1on1ミーティングとは?目的、効果的なやり方、事例、成功のポイントを解説

更新:2023/12/28

作成:2022/06/24

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

1on1ミーティングの目的とは?効果や事例、成功のポイントを解説

1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で定期的に行なう面談のことです。時代の最先端をいくIT企業が集中する米国・シリコンバレーで
考案
され、国内ではヤフージャパンが取り組んで広く紹介されたことで、人事領域の定番ワードとして定着しました。実際に、業種を問わず多くの企業が1on1を実施しています。

 

信頼関係の構築と人材育成においては、部下との対話は欠かせません。1on1に興味を持ち、「通常の打ち合わせと何が違うのか」「何を目的に、どのように実施するのか」といった疑問を抱いている企業経営者や管理職もいることでしょう。

 

記事では、1on1ミーティングを実施する目的や効果、成功ポイントなどを、企業事例も交えて紹介します。

 

<目次>

1on1とは?

 

1on1とは、上司とメンバーが1対1で行なう対話のことで、1回30分~60分のミーティングを定期的に実施するものとなります。

 

1on1は、年に数回の人事評価の面談や業務進捗の定期レビューなどとは異なり、メンバーが主体となって、メンバーの関心あるテーマを扱うことが特徴です。

 

頻度としては、隔週~月1回を継続的に行なうことが一般的になります。

 

1on1を行なう目的は、メンバーの成長促進やエンゲージメントの向上です。上司は、1on1を実施することでメンバーの価値観や現状を把握し、希望するキャリア形成を手助けします。

 

1on1は、メンバー自身が決めた内容をメンバーが主体となって話す場です。メンバーを評価したり業務レビューする場ではありません。実践の際は、注意しましょう。

 

上司と部下の間で行われる面談やミーティングには、以下の3種類があります。それぞれの特徴と違いを整理しておきましょう。

 

業務レビュー人事面談1on1
目的進捗管理、問題解決人事評価制度に基づく目標設定や評価通知部下の成長支援、エンゲージメント向上
頻度週1回~月1回
(相手に合わせて)
四半期1回~半期1回
(人事制度に合わせて)
週1回~月1回
(相手に合わせて)
特徴・上司がメンバーの担当業務の進捗を把握する
・業務進行や問題解決に対する指示アドバイスをする
・業務の話に限定されがち
・評価者と被評価者という上下の関わり
・目標設定をしたり、業績評価・人事評価の結果を伝えたりする
・上記に付随してアドバイスや成長支援をする
・メンバーが話したいテーマで、メンバー中心で話す
・メンバーが自分で問題解決できるよう支援する
・どちらかというと、過去よりも未来志向

 

1on1ミーティングを実施する目的

談笑する2人の女性

 

1on1ミーティングは、上司と部下の信頼を深め、チーム力のアップにつながるものです。具体的には、1on1ミーティングの目的としては次の3つが挙げられます。

 

信頼関係の構築

まずは、上司と部下の相互理解による信頼関係の構築です。メンバーの潜在能力を引き出し、さまざまな個性が入り交じった多様性をチームとして活かすには、上司と部下間で信頼関係を構築する必要があります。

 

1on1ミーティングで話す内容は自由ですが、ポイントは部下を主役として本音で話してもらうことです。

 

通常の業務進捗ではなく、業務上の課題やキャリア開発、自身の価値観や人間性、精神的な悩みなど、プライベートな側面も自己開示してもらいましょう。上司がメンバーのプライベートな側面を理解することで、信頼関係が構築されます。

 

ただし、そもそもの関係性が希薄であれば、2人きりであっても部下からは心のうちを明かしづらいものです。信頼関係の構築は、効果的な1on1を実現させるための大前提であるため、1on1を導入した当初はまずは信頼関係の構築に注力することを心がけましょう。

 

まずは上司から自分のことを自己開示して、本音で話せる場であることを示すことが大切です。

 

 

部下の成長促進

1on1ミーティングには、部下一人ひとりの能力や意欲、主体性を高め、成長を促す役割もあります。1on1ミーティングでは、双方向の対話に主眼を置いています。上司が一方的に話したり、答えを与えたりするものではなく、部下から話を引き出すコーチングに近い部分がある手法だといえるでしょう。

 

企業と上司のニーズはいったん脇に置き、部下自身が「本当はどうしたいか、どうなりたいか」を明確にしていきましょう。部下に自ら考えさせることで、価値観や選択肢、行動の幅が広がります。また、意見や考えを口にすることで、自分の考えが整理されたり、深まったりする効果も期待できます。

 

たとえば、1on1のテーマが部下のキャリアに関するものであれば、部下のキャリアプランがより明確になりますし、キャリアに必要な具体的なアドバイスを提示できるはずです。加えて、企業や上司から押し付けられたものではなく、自分が実現したい目標であるため、部下が主体的に取り組むことも期待できます。

 

エンゲージメントの向上

効果的な1on1の実現は、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。従業員エンゲージメントとは、所属する組織や仕事に対する愛着や信頼、絆の深さを示すものです。

 

従業員エンゲージメントが高い社員は、組織で働くことを誇りに思っており、貢献意欲も高い状態にあります。社員のエンゲージメント向上は、企業の継続的な発展に欠かせません。

 

社員一人ひとりの価値観や能力を把握して成長機会を与え、上司から適切なフィードバックを行なっていくことは、従業員エンゲージメントを高める重要なポイントの一つです。

 

すなわち、1on1ミーティングを定期的に行なうことは、従業員エンゲージメントの醸成に大きく影響するのです。本音で話す場を定期的に設けることで上司と部下の関係を深められ、双方向の対話を通じて仕事の意義も明確化できるため、仕事や組織に対するエンゲージメントを向上できます。

 

1on1が必要な理由

 

1on1は、近年、日本国内のさまざまな企業で導入されている手法です。こうした企業では、なぜ1on1を導入しているのでしょうか。この章では、1on1が必要な理由を解説していきます。

 

労働人口の減少

現代は、少子高齢化にともなう労働人口の減少、さらに終身雇用や年功序列が崩れたことによって、転職も当たり前の時代になりました。

 

こうしたなかで、自社に合う優秀人材を獲得し、定着させることは、多くの企業にとって重要課題の一つになっています。

 

1on1を通じて、上司と部下の信頼関係を構築すると、部下のエンゲージメントが向上しやすくなります。また、1on1によってキャリア支援をすれば、優秀な人材の定着も促しやすくなるでしょう。

 

知識労働の増加

近年では、機械化やITによる自動化などが進むなかで、人には感情労働、知識労働、また、イノベーションの創出などがより求められるようになっています。

 

こうした業務で各自が成果を出し続けるには、従業員のモチベーションやエンゲージメントを向上させることが重要です。

 

感情労働や知識労働に携わる従業員の成長や目標達成を促すには、1on1を通じて、憂いなくイキイキと働ける環境をつくることが大切になります。

 

働き方や価値観の多様化

VUCAと呼ばれる変化の激しい時代のなかで、近年では、上司も正解を知らないことが増えています。

 

同時に、働き方や価値観が多様化するなかで、従来の職場でよく行なわれていた「上から下への一方的な指示やアドバイス」や「指揮統制型のマネジメントの有効性」は徐々に失われつつあるでしょう。

 

こうしたなかで目標達成や課題解決を図っていくためには、従業員一人ひとりに自律的に考えて行動してもらうことが大切になってきます。

 

自律性や主体性を育むためには、1on1を通じて、相手の価値観などを尊重しながら相手の意欲を引き出す、また、権限移譲できる信頼関係や判断基準をつくっていくことが大切になります。

 

テレワーク下で重要性を増す1on1の取り組み

真剣な眼差しでノートパソコンを見つめる男性

 

働き方改革の一環また新型コロナウイルスにともなって、一気に普及したテレワークですが、導入企業の多くがコミュニケーション量の減少を課題に挙げています。

 

コミュニケーション不足に問題意識を持っているのは、社員も同じです。コロナ禍の2020年に実施された労働者調査では、テレワークに感じたデメリットとして、全体の半数近くの45.3%が「社内コミュニケーションが減った」と回答しました。

 

「上司・部下・同僚とのコミュニケーションがとりにくい」との回答も37.7%あり、社内での気軽な相談や報告が難しくなったと感じている人が多いといえます。

 

業務連絡や進捗共有はチャットツールで問題なく行なえるかもしれません。しかし、一般的にチャットでは簡潔なやり取りが好まれます。感情的なコミュニケーションや雑談には不向きな部分もあり、雑談や偶発的なコミュニケーションが発生しづらくなっています。

 

コミュニケーションの量・質の低下は、上司・部下の信頼関係や企業に対するエンゲージメントに悪影響をおよぼします。コミュニケーション機会が減少し、人間関係が希薄化しやすいときだからこそ、1on1を実施してチャットではカバーできない質の高い対話を継続的に実施する意義が増しています。

 

出典:テレワークを巡る現状について

 

1on1で得られるメリット

適切な方法で1o1を実施することで、以下5つの効果やメリットが得られます。

 

信頼関係の醸成

1on1で部下を主体としたコミュニケーションを継続するには、上司が部下の話を傾聴する姿勢を持つことが大切です。傾聴は、上司とメンバーの信頼関係を構築するうえで大切なものとなります。

 

1on1はプライベートな話題や互いの価値観などを話す機会になるため、回数を重ねるごとに相互理解も深まります。

 

また、上司が部下の価値観や希望するキャリア、現状などを知って支援することも信頼関係を深めることに役立つでしょう。

 

上司と部下の間で信頼関係が構築できると、部下はさらに積極的に対話してくれるようになります。その結果、業務における報連相も円滑になることが期待できるでしょう。

 

信頼関係の構築は、1on1をうまく機能させるための条件でもあります。したがって、最初の段階では、部下の話を聴くことに尽力する必要があります。

 

 

従業員の成長促進

部下主体の1on1は、相手のなかにある意欲や答えを引き出す「コーチング」に近い特徴があります。

 

上司が部下の話に適切な質問を投げかけることは、相手の思考を刺激し、価値観を広げて行動の選択肢を増やすきっかけになるでしょう。

 

1on1のなかで中長期的なキャリアビジョンの形成や成長目標の設定、課題解決を行うことで、人材育成をさらに加速できるようになります。

 

従業員のエンゲージメント向上

上司との信頼関係が構築され、自分の意思が仕事に反映されていることを実感できると、仕事や組織に対するエンゲージメントは向上します。

 

エンゲージメントの向上は、従業員の主体性を引き出すとともに、部下自身や組織の成長、競争力の強化にもつながる効果があるでしょう。

 

部下に対しての理解が深まる

1on1を定期的に実施していく中で、部下の現在の仕事の状況や悩みなどはもちろんのこと、考え方や価値観、時にはプライベートについても話題となることがあるでしょう。

 

業務に関した話題に限らず、幅広く会話をすることができる1on1を通して、部下への理解を深めることができます。部下への理解が深まることで、部下に合わせた業務上のフィードバックや指示がしやすくなります。

 

また部下としても上司が様々な話題をしっかりと聴いてくれることは、信頼感を深めることにつながります。悩みや課題も相談してもらいやすくなるでしょう。

 

定着率が高まる

優秀な人材が退職してしまうのは、企業にとって避けたいことです。1on1の実施は定着率を高める効果も期待できます。

 

1on1が有効に活用されていると、心理的安全性を高めることができます。上司と部下の間に信頼関係が構築され、コミュニケーションが円滑になり、抱えている悩み、不安、課題を伝えやすくなります。

 

また対話を通して「努力が認められている」と自分が組織にとって必要であると感じることで、モチベーションや組織に対するエンゲージメントが向上します。それが結果として定着率向上につながります。

 

1on1を成功させるポイント

1on1を通じて前項の効果を得るには、以下で紹介するような成功ポイントを大切にする必要があります。この章では、1on1を成功させるためのポイントを、詳しく解説します。

 

なぜ1on1ミーティングをするのかを伝える

まずは、「なぜ1on1ミーティングを実施するのか?」「どのような効果があるのか?」を全社的に浸透させましょう。特に、工数を割くことになる管理職に対して、1on1の実施が組織全体のマネジメント強化に寄与すること、組織の発展・活性化につながる点を丁寧に説明することが肝心です。

 

説明の際、経営層が1on1の浸透にコミットし、自らメッセージを発信していくと効果的でしょう。

 

1on1ミーティングは決して簡単に導入できるような取り組みではありません。1回のミーティングは30分~60分程度ですが、部下の数が多くなれば、上司側には時間的な負荷がかかります。

 

また、実施頻度は毎週・隔週、最低でも月1回。場合によっては「業務時間の20%程度を1on1ミーティングに充てることになる」といった場合も考えられます。ともすれば、導入に対して「業務で忙しいのに、なぜ……」といった反感を上司の側から持たれることがあります。

 

また、部下からも「めんどくさい」「気が重い」「いつも説教ばかりの上司と定期的な面談なんて……」という否定的な反応もあり得ます。

 

メンバーの成長やキャリア形成のサポートのために実施するという趣旨を伝えて、上司やメンバーの理解を得ることが必要不可欠です。上司側に対しても1on1の効果や実施のポイントを伝え、必要であればコーチング手法等の研修を行なうのもよいでしょう。

 

基本的な信頼関係の構築

1on1に、信頼関係の醸成につながる効果があることは間違いありません。

 

ただし、上司と部下に基本的な信頼関係がない場合、部下から本音は出てきませんし、上司の言葉も相手に届かない状況に陥ってしまいます。

 

1on1を実施する際には、1on1“だけ”で信頼関係を構築しようとするのではなく、普段のマネジメントやコミュニケーションを通じて信頼関係を築いていくことが大切になるでしょう。

 

傾聴する

傾聴とは、相手の意見や感情に共感し、話をより深く聴き出すための手法です。

 

日本人には、自分の感情を表に出さない傾向があります。

 

そのため、部下の1on1を行なうときには、相手のペースに合わせながら丁寧に話を進めていき、相手の感情を引き出す傾聴をすることがとても重要です。

 

上司は、相手が話しているときに、聴くことに専念しましょう。途中で割って入ったり、強引に話を進めようとしたりしないことが大切になります。

 

 

事前準備を行なう

1on1の場合、特に決まった内容やテーマはありません。ただ、上司と部下の両方が何も考えずに実施すると「何を話そう……」と考えているうちに終わってしまうこともあります。

 

また、話しやすい業務進捗の話になってしまい、通常の業務レビューと変わらなくなってしまいます。

 

この問題を防ぐには、話すテーマの候補をリストアップして、事前に部下に決めておいてもらうことがおすすめです。具体的には、以下のようなテーマがよいでしょう。

  • どのようなポジションでどのような活躍がしたいか
  • いま、何か困っていることや課題
  • 上司に知っておいてほしいこと
  • 今後チャレンジしたい仕事
  • 自分の強みや弱み
  • 大事にしている価値観
  • 最近、喜びを感じたこと、楽しかったこと など

 

 

言いっぱなし、やりっぱなしにしない

1on1で話したことのすべてをToDoなどにつなげる必要はありませんが、何も行動しなければ状況は変わりません。

 

1on1では、悩みやストレスをいいっぱなしにするのではなく、どこかできちんと行動まで落とし込むことも意識する必要があります。

 

たとえば、部下が「最近は外まわり営業が忙しく、テレアポの件数が伸び悩んでいる……」という話をしたと仮定します。

 

この場合、上司は以下のような質問やフィードバックを行ない、行動変容につなげるサポートをする必要があるでしょう。

  • 外まわり営業の期間は、来週末までだったかな?
  • 忙しくなると、いつも件数が伸び悩む感じかな?
  • 外まわり営業に出る前、朝の時間帯を活用したらどうだろう? など

 

また、上司は「行動まで落とし込んだか?」「実践してどうだったか?」「状況が変わったか?」について、継続的なフォローをすることも大切になります。

 

 

上司への支援

1on1を実施する上司への支援も欠かせません。コーチング技術など、実施に求められるスキル習得や向上のための研修や教材の用意も行ないましょう。フォーマットの提供は、実施クオリティを標準化するうえでも重要です。

 

一人30分でも、複数の部下を持つ上司になると負荷は大きくなります。上司に負担がかかり過ぎないよう、通常業務の負荷を減らして1on1を実施できるリソースを残す配慮も継続の重要なポイントです。

 

継続して行なう

1on1は、すぐに効果が出るものではありません。そのため、数回実施して終わりではなく、継続的に実施する必要があります。

 

ただ、継続するなかでは、お互いの出張や長期休暇、繁忙期などの理由で、実施できないこともあるかもしれません。

 

何らかの事情で実施できなくなったときには、必ず日程の再調整をすることが大切になります。

 

また、上司にとっての1on1には、部下との信頼関係を築くための場でもあります。

 

そのため、部下と信頼関係を築き、成長につなげるためには、上司は忙しい中でも1on1の時間をできるだけ優先させることが大切です。

 

ただの雑談に終始しない

当然のことですが、1on1ミーティングをただ雑談するだけの場にしてはいけません。導入初期のまだ慣れていない頃であれば、アイスブレイクのために雑談から入るのも一つです。

 

しかし、1on1ミーティングの目的は「信頼関係の醸成」や「メンバーの成長促進」、「エンゲージメント向上」を達成するためのものです。雑談で終わってはいけません。

 

1on1ツールの活用

1on1を効率よく、効果的に実施するためには1on1ツールの活用がおすすめです。1on1ツールを活用することで、ミーティングのスケジュールはもちろん、面談の記録もできるので振り返りもしやすくなります。

 

1on1を実施するのであれば、やはり部下の成長やパフォーマンス向上につなげたいものです。上司の全てが面談スキルが高いわけではないでしょう。また1on1は上司の負荷を高めることにもなります。

 

1on1ツールを活用することで、「上司の面談スキルの不足」「上司負荷の高まり」をカバーすることも可能になります。

 

以下のページでは1on1ツールの代表的なツールを紹介しています。また合わせて1on1の基本から1on1ツールを導入した事例まで、1on1を成功に導くためのポイントについて解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

 

1on1ミーティングの導入事例

1on1ミーティングの導入事例を知ることで、目的や効果への理解を深められます。国内で早くから1on1を導入してきたヤフーをはじめ、国内3社の事例を紹介します。

 

ヤフー

ヤフーでは、2012年から部下の成長支援を目的に、経験学習の考えを取り入れた1on1を実践しています。同社のルールは、「週に1度、30分間の1on1を実施する」というシンプルなものです。

 

導入に際して、同社では、ほかの多くの導入企業と同様に、おもに管理職サイドから工数圧迫への懸念や効果を疑問視する声が上がりました。管理職の理解を促すうえで、人事部が注意した点は以下の3つです。

  • 1on1の実行目的、メリットを明確にする
  • 経営層にもコミットしてもらう
  • 1on1での部下の話に対し、客観的なフィードバックを心がける

加えて、外部のプロを入れて自社に合うカリキュラムを開発したり、管理職の1on1のスキル向上を図ったりして、1on1を自社の文化として浸透させることに成功しました。結果として、2018年10月の時点では約6000人の社員が1on1を実施しています。

 

楽天

楽天では、以下を目的とする30分の1on1ミーティングを、管理職が直属の部下に対して毎週/隔週の頻度で実施しています。

  • 相互理解・相互信頼の形成
  • 定期的なフィードバックによる成長支援

 

また、楽天では、ヤフーと同様に管理職に向けた1on1ミーティング研修も実施しており、1on1を適切に実施できるようにマネージャー自身の成長支援を行なっています。

 

なお、1on1ミーティングを上司から部下への一方的な指導の場にしない、人事考課には結び付けないことを重要視して運営しています。

 

サイボウズ

サイボウズでは、“ザツダン”と称される1on1ミーティングが実施されています。

 

サイボウズでは、ザツダンの目的を、メンバーの成長促進といった難易度の高いものにするのではなく、まずは、コミュニケーションの量を増やし、メンバーの状況を知ることにおいています。

 

ザツダンを導入したことによる効果として、コミュニケーションが活性化したことで、「自発的なメンバーが増え、チーム力が高まった」などという声が挙げられています。

 

パナソニック

パナソニックでは、市場環境やビジネスモデルの変化、働く人材の価値観の多様化により、1on1導入の必要性を感じていたことから、2019年より1on1を導入しています。同社で注意したのは、社員の主体性を尊重した「やらされ感」のない運用とすることです。

 

具体的には、実施頻度や一回あたりの時間は目安を示すものの、強制ではなく必要と感じるタイミングで実施するよう呼びかけてきました。同社での実施率は、2020年7月の時点で7割弱となっています。

 

1on1の実施目的の理解度や事業部ごとの1on1の進捗状況にバラつきが出るなど、大きな組織ならではの課題は、以下の取り組みで全社的な底上げを図っています。

  • 好事例の共有
  • 相談窓口の設置

 

昨今では、テレワーク下での対策として、全社ポータルに「オンライン1on1のコツ」を掲載し、オンラインでの取り組みも促進しています。

 

電通デジタル

電通デジタルは、電通の子会社として2016年7月に設立された若い企業です。同社では、ヤフージャパンの事例を参考に早い段階から1on1を導入して、部下のコンディション確認の目的で上司と部下とのミーティングを定期的に行なっています。

 

同社の特徴は、1on1実施のためのサポートが充実していることです。具体的には、管理職はもちろん部下も含む、全社員を対象とした「1on1スキルアップ研修」を導入して、研修や学習動画による1on1実施目的や実施方法の理解促進を図っています。

 

併せて、コーチング有資格者による個別の1on1実施スキルの習得支援など、1on1に取り組みやすい環境を整備しています。

 

日清食品

日清食品では、2016年から従業員一人一人に働きがいや成長を実感してもらうことを目的に、上司と部下が1対1で面談する「1on1ミーティング」の実施を含めた「成長実感プロジェクト」をスタート。

 

特徴は、期初に個人別の目標設定を行い、その進捗を1on1で確認するという運用をしていること。さらには上司がメンバー一人ひとりについて部門長にプレゼンテーションすることです。

 

上司がメンバーについて的確にプレゼンテーションをするには、実施している1on1で部下としっかり向き合って対話していることが必要不可欠です。

 

また日清と慶應義塾大学大学院は従業員のエンゲージメントを高めるマネジメントに関する共同研究を行っています。その結果として「1on1ミーティング」の有効性が実証されています。

 

ディー・エヌ・エー

SNSやモバイルゲーム事業を中心にヘルスケア、スポーツなどの事業展開も行っている株式会社ディー・エヌ・エーでは、新入社員の研修段階から1on1ミーティングを導入しています。

 

新入社員と1on1を実施することで、一人ひとりの強み、悩み、キャリアビジョンなどの目標を理解。新入社員の研修のサポートや育成、配属先の決定に役立てています。

 

新卒入社した社員は特に仕事に対しての不安や悩みを抱えやすいものです。1on1が有効に機能すると、不安や悩みを上司や先輩社員に伝えて解消していくことが可能になります。

 

1on1が社員の離職率防止につながり、また本人の適性や目標を踏まえて配属先決定をすることになるため、モチベーションやエンゲージメントの向上につながることも期待できます。

 

リコー

株式会社リコーは、2018年から「1on1ミーティング」を実施。実施頻度については、週1回が目標となっていますが、難しい場合は少なくとも月1回は実施を目標と柔軟にすることで継続しやすくしています。

 

1on1を上司と部下で悩みなどを気軽に話せる場として機能させることで、1on1が社員の心理的安全性の向上やモチベーションアップに効果を挙げています。

 

2020年2月より「原則在宅勤務」を実施した際、リモートワークが増えるなかでは、週1回の1on1を推奨。1on1によってコミュニケーションが希薄にならず、コロナ禍の2020年7月に実施した従業員へのアンケートでは「生産性は変わらない、または向上した」との回答が8割と、ポジティブな結果となっています。

 

1on1の導入を成功させるポイント

1on1の実施には1on1のための時間を捻出する必要があり、導入には社員の理解と協力が不可欠です。1on1の導入を成功させる3つのポイントを紹介します。

 

1on1の必要性浸透

まずは、「なぜ1on1を実施するのか?」「どのような効果があるのか?」を全社的に浸透させましょう。特に、工数を割くことになる管理職に対して、1on1の実施が組織全体のマネジメント強化に寄与すること、組織の発展・活性化につながる点を丁寧に説明することが肝心です。

 

説明の際、経営層が1on1の浸透にコミットし、自らメッセージを発信していくと効果的でしょう。

 

上司への支援

1on1を実施する上司への支援も欠かせません。コーチング技術など、実施に求められるスキル習得や向上のための研修や教材の用意も行ないましょう。フォーマットの提供は、実施クオリティを標準化するうえでも重要です。

 

一人30分でも、複数の部下を持つ上司になると負荷は大きくなります。上司に負担がかかり過ぎないよう、通常業務の負荷を減らして1on1を実施できるリソースを残す配慮も継続の重要なポイントです。

 

長期的な継続

1on1の成果を実感するまでには時間がかかることも、全社的な共通認識として周知しておきましょう。特に、上司と部下で今までのコミュニケーションが不足していた場合には、まずは1on1を通じた信頼関係の構築から始めることになるはずです。

 

実施する頻度を明確にしたうえで、中・長期的に継続することが、1on1成功のカギです。全社員に対して1on1の目的や意義を定期的に発信することも忘れないようにしましょう。

まとめ

1on1の実施は上司と部下の信頼関係の構築、部下の成長やエンゲージメントの向上につながります。とくにテレワークを導入した企業では、コミュニケーションの量・質の低下により、1on1を実施する必要性は高まっています。

 

仕事に対する価値観の多様化に対応するマネジメント方法としても、1on1は非常に有効です。紹介した企業事例や成功のポイントを参考に、ぜひ1on1の導入を検討してみてください。

 

HRドクターを運営するジェイックでは、効果的な1on1を実施できる上司を育てるデール・カーネギー・トレーニングを提供しています。1名から派遣できる公開コース、自社向けにカスタマイズできる講師派遣の両方を提供していますので、ご興味あれば詳細をご覧ください。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
・ニューノーマルで迎える21卒に備える! 明暗分かれた20卒育成の成功/失敗談~
・コロナ禍で就職を決めた21卒の受け入れ&育成ポイント
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