「なぜ自分が?」新人教育を任させる理由の伝え方と任せる人材のポイント

更新:2023/07/28

作成:2021/07/02

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

「なぜ自分が?」新人教育を任させる理由の伝え方と任せる人材のポイント

企業にとって新人教育は組織の未来をつくる重要な仕事です。初期教育はもちろん、座学では身に付かない実践的なノウハウを身に付けてもらい、1人前の成果をあげてもらうためのOJTも同様です。

 

一方で、新人教育の指導やOJTを任せられて「負担が大きい……」と感じてしまう現場社員も少なくないのが事実です。記事では、新人教育を任せるべき人材の特徴や新人教育を任せる理由の伝え方、教育担当者・OJT指導者の意欲を引き出すポイントを解説します。

<目次>

「なぜ自分が?」と新人教育を任される人が思ってしまう理由は?

疑問を抱くビジネスマン

 

企業の新人教育は、人事主導のOff-JTとOJT、そして現場配属後のOJTという構成になっているのが一般的です。現場配属後のOJTは、各部門で入社3~7年目ぐらいの若手社員に任されることが多く、自分の業務をこなしながら新人教育を任されることになります。

 

新人教育を任されることに伴って負荷が生じる一方で、プレイヤーとしての目標等が緩くなることはない、という企業が大半です。従って、実務的・精神的な負担から「なぜ自分が教育担当を任されたのか」「任されるのはしんどい…」と思ってしまう社員も少なくありません。

 

特に昨今では、働き方改革により長時間労働ができなかったり、価値観の変化やハラスメントの厳格化に伴ってマネジメントのトラブルが生じやすかったりと、教育担当者にかかる負荷は大きくなっていると言えます。

 

<教育担当者が抱えやすい悩み>
  • 自分の業務に支障が出る
  • 教育の仕方がわからない
  • 新入社員とコミュニケーションがうまく取れない
  • 指導内容が多すぎる
  • 上司からのプレッシャーがかかる

 

こうした悩みを抱え込まないように注意するポイントを見ていきましょう。

新人教育を任される人材の特徴とは?

新人教育という重要なポジションを任せるべき人材は、ただ能力がある、技術がある、というだけでは不足です。以下は新人教育を任される人材、任せるべき人材のおもな特徴です。

 

<新人教育を任される人材、任せるべき人材の特徴>
  • 新人に教えられるだけの実務経験がある
  • 仕事で一定以上の結果を出している
  • 仕事のやりがいを見出している
  • コミュニケーション力がある
  • 仕事への姿勢や考え方が新人の模範となる

など

 

スキルが高く結果を出している人材でも、仕事への姿勢や態度に問題があれば、新入社員のマインドに悪い影響を与えてしまいます。

 

従って、実務を教えられるだけの能力や技術があることは大前提ですが、仕事に対する主体性、周囲との関係性、社会人としては模範になる考え方等も新人教育を任せるうえでは重要な基準になります。

 

ほかにも、仕事のおもしろさや大変さ、自分が新人のときにどう苦労し、どう頑張ってきたのか、といったリアルな体験を新人に伝えてあげられるかどうかもポイントです。

 

新人教育は知識や技術を習得させるという側面だけでなく、新人に対して仕事のおもしろさややりがい、価値を知ってもらうという側面もあります。だからこそ、教える先輩社員が実際に仕事のおもしろさや意味を見出しており、実体験として自分の言葉で伝えられることが大切なのです。

 

また、人材育成に力を入れている企業では、将来のチームリーダーやマネージャー候補を新人教育担当に任命する傾向もあります。

 

そのため、新人教育を任せられることはリーダー候補として認められた第一歩であることも多いのですが、一方で、「評価しているからこそ今後の期待も込めて任せる」組織の視点と「業務負荷が増える…」という任された本人の視点でギャップが生じがちです。

「新人教育を任される理由」の伝え方

屋上で休憩するビジネスマン

 

新人教育を任された人が「なぜ自分が…」と思ってしまわないためには、人事担当や上司からの働きかけが大切です。教育担当という役割をしっかり受け止められるようにする3つのポイントを解説します。

 

 

新人を育てる重要性を発信する

まずは、組織にとっての「新人を育てる重要性」をしっかり伝えることが必要です。新人教育は、10年後20年後のリーダーを育てる仕事であるとともに、まだ社会人としての色がない新人に基準や姿勢を教えるプロセスです。

 

特に現場配属後のOJTは、新人と近い距離で仕事のスキルと共にやりがいや価値を伝える特に重要なパートです。新人を育てる重要性を、組織内で発信していきましょう。

 

新人教育は「雑用」ではなく「重要な仕事」であることが組織に浸透すると、OJTを任せられた教育担当者も「重要な仕事を任された」「評価されているからこそ」と、プラスに受け止めやすくなります。

 

 

選ばれた理由と期待を伝える

組織として新人教育の重要性を伝えたうえで、新人教育を任せる人には、「主体性や仕事への態度、姿勢が評価されているからこそ、教育を任せた」ことを伝えます。

 

「教育担当は能力・技術があるとだけでは任せられない。教育を任せたということは実績やスキルに加えて、人間性や仕事への姿勢も評価しているからだ」としっかりと伝え、また、「将来的にチームリーダー、マネージャーになるうえでも、人材育成の経験を積む機会だ」と期待値も共有しましょう。

 

実際に伝える際には、評価しているポイントや新人に真似して欲しい(受け継いで欲しい)評価ポイントも具体的に伝えましょう。本人も「自分にしかできない」「期待されている」と前向きな気持ちになれます。

 

 

新人教育を通じて得られるものを伝える

仕事を教えるには自分のなかで知識を整理し、体系化する必要があります。仕事の全体像や大きなゴールを再確認したり、業務プロセスを細分化したりする過程でも、新たな気付きがあるでしょう。よく言われることですが、「教えることは自分自身の学びになる」のです。

 

また、新人指導するうえでは、ラーニングピラミッド、コルブの学習モデル、コーチング、フィードバックのコツなど、さまざまな教え方のスキルを身に付けていくことになるでしょう。

 

仕事の体系やノウハウを整理したり、新人育成するうえで身に付けたりしたスキルは、今後チームリーダーや管理職へステップアップしていく通過ステップになります。新人教育によって得られる“自分自身のメリット”もしっかりと伝えましょう。

教育担当者の意欲を引き出し保つには?

新人教育担当者が意欲的に指導するためには、事前準備やサポートも大切です。教育担当者の意欲を引き出し保つためのポイントを3つ紹介します。

 

 

教え方のトレーニングをする

プレイヤーとして業務内容を熟知しており、しっかり実行できたとしても、うまく他人に教えられるとは限りません。ましてや相手が入社したばかりの新人となれば、なおさら教えることは難しくなります。

 

そのため、OJTを任せる教育担当者には、事前に「教え方のトレーニング」を行なうことが効果的です。教え方がわかっていれば教育担当者も余裕を持って指導ができます。また、特別に研修を受けることは、“新人教育の担当者として選ばれた”ことの価値づけにもなり、教育担当者の意欲を引き出すことに繋がります。

 

OJTを担当する教育担当者向けの代表的なトレーニングとしては4段階職業指導法やラーニングピラミッド、経験学習モデル、コミュニケーションスタイル、フィードバックのやり方などがあります。

 

<4段階職業指導法>

アメリカで誕生したOJTのルーツとも言える指導方法です。非常に簡単ですので、個々のステップでの押さえるべきコツを学べば、簡単に実践できます。

 

  • ステップ1:Show(やってみせる)
  • ステップ2:Tell(説明する)
  • ステップ3:Do(やらせてみる)
  • ステップ4:Check(フィードバックする)

 

4段階職業指導法をより実践的にした「教え方」のポイントを以下の記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。

 

<ラーニングピラミッド>

7段階の学習法ごとに学習定着率を表したもので、ピラミッドの下に行くほど定着率が高いとされています。

ラーニングピラミッド(学習ピラミッド)の図

階層学習法学習定着率
7講義5%
6読書10%
5視聴覚20%
4デモンストレーション30%
3グループ討論50%
2自ら体験する75%
1他者に教える90%

 

<経験学習モデル>

経験から学びをえるためのプロセスを論理化したもので、4ステップのサイクルを回すことでOJTが効果的になります。

 
・具体的経験(経験する)


・内省的省察(振り返る)


・抽象的概念化(次に向けて学びを得る)


・積極的実践(実際に試してみる)

経験学習モデルに代表されるリフレクション、振り返りによって成長を加速させるポイントは下記で詳しく解説しています。

 

<コミュニケーションスタイル>

「ソーシャルスタイル」とも呼ばれるもので、コミュニケーションにおけるスタイルを4つに分類したものです。自分と相手のコミュニケーションスタイルを理解すると、コミュニケーションスタイルの違いにより感情的ないら立ちを減らすことができますし、相手が吸収しやすい形で指導することもできるでしょう。

 

  • ドライビング(実行型)・・・冷静、現実的、行動的
  • アナリティカル(分析型)・・・几帳面、慎重、論理的
  • エミアブル(温和型)・・・控え目、愛想が良い、協力的
  • エクスプレッシブ(直感型)・・・陽気、明るい、感覚的

 

<フィードバックのやり方>

新人教育に限らず、何かを習得する際にはフィードバックがとても重要です。フィードバックには大きく3種類があり、指導者は3種類を適切に使い分ける、組み合わせることが大切です。

 

  • ポジティブフィードバック
  • ネガティブフィードバック
  • フラットなフィードバック

 

効果的なフィードバックのポイントは以下の記事で詳しく紹介しています。

 

 

負荷を減らすためのサポートを提供する

教育担当者は自分の業務を行ないながら新人教育をするケースがほとんどです。従って、OJTの計画づくりや新人育成をすべてOJTの指導者に丸投げしてしまうと、負荷はかなり大きくなってしまいます。

 

そのため、継続して新卒採用などを行なうのであれば、人事が主導してOJT指導者のための計画づくりのフォーマットを作成して、実際の作成を指示したり、過去の計画や振り返りを蓄積したりしていくことが有効です。

 

また、OJT指導中もマネジメントを丸投げするのではなく、新人と教育担当者の両方に対して精神的なフォローやサポートを提供していくことがおススメです。具体的には関係する各方面から下記のようなサポートを提供すると良いでしょう。

 

<教育担当者(OJT指導者)の上司>
  • 計画や指導内容、目標設定の確認
  • 中期的なキャリアプランや仕事の価値づけなどを通じた新人のモチベート
  • 教育担当者とコミュニケーションを取りながらの進捗チェックとケア

 

<人事・教育部門>
  • OJT計画の作成フォーマットや過去の計画・振り返りデータの蓄積
  • 第三者的な立場での新人面談によるモチベーションUPや業務外の悩みへのケア
  • 面談を通じた教育担当者(OJT指導者)と新人の関係性把握と必要なフォロー

 

<ブラザー・シスター>
  • 会社・組織に馴染むことのサポート
  • 新人の“聴き手”となることでの精神的なケア

 

 

成長を期待しすぎない

教育担当者に新人育成の期待を伝えることは大切ですが、一方でプレッシャーを感じさせてはいけません。新人の成長には一定の時間が必要となり、成長過程ではミスやトラブルは生じるものです。また、人によって成長の早さも異なります。

 

周りが「まだこれぐらいのこともできないのか」「(新人の)成長スピードは大丈夫か」といった言葉を投げかけてしまうと、教育担当者には大きな精神的負担がかかります。

 

教育担当者のストレスは、新人とのコミュニケーションにも影響しますし、教育担当者自体のモチベーションやエンゲージメントにも関わります。

 

人事担当や上司は、新人を戦力化させたり教育担当者の負荷を減らすサポート、プログラムをしっかりと充実させるとともに、新人の成長や成果を教育担当者の責任にしないことが重要です。

まとめ

新人育成は組織の将来にとって非常に重要であり、現場でのOJTを任せる教育担当者(OJT指導者)は各部門で仕事の実績やスキルと共に、人間性や仕事への取り組み方を評価している若手となるでしょう。

 

組織にとっては期待を込めた役割設定ですが、実務的には教育担当者(OJT指導者)には負荷がかかることも事実であり、任せられた側が「なぜ自分が…」と思ってしまうこともあります。

 

新人教育を任せる際は、新人教育の重要性を組織内に発信したうえで、任せる相手に抜擢した理由や期待、新人教育を担当することで得られるものを伝えることが大切です。また、事前に教え方のトレーニングを行ない、「教える技術」を鍛えること等も有効です。

 

教育担当者にはさまざまな負担がかかりますので、人事や上司は新人育成を教育担当者に丸投げするのではなく、教育担当者の負荷を減らすサポートを行なっていきましょう。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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