1on1は意味がない?導入でよくある失敗と成功させるポイントを解説

更新:2023/09/07

作成:2022/08/01

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

1on1は意味がない?導入でよくある失敗と成功させるポイントを解説

1on1は、世界的に普及しているマネジメント手法の一つです。具体的には、上司と部下で行なう定期的な1on1、すなわち1対1の面談時間を取ることを指します。

 

日本では、ヤフー株式会社が全社的に導入したしたことで1on1が有名になりました。

 

1on1は、人材育成やキャリア開発などにおける効果性の高さで注目される手法です。ただ、企業によっては、1on1の制度が形骸化していて、効果が見られないというケースもあります。

 

記事では、1on1の概要やよくある失敗、成功させるポイントなどについて解説します。1on1の効果性を高めたい人は、ぜひ参考にしてください。

<目次>

1on1とは

 

1on1とは、上司とメンバーが1対1で行なう対話のことです。1回30分~60分のミーティングを定期的に実施するものとなります。

 

1on1は、年に数回の人事評価の面談や業務進捗の定期レビューなどとは異なり、メンバーが主体となって、メンバーの話したいテーマを話すことが特徴です。

 

頻度としては、隔週~月1回の頻度で継続的に行なうのが一般的になります。

 

1on1を行なう目的は、メンバーの成長促進やエンゲージメントの向上です。上司は、1on1を実施することでメンバーの価値観や現状を把握し、希望するキャリア形成を手助けします。

 

1on1は、メンバー自身が決めた内容をメンバーが主体となって話す場です。メンバーを評価したり業務レビューする場ではありません。実践の際は、注意しましょう。

 

上司と部下の間で行われる面談やミーティングには、以下の3種類があります。それぞれの特徴と違いを整理しておきましょう。

業務レビュー人事面談1on1
目的進捗管理、問題解決人事評価制度に基づく目標設定や評価通知部下の成長支援、エンゲージメント向上
頻度週1回~月1回
(相手に合わせて)
四半期1回~半期1回
(人事制度に合わせて)
週1回~月1回
(相手に合わせて)
特徴・上司がメンバーの担当業務の進捗を把握する
・業務進行や問題解決に対する指示アドバイスをする
・業務の話に限定されがち
・評価者と被評価者という上下の関わり
・目標設定をしたり、業績評価・人事評価の結果を伝えたりする
・上記に付随してアドバイスや成長支援をする
・メンバーが話したいテーマで、メンバー中心で話す
・メンバーが自分で問題解決できるよう支援する
・どちらかというと、過去よりも未来志向

1on1でよくある失敗

1on1には、冒頭で触れたとおり、ただの雑談になったり、徐々に実施されなくなって形骸化したりするケースもあります多い特徴があります。この章では、1on1のよくある失敗例を紹介します。

業務レビューになる

上司が「あの案件はどうなったの?」と業務の進捗確認をしたり、指示内容の説明をしたり……と、実務進行の場になってしまっているケースです。

 

また、部下が自ら話す話題に困る、上司と信頼関係がないなどの理由から、業務の話を持ち出すケースもあります。

 

1on1で業務の話を扱うこと自体は、NGではありません。ただ、単なる業務レビューになってしまった場合、部下の成長支援やエンゲージメント向上につながる1on1としての意味はなくなります。

話す内容を準備しない

1on1は、部下の話したいことを話す場です。ただ、1on1の経験がない部下などにすべてを丸投げした場合、部下は上司と何を話せばよいかわからず、戸惑ってしまうこともあるでしょう。

 

また、話題を丸投げした場合、部下に話したいことがなければそれで終わってしまったり、ただの雑談になったりなどの理由から、部下の成長につながらないこともあるでしょう。

上司が話を聞き切らない

上司が部下の話を最後まで聞かなかったり、話を途中で遮ったりして、上司が一方的に話してしまっても、1on1の効果は得られません。

 

また、上司が部下の話に耳を傾けない場合、部下は話題を投げかけるチャンスを失い、上司に対して「どうせ聞いてもらえない」「ダメ出しされる時間」などと1on1自体に不信感を抱いてしまう可能性もあるでしょう。

フィードバックがない

1on1で充実した話ができたとしても、言いっぱなし、やりっぱなしで終わっている場合も、効果は得られません。

 

フィードバックのない1on1の場合、部下のモチベーションが上がるのは1on1の最中だけになります。フィードバックがない場合、長期的な視野で見ると、部下の成長につながらないでしょう。

 

また、1on1で話した内容が次回につながらなかったり、上司が内容を忘れてしまったりすると、信頼関係も壊れてしまうでしょう。

信頼関係がない

そもそも、普段から上司と部下の間に信頼関係が築けていない場合、1on1を実施しても部下の本音は出てきません。また、上司のフィードバックやアドバイスなども、無意味になってしまうでしょう。

 

また、忙しい上司が1on1の予定をすぐにキャンセルしたり、1on1での態度がいい加減だったりすると、部下からの信頼を失ってしまいます。

1on1が必要な理由

 

1on1は、先述のとおり失敗が生じやすい一方で、近年では、日本国内のさまざまな企業で導入されている手法です。こうした企業では、なぜ1on1を導入しているのでしょうか。

 

この章では、1on1が必要な理由を解説していきます。

労働人口の減少

現代は、少子高齢化にともなう労働人口の減少、さらに終身雇用や年功序列が崩れたことによって、転職も当たり前の時代になりました。

 

こうしたなかで、自社に合う優秀人材を獲得し、定着させることは、多くの中小企業にとって重要課題の一つになっています。

 

1on1を通じて、上司と部下の信頼関係を構築すると、部下のエンゲージメントが向上しやすくなります。また、1on1によってキャリア支援をすれば、優秀な人材の定着も促しやすくなるでしょう。

知識労働の増加

近年では、機械化やITによる自動化などが進むなかで、人には感情労働、知識労働、また、イノベーションの創出などがより求められるようになっています。

 

こうした業務で各自が成果を出し続けるには、従業員のモチベーションやエンゲージメントを向上させることが重要です。

 

感情労働や知識労働に携わる従業員の成長や目標達成を促すには、1on1を通じて、憂いなくイキイキと働ける環境をつくることが大切になります。

働き方や価値観の多様化

VUCAと呼ばれる変化の激しい時代のなかで、近年では、上司も正解を知らないことが増えています。

 

同時に、働き方や価値観が多様化するなかでで、従来の職場でよく行なわれていた「上から下への一方的な指示やアドバイス」や「指揮統制型のマネジメントの有効性」は徐々に失われつつあるでしょう。

 

こうしたなかで目標達成や課題解決を図っていくためには、従業員一人ひとりに自律的に考えて行動してもらうことが大切になってきます。

 

自律性や主体性を育むためには、1on1を通じて、相手の価値観などを尊重しながら相手の意欲を引き出す、また、権限移譲できる信頼関係や判断基準をつくっていくことが大切になります。

1on1で得られるメリット

適切な方法で1o1を実施すると、以下3つの効果やメリットが得られます。

信頼関係の醸成

1on1で部下を主体としたコミュニケーションを継続するには、上司が部下の話を傾聴する姿勢を持つことが大切です。傾聴は、上司とメンバーの信頼関係を構築するうえで大切なものとなります。

 

1on1はプライベートな話題や互いの価値観などを話す機会になるため、回数を重ねるごとに相互理解も深まります。

 

また、上司が部下の価値観や希望するキャリア、現状などを知って支援することも信頼関係を深めることに役立つでしょう。

 

上司と部下の間で信頼関係が構築できると、部下はさらに積極的に対話してくれるようになります。その結果、業務における報連相も円滑になることが期待できるでしょう。

 

信頼関係の構築は、1on1をうまく機能させるための条件でもあります。したがって、最初の段階では、部下の話を聴くことに尽力する必要があります。

従業員の成長促進

部課主体の1on1には、相手のなかにある意欲や答えを引き出す「コーチング」に近い特徴があります。

 

上司が部下の話に適切な質問を投げかけることは、相手の思考を刺激し、価値観を広げて行動の選択肢を増やすきっかけになるでしょう。

 

1on1のなかで中長期的なキャリアビジョンの形成や成長目標の設定、課題解決を行うことで、人材育成をさらに加速できるようになります。

従業員のエンゲージメント向上

上司との信頼関係が構築され、自分の意思が仕事に反映されていることを実感できると、仕事や組織に対するエンゲージメントが向上します。

 

エンゲージメントの向上は、従業員の主体性を引き出すとともに、部下自身や組織の成長、競争力の強化にもつながる効果があるでしょう。

1on1を成功させるポイント

1on1を通じて前項の効果をえるには、以下4つの成功ポイントを大切にする必要があります。この章では、各ポイントを詳しく解説しましょう。

基本的な信頼関係の構築

1on1に、信頼関係の醸成につながる効果があることは間違いありません。

 

ただし、上司と部下に基本的な信頼関係がない場合、部下から本音は出てきませんし、上司の言葉も相手に届かない状況に陥ってしまいます。

 

1on1を実施する際には、1on1“だけ”で信頼関係を構築しようとするのではなく、普段のマネジメントやコミュニケーションを通じて信頼関係を築いていくことが大切になるでしょう。

傾聴する

傾聴とは、相手の意見や感情に共感し、話をより深く聴き出すための手法です。

 

日本人には、自分の感情を表に出さない傾向があります。

 

そのため、部下の1on1を行なうときには、相手のペースに合わせながら丁寧に話を進めていき、相手の感情を引き出す傾聴をすることがとても重要です。

 

上司は、相手が話しているときに、聴くことに専念しましょう。途中で割って入ったり、強引に話を進めようとしたりしないことが大切になります。

事前準備を行なう

1on1の場合、特に決まった内容やテーマはありません。ただ、上司と部下の両方が何も考えずに実施すると「何を話そう……」と考えているうちに終わってしまうこともあります。

 

また、話しやすい業務進捗の話になって、通常の業務レビューと変わらなくなってしまいます。

 

この問題を防ぐには、話すテーマの候補をリストアップして、事前に部下に決めておいてもらうことがおすすめです。具体的には、以下のようなテーマがよいでしょう。

  • どのようなポジションでどのような活躍がしたいか
  • いま、何か困っていることや課題
  • 上司に知っておいてほしいこと
  • 今後チャレンジしたい仕事
  • 自分の強みや弱み
  • 大事にしている価値観
  • 最近、喜びを感じたこと、楽しかったこと など

言いっぱなし、やりっぱなしにしない

1on1で話したことのすべてをToDoなどにつなげる必要はありませんが、何も行動しなければ状況は変わりません。

 

1on1では、悩みやストレスをいいっぱなしにするのではなく、どこかできちんと行動まで落とし込むことも意識する必要があります。

 

たとえば、部下が「最近は外まわり営業が忙しく、テレアポの件数が伸び悩んでいる……」という話をしたと仮定します。

 

この場合、上司は以下のような質問やフィードバックを行ない、行動変容につなげるサポートをする必要があるでしょう。

  • 外まわり営業の期間は、来週末までだったかな?
  • 忙しくなると、いつも件数が伸び悩む感じかな?
  • 外まわり営業に出る前、朝の時間帯を活用したらどうだろう? など

また、上司は「行動まで落とし込んだか?」「実践してどうだったか?」「状況が変わったか?」について、継続的なフォローをすることも大切になります。

継続して行なう

1on1は、すぐに効果が出るものではありません。そのため、数回実施して終わりではなく、継続的に実施する必要があります。

 

ただ、継続的するなかでは、お互いの出張や長期休暇、繁忙期などの理由で、実施できないこともあるかもしれません。

 

何らかの事情で実施できなくなったときには、必ず日程の再調整をすることが大切になります。

 

また、上司にとっての1on1には、部下との信頼関係を築くための場でもあります。

 

そのため、部下と信頼関係を築き、成長につなげるためには、上司は忙しい中でも1on1の時間をできるだけ優先させることが大切です。

1on1ミーティングの導入事例を紹介

1on1は、多くの国内企業でも導入されている手法です。この章では、大手企業3社における1on1の導入事例を紹介しましょう。

ヤフー

前述のとおり、ヤフーは日本で1on1ミーティングを取り入れた先駆けであり、2012年から1on1ミーティングを実施しています。

 

ヤフーの1on1ミーティングの目的は、以下のように定義されています。

  • 経験学習のスキームを導入すること
  • 社員の才能と情熱を解き放つこと

1on1ミーティングの導入は、人事主導で始まったプロジェクトです。

 

導入に際しては、“1on1ミーティングを実施する目的を明確にすること”“効果を伝えること”“経営層にもコミットしてもらうこと”に尽力しています。

 

その結果、徐々に1on1ミーティングは文化として浸透し、浸透後は約6,000人の社員が、週に1度30分間の1on1ミーティングを実施しているそうです。

 

1on1ミーティングが有効なものとなるように、マネージャーにはコーチング研修を実施して、話の聞き方と有効なフィードバック手法を身に付けさせています。

楽天

楽天では、以下を目的とする30分の1on1ミーティングを、管理職が直属の部下に対して毎週/隔週の頻度で実施しています。

  • 相互理解・相互信頼の形成
  • 定期的なフィードバックによる成長支援

また、楽天では、ヤフーと同様に管理職に向けた1on1ミーティング研修も実施しており、1on1を適切に実施できるようにマネージャー自身の成長支援を行なっています。

 

なお、1on1ミーティングを上司から部下への一方的な指導の場にしない、人事考課には結び付けないことを重要視して運営しています。

サイボウズ

サイボウズでは、“ザツダン”と称される1on1ミーティングが実施されています。

 

サイボウズでは、ザツダンの目的を、メンバーの成長促進といった難易度の高いものにするのではなく、まずは、コミュニケーションの量を増やし、メンバーの状況を知ることにおいています。

 

ザツダンを導入したことによる効果として、コミュニケーションが活性化したことで、「自発的なメンバーが増え、チーム力が高まった」などという声が挙げられています。

まとめ

今回は、「1on1は意味がない」とされる理由と成功ポイントなどを解説しました。

 

記事内でも紹介したとおり、1on1では以下のような問題があるときに、本来の効果が出なかったり形骸化してしまったりすることもあります。

  • 業務レビューになっている
  • 話す内容を準備しない
  • 上司が話を聞ききらない
  • フィードバックがない
  • 信頼関係がない

1on1で部下の成長促進などの効果をえるためには、以下のポイントを意識することが大切になります。

  • 基本的な信頼関係の構築
  • 傾聴する
  • 事前の準備を行なう
  • 言いっぱなし、やりっぱなしにしない
  • 継続して行なう

なお、HRドクターの運営会社である研修会社ジェイックでは、管理職に不可欠な「人を動かす」リーダーシップ&コミュニケーション研修を提供しています。

 

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著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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