アンガーマネジメントの実践には、いくつかの方法があります。本章では、アンガーマネジメントの効果的な実践方法として、主なものを解説します。
アンガーマネジメント研修を実施する
組織としてアンガーマネジメントを導入する上で、「アンガーマネジメント研修」は効果的な選択肢の1つです。ここでは、アンガーマネジメントが効果的なシーンや研修方法を簡単に紹介します。
怒りやすい社員がいる
アンガーマネジメント研修は、「部署内に普段からイライラしている人がいる」、「ピリピリして雰囲気の良くない現場がある」といったケースで効果が期待できるでしょう。「怒りの感情は周囲に伝染する」と言われますが、組織内に怒りやすい人間が一人いるだけで、職場内の空気は悪くなってしまいます。
職場に怒りやすい社員がいる場合、怒りやすい社員に対してどう対処していいかわからない管理職層に対して、アンガーマネジメント研修の実施を検討すると良いでしょう。
ワークショップで他者理解を深める
アンガーマネジメントを学ぶきっかけとして、リラックスした雰囲気の中で、アンガーマネジメントの有効性を体験するワークショップを設ける方法があります。
アンガーマネジメントを身に付ける上では、ワークショップの中で、自分以外の人間の怒りのポイントを理解することも有効です。例えば、実際に怒りやイライラの感情が湧いてくるような状況を設定し、各参加者に「その出来事にどの程度怒りを感じるか」を数値化してもらいましょう。
同じ出来事でも、人によって数値(=怒りを感じる度合い)はまったく異なるはずです。こうしたプロセスを踏むことで、自分と他人では、怒りのポイントが違うということに気づき、相手の感情に配慮したコミュニケーションを考えられるようになります。
価値観や常識の違いを学べるゲームもおすすめです。一例として、様々な価値観が書かれたカードから各自が重要と思うものを選び、選んだ理由や解釈を共有し合う「価値観カード」があります。
こうしたゲームを通じて、自分が常識だと思っていたことが他人からすると非常識であったり、自分は当然と思っていたことも実はそうではなかったりすることに気が付くかもしれません。価値観の違いを周囲と共有しあうことで、相手の怒りの理由を受け入れやすくなり、結果として怒りを感じる状況を減らすことに繋がります。
自分の性格を知る
前述したように、アンガーマネジメントを導入する第一歩は、自分の性格や価値観を知ってもらうことから始まります。人は案外、「自分の怒りのポイント」を理解していないものです。怒りのポイント、背景となっている価値観を認識してもらうことは、アンガーマネジメントを身に付ける上で大切なステップです。自分の性格を知る上で、効果的なやり方をいくつか紹介します。
アンガーマネジメント診断
怒りの感情は、個々人の心の中にある『~すべき』という価値観によって発生するということは、前述の通りです。アンガーマネジメント診断は、『~すべき』という自分の価値観をより明確に示してくれるツールです。
アンガーマネジメント診断は、以下のリンク先にあるような無料でできるものもあります。
無料アンガーマネジメント診断
上記のアンガーマネジメント診断を実施すると、自分の価値観=怒りのポイントが6タイプに分類されます。自分がどのタイプに属するのかを明確にすることは自己理解にも効果的です。
- 公明正大……正義感が強く、不正や曲がったことが許せない。マナー違反や犯罪に対して怒りを感じる
- 博学多才……何事も白黒はっきりつけないと気が済まない。はっきりしないことがあると怒りを感じる
- 天真爛漫……他人によって行動を制限されるなど、自分の意思通りに行動できないことに怒りを感じる
- 外柔内剛……自分の決めたルールに忠実な性格で、そのルールとは異なった出来事に遭遇すると怒りを感じる
- 威風堂々……承認欲求が高く、他人から軽んじられたり、マイナスの評価を受けたりすることに怒りを感じる
- 用心堅固……慎重派で警戒心が強い。自分の領域に無遠慮に踏み込まれることに怒りを感じる
アンガーログ、「べき」ログをつける
イライラしたときや怒りを感じたとき、手帳やアプリに記録を残すアンガーログもアンガーマネジメントに有効です。アンガーログの記録を振り返ることで、「自分が何に対し怒りを感じるのか」を、客観的に知ることができます。
記録する内容は、下記のように具体的にしておくと、より効果的な分析が可能になります。
アンガーログや「べき」ログの記録をつけてもらい、自身で分析して怒りのポイントを自覚することが大切です。記録をつけることで「自分はこんなポイントに怒っていたのか」「冷静に考えると、これはそんなに怒るようなことではないかも…」といったように、自身を客観視する機会になります。
怒りをクールダウンさせる方法を身に付ける
怒りを感じた時は、何か行動を起こす前に冷静になることが大切です。以下では、怒りをクールダウンさせる方法を紹介します。まず自分で試してみて、その上で研修に取り入れることをおすすめします。
心の中で6秒数える(6秒ルール)
怒りの感情は、長続きしないことでも知られています。『6秒』が怒りのピークといわれており、時間が経過すると徐々に落ち着いていきます。そのため、怒りを感じたときは、ピーク中の6秒間をいかに過ごすかが重要です。
具体的には「頭の中で6秒数える」などが効果的です。落ち着いて深呼吸してもよいでしょう。いずれにしても、怒りが収まるまでの間をやり過ごせるよう、各自にあったやり方を見つけ、いざという時に慌てずアクションできる準備をしておきましょう。
今の場からいったん離れる
怒りを感じたら、その場からいったん離れることも、前述の6秒ルールに近い行動テクニックです。
たとえば、気合を入れて作った企画に上司から開口一番にダメ出しされ、思わずカチンとなってしまったとします。この時、即座に反論すると、怒りの感情がピークに達しているため、以下のような行動をとってしまうかもしれません。
- いつもより強い口調になってしまう
- 相手に反論したり、非難する物言いをしてしまう
- 主張を通そうと思うあまり、誇張や嘘をいってしまう など
上記のような行動で人間関係を壊さないためには、怒りが生じたときに、その場を離れてクールダウンをすることもおすすめです。
会議中に離席をすれば、無責任やマナーが悪いと思われるかもしれません。しかし、怒りから生じた行動や言動で関係を破壊するよりは、勇気を持ってその場からいったん離れたほうがよいでしょう。
筋肉を緊張させる・緩めるを繰り返す
人は怒りを感じると、体が緊張します。そこで、緊張した体をリラックスさせることで怒りを抑える方法もあります。『漸進的筋弛緩法』と呼ばれる方法です。
漸進的筋弛緩法では、筋肉の緊張と弛緩を交互に行うことで、体をリラックスした状態へ導きます。具体的には、10秒ほど力を入れて、15秒ほど脱力する、という動作を繰り返します。
なお、『漸進的筋弛緩法』は、高血圧の人をはじめ、心身に何らかの異常のある人が行うのは推奨されていません。該当する場合は、『漸進的筋弛緩法』を試してもいいか、必ず医師に確認をとるようにしてください。
怒らずに、冷静に伝えるスキルを身に付ける
私たちは怒っているとき、どうしても攻撃的な態度をとってしまいがちです。しかし攻撃的な態度で相手とコミュニケーションを取ろうとしても、大抵の場合、良い結果にはなりません。以下では、何か不快なことなどがあった場合でも、感情的にならずに冷静に相手とコミュニケーションをとるための方法を紹介します。
傾聴とアサーティブコミュニケーションを学ぶ
『傾聴』とは相手に共感しながら理解を示すこと、『アサーティブコミュニケーション』とは、自分と相手の両方を尊重したコミュニケーションのことです。どちらにも共通するのは『相手を尊重すること』と『相手に共感すること』です。
例えば、相手のミスに対して怒りを感じた時は、相手の話に耳を傾け、相手の立場に立って、どうしてミスをしてしまったのかを考えてみましょう。落ち着いて考えることで相手の心情に共感できれば、相手が受け入れやすい言葉で冷静に対話できるはずです。
自分ができることは手を貸す
怒っている時は、往々にして怒りの対象を拒絶したい気持ちになりがちです。ですが、こうした時こそ、ぐっとこらえて、自分が相手にできることは何なのか考えることが大切です。
感情的に相手を非難したところで状況が好転するわけもなく、むしろ、相手との関係性に亀裂が入ってしまう可能性が高いでしょう。怒りのピークを過ぎたら、現状に対して自分が何をできるかを考え、勇気を出して相手に申し出てみましょう。
「いきなり怒鳴りつける」「恫喝する」といったパワハラまがいのコミュニケーションをすれば、こちらの主張は拒絶されてしまうかもしれません。こちらから手を貸すことを申し出ることで、建設的な対話ができる雰囲気が生まれるのです。
目的を伝えて納得させる
どうしても相手を叱らくてはならない時は、相手を『説得』するのではなく『納得』してもらう伝え方をしましょう。納得してもらうためには、「なぜ怒っているのかの要因」と「こちらに何を求めているのか」という目的をはっきり伝えることが大切です。
例えば、ミスをした部下に対して上司がすべきなのは『どうすれば次に同じミスをしないか』を部下自身に考えてもらうことです。自分の要望や期待を一方的に話すのではなく、ミスをした本人に再発防止策を考てもらい、納得した上で行動に移してもらうことを目指しましょう。
相手を責めたり、決めつけたりしない
私たちは怒っていると、つい相手を責める口調になったり、原因を一方的に決めつけてしまったりしがちです。しかし、大切なのは相手の意見をしっかり聞くことです。
相手を責めたり決めつけたりする姿勢は、「この人は自分のことをわかろうとしてくれない」と受け止められ、相手の気持ちが離れてしまう要因になってしまいます。
相手を責めるのではなく、今後どうすれば望む結果が得られるかの対策を一緒に考える姿勢が大切になります。相手から事情をしっかり聞くまでは「どうせお前は…」といった決めつけの言葉を言わないよう、肝に銘じておくようにしましょう。