<目次>
リーダーシップのリスキリングとは何か
そもそも「リスキリング(Reskilling)」とは何でしょうか。語義そのものが意味することは「学び直し」です。リスキリング=個人のデジタルスキル等を高めること、などといわれることが多いですが、個人の生産性を高めるだけでは、これからの時代、組織は成長していきません。
今、必要なのは、管理統制・トップダウン・説得中心の昭和型のマネジメントから抜け出せていない管理職層の、リーダーシップのリスキリングです。
不可避のリーダーシップのリスキリング
令和時代のマネジメント手法は、昭和時代のマネジメント手法とは大きく異なり、新しい時代の若者や組織のニーズに応じた変化が求められます。この不可避の変化は、さらに3つの変化に分けることができ、それぞれ「対話力の向上」「部下の強みを生かす育成力」「ボトムアップ型のチームビルディング」をキーワードとして説明することができます。
変化①指導方法の変化(キーワード:対話力の向上)
昭和時代のマネジメントでは、「仕事は見て覚えなさい」といった指導が基本でした。しかし現在は、「部下と一緒に考えながら、丁寧に伝えていく」という指導が求められています。
また、部下が行った仕事に対しては、以前は、上司から部下へ一方通行のフィードバックをするのが一般的でしたが、令和時代のマネジメントでは、部下と双方向の「対話」をしながら伝えることが求められています。
変化② 育成方針の変化(キーワード:部下の強みを生かす育成力)
かつての部下育成は、「部下の弱いところを指摘し、克服する」といったものが主流でした。たしかに、「モノを作れば売れるような時代」、いわば正解がわかっているような環境であれば、できるだけ弱点(減点)を作らない育成方針も有効だったかと思います。
しかし変化が速く多様性に富んだ現代において、よりイノベーティブな組織をつくるならば、社員一人ひとりの強みを見出し、その強みを最大限に生かすマネジメントに切り替えたほうが効果的です。
変化③ 組織のあり方の変化(キーワード:「ボトムアップ型のチームビルディング」)
昔ながらのトップダウン型・管理統制型組織から、ボトムアップ型・価値共創型組織への移行が進んでいます。変化が速い今の時代、上司がすべての正解を知っているとは限りません。むしろ現場に近い部下のほうが顧客ニーズをつかんでいる場合もあるでしょう。
こうした部下の声に十分に耳を傾けた上で意思決定をすることが、この時代に企業を成長させていく上で非常に重要です。
昭和時代と令和時代のマネジメントの違いは、世代や価値観の変化、技術の進化など、多岐にわたる要素に起因しています。この違いを理解し、現代の組織に合った新しいマネジメント手法を採用し、リーダーシップをリスキリングすることは、企業の成長と持続可能な競争力の確保のために不可欠です。
昭和型マネジメントvs令和型マネジメント
昭和時代のマネジメントと令和時代のマネジメントでは大きな違いがあり、その違いを理解しなければ、部下が育たず、組織の成長は止まります。
昭和時代に、トップダウン型・管理統制型のマネジメントによってリーダーシップが機能した背景には、高度経済成長期だったことがあります。高度経済成長期には、模倣・再現性を持たせ、繰り返しによって売上・業績を伸ばしていくことが正解でした。
しかし令和の今は、ただ真似るだけでは企業は生き残ることができません。成長のために新しい価値を創造しイノベーションを起こさなければならず、そのスピード感も求められます。組織の一人ひとりの主体性や強みを最大限に引き出すリーダーシップが必要とされているのです。
にもかかわらず、昭和型の管理職の中には、こうした「リーダーシップのあり方の変化」に戸惑っている方が多くいらっしゃいます。事実、ここ2~3年の間に、経営者から「管理職がリーダーシップを発揮して若手をうまくマネジメントすることができない」「このままではウチの組織はダメかもしれない。変えていかなければ」という相談が増えてきました。
今の管理職も、多くのことを経験した上で今の役職についていると思いますが、今の管理職が経験してきた働き方や上司・部下のコミュニケーションと、今、求められるそれとは異なります。例えば、以前であれば、
- 上司と時間や場所を長時間共有することで、互いの理解を深める
- 会社中心の人生設計
- 真面目に頑張っていればそれで良い
といった価値観があったかもしれませんが、今は違うのです。
令和時代の働き方やコミュニケーションの変化は、時代の変化を反映しており、これに合わせてマネジメントやリーダーシップも変化させる必要があります。上司と部下の関係も、対等で開かれた関係へとシフトする必要があるのです。
部下との信頼関係を築くこと、相手の強みを見抜いて生かすことが、今、求められています。このような視点から新しいコミュニケーションの形を構築していくことが、成功の鍵となるでしょう。
今、求められる「対話力」とは
部下との対話の重要性については冒頭でも触れましたが、もう少し深堀りしてみましょう。対話力が重要となった背景には、「指導方法の変化がある」と冒頭で述べました。
新しい仕事を教える(覚える)際、昭和時代は、「技術は盗むもの」とされ、「見て覚えろ」というのが一般的でした。しかし今の若者は「こんなやり方は、生産性が低い」と考えます。
彼らは、「はやくできるようになったほうが生産性が高い」と考えるため、初めから具体的なやり方を教わることを望みます。
一方で、「その仕事をする意味も理解して臨みたい」「できたら褒めてほしい」「自分の得意なことをしたい」といった志向もあるため、上司には、与える仕事の意味を伝え、適宜彼らを勇気付け、さらに彼らの強みを見抜くような指導が求められます。
本人との対話を通じてこうした指導をしていかないと、若者は満足せず、場合によっては離職してしまうこともあるのです。
かつての若手社員と随分違うと思われるかもしれませんが、それが事実です。これまでは「会社の都合に合った人材を育成する」「うちの会社で成功したいなら、こういうことが必要」という、組織都合によるコミュニケーションでも上手くいっていたかもしれません。
しかしこれからは、今の若者に合わせたコミュニケーションをとりながら、さらにそれぞれの強みを見出し生かすような関わりが求められます。それができる組織が成長するのです。
フィードバックについて
部下の仕事について所感やアドバイス等を伝えるフィードバックについても、もう少し深堀りしてみましょう。昭和型のフィードバックでは、部下に対し、課題や弱みを指摘し、奮起を促すアプローチが主流でした。
しかし今の時代に同様のフィードバックを行うと、部下が「もうダメだ」と自信を失い、そこから奮起することができなくなってしまうことが多々あります。
つまり、以前は「上司が言いたいことを言う」という上司主導型のフィードバックが主流でしたが、令和時代は、「上司は部下との『対話』を重視して、まず、部下が話したいことに耳を傾ける」ことが重要です。いわば「部下主導型」への変化とも言えるかもしれません。
部下の話を聴いたあとに自分が伝える際の「伝え方」にも注意が必要です。昭和時代は論理が重視されましたが、令和では感情の重要度が高まっています。部下の感情に寄り添い、部下の良い点は褒めながら、あるいは部下と一緒に考える姿勢を示しながら、伝えたいことを伝える必要があります。
こうした関わりによって部下の感情をポジティブな方向に導くには、繰り返しになりますが「対話力」が非常に重要です。
イノベーションを起こす組織とは
昔の管理職には、部下を管理統制し、部下に対して的確かつ詳細な指示を出す力が求められました(ピラミッド型組織での、指示命令型のマネジメント)。しかし令和時代は、上司が部下の考えや意見を尊重しながら意思決定をする、ボトムアップ型のマネジメントが求められています。
ここでも重要なのは「対話力」で、対話を通じて部下の感情をポジティブなものに変え、自発的に考える姿勢を引き出していくのです。なお、さらに進んだ理想の組織形態は、「上司が上、部下が下」といった「ピラミッド型」ではなく、「上司(リーダー)が円の中心に位置」する「サークル型」の組織です。
部下を尊重するという点においてボトムアップ型でありつつ、上司・部下がより対等な関係に近い「サークル型」の組織では、部下の強みや主体性がより引き出され、上司と部下の価値共創やイノベーションがさらに起こりやすくなります。
昭和は成長の時代であり、当時のリーダーシップの正解は、「上手くいった方法を模倣し、再現性を持たせること」でした。
しかし、事業の競争が激化している現代において、組織全体でスピード感をもってイノベーションを起こしていくには、部下一人ひとりの主体性や強みを最大限に引き出し生かすリーダーシップが不可欠です。
ここまで述べてきたように、リーダーシップのあり方は時代とともに変化します。そして、優れたリーダーシップがいつの時代も必要不可欠であることは、改めて言うまでもないでしょう。
だからこそ、昔ながらのリーダーシップで組織やチームをマネジメントしている人は、リスキリング、すなわち学び直しをする必要があるのです。デジタル系のスキルだけでなく、リーダーシップも、新しいスキルとして学び直すことが求められています。
令和時代のマネジメントには、昭和時代とは根本的に異なる価値観と、それに即したリーダーシップのスキルが必要です。
この変革は、組織の持続的成長と競争力強化のために不可欠であり、新しい時代に合ったリーダーシップのリスキリング、すなわち「対話力」「部下の強みを生かす育成力」「ボトムアップ型のチームビルディング力」を身に付けなければならないのです。







