQPI®」などの検査を使って測定できます。EQ測定を通じて現状を可視化することで、自分の強みや弱みを知ったり新たな開発に取り組んだりといったことが可能になります。
EQに含まれる4つの能力
ビジネスで高い成果を出すために必要なEQですが、大きくは4つの能力に分類して考えることができます(EQPI®検査における分類です)。
自分理解
自分理解とは、自分の感情や動機づけの傾向、長所・短所などの理解度です。自分理解には、3つの要素が含まれます。
- 自分認識 :自分の感情を認識する
- 癖認識 :自分の感情が動くパターンを知る
- 原因分析 :感情が動いた理由を考える
自分を理解するには、自分自身を客観的にとらえる“メタ認知能力”が必要です。自分理解は、感情のコントロールや良好な人間関係の構築に不可欠なスキルになります。
たとえば、“自分はいま怒っている”ということを自覚できなければ、「なぜ怒っているのか?」「悪影響が出ないようにするためにどうするか?」を考えて行動を選択するような理性的な対応はできません。
また、自分の感情マネジメントにおける強みや弱みなどを知ることも、理性的な対処力を高めることにつながります。
他者理解
他者理解とは、他者の感情(気持ち)を理解して共感したり、自分と異なる価値観・意見などを理解したりする力です。他者理解に含まれる要素は、以下の3つになります。
- 状況把握 :相手や関係する人の感情を理解する
- 共感 :相手の感情に共感する
- 対人分析 :相手の感情が動く癖や感情が動いた原因を考える
チームで協働して成果を出すためには、メンバーの相互理解や信頼関係が欠かせません。また、営業や販売などであれば顧客、管理職であればメンバーの感情がどうなっているかを踏まえてアプローチやコミュニケーションをとらなければ、良い成果は生み出せないでしょう。
ただ、多くの人は、自分の経験からくる視点や価値観(パラダイム)で、相手や世界を見てしまう傾向があります。そのため、他者理解をするには、「まず、相手の理解に徹し、それから理解される」というコミュニケーションが必要です。
また、他者理解をするには、相手への誠実な関心や誠実な姿勢、積極的傾聴力なども必要になってくるでしょう。
自分活用
仕事やビジネスで成功するには、自分の感情をうまくマネジメントして、行動に反映していくことが大切です。自分活用に含まれる要素は、以下の3つになります。
- 平静 :いわゆるマインドフルネスなどの平静状態をつくる
- 創出 :目的に見合った感情をつくりだす
- 実行 :気持ちを行動に反映する
私たちのパフォーマンスは、能力やスキルだけでなく、「どのような気持ちで取り組むか?」にも左右されます。
まず基本として、落ち着いた平静な状態を作れることが大切です。いわゆるマインドフルネスの状態です。
マインドフルネスの平静な状態を基礎として、目的に見合った感情を作り出して、行動に反映することも大切です。
行動するうえでは、“明るく浮き浮きした気持ち”が常に一番良いわけではありません。たとえば、経理のデータにミスがないかをチェックするときに、浮き浮きした気持ちでやったらミスが生じやくなるでしょう。
一方で、新しいビジョンを発表してメンバーを巻き込みたいときには、やはり明るさや前向きさ、熱意などの感情が大切になってくるでしょう。
高いパフォーマンスを発揮するには、上記のように目的に合った感情を生み出し、行動に反映する力が必要です。
関係構築
関係構築とは、ほかのメンバーやお客様、取引先などとの信頼関係を構築するスキルです。関係構築に含まれる要素は、以下の3つになります。
- 心開 :オープンマインドで人に接する
- 気配り :相手の感情を踏まえて行動を選択する
- 動機づけ :相手の気持ちを動かす
たとえ、優秀なメンバーが集まっても、お互いの信頼関係がなければ、相乗効果は生まれません。また、いまの時代は、AIが知識労働の多くを代替してくれるようになりつつありますが、メンバーと信頼関係を構築したり感情を動かしたりすることは、まだAIにはできない仕事になります。
そのため、EQのなかでも信頼関係を構築するスキルの重要性は、特に増していると考えてよいでしょう。ただし、他者との関係構築は、自分理解や他者理解、自分活用のスキルがあってこそ効果的に実現できるものとなってきますので、まずは3つの分野をしっかりと高めることが大切です。
EQが高い人の特徴
EQが高い人には、以下の特徴があります。
自分の状態をよく理解している
EQが高い人は、メタ認知能力が高いです。自分の気持ち(喜怒哀楽)、体調などの状態をよく理解しています。自分の内面を把握できているからこそ、自分の内面を整えるアプローチができる、また、内面の状況に応じた適切な手が打てます。
前述のとおり、怒りをマネジメントするアンガーマネジメントなども、「自分の感情が高ぶっている」ことを自覚できなければ、適切に取り組むことはできません。自分の怒りやモチベーション低下などの問題に対して、適切な対処方法を講じていくことが「自分活用」につながります。
相手への共感力が高い
共感力とは、相手の意思や感情を理解する、そして、相手の立場で同じように感じるスキルです。他者理解の能力が高ければ、自分と意見や価値観の異なる相手に遭遇しても、まずは相手の話に耳を傾け、共感することが可能になります。
なお、共感とは、「ともに感じる」ことであり、相手の感情に「同意」することではありません。英語では、共感はエンパシー、同意(同感)はシンパシーと呼ばれます。
相手と同じように感じる必要はありません。想像力や心を使い「相手はどのように感じたのか?」をイメージして相手の感情に理解を示すことが大切です。
関係構築がうまい
人は相手から共感されると「自分のことをわかってくれた!」などのポジティブな気持ちになり、心を開いていくものです。したがって、共感力が高い人は、関係構築も上手であることが多いでしょう。
また、相手に本心や本音の感情を吐き出してもらうためには、自分が心を開くことも大切です。自分がオープンマインドで心を開いていなければ、相手も心を開きづらいでしょう。
良好な関係の構築には、まず、お互いが心を開くことが大切です。EQが高い人は、自分の心を開いたうえで相手への共感などを通じて、相手との関係構築や場づくりを上手にやっていきます。
感情に振りまわされない
自分や相手の感情を理解したうえで、自他の感情に振り回されないことも、EQが高い人の特徴です。
たとえば、噴出する怒りに自分自身が振り回されれば、いままで築いてきた良好な関係も台無しになってしまいます。また、ビジネスで成果を出し続けるには、関係する人の気持ちに配慮しつつも理性的に判断をする、そして、相手の感情に配慮しつつうまく伝えるといったことが大切です。
EQを高める方法
EQは、教育やトレーニングを通じて高められるものです。本章では、EQの向上に効果的な方法を紹介します。
診断を受ける
EQ診断を受けることで、自分の現状(特性、強み・弱み など)がわかります。現状を理解することで、効果的なトレーニングが可能になります。また、強みや弱みを自分で理解することで、意識的に弱みを補ったり、強みを活用したりすることも可能になります。
自分の感情を言語化する
自分の状態を客観的に把握するには、感情の言語化が有効です。たとえば、
- 自分の感情が動いた瞬間をノートに書き留める
- 毎朝感情を記録する
- 自分の感情の動きを言葉にする
などの方法がおすすめです。
最初のうちは、感情に対する語彙を増やす、感情を色でたとえるなどから始めてもよいでしょう。言語化を行なうことで、自分の状態を理解する力やメタ認知能力が向上しやすくなります。
相手の感情を探る
自分の感情が理解できるようになったら、相手の感情を考察します。
ただ、私たちは、それぞれの価値観や経験に基づいて物事を見ています。そのため、相手の感情を考察しても、たとえば、「どういう状態なのか?」や「なぜそう感じるのか?」などをイメージできないことも多いです。
相手の感情のイメージが難しい場合は、相手に直接訊いてみる、“理解しよう”とする姿勢を見せることも大切でしょう。
感情日記、メモをつける
EQを高めるには、前述のとおり、“自分の感情が動いた瞬間”の振り返りをすることがおすすめです。振り返り方法の一つが、感情日記です。感情日記の基本的な書き方は、以下の2ステップです。
- 感情が動いた出来事をメモする
- メモした感情や出来事で思ったことを素直に書く
また、上記の2ステップに加えて、自分の感情を数値化するのもよいでしょう(感情の振れ幅をMAX100として、感情の動きに点数を付ける形です)。
感情日記を通じて振り返りの習慣をつけると、たとえば、「自分の意見が通らないときに怒ってしまう」などの失敗パターンや成功パターンが見えてきます。成功パターン・失敗パターンがわかると、それらに対する適切な対処法の模索もしやすくなるでしょう。
EQ研修を受ける
EQ向上を相互理解や信頼関係の構築につなげていきたい人には、プロのEQ講師による診断や研修を受けることもおすすめです。
プロの講師に診断結果のフィードバックや研修をしてもらうと、自分だけでは気付かない特性や傾向も見えてきます。また、たとえば、「他者理解のスキルを向上させるには、どういうトレーニングをすればよいだろう?」というような疑問も解消しやすくなるでしょう。
まとめ
EQ(心の知能指数)とは、自分や相手の気持ちを感じ取ったり、感情をうまくマネジメントしたりする能力です。EQ(心の知能指数)は、教育やトレーニングを通じて高められる能力となります。
今後、AIが台頭したり、知識労働・感情労働が増えたりしてくるなかで、人間の強みであるEQの重要性が高まっていきます。EQに含まれるのは以下のような4つのスキルです。
<EQを構成する4つの要素>
- 自分理解
- 他者理解
- 自分活用
- 関係構築
なお、EQが高い人は、以下4つの特徴があります。
- 自分の状態をよく理解している
- 相手への共感力が高い
- 関係構築がうまい
- 感情に振りまわされない
そして、EQを高めるには、以下5つの方法を実践するのがおすすめです。
- 診断を受ける
- 自分の感情を言語化する
- 相手の感情を探る
- 感情日記、メモをつける
- EQ研修を受ける
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