関心のありかを見抜く|デール・カーネギー『人を動かす』

関心のありかを見抜く|デール・カーネギー『人を動かす』

私たちにとって、一番の関心事と言えるのは「自分自身」です。

 

したがって、自分が興味・関心あるテーマを誰かに話す時に私たちは心地よさを感じ、その話題を振ってくれて熱心に話を聴いてくれた相手には好感を覚えるものです。

 

コミュニケーションとリーダーシップに関するベストセラーである『人を動かす』の中で、著者のデール・カーネギーは「人の心をとらえる近道は、相手が最も深い関心を持っている問題を話題にすること」だと書いています。

 

本記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より、「人に好かれる6原則」のひとつとして紹介されている「関心のありかを見抜く」について解説します。

 

なお、本原則は書籍では「関心のありかを見抜く」ですが、デール・カーネギー研修の受講者に配られるゴールデンブックでは「相手の関心に合わせて話をする」と表記されています。

 

“何をすればいいか?”がより明確になった表記ですが、記事内では書籍の表現に合わせて解説していきます。

<目次>

『人を動かす』とデール・カーネギー

記事では最初に、『人を動かす』と著者であるデール・カーネギーについて簡単に紹介します。

 

デール・カーネギーとは

デール・カーネギーは、作家、講演者、そして自己啓発トレーニンの開発者として、世界的に知られている人物です。

 

デール・カーネギーが生を受けたのは、1888年のアメリカ・ミズーリ州でした。

 

カーネギーは地元の大学卒業後、雑誌記者や販売員などさまざまな仕事に就きながら、俳優になること目指します。

 

しかし、残念ながら、カーネギーはいずれの仕事でも目立った成果を残すことができず、望んでいた俳優になることも叶いませんでした。

 

失意の日々が続くカーネギーでしたが、ある時思いがけず、YMCAが主催する話し方教室の講師を担当する機会に恵まれます。

 

カーネギーが登壇したクラスは人気を集め、人気講師の座を獲得することになりました。このことがきっかけとなり、カーネギーはその後独立し、自分の研究所を立ち上げます。

 

カーネギーが生み出した成果はとどまるところを知らず、コミュニケーションやリーダーシップ、スピーチやプレゼンテーションといったトレーニング分野において、カーネギーは数々の成功を収めました。

 

著書『人を動かす』とは

カーネギーの名を広く世に知らしめたのが、ビジネス書、自己啓発書として全世界で1500万部を超える売り上げを記録した書籍『人を動かす』です。

 

本書には、他者に好かれ、周囲と好ましい人間関係を築き、人に大きな影響力を与えるための数々の原則が書かれています。

 

『人を動かす』は出版から80年以上が経った現在でも、時代や文化を越えたベストセラーとして読み継がれており、本書がいかに普遍的な人生の指南書として世界中から支持されているかが分かります。

 
『人を動かす』について知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。

「人に好かれる六原則」とは?

『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4パートで構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

 

本記事のテーマである「関心のありかを見抜く」は、「人に好かれる六原則」のひとつです。

 

「関心のありかを見抜く」の詳細を詳しく解説する前に、「人に好かれる六原則」の全体像をおおまかに紹介します。

 

1.誠実な関心を寄せる

冒頭で触れたように、私たちが最も関心を持っているものは「自分自身」です。

 

だからこそ、良好な人間関係を作りたい、相手に影響力を与えたいと思うのであれば、相手に関心を持つことが第一歩と言えます。

 

私たちは、自分自身に一番の関心があるからこそ、自分に対して関心を寄せ、自分を尊重してくれた相手には、好感を抱くようになるのです。

 

2.笑顔で接する

笑顔の人と接すると、気持ちが和らいで、こちらの表情もついつい緩んでしまった…このような経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

 

いつもニコニコと笑顔ができる人は、人に好かれる傾向にあり、周りには人の輪が絶えることはありません。

 

笑顔がもたらす恩恵について、カーネギーは本書の中で以下のように述べています。

「元手がいらない。しかも、利益は莫大。与えても減らず、与えられた人は豊かになる。 一瞬の間、見せれば、その記憶は永久に続く。どんな金持ちもこれなしでは暮らせない。どんな貧乏人もこれによって豊かになる。 家庭に幸福を、商売に善意をもたらす。友情の合言葉。家庭に幸福を、商売に善意をもたらす。友情の合言葉。疲れた人にとっては休養、失意の人にとっては光明、悲しむ人にとっては太陽、悩める人にとっては自然の解毒剤となる。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用.

 

3.名前を覚える

私たちにとって、「自分の名前」は非常に思い入れがある言葉です。自分の名前は、これまでの人生で最も多く耳にした言葉であり、自分自身を象徴するものです。

 

だからこそ、例えば、一度会っただけの人が自分の名前を憶えていて、久しぶりに再会したときに名前を呼んでくれれば、きっと嬉しくなるはずです。

 

人は誰もが、「自分が重要な存在であると、周囲に認めて欲しい」という承認欲求を持っており、とりわけ、自分の名前には並々ならぬ関心を抱いています。

 

たとえば、会社名、あるいは最近ではYoutubeのチャンネル名などを見ていくと、会社の創業者やユーチューバー本人の名前や苗字がたくさん使われていることが分かるでしょう。

 

これも、人々が自分の名前をことのほか大切でかけがえの無い存在だと認識し、自分の名前に影響力を持たせたい、重要性を持たせたいと思うからこそです。

 

だからこそ、出会った相手の名前を確実に覚え、会話の中でも意識して名前で呼びかける、相手の名前をうまく使うことは、相手への関心を示し、相手に重要感を与え、好ましい人間関係を築く近道となります。

 

4.聞き手にまわる

私達は往々にして、「コミュニケーション能力が高い」=「上手に喋る」ことであると思いがちです。

 

ですが、コミュニケーションにおいて、上手に喋ること以上に大切なのは「上手く聞く」ことです。

 

先述のように、私たちは自分自身に一番の関心があるからこそ、自分の話に耳を傾け、自分の話を大事なものとして尊重し、自分に重要感を与えてくれる相手に対して好感を抱きます。

 

相手の話をよく聞くことの重要性について、カーネギーは『人を動かす』の中でも、多数のエピソードを挙げながら説明しています。

 

5.関心のありかを見抜く

相手に気持ちよく喋ってもらうために何より効果的なのは、相手が興味・関心を持っている事柄を話してもらい、相手の話に真摯に耳を傾けることです。

 

だからこそ、相手がどんなことに最も関心を持っているかを見抜き、話題にすることが、人の心を捉える近道になります。

 

カーネギーは、相手の関心を見抜くことの大切さについて、アメリカ大統領であったルーズヴェルトのエピソードを基に分かりやすく解説しています。

 

また「関心のありかを見抜く」原則の詳細とルーズヴェルトの具体的なエピソードは次章で詳しく解説します。

 

6.心から褒める

私達の多くは、「自分は他人より何らかの点で優れている」「自分は重要な存在である」と心の底では思っており、他人が自分の重要性を認めてくれることを渇望しています。

 

だからこそ、相手を称賛し、相手の自己重要感を満たすことが、相手から信頼を勝ち取る上で欠かせない行為になります。

 

褒める時のポイントは、表面的なお世辞ではなく、心から賞賛するということです。

 

純粋な目で、相手が努力していること、気づいていない長所、素晴らしいと思うことを見つけ、素直に伝えましょう。

「相手の関心を見抜く」の詳細と実践

本章では、記事のテーマでもある「関心のありかを見抜く」について、詳しく解説していきます。

 

相手の関心のありかを見抜くためには

既にお伝えしたように、相手の心を捉え、距離を縮める一番の近道は、相手が最も関心を持っている事柄を把握して話題にすることです。

 

では、相手の関心のありかを見抜くためにはどうすればよいでしょうか。

 

カーネギーは本書の中で、“相手の関心事を捉える達人”と評された、セオドア・ルーズヴェルトのエピソードを紹介しています。

 

アメリカ大統領であったルーズヴェルトは、相手が誰であろうと、その人の関心を捉えた話題を豊富に持ち合わせていたといいます。

 

なぜルーズヴェルトは、そのような芸当ができたのでしょうか?

「(中略)種を明かせば簡単だ。ルーズヴェルトは、誰か訪ねてくる人があるとわかれば、その人の特に好きそうな問題について、前の晩に遅くまでかかかって研究しておいたのである。ルーズヴェルトも、他の指導者たちと同じように、人の心をとらえる近道は、相手が最も深い関心を持っている問題を話題にすることだと知っていたのだ。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

私たちにしても、自分の関心がある話題、よく知っている分野であれば、話を続けることはそれほど難しくはないかもしれません。

 

しかし、もし相手の関心事が、自分のよく知らない事柄の場合、盛り上がった会話をすることが難しいと思うのではないでしょうか。

 

このことは、博学で有名なルーズヴェルトであっても例外ではありません。

 

だからこそ、上記で引用したように、ルーズヴェルトは事前に相手の関心事を下調べして準備することに余念がなかったのです。

 

同様のケースは、ビジネスシーンでも身近に見ることができるでしょう。

 

例えば、高い成果を上げるインサイドセールスやフィールドセールスは、提案先の企業情報や広報ニュース、あるいは、商談相手のプロフィールを事前に確認したり、SNSなどをチェックしたりして商談の望むものです。

 

ルーズヴェルトの「前の晩に遅くまでかかかって研究する」という行為は、ビジネスでいえば「事前の情報収集」に他なりません。

 

相手のことについてしっかりと調べて、相手が関心をありそうなテーマを考えて準備する手間を惜しまないことが大切だということです。

 

「私はあなたに関心がある」ということを示す

相手の関心事を話題にするに当たって、もう一つ重要なポイントがあります。それは、会話を通じて「私はあなたに関心があります」と思ってもらうということです。

 

カーネギーは『人を動かす』の中でボーイ・スカウトの仕事をしているエドワード・チャリフという人物のエピソードを基に解説しています。

“ある日、私は、人の好意にすがるより他に方法のない問題と取り組んでいました。ヨーロッパで行なわれるスカウトの大会が間近に迫っており、その大会に代表の少年を一人出席させたいのですが、その費用を、ある大会社の社長に寄付してもらおうと思っていたのです。その社長に会いに出かける直前に、私はいい話を聞きました。その社長が百万ドルの小切手を振り出し、支払い済みになったその小切手を額に入れて飾ってあるというのです。

社長室に入ると、まず私はその小切手を見せてくれと頼みました。百万ドルの小切手! そういう多額の小切手を実際に見た話を、スカウトの子供たちに聞かせてやりたいのだと、私は言いました。社長は喜んでその小切手を見せてくれました。私は感心して、その小切手を振り出したいきさつを詳しく聞かせてもらいたいと頼みました」

読者もお気づきのことと思うが、チャリフ氏は、話のはじめにボーイ・スカウトやヨーロッパの大会、あるいは彼の希望などについては、いっさい触れていない。相手が関心を持っていることについて話している。その結果は、次のようになった──

「そのうちに、相手の社長は『ところで、あなたのご用件は、何でしたか』と訪ねました。そこで、私は用件を切り出しました。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

チャリフ氏は、商談相手の社長が、自分が支払った高額の小切手に誇りを持っていることを知り、その小切手の話題を振ります。

 

上記のエピソードにもある通り、チャリフ氏は、自分の要件であるボーイ・スカウトや大会への参加費について一切触れず、先方の関心事だけにフォーカスしていることが分かります。

 

チャリフ氏の事例では、最終的に社長は要望を引き受けてくれただけでなく、以降も様々な便宜を図ってくれるなど想像以上の大成功に終わったということでした。

 

もしチャリフ氏が、最初に「相手の関心事」に触れず、自分の関心事=寄付をしてほしいという話から始めていたら、きっと結果はまったく違うものになったでしょう。

 

たとえば、ビジネスでの商談や交渉をするとき、私たちは相手の関心事を話題にして、相手のことを知るためにヒアリングしているつもりでも、本音では「さっさと商品・サービスのプレゼンに入って買ってもらいたい!」と思ってしまっているケースが少なからずあります。

 

しかし、自分の要望・自分の関心事を念頭に置いて臨めば、無意識にうちにこちらの意図や本音が伝わってしまい、相手に簡単に見透かされてしまうでしょう。

 

しっかりとその場に集中して、自分の関心ではなく、相手自身・相手の関心事に集中しながら「私はあなたに関心がある」ということを示すことが大切です。

 

相手の関心を見抜き、それを話題にすることが双方の利益になる

ルーズヴェルトのエピソードでお伝えしたように、相手の関心を見抜いて話題にすることは、想像以上の大きな成果につながる可能性を秘めています。

 

しかし、実際のビジネスや人間関係では、手間をかけて相手の情報を調べ、話題に出したとしても、じつは相手の関心事と違っていたり、仮説が外れたりして、期待するような結果に結びつかないことも多々あります。

 

このような経験をしていると、「そこまでして相手の関心事に寄り添おうとする意味は、本当にあるのだろうか?」と疑問が湧いてくるかもしれません。

 

この疑問に対して、カーネギーは『人を動かす』の中で、以下のような考え方を示しています。

「相手次第で成果も違うが、概して言えば、どんな相手と話をしてもそのたびに自分自身の人生が広がる ー それが、何よりの成果だ」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

自分の話に関心をもって聞いてもらえたことで、相手は心地よさや自己重要感を得られるというのは、既にお伝えした通りです。

 

しかし、同時に自分にとっても、相手の関心事を見抜いて話題を振ることで、自分と違う人生を歩んできた相手から新しい知見を得るという成果が生まれます。

 

たとえ、今すぐの成果につながらないとしても、相手との好ましい人間関係構築には、確実にプラスの影響をもたらすことでしょう。

 

相手の関心を見抜き寄り添うことは、短期的な成果につながらないとしても、中長期的に自分にとっても必ず利益があることです。

まとめ

記事では、デール・カーネギーの人に好かれる六原則より、「関心のありかを見抜く」について、お伝えしました。

 

相手の心を捉え、距離を縮める一番の近道として、本記事では、相手が最も関心を持っている事柄を事前に下調べして話題にすると言う方法をお伝えしました。

 

HRドクターを運営する株式会社ジェイックは、正社員の人材紹介や法人向けの企業研修・セミナーを事業とする上場企業です。

 

ジェイックの営業メンバーにとって仕事で成果を上げるためには、何をおいてもまず顧客企業の担当者から信頼を勝ち取ることが不可欠です。

 

弊社でもやはり、コンスタントに成果を上げる営業メンバーは、相手・相手の関心事を下調べすることに時間を惜しみません。

 

たとえ、短期的な成果には結びつかなかったとしても、相手は、自分の話に関心をもって聞いてもらえたことによる喜びや自己重要感を感じられ、こちらは自分と違う人生を歩んできた人から新しい知見を得ることができる。

 

「関心のありかを見抜く」ということは、お互いがWin-Winの関係になれる人間関係構築の確かな原則だともいえるかもしれません。

 

なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。
 

「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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