上司の褒め方で部下のパフォーマンスは向上する! 効果的な褒め方のポイントを解説

更新:2023/07/28

作成:2022/06/19

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

上司の褒め方で部下のパフォーマンスは向上する!効果的な褒め方のポイントを解説

人には誰しも「他人から褒められたい」「感謝されたい」といった承認欲求があります。承認欲求は、「マズローの欲求5段階説」にも登場する概念で、人間の基本的な欲求のひとつです。

 

したがって、相手を褒める行為をうまく活用することは、人材育成に欠かせません。また、部下のパフォーマンスを高めるうえでも、上司の褒め方は重要になってきます。記事では、部下のパフォーマンスを高めるために上司が実施したい「効果的な褒め方」のポイントを解説します。

<目次>

褒めない上司はなぜいけないのか?

難しい顔をする男性

 

「褒めると成長しなくなる」「甘やかすことになる」、あるいは「褒めるのが苦手」などの理由で、部下を褒めない上司は多くいます。部下は「できていないことが多すぎて、褒めるどころではない」と思っている上司もいるかもしれません。

 

しかし、褒める習慣を持たず、ただ叱るだけのマネジメントでは、部下との信頼関係は深まりません。「上司は自分に興味がない」「必要とされていない」「今の職場では成長できない」という感情を部下に抱かせてしまい、人間関係の溝が広がっていきます。

 

結果的に、部下のエンゲージメントや主体性、生産性を低下させ、離職のリスクまで招いてしまうでしょう。

 

ひと昔前までは、「背中を見て学べ」「若いうちは修行」といった育成方法がまだ通用していました。当時は部下を褒めない上司も多く、「褒められないのが当たり前」という環境下で育ってきたビジネスパーソンの場合、褒めることが苦手なのも無理はありません。

 

自分が褒められて育っていないため、いざ目の前の部下を「褒めろ」「今後は褒めることが大切だ」といわれても、どうすればいいのかわからないのです。

 

ただ、苦手意識があったとしても、部下を適切に褒めることは、管理職に求められる人材育成や組織のパフォーマンス向上に向けたスキルです。ぜひ身に付けましょう。部下の仕事ぶりが変わり、成長すれば、上司も劇的に仕事が楽になるはずです。

上司の褒め方次第で部下のパフォーマンスは変わる

部下を褒める上司

 

上司の褒め方次第で、部下のパフォーマンスは大きく変わります。1時間の叱責よりも、たった一言の「すごいね」「いいね」のほうが、部下の心に響くことも多いものです。褒めることには、部下のパフォーマンス向上につながる3つのメリットがあります。

 

良い行動の強化と習慣化につながる

まず良い行動を褒めることは、良い行動をより強化し、習慣化する効果が期待できます。自分の行動を褒められたとき、人は承認欲求が満たされ、自己効力感も高まります。次はもっとうまくやってさらに褒めてもらおうと考えるようになります。

 

つまり、褒めることは、人材育成の有効な手段なのです。褒めることで望ましい行動を増やし、部下の成長を促す、成果があがりやすくするということが、褒める最大の目的です。

主体性が高まる

褒めて承認することで、部下の自信や自己効力感が高まります。自信や自己効力感が高まれば、上司の指示を待ったり、ただ指示に従ったりするのではなく、主体的に考えて行動するようになります。

 

また褒めることを通じて、上司との間に信頼関係ができれば、「いざというときにはフォローしてくれる」という安心感も生まれ、難易度の高い目標にも積極的にチャレンジできるようになるのです。

 

上司の指示でやらされているのではなく、自らが考えて行動を起こしていくことは、仕事に対する充実感や成功したときの達成感の向上にもつながります。

 

離職リスクを減らし定着を促す

部下を褒めて承認することで、部下は成長感を得られ、仕事に対する意欲を高められます。新人や若い部下のなかには、まだ一人前のレベルに達せず、一人では仕事の成果をなかなか出せない人もいるでしょう。

 

ビジネスで成果をあげられなければ、多かれ少なかれ自信は失われていきます。自信をなくしている状態で、上司から関心を示されなければ、「今の会社や仕事は自分に向いていない。辞めたほうが良いのかもしれない……」と思い詰めてしまうこともあるでしょう。

 

しかし、上司から褒められ承認されれば、「今の上司は自分のことを理解し、しっかり見てくれている」という安心感が生まれます。また「○○は良かった」「ここはできている」と褒められることで、成長している実感も得られるでしょう。

 

つまり、適切に褒めることで、部下は「居心地が良い」「働きやすい」と感じたり、「自分は成長できているんだ」という感覚を得たりすることができます。褒める文化が社内に広まれば、職場の雰囲気は良くなり、新人や若手の定着率はアップしていくでしょう。

上司が実践したい褒め方のポイント

褒めるとは、決して相手をおだてることではありません。口先だけのお世辞は、かえって部下の心をしらけさせてしまいます。本項では、適切な褒め方のポイントと具体的な実践方法を紹介します。

 

具体的な行動を褒める

褒めるのが苦手な人の多くは、褒めるという行為を大げさにとらえてしまいがちです。「褒める=賞賛・絶賛」ではありません。部下の行動を観察し、現時点でできていることをフィードバックすることだと考えるとよいでしょう。

 

どのような行動が良かったのか、具体的に言葉に出して伝えましょう。たとえば、「先日の取引先へのヒアリングは丁寧で良かった」「進んで後輩の仕事をフォローしてくれてありがとう」というようなシンプルなものでかまいません。

 

褒める行動が明確であれば、良い行動の強化や習慣化につながっていきます。「上司から評価されている」という実感も、部下は持ちやすくなります。自分を評価してくれる上司には、自然とついていきたくなるものです。

肯定形で褒める

褒めるときは、肯定語で承認することもポイントです。人間の脳は、否定語を理解できないとされています。否定形の表現では、褒めている内容は脳に伝わりません。具体的には、「●●●しなくて良かった」という否定語はNGです。

 

否定形を肯定形に変えるのは簡単です。
例えば、「未達に終わらなくて良かった」⇒「目標達成できて良かった」、「商談に失敗しなくて良かった」⇒「商談成功おめでとう」というように肯定形に言い変えましょう。
普段から否定形の表現を使いがちな人は、肯定形でストレートに伝える練習を普段からしておくとよいでしょう。

 

Iメッセージで褒める

Iメッセージとは、「私はうれしい」「私は助かる」といった、「私」を主語にしたメッセージのことです「私はうれしい」「私は助かった」というように、自分の感情も伝えることで、説得力が増すと共に、部下の心にもストレートに届きます。

 

Iメッセージで褒めることは「自分の働きが上司に貢献した」「良い影響を与えた」と部下の承認欲求を満たすことにもなり、自己肯定感やモチベーションが向上します。

 

なお、褒める際に、Iメッセージに加えて「●●さんが目標達成できて、私はうれしい」といった形で、相手の名前と自分の感情を含めるとより効果的です。名前を呼ばれたことで部下は上司に親近感を覚えます。信頼関係も深まりやすくなるでしょう。

成果だけでなくプロセスや成長を承認する

ビジネスでは、成果を出すことがシビアに求められますので、上司の意識はどうしても最終的な成果や結果に向きがちです。それ自体は悪いことはありません。

 

ただし、部下育成においては、プロセスや成長を承認し、行動を定着させる・成長を加速させることが非常に重要です。プロセスを褒めることが行動の強化や習慣化につながり、次の成果の再現性も期待できます。

 

また、部下を褒めようと思ったとき、

  • 褒めるべき突出した成果が少ない
  • まだ成果を出していない
  • 全体的にOKを出せる合格ラインには達していない

ということもあるでしょう。

 

こういった際でも、成果に向けた創意工夫や努力、また、「このプロセスのここは合格ライン」といった形でプロセスに着目すれば、どこかしら褒めるポイントがあるはずです。また、プロセスに着目することで、絶対値としては褒める基準に達していない場合も、「ここは成長した」といった形で、褒めることができるでしょう。

褒める頻度を高くする

褒める頻度が高ければ高いほど、部下のモチベーションや働きやすさは向上します。究極的にいえば毎日褒めるようにしましょう。「メモを取ってくれた字がきれいで読みやすかった」など、些細なことでもかまいません。むしろ、細かい部分への理解や配慮は、部下との信頼関係を強めます。

 

前述のとおり、部下の成長とプロセスにフォーカスすれば、「企画書を一人でまとめられるようになったね」など、褒めるところはいろいろと見つかります。

 

褒めるためには、普段から部下の行動を観察し、コミュニケーションも取っておく必要があります。部下のことを知らなければ、現時点でできていることや成長したポイントは分かりません。高頻度で褒めようと思うと、部下の細かなプロセスを見る意識も高まるでしょう。

 

なお、人事育成においては、部下の行動の間違いを指摘することも大事です。大事なのは、バランスです。

 

「褒める」と「叱る」のバランスは、「3:1」が理想的とされています。叱ることは計画的にできるものではありません。普段から褒める機会を意識して増やしておくことで、叱るべきときにしっかりと叱責もしやすくなるでしょう。

自社に褒める文化を根付かせる

自社に褒める文化がないと、上司は部下を褒めにくいものです。「照れくさい」「浮いてしまう」といった感情が先に立ってしまうこともあるでしょう。しかし、そもそも「フィードバックの習慣がない」、あるいは「不足点の指摘ばかり」といった職場は働きにくい環境であり、雰囲気も悪く、人材育成も進まないでしょう。

 

自社に褒める文化がない場合には、ポジティブフィードバックやフィードフォワードなどの仕組みを導入してみてはいかがでしょうか。ポジティブフィードバックとは、相手の望ましい行動を、前向きな言葉で褒め、行動を強化・習慣化していく手法です。

 

また、フィードフォワードとは、未来の成長や成功につながるフィードバックを重点的に行なうものです。仕組みを導入し、考え方を浸透させていくことで、上司が部下の強みや成長に注目するようになり、自然と褒める頻度も増していきます。

 

なお、そもそも上司が正しい「褒め方」や「フィードバック」の方法を知らないことも意外と多くあります。自社に「褒める/叱る」や「フィードバック」の文化がない場合には、まずは管理職向けの育成・研修から始めることもひとつです。

まとめ

褒めることは、部下を育成するうえで有効な行為であり、マネジメントとして習得すべきスキルです。記事で紹介した効果的な褒め方のポイントを押さえて、ぜひ部下の育成に取り入れてみてください。部下のパフォーマンスや定着率が向上し、結果的に上司自身の仕事も楽になるはずです。

 

自社に褒める文化が根付いていない場合は、ポジティブフィードバックやフィードフォワードなどの仕組みを導入する、管理職層に「褒め方/叱り方」「フィードバック」などの研修を実施することもおすすめです。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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