「最近の若手は何を考えているのか分からない」「以前と同じやり方が通じなくなってきた」
新入社員・若手の育成において、こうした声を現場や経営層から聞く機会が年々増えています。背景には、採用市場の売り手化、価値観の多様化、そしてテクノロジーによる社会変化などがあり、従来型の人材育成・マネジメントスタイルが通用しづらくなっている現実があります。
本レポートでは、株式会社ジェイックが2025年3月末〜4月中旬にかけて実施した、新入社員研修受講者935名を対象とした無記名のWebアンケート調査に基づき、2025年4月入社の新入社員の特徴を、時代背景から丁寧に紐解きます。
彼らの価値観や志向性、そして育成のポイントについて、3年連続での推移比較も交え、今年特有の変化や際立った傾向を定量・定性の両面から解説します。
また、経営・人事の皆様にとって「新人の早期離職を防ぐ」「エンゲージメントを高める」「受け入れ現場との接続を強化する」ための具体的施策や視点も提示しています。
特に、現場の管理職が育成で戸惑いや迷いを感じるケースが多くなっている今、企業全体でどう新人世代と向き合うか、どのような「体験」を通じて成長を支援するかが、ますます重要になっています。
本レポートが、新人育成のヒントを見出し、貴社の人材戦略をより強固なものとする一助となれば幸いです。
<目次>
1.時代背景から読み解く!2025年新入社員の傾向
2025年春に入社した新入社員たちは、2002〜2003年前後に生まれた世代です(浪人や留年しなかった4大卒を対象とした一般論)。
彼らが社会に出るまでに通過してきた社会的・教育的環境、そしてその中で育まれてきた価値観を理解することは、彼らの行動特性や仕事観を把握する上で欠かせません。
本章では、彼らの生い立ちを、時代背景からたどりながら、「価値観」「キャリア観」「人間関係」「学習スタイル」といった側面での特徴を読み解いていきます。
1-1.「不安定な時代」を生きた、慎重で現実的な世代
2025年新入社員の育ってきた時代は、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、新型コロナウイルスの世界的流行(2020年)が重なっています。
このような社会的ショックを幼少期〜青年期に経験したことにより、彼らの根底には「安定志向」「堅実性」「リスク回避」の価値観が根づいています。
こうした背景から、就職活動においても「給与」「勤務地」などの条件面よりも、長期的に自分が成長できるか、自分に合った働き方ができるかといった「確実性」を重視する傾向が強まっています。
挑戦や変化よりも「納得感」や「安心感」を求める価値観は、Z世代の中でも特に顕著になってきている印象です。
また、「会社に依存せず、自らのキャリアを自律的に築く」という意識も高まっており、いわゆる「昭和型」の年功序列・終身雇用の価値観とは一線を画しています。
「成長できる環境があるかどうか」が入社の決め手として3年連続で上昇している背景には、この堅実なキャリア観の広がりがあるといえるでしょう。
1-2.「デジタルネイティブ」かつ「リアル経験に乏しい」世代
この世代のもう一つの大きな特徴は、「デジタルネイティブ」であることです。小学校高学年からスマートフォンを所持し、SNS(LINEやInstagramなど)を使いこなしてきた彼らは、情報収集力や処理速度に優れ、必要な情報を瞬時に取りに行くことを当たり前のように行います。
一方で、大学生活の前半〜中盤を通して、コロナ禍によるオンライン授業中心の学びと人間関係構築を経験したことで、「対面での雑談」や「リアルな空間での共同作業」に対する不安を抱え、不慣れな点も見られるケースも少なくありません。
「情報には強いが、人には不安」という二面性があり、入社後の配属先での「声かけができない」「報連相のタイミングが分からない」といった課題につながることがあります。
●「なぜこちらから話しかけないとコミュニケーションが始まらないのか?」
●「雑談が続かない。何を話していいのか分からない様子だった」
●「対面になると明らかに緊張している」
こうした傾向を「コミュニケーション能力が低い」と断ずるのではなく、育った背景を理解し、彼らがリアル環境に適応するための「支援型アプローチ」が求められています。
1-3.「意味」と「共感」がモチベーションの源泉
2025年新入社員は、SDGsやダイバーシティ教育を中学・高校から受けており、社会課題に対する関心が非常に高い傾向にあります。
企業の「理念」や「存在意義」に強く惹かれる層も増えており、「なぜこの仕事をするのか」「誰の役に立っているのか」といった「意味づけ」のある仕事にやりがいを感じるという声は年々増えています。
そのため、入社後の定着率やエンゲージメントを高めるうえで、仕事の背景や社会的意義を説明する「意味づけコミュニケーション」は不可欠です。
上司や先輩社員が、「ただの作業」ではなく、「誰のために・なぜ・どう貢献できるのか」を語れるかどうかが、若手のやる気や当事者意識に直結します。
新入社員の価値観の変化しているけれども、現場では上司や先輩社員が、「うちは昔からこうだから」「とにかくやってみろ」といった伝え方がされていることもあります。それは、価値観ギャップによる早期離職のリスクを高めてしまう危険性があります。
1-4.「横並び」を好み、「上意下達」には反発する傾向
加えて、新入社員たちは「上下関係」よりも「信頼関係」「対等さ」を重視する傾向にあります。
組織内の上下よりも、「自分を大切にしてくれるか」「話を聞いてくれるか」といった心理的安全性や「人間性」を重視する上司像が理想とされているのです。
実際、調査では「理想の上司」像として以下の3つが上位に挙がりました。
●相談に乗ってくれる
●公平に評価してくれる
一方で、「成果を上げている」「本気で指導してくれる」といった項目は、3年連続で下位に沈んでいます。 これは、過去の「熱血型マネジメント」に対する警戒感とも言えるでしょう。
背景にあるのは…
●部活での理不尽な上下関係を反面教師として捉えている
●「寄り添う」「対話する」ことが育成だと感じている
つまり、「威圧感」ではなく「伴走感」が求められているということです。
1-5.Z世代後期ならではの「タイパ志向」
もう一つ注目すべきは、「タイパ(タイムパフォーマンス)」を強く意識する傾向です。YouTubeやSNS、生成AIといった(彼らの主観では)効率的な情報取得に慣れている彼らにとっては、「効率よく学びたい」「無駄な時間は避けたい」という志向が自然な感覚です。
この傾向は、指導に対する期待にも表れており、「叱られたくない」「注意されたくない」というわけではなく、むしろ「ダメなところはハッキリ言ってほしい」という声が強まっています。
2025年調査では、「ダメを指摘してほしい」が指導への期待1位に浮上。さらに「指示を具体的に出す」「目的や理由をセットで伝える」ことも重要視されています。これは、彼らが時間を無駄にせず、効率的に学び、成長していくためのフィードバックを求めていることの表れです。
ここから導き出されるのは、「感情的な叱責」ではなく、「具体的・合理的なフィードバック」が求められているという点です。
1-6.まとめ:時代背景を「知る」ことが、育成の第一歩
2025年新入社員は、安定を求め、共感を大切にし、効率よく成長したいと願う世代です。
彼らの特徴を一言で表すならば、「堅実で慎重、かつ自己成長意欲が高い「共感型リアリスト」と言えるかもしれません。
人事や経営層にとって、この時代背景を正しく理解することは、受け入れ設計や育成方針の再構築において、非常に重要な出発点になります。
2.900人の声から見る「2025年新入社員の本音」
本章では、それらが実際にどのような形で就職活動や入社判断、職場への期待に現れているのかを、935名の新入社員によるアンケート結果を基に詳しく見ていきます。
各アンケート調査結果の詳細と考察は後述しますが、2023~2025年の調査を総覧すると、2025年新入社員の価値観は「成長できる環境で働きたい」「伴走してくれる上司と働きたい」を軸に、直近3年は横ばいで推移しており、全体的に大きな揺れは確認できません。2025年のデータは2023,2024年を「追認」する色合いが強く、新人世代の志向では、急激なパラダイムシフトは起きていないと言えます。
そのため、人事・経営層は新人育成を大きく変更するのではなく、既存の施策を“微調整・改善”しながら細部を磨き上げることに重きを置くと良いでしょう。
2-1.就活の軸:今年最も伸びたのは「自己成長」
就職活動における企業選びの基準(就活の軸)として、2025年新入社員の約70%が「業界・職種」を挙げ、引き続き最多回答となりました。これは例年と同様の傾向です。一方で、2024年に比べて最も伸び幅が大きかったのが「キャリアアップ・自己成長」という項目です。
昨年比で4ポイント以上の上昇を見せたこの項目は、今や「勤務地・転勤の有無」「企業風土」と並び、待遇や制度面以上に「成長機会」が重視される時代になったことを示唆しています。
1位:業界・職種
2位:勤務地・転勤の有無
3位:企業風土(社員の雰囲気)
採用活動において、「有給の取りやすさ」「初任給」「福利厚生」などを前面に出す企業も多かったかもしれませんが、今後は「入社後にどのように成長できるか」「どのようなキャリアを描けるか」という「自己投資的視点」に応える情報提供が必須となってきます。
2-2.入社の決め手:重視されるのは「誰と」より「どう成長できるか」
就職活動のスタート時点では「業界や待遇」などが重視されますが、実際に「入社を決めた理由(最終決定)」としては別の要素が浮かび上がってきます。
2025年のデータで注目すべきは、「成長できる環境があると感じた」が3年連続でスコアを伸ばし続けていることです。特筆すべきは、「面接してくれた人が魅力的だった」という項目が年々下がってきており、「人の魅力」よりも「成長環境」が明確に重視されるようになっている点です。
1位:事業内容に興味があった
2位:成長できる環境があると感じた
3位:面接してくれた社員が魅力的だった
2-3.理想の上司像:「成果」より「信頼・人間性・公平性」
上司に対する理想像を尋ねた設問では、「人間的に尊敬できる」「相談に乗ってくれる」「公平に評価してくれる」という項目が、2023年から3年連続でトップ3を占めました。
一方、「成果を上げている」「本気で指導してくれる」といった項目は3年連続で最下位圏に沈んでおり、「実績重視」のリーダーシップ像はもはや理想とは見なされていないということが明確になっています。
この背景には、部活動やアルバイトにおける「熱血型」の指導や、SNSで目にした「パワハラ」「ブラック上司」へのアレルギーが根づいていると考えられます。圧をかけるような上司像は忌避され、信頼できる「伴走型」の上司像が求められているのです。
●「相談に乗れる上司」であること
●「評価に一貫性と公平性があること」
●「役職や成果ではなく、「人として」尊敬される振る舞い」
2-4.求める指導スタイル:「ダメ出しされたい」時代のリアル
意外に思われるかもしれませんが、2025年の調査では「ダメなことはきっちり指摘してほしい」が指導スタイルとして1位に選ばれました。これは、いわゆる「叱られたくない若手」というイメージと真逆の結果です。
ただし、ここで重要なのは、「感情的に怒ってほしい」のではなく「論理的に、具体的に、明確に伝えてほしい」という点です。単に否定されるのではなく、理由・背景・改善の方向性を添えてフィードバックされることに安心感を持つという姿勢が強くなっています。
1位:ダメなことをきっちり指摘してほしい
2位:指示を具体的に出してほしい
3位:仕事の目的や意味を教えてほしい
このように、Z世代の新入社員は「正解を明示してくれる指導者像」を求めています。裏を返せば、「言わずとも察せよ」「空気を読め」という文化では育ってきていないため、丁寧な言語化・意味付けが必須となっているのです。
2-5.厳しさではなく、精度とスピードを重視
「フィードバックは欲しいが、長すぎる話は嫌がられる」これは現場でよく聞かれる声です。新人研修でも、「長時間説教」は逆効果となる場面が多くあります。求められているのは、短時間で要点を押さえた、明確なメッセージングです。
たとえば、「声が小さい」という指摘に対しても、「3倍の声量で」「理由は○○だから」と伝えれば、すぐに修正してくれる事例も多くあります。これは、合理性と「タイパ志向」を兼ね備えたZ世代の特徴が現れているとも言えるでしょう。
2-6.意欲が高い人材ほど、「ぬるさ」に失望する
意外にも、「厳しい会社は嫌」という声よりも、「ぬるくて成長できない環境が嫌」という不満の方が、新入社員の口からよく聞かれるようになっています。
ある企業では、配属後に「注意されない」「指導されない」「周囲もだらけている」ことに疑問を持った新人が、「この環境では成長できない」と訴えてきたという実例もあります。
つまり、意欲の高い新人ほど、育成意識が低い職場には敏感であり、「ぬるさ」を感じると早々に離職を検討する可能性があるのです。
2-7.まとめ:新入社員の「本音」を起点に育成設計を見直す
ここまで見てきたように、2025年の新入社員は、「成長機会」に対して非常に鋭い感度を持っています。企業選び・入社の決断・上司に求める姿・指導への期待、いずれにも「効率的に成長できる環境かどうか」という観点が貫かれていました。
指導者には、「感情」ではなく「構造化されたフィードバック」が求められ、職場には「理想の自分に近づける環境」が求められている時代。人事・経営は、育成やOJTの「型」そのものを見直すタイミングに差し掛かっているといえるでしょう。
本記事は、全2部構成でお送りします。Vol.2は下記よりどうぞ。