ストレスマネジメントとは?効果と3つの導入ステップを解説

更新:2023/10/06

作成:2022/08/21

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

ストレスマネジメントとは?効果と3つの導入ステップを解説

ストレス社会ともいわれる現代において、重要性が増しているのがストレスマネジメントです。個人にとってもパフォーマンスを維持・向上させるうえで重要ですし、組織にとっても従業員のストレスマネジメント力を向上させることは大切です。

 

記事ではストレスマネジメントの概要や効果、またストレスマネジメントの実践ステップを紹介します。

<目次>

ストレスマネジメントとは?

ストレスマネジメントとは?

 

ストレスマネジメントとは、プライベートや仕事上の関係で受けているストレスの状況や原因を適切に把握して対応することで、ストレスの軽減や発散を図ることを指します。

 

ストレス自体は昔からあるものですが、現代のビジネスは処理する情報量の増大や求められるスピードの上昇、感情労働の拡大などにより、職場で感じるストレスは増える傾向にあります。したがって、ストレスを適切にコントロールするストレスマネジメントの重要性も増しているのです。

 

2021年に公表された厚生労働省『労働安全衛生調査(実態調査)』によると、「仕事や職業生活で強い不安やストレスを感じることがある」とした労働者は54.2%と過半数を超えています。

 

上記のデータからも、仕事に対してストレスを感じている労働者が非常に多いとわかります。ストレスを感じている労働者は増え続けており、厚生労働省『過労死等の労災補償状況』2020年版によれば、”精神障害に関わる労災請求・認定件数”は年々増加する傾向にあります。

 

ストレスからくる鬱や自律神経失調症など精神障害の発生は個人にとっても人生を狂わせてしまう大きな問題になりえます。そして、組織としても、労働者の休職や離職、周囲への影響への対応といったことは大きな負担となります。

 

精神障害に関わる労災の増加等の背景も踏まえ、2015年12月には改正労働安全衛生法が施行され、労働者数50人以上の事業所でストレスチェックと産業医の選任が義務化されています。企業には職場のストレスケア、またメンバーのレジリエンスやストレスマネジメント力の強化に取り組むことが求められています。

ストレスマネジメントの効果

ストレスマネジメントには、おもに3つの効果があります。

  • 身の健康を保てる
  • 労働環境が改善される
  • 仕事に対して安定したパフォーマンスを発揮できる

 

心身の健康を保てる

ストレスが蓄積すると、精神面だけでなく身体面にも悪影響を及ぼします。たとえば、心身症として消化性潰瘍や高血圧、気管支喘息などが挙げられます。また、精神面でも不安や抑うつ、錯乱状態などを引き起こしたり、反応性精神障害の可能性を高めたりします。

 

身体面や精神面への悪影響が重度のものになれば、長期間の休職を余儀なくされたり、離職したりする必要も出るでしょう。適切なストレスマネジメントの実践、レジリエンスの向上によって心身に悪影響が出ることを未然に防ぎ、健康に仕事に取り組めるようにすることが大切です。

 

労働環境が改善される

じつはストレスは本人への悪影響だけでなく、“セカンドハンド・ストレス”として、他人に悪影響を与えることも知られています。カリフォルニア大学リバーサイド校は、非言語で不安を強く表現している人が視界に入ると自分も同じ感情をいだきやすく、脳に悪影響を与えるという研究結果を発表しています。

 

つまり、職場で強いストレスを感じている社員が発生すると、その社員の周りの社員にもストレスが伝播していくのです。ストレスが蓄積すると、乱雑なコミュニケーションや人間関係への悪影響につながり、加速度的に職場全体のストレスレベルが高まっていくという悪循環に陥ります。

 

このような悪循環が発生しないように、社員一人ひとりがストレスマネジメントに取り組むことで、職場の労働環境が改善され、風通しの良い環境を維持する必要があります。

 

仕事に対して安定したパフォーマンスを発揮できる

なお、ストレスはけっして悪影響を与えるだけではありません。適度なストレスは緊張感をもたらし、集中力を高めるという研究結果があります。ロバート・ヤーキーズ博士とJ.D.ドットソン博士の実験研究である「ヤーキーズドットソン曲線」では以下3つの事実が示唆されています。

 

<ストレスとパフォーマンスの関係を示すヤーキーズドットソン曲線>

 

  • ①ストレスレベルが低すぎると、パフォーマンスが低下する。
  • ②ストレスレベルが一定を越えてしまうと、パフォーマンスが低下する。
  • ③ストレスレベルが適度にあると、良いパフォーマンスを発揮できる。

つまり、パフォーマンスを発揮するために適度なストレスは必要なものです。ただし、ストレスレベルが低すぎるというケースは、現代のビジネス社会においては稀でしょう。むしろ、今まで紹介してきたとおり強いストレスを感じている人の方が大多数を占めるわけです。

 

従って、安定して良いパフォーマンスを発揮するためには、ストレスマネジメントを通じて強いストレスを解消して、一定以下のストレスレベルを維持することが大切です。

 

組織にとってストレスマネジメントを支援するメリット

ここまでお読みいただいてお分かりの通り、組織が従業員のストレスマネジメントを支援することで、

 

  • -従業員の心身の不調を防げる
  • -休業や離職への対応が必要なくなる
  • -職場の雰囲気がよくなる
  • -個々が安定してパフォーマンスできる

 

といった効果があります。

 

精神障害の発生も増えている現在、組織にとっても従業員のストレスマネジメントを支援することは意味があることです。

ストレスマネジメントを実践する基本の3ステップ

ストレスマネジメントを実践するには、以下で紹介する3つのステップを実践しましょう。

 

ステップ①ストレス反応に気付く
ステップ②セルフモニタリングする
ステップ③ストレスコーピングを行なう

 

ステップ①ストレス反応に気付く

ストレスマネジメント実践を実践するためには、まず「自分が何にストレスを感じているか」を明確にすることが大切です。

 

ストレスを引き起こす要因、精神や身体に影響する外部からの刺激のことをストレッサーと呼び、おもに次の4つに分類されます。

  • ①物理的ストレッサー(寒冷、騒音など)
  • ②科学的ストレッサー(酸素、薬物など)
  • ③生物的ストレッサー(炎症、感染など)
  • ④心理的ストレッサー(怒り、不安など)

普段のプライベートやビジネスで、“ストレス”と呼ばれるものを引き起こす要因の殆どは心理的ストレッサーです。

 

ストレッサーによって引き起こされるおもなストレス反応は以下のとおりです。

 

<ストレス反応の主な種類>

  • ①身体的反応:過食、だるさ、疲労、肩こり、食欲不振、めまい、不眠、動悸、頭痛など
  • ②心理的反応:集中力の低下、うつ気分、不安、イライラ、物忘れ、落ち込み、うっかりミスなど
  • ③行動的反応:過食、生活の乱れ、性欲減退、暴言暴力、遅刻や欠勤、作業能力低下など

自分のストレス反応をしっかりと自覚して、同時に「なぜ怒りを感じているか?」「なぜ不安を感じているか?」「なぜこうなっているのか?」を言語化することが大切です。そのプロセスを通じて、ストレッサーが何かを明確にしていきましょう。

 

ステップ②セルフモニタリングする

ストレスマネジメントを実践する上では、身体的・心理的・行動的なストレス反応を継続的に記録(セルフモニタリング)することも有効です。

 

例えば、自分のストレス状況を1日3回、朝・昼・晩に10段階で点数をつけてみる。そして、心理状態や身体状況、ストレッサーに対する考察を書いてみるとよいでしょう。セルフモニタリングすることで「何がストレスなのか」「いつストレスを感じるか」「どのようなストレス反応が起きるか」がわかるようになります。

 

症状と原因を把握することで、理性による対応もしやすくなります。また、「なんとなくストレスを感じている」から、「自分はいまこういう状態で、これが原因だと思う」と自分を客観視する(メタ認知する)ことで、セルフモニタリング自体にもストレス緩和効果を期待できます。

 

ステップ③ストレスコーピングを行なう

ストレスコーピングとは、アメリカの心理学者ラザルスによって提唱されたストレッサーやストレス反応の負担を減らすための対処方法です。詳しくは次章で説明します。

ストレスマネジメントに有効なストレスコーピング

ストレスに対応するストレスコーピングは、大きく分けて2種類に分けられます。

  • 問題焦点型コーピング
  • 情動焦点型コーピング

 

問題焦点型コーピング

問題焦点型コーピングはストレッサー自体をなくしてストレスを解決しようとするアプローチです。

 

例えば対人関係がストレッサーである場合には、相手に直接働きかけて問題を解決します。また、相手と距離を取ってストレス自体を減らすことも、問題焦点型コーピングの一つといえるでしょう。

 

ほかにも「売上目標が未達だ」ということがストレスであれば、極端にいってしまうと、売上目標を達成させてしまえばストレスを感じることはなくなるわけです。

 

問題焦点型コーピングは、ストレスの根本的解決です。同時に「現実的にはできない」また「短期間では実現しない」こともあるでしょう。その際には、次の情動焦点型コーピングを並行することがお勧めです。

 

情動焦点型コーピング

情動焦点型コーピングは、ストレッサーに対する考え方や感じ方を変えることで、問題解決を図る手法です。

 

例えば、対人関係がストレッサーである場合に「この人が文句をいっているのは私の仕事に対してではなく、起きている現象に対してである。私に悪意があるわけではない」「この人は怒ることでしか感情表現できない人なのだ」「怒りは相手の問題であって、それによって私が精神的なプレッシャーを感じる必要はない」など、自分の考え方や感じ方を変えることでストレスの軽減を図ります。

 

ストレスは心理的なものであることが多く、受け止め方や捉え方を変えることでストレス状態を変えることができます。情動焦点型コーピングは、心理的ストレッサーに対しては特に有効な手法です。

ストレスマネジメントとレジリエンス

ストレスマネジメントとレジリエンス

 

ストレスマネジメントに類似したものにレジリエンスがあります。レジリエンスは「折れない心」などとも呼ばれ、目標達成などのプロセスで生じる問題やストレスを乗り越えていくスキルを指します。

 

レジリエンスの技術はストレスマネジメントする上でも有効ですので、社内においてレジリエンス研修などを実施することも非常におススメです。

ストレスマネジメントを導入・実践しよう

現代では、処理する情報量の拡大、求められる対応スピードの向上、感情労働の拡大などによって、多くの人が強いストレスを感じています。ストレスが蓄積されると、精神面や身体面に悪影響をおよぼします。ひどくなれば、休職や離職にもつながります。また、ストレスを感じている社員が増えると、職場の雰囲気は加速度的に悪化していきます。

 

だからこそ、個人がストレスマネジメント力を身に付ける、また、組織にとっても従業員のストレスマネジメント研修やレジリエンス研修を通じて、ストレスマネジメントを支援することは意味があることです。

 

ストレス反応の自覚やセルフモニタリング、ストレスコーピングの技術を身に付けることで、ストレスマネジメントは誰もが実践できるものです。ぜひストレスマネジメントやレジリエンスの技術を身に付けて、安定したパフォーマンスを実現しましょう。

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著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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