「新入社員を出来るだけ早く即戦力化したい」という声はよく伺います。新入社員を採用した目的や教育にかかる費用のことを考えれば、当たり前の話です。
戦力になるまでどれぐらいの期間を要するのかは企業によって違いますが、ほぼ全ての企業に共通する思いだと言えるでしょう。しかし、実際のところ「新入社員の即戦力化」は簡単にはいきません。
社会人経験のない新卒の場合は戦力化の前に社会人としての基礎研修が必要です。また、すぐにでも即戦力になってほしい中途の場合、他社経験があるからこそ、入社した企業の価値観や仕事の進め方、制度に馴染む時間が必要であり、組織に慣れて、始めて本来の力を発揮できます。
「即戦力化」を焦ってしまうと、せっかく採用した人材の早期離職に繋がってしまうことも考えられます。従って、新卒・中途を問わず、新入社員の即戦力化で最も大切なことは、「組織に馴染み、必要なスキル・仕事を1つずつ覚えていく」というプロセスを加速させることです。
今回の記事では、新卒から中途まで幅広い層の新入社員に使える、オンボーディングで即戦力化を行う考え方とやり方をご説明していきます。
<目次>
新卒から若手、中途まで!即戦力化を早めるオンボーディングの考え方
組織に馴染み、必要なスキル・仕事を1つずつ覚えていくというプロセスを加速できる「オンボーディング」の具体的な内容や考え方、そして、効果を最大限に発揮するための必要な環境がどのようなものか見ていきましょう。
オンボーディングとは?
オンボーディングとは、英語のon-board(船や飛行機、電車などに乗っている状態)から派生した言葉です。この数年、組織開発の世界で注目が集まっており、「新人が新しい組織や部署の環境に馴染み、早い段階で戦力として活躍できる状況を整える」ことを目的に行われるサポートの仕組みを指します。
多くの日本企業では、新入社員に対しては「ポテンシャル採用・一括採用」という特性上、しっかりと設計された長期間の集合研修が行われる仕組みがあります。一方で、現場配属後はOJTという名で現場に丸投げになっていたり、中途入社した人材に対しては十分なサポートが行き届かなかったりする側面がありました。
「オンボーディング」は、新入社員の受け入れプロセスであることは、新卒の受け入れ研修と同じですが、以下のような点が特徴です。
- 新卒のみならず、中途入社、スキルや経験を持つ専門職や管理職層も対象となる
- 単発の研修等ではなく、組織に馴染み、戦力化させるための継続的なプロセスを指す
- 入社した当人だけでなく、人事や上司、OJT指導者も対象としたプログラムである
オンボーディングを効果的にするための環境整備
新入社員のスムーズな組織への統合と戦力化を目指して行われるオンボーディングを効果的にするためには、「仕事」自体を整備していくことも大切です。
「新入社員の即戦力化」という言葉を使ってきましたが、「戦力」、すなわち「一人前」とはどんな状態か、明確になっているでしょうか。
「どれくらいのレベルのことを指すのか?」「どんな仕事が出来る必要があるか?」「そのためには、どんなスキルが必要なのか?」が決まっている状態と決まっていない状態で、新人育成のペースに差が生じることは想像に難くないと思います。
他にも環境整備としては、業務の定型化やノウハウの言語化が挙げられます。もちろん、全てをマニュアル化する必要はありませんし、ノウハウの肝は言語化できない部分にあったりもします。
しかし、「何を覚えればいいか?」「何を実現することがこの仕事のゴールか?」「この仕事でミスしやすいことは何か?」などが明確になっているだけで覚える側としては、吸収が早くなります。
一人前の定義や仕事の定型化、ノウハウの言語化が進んでくると、新入社員の目標設定、何をどういう順番で教えていくかの設計が、どんどん進めやすくなります。一人前になるまでのゴールが明確になり、たどり着くステップも明確になることで、本人の意欲向上や自発的な学習、成長実感の獲得も期待できます。
オンボーディングは「仕事の見える化」が進められることで、より効果的になります。ぜひ、オンボーディングの実践と並行して「仕事」の整備に取り組んでみてください。
オンボーディングを使った新入社員の即戦力化
オンボーディングは、大まかに分けて「基本プランの作成」「実行・フォロー」「見直し」の3フェーズからなります。オンボーディングを使った新入社員の即戦力化を、フェーズごとに見ていきましょう。
基本プランの作成
オンボーディングの実施は、基本プランの作成からスタートします。プランを作る際には、新入社員全体に共通する内容を軸に作っていくといいでしょう。
- 受け入れ準備(物品の手配、社員への告知、ブラザーシスターの決定)
- 組織への顔合わせ(社員への紹介、ウェルカムランチ、他部署への紹介)
- 自社理解(経営理念、会社概要、事業理解、社内用語、社員の顔と名前の一致)
- 成果創出(目標設定、業務スキルやフローの把握、必要スキルの習得)
- 進捗のケア(成果創出に対するレビュー、組織への馴染み方に関するケア)
これらの内容が基本プランを作るうえでの視点となります。共通部分を作ったうえで、新卒・中途、配属部門等に応じて、プランを調整していくイメージで作ると、汎用性があるものとなるでしょう。
新入社員が、仕事内容や職場環境を入社前に100%イメージすることは不可能ですし、同時に、入社後のギャップに対する新入社員の反応を企業が100%予想することも不可能です。新入社員と企業、双方がどれだけ注意深く進めたとしても、入社後に多かれ少なかれギャップが生じることは避けられません。
そこで、「ギャップの解消と組織への統合」「成果創出」という大きくは2つの視点からなる継続した受け入れプロセスを作ることで、新入社員が組織にスムーズに馴染み、戦力として成果をあげるまでの期間を最短にすることが出来ます。
実行とフォロー
オンボーディングの実行は、決めた基本プランを粛々と進めていくのみです。ここで重要なことは、基本プランの設計段階で、新入社員へのフォローを組織全体で行っていくように設計することです。例えば、HRドクターを運営する株式会社ジェイックでは、
- 人事部門
- 社長、配属事業の統括役員、他部門長orシニアマネージャー
- ブラザーシスター
- 配属部門の部門長
- 配属チームの社員
- OJT指導者
といったメンバーが新入社員の受け入れに関わります。これにより、会社としての期待感を伝える、OJT指導者に負担がかかり過ぎないようにする、業務指導とメンタル面でのフォローを分担するといったことを実現しています。
ポイントは、基本プランの段階で誰がどのように新入社員と関わるか、役割を明確に決めておくことです。例えば、
- 会社として歓迎を伝える(ウェルカムランチに社長と部門の統括役員が参加)
- 事業理解を進める(他部門の部門長)
- 業務面での目標設定やモチベート、OJT指導者のフォロー(配属部門の部門長)
- 実務指導(OJT指導者)
- 実務サポート(配属チームの社員)
- メンタル面のフォロー(人事とブラザーシスター)
といった形です。役割分担が決まっていることで、余裕を持って準備することが出来ますし、受け入れ側個々の負担も少なくなります。
また新入社員が抱えがちな『業務に疑問点がある。でも誰に聞けばいいかわからない』といったことは、OJT指導者と配属チームの社員に一本化しながら、そこでは出てきにくい『部署の雰囲気に馴染めない』『OJT指導者との人間関係がうまくいっていない』といった悩みも早期に拾えるようになります。
見直し
オンボーディングは実行しながら、常に振り返りを行っていきましょう。新入社員がつまずいたこと、目標に届かなかったことなどは、随時確認しましょう。
個別の問題であるケースもありますし、プログラムに入れておくことで対応できたであろう場合は基本プランに反映していきましょう。これを3~5回ほど繰り返すことで、基本プランの骨格が固まっていきます。
オンボーディングの導入効果
新入社員のみならず、上司やOJT指導者、先輩社員、人事など組織全体で実施するオンボーディングには、さまざまな効果が期待できます。具体的にどのような効果が期待できるでしょうか?
定着率が安定して向上する
オンボーディングが機能すれば、新入社員の早期離職が減少します。また、オンボーディングは組織全体の取り組みであり、OJT担当者などの個人スキルに依存しにくい仕組みですので、定着率の安定にも繋がります。
定着率の向上ノウハウは以下の記でも詳しくご紹介しています。
受け入れ部署の負担が減る
新入社員の受け入れは、受け入れ部門にとっては負担が発生します。OJT指導を出来るレベルの中堅社員が新人育成にあたることで、部門工数が削られパフォーマンスが落ちがちです。
しかし、オンボーディングの基本プランを作る、また並行して業務の定型化、言語化を進めておくことで、過度な負担が生じることを避けられます。また、上司や人事部門、ブラザーシスターが「業務指導」の周辺領域をサポートしてくれることも、OJT指導者の負担軽減に繋がります。
新入社員の即戦力化が早くなる
オンボーディングを活用すると、「組織に馴染むまでの時間」が短縮され、「成果創出のプロセス」が体系化されていきますので、新入社員の即戦力化が早まります。採用や育成コストの回収も早くなりますし、次の新人を配属できるようになるまでのリードタイムも短縮され、組織の成長スピードに繋がるでしょう。
まとめ
多くの企業にとって関心事である「新入社員の即戦力化」にはオンボーディングの導入が効果的です。新入社員の即戦力化に、魔法のようなショートカット施策はありません。
しかし、オンボーディングの活用で、「組織に馴染むまでの時間を短縮する」「成果創出のプロセスを体系化する」「メンタル面のフォローを仕組化する」という3つを同時に実現し、結果的に即戦力化を早めることが出来ます。
オンボーディングの効果は即戦力化だけにとどまらず、次の新人を配属するまでのリードタイムの短縮、早期離職の減少、受け入れ部署の負担が減るなどのメリットもありますので、ぜひ導入・活用をおすすめしたい仕組みです。