管理職を置かずに「自律・分散・協調」を実現するネットプロテクションズの組織開発

更新:2025/12/05

作成:2025/11/28

 

変化の激しい現代、従来のトップダウン型組織の限界を感じている人事責任者・担当者は少なくありません。特に事業拡大フェーズでは、意思決定の遅延や社員の主体性の低下といった課題が顕在化しがちです。

 

後払い決済サービス事業のリーディングカンパニーである株式会社ネットプロテクションズは、ティール型組織(自律分散型組織)を構築し、継続的な事業拡大を実現してきました。

 

同社はなぜこの経営スタイルを選び、いかにして課題を乗り越えてきたのでしょうか。その組織カルチャーの具体的な変遷やティール型組織へと進化した背景について、株式会社ネットプロテクションズ代表取締役の柴田紳氏に、『HRドクター』を運営する株式会社ジェイック取締役兼常務執行役員の近藤が、お話を伺いました(以下敬称略)。

 

対談記事のメインビジュアル用

<目次>

組織変革の原点と「ティール型組織」であり続ける理由

事業拡大に伴う組織課題の顕在化

近藤貴社は「ティール組織」という概念が一般化する以前から、その形態を自然と取り入れ、事業を拡大されてきました。まず、現在に至るまでの組織体制やカルチャーがどのように変わってきたのかお聞かせください。

 

柴田弊社は2002年にBNPL(後払い決済)サービスを開始しました。当時は、クレジットカードが普及しつつあったものの、銀行振込による前払い決済が主流であり「代金を振り込んだのに商品が届かない」といった問題が発生していたのです。

 

そこで「先に商品を受け取り、後で支払う」というBNPL事業を展開させていったところ、手軽さと安心感が大きな強みとなり、事業拡大に至りました。

 

柴田氏

 

柴田私自身は、BNPL事業の黎明期に弊社に参画し、2004年に代表取締役に就任しました。代表として組織の成長を担う中で、二つの大きな課題に直面しました。

 

一つは、組織の階層構造や部門の壁が情報流通や社員の意欲を阻害していると感じていたこと、もう一つは、いわゆる管理職としてのマネージャーを置くと、それ以外の社員から経営的な視点や意思決定の意識を奪ってしまうことです。これら階層型組織の弊害が、組織を分断する要因であり成長の足かせとなっていました。

 

そこで目指したのが、階層や壁がない組織です。私は、ドラッカーなどの書籍を熟読し「権限委譲」こそが鍵だと考えていました。私自身、権限をどんどんマネージャーに渡していきましたが、マネージャーが委譲された権限をその下のメンバーに渡さないことが多く、その結果として様々な部門であらゆる問題が発生する状況が続いていました。

 

ティール型組織の始まりと組織文化の確立

近藤「階層や壁がない組織」と言うのがまさに、後に「ティール組織」と呼ばれる概念だと思いますが、実現に向けた具体的な変革プロセスはどのようなものだったのでしょうか。

 

近藤氏

 

柴田具体的な取り組みの一つは、採用戦略の見直しです。応募者の経歴やスキルよりも「組織全体の共創を重視できるか」という点を重視しました。特定の個人が権限を独占したり、自己評価の追求を優先したりすることで、組織の自律性や協調性が損なわれることを防ぐためです。

 

また、2012年から約1年をかけて当時いた全社員で議論し、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を根本から作り直しました。

 

その背景には、2007年から新卒採用を開始し、優秀な人材が入ってきたことから来る「これだけ優秀な社員がいるのだから、全員が育つ環境にしなければならない」という危機感がありました。

 

同時に、当時の社員の過半数が「従来の“ボスマネジメント”ではないマネジメントスタイルが良いのではないか」という私の考えに共感していたため、過半数の支持がある今が変革の好機だとも判断しました。

 

社員には「MVVの検討を事業推進くらい重視してほしい」「自分が社長ならどうするか考えてほしい」などと伝え、ワークショップや合宿などを行いながら理想の組織スタイルを追求しました。

 

近藤全社員での議論では、どのような意見が出たのでしょうか。

 

柴田「プラットフォームを志向する会社になっていくべきだ」「多様性を受け入れられる会社でありたい」「次々と事業を生み出す会社でありたい」などの意見が出ていました。まさに今の弊社のミッションである「つぎのアタリマエをつくる」に近いものです。

 

同時に、理念を実行するうえで、当時の組織の「歪み」も浮き彫りになりました。特に優秀な新卒社員たちから「ミッションに対して、現場では別の行動が取られていますよね」など、明確な「歪み」を指摘する意見が出たのです。

 

社会に染まりきっていない彼らが「歪んでいる」と言うのであれば正すべきだと思い、「歪み」を一つずつ取り除いていった結果が、今の組織の形です。

 

結果として、議論を始めた当初から社員の半数が退職するという試練を伴いましたが、新しいスタイルに賛同する人材だけが残り、その後は「組織全体の共創を重視できるか」という明確な基準のもと採用を続けたため、組織はさらに強化されたと思います。

 

対談風景_引き

 

近藤現場で働く社員の声を聞いて、改善されていったのですね。こうした現場の声を聞くために、何か仕組みがあったのでしょうか。

 

柴田特に仕組みはなかったのですが、そういった批判や変革を求める声がダイレクトに社長である私に入ってくる環境はあったと思います。

 

当時はまだ社員数が少なかったことに加え、私も新卒研修を担当したり、飲み会に顔を出したりと、コミュニケーション量を増やすよう努力をしていました。だから新入社員からも積極的に声が上がってくるようになったのかもしれません。

 

ティール型組織を支える人事制度

「自律・分散・協調」を実現する仕組み

近藤ティール型組織へと移行されてから、その文化を支えるための人事制度をどのように設計されているのか教えてください。

 

柴田弊社の制度は、人事部だけで検討して定めたわけではありません。特徴的なのは、すでに組織内に自律的な文化が生まれていたことです。そこに「体(組織)が大きくなったから、それに合わせて新しいシャツ(制度)を買おう」というイメージで、組織の文化に合わせた人事制度を設計していきました。

 

こうして、2018年にスタートしたのが、自律・分散・協調を実現する人事制度「Natura(ナチュラ)」です。従来の評価制度にありがちな「報酬の適正配分」という趣旨を、「人材の育成・成長支援」へとシフトさせました。

 

これにより、社員間の競争意識を排除し、共創を重んじ、心理的安全性を醸成することで、社員が成長と価値発揮に集中できる環境を構築することを目指しています。

 

また、制度設計と合わせて、管理者としてのマネージャーを廃止し、各部署における「情報」「人材」「予算」の采配権限として「カタリスト」という役割を設置しました。

 

NP_人事評価制度「Natura」挿入画像
出典:ネットプロテクションズ公式サイト「人事評価制度『Natura』」

 

近藤カタリスト以外の社員の役割や昇進のタイミングなどは、どのように決められているのでしょうか。

 

柴田社員には「バンド制」という6段階のグレードを導入しており、各バンドで何か求められているのかは明確に定められています。

 

NP_バンド説明画像
出典:ネットプロテクションズ公式サイト「人事評価制度『Natura』」

 

情報と権限の共有がマネジメントの役割を果たす

管理職不在でも組織が機能する、社員の自律性を高める取り組み

近藤世間一般では「指示を出さないと社員が動かないのではないか」という考え方が依然として根強いと感じます。社員の自律性や主体性を高めるためにどのような取り組みを実践されていますか。

 

柴田私たちは、情報の透明性を徹底的に担保しています。社内の情報はなるべく全て開示しており、例えば経営層が参加する週次会議の議事録は、誰が何を話し、どのような発言をしたかを含め、ほぼ全面的に公開されます。これにより、会社全体で何が起きているのかを、ほぼリアルタイムで全員が把握できます。

 

部署の目標や方針も全社公開されているため、社員はそれらを参照し、自分の学習意欲や意思に基づいて今後の希望部署を検討できます。必要な情報を得られれば「自分もチャレンジしたい」と思える機会を自律的に見つけ、業務を選択することができると考えています。

 

加えて、勤務地の自由度も高く、先日まで東京で勤務していた人が、次週から大阪で働いているといった事例もあり得ますね。

 

トップの関与と「権限共有」の区別

近藤貴社では、社員への「権限委譲」や「権限共有」を推進されています。上場企業として株主への責任や最終的な経営成果を出す必要がある中で、社員への広範な権限委譲と、経営層が負う最終責任をどのように両立させているのでしょうか。

 

柴田上場企業として成果を上げ、株主などの外部からの期待に応える最終的な経営責任は、代表である私にあります。もちろん会社としての数値目標、つまり外部からの期待は、社員全員に伝達しています。

 

その上で、私からバンド上位層に、バンド上位層から一般社員に、さまざまな権限を委譲していきますが、部門を運営する上では、組織のあり方を考える「組織係」や、予算策定を行う「財務係」を置くなどの取り組みも自主的に行われています。

 

対談風景_寄り柴田氏

 

柴田基本的にはかなり大胆に権限を委譲しているのですが、委譲する部分と、自らが深く関わる部分を明確に分けています。MVVの副文やバンド制における各バンドの役割期待など、組織の「あるべき姿」や「理想」に関する部分は、それを最もよく理解し言語化できる私がほとんど作成しました。

 

逆に、社員が自律的に進める領域には介入しません。例えば、先日立ち上がった「新規事業プロジェクト」は、私は全く関わっておらず、社員の旗振りで始まりました。

 

こうして振り返ると、私たちの「権限委譲」は「権限共有」という意味合いが強いかもしれません。資本に関する情報など開示できない情報もわずかに存在しますが、それ以外の情報は極力組織全体で共有し、ブラックボックスを許容しません。オープンであることがすべての前提だと感じています。

 

「自走力」を磨き、主体性を強化する人材採用・育成戦略とは

「自走力」を核とした評価・学習支援

近藤貴社が実現されたティール型組織の文化を維持・強化していくために、社員のセルフリーダーシップや主体性の維持は不可欠です。組織が拡大するにつれて、この文化の維持は難しくなってくると思います。この課題に対し、人材育成や組織開発といった各領域で、どのような施策を実行されているのでしょうか。

 

柴田まず人材育成においては、コンピテンシー評価(360度評価)を実施しています。具体的には、半年に一度、社員全員が評価の対象となり、縦・横・斜めの関係性を踏まえ、一人あたり約10名程度から評価されます。

 

評価は「Good&More」という形式をとっており、上司からだけではなく、近い存在である同僚からフィードバックを得ることで、評価内容がより深く刺さりやすい側面がありますね。

 

重要なのは、評価や機会の公平性が担保されていることだと考えています。公平性があるから、弊社ではあまり嫉妬が出ない状態が実現されています。

 

社員がお互いの悪口や上層部への悪口をあまりに言わないので、中途入社の社員が驚くほどです。それよりも「将来どうしたいか」「会社をこうしていきたい」といった前向きな話をする文化が定着していますね。

 

近藤弊社が20代の就職支援などを行う中で、「正解を教えてほしい」「自ら成長したいというよりも、会社に成長“させて”ほしい」という姿勢を持つ若手社員が増えているという声を多くの企業から聞きます。このような背景の中で、貴社では採用する際に、特にどのような点を重視されていますか。

 

対談風景_寄り近藤氏

 

柴田採用において、特に重視しているのは「自走力」です。何でも良いので、大学時代などに徹底的に頑張った経験があるかを見ています。徹底した頑張った経験があるタイプの方は、どのような環境でも自分で走り始めると考えているからです。

 

入社後の研修体系としては、スキル系の研修は適宜用意していますが、あとは各バンドの役割に必要なコンピテンシーが、実質的な教育方針の役割を果たしているかもしれません。

 

制度面では、社員の自律的な学習を促すため、セミナー受講などの費用を最大10万円まで支給する「トレサポ」があります。あとは「マナブック」という制度もあり、社員が自由に本を選び、書評を書いて会社に寄贈すれば、会社が購入費用を全額負担します。

 

これらの制度も、社員一人ひとりの「自走力」を磨き、主体的に成長し続ける組織文化を支える要素の一つです。

 

階層構造のある組織でも実施可能な施策とは

「管理職なき組織」が実践する、自律と成長を支える施策

近藤多くの日本企業が階層構造を持っていますが、組織をより強固にし、社員の自律性を引き出したいと考えている点は共通していると思います。社員の自律性を高めるため、他社でも実践可能な具体的施策はございますか。

 

柴田自社の中で「特に輝いている部署」が一つはありませんか。その部署は、弊社が取り組んでいる組織作りに似たようなことを実行しているかもしれません。

 

例えば、権限委譲や権限共有が進んでいる、上司が「私が責任を取るから思い切り走れ」と言って部下を支援しているなどです。こうした部署の取り組みを社内に共有し、社員が楽しく自走できる環境やマネジメントを会社として広めていくのはどうでしょうか。

 

柴田氏

 

柴田一方で、自律性が高い組織であっても、一時的に成長スピードについていけなくなったり、モチベーションを維持しきれなくなったりする社員も出てきます。そうした際、弊社では周囲の社員が一生懸命サポートし、回復に至るケースが散見されます。

 

と同時に、高いスピードで成長を続ける環境だからこそ、「そこまで仕事だけを頑張りたいわけではない」という多様な価値観を持つ社員がいるのも自然なことです。そうした場合は、その人のキャリア観に合う別の環境を選ぶという決断も私たちは尊重しています。

 

弊社では、社員の「将来こうなりたい」というビジョンシートを作成してもらい、それを半年ごとに更新することで、異動希望なども含めた自律的なキャリア形成を支援しています。

 

こうした仕組みを通じ、社員一人ひとりが自らの可能性を最大限に発揮し、その知見をオープンに共有することで、組織全体をより大きな目的に向かって進化させていく。これこそが、管理職を置かず「自律・分散・協調」を実現したティール型組織として、これからの時代を生き抜くための一つのあり方なのかもしれません。

 

近藤本日は貴重なお話をありがとうございました!

Information
Information
対談した柴田社長がティール型組織について、より詳しく解説されている書籍を出版されています。記事をご覧になって、ティール型組織の構築について、より深く知りたい方は、ぜひ下記をご覧ください。

柴田紳『管理職を全廃しました 社員全員が自走する「ティール型組織」』(ダイヤモンド社)

 

プロフィール

柴田 紳氏
株式会社ネットプロテクションズ 代表取締役
柴田 紳氏
1998年に一橋大学卒業後、日商岩井株式会社(現・双日株式会社)に入社。2001年にIT系投資会社であるITX株式会社に入社し、株式会社ネットプロテクションズの買収に従事。すぐに出向し、何もないところから、日本初のリスク保証型後払い決済「NP後払い」を創り上げる。2017年、アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー特別賞を受賞。日本後払い決済サービス協会会長。
近藤 浩充
株式会社ジェイック取締役 常務執行役
近藤 浩充
大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか、人事メディアからの取材や寄稿も多数実績あり。

 

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