褒めるとは、決して相手をおだてることではありません。口先だけのお世辞は、かえって部下の心をしらけさせてしまいます。本項では、適切な褒め方のポイントと具体的な実践方法を紹介します。
具体的な行動を褒める
褒めるのが苦手な人の多くは、褒めるという行為を大げさにとらえてしまいがちです。「褒める=賞賛・絶賛」ではありません。部下の行動を観察し、現時点でできていることをフィードバックすることだと考えるとよいでしょう。
どのような行動が良かったのか、具体的に言葉に出して伝えましょう。たとえば、「先日の取引先へのヒアリングは丁寧で良かった」「進んで後輩の仕事をフォローしてくれてありがとう」というようなシンプルなものでかまいません。
褒める行動が明確であれば、良い行動の強化や習慣化につながっていきます。「上司から評価されている」という実感も、部下は持ちやすくなります。自分を評価してくれる上司には、自然とついていきたくなるものです。
肯定形で褒める
褒めるときは、肯定語で承認することもポイントです。人間の脳は、否定語を理解できないとされています。否定形の表現では、褒めている内容は脳に伝わりません。具体的には、「●●●しなくて良かった」という否定語はNGです。
否定形を肯定形に変えるのは簡単です。
例えば、「未達に終わらなくて良かった」⇒「目標達成できて良かった」、「商談に失敗しなくて良かった」⇒「商談成功おめでとう」というように肯定形に言い変えましょう。
普段から否定形の表現を使いがちな人は、肯定形でストレートに伝える練習を普段からしておくとよいでしょう。
Iメッセージで褒める
Iメッセージとは、「私はうれしい」「私は助かる」といった、「私」を主語にしたメッセージのことです「私はうれしい」「私は助かった」というように、自分の感情も伝えることで、説得力が増すと共に、部下の心にもストレートに届きます。
Iメッセージで褒めることは「自分の働きが上司に貢献した」「良い影響を与えた」と部下の承認欲求を満たすことにもなり、自己肯定感やモチベーションが向上します。
なお、褒める際に、Iメッセージに加えて「●●さんが目標達成できて、私はうれしい」といった形で、相手の名前と自分の感情を含めるとより効果的です。名前を呼ばれたことで部下は上司に親近感を覚えます。信頼関係も深まりやすくなるでしょう。
成果だけでなくプロセスや成長を承認する
ビジネスでは、成果を出すことがシビアに求められますので、上司の意識はどうしても最終的な成果や結果に向きがちです。それ自体は悪いことはありません。
ただし、部下育成においては、プロセスや成長を承認し、行動を定着させる・成長を加速させることが非常に重要です。プロセスを褒めることが行動の強化や習慣化につながり、次の成果の再現性も期待できます。
また、部下を褒めようと思ったとき、
- 褒めるべき突出した成果が少ない
- まだ成果を出していない
- 全体的にOKを出せる合格ラインには達していない
ということもあるでしょう。
こういった際でも、成果に向けた創意工夫や努力、また、「このプロセスのここは合格ライン」といった形でプロセスに着目すれば、どこかしら褒めるポイントがあるはずです。また、プロセスに着目することで、絶対値としては褒める基準に達していない場合も、「ここは成長した」といった形で、褒めることができるでしょう。
褒める頻度を高くする
褒める頻度が高ければ高いほど、部下のモチベーションや働きやすさは向上します。究極的にいえば毎日褒めるようにしましょう。「メモを取ってくれた字がきれいで読みやすかった」など、些細なことでもかまいません。むしろ、細かい部分への理解や配慮は、部下との信頼関係を強めます。
前述のとおり、部下の成長とプロセスにフォーカスすれば、「企画書を一人でまとめられるようになったね」など、褒めるところはいろいろと見つかります。
褒めるためには、普段から部下の行動を観察し、コミュニケーションも取っておく必要があります。部下のことを知らなければ、現時点でできていることや成長したポイントは分かりません。高頻度で褒めようと思うと、部下の細かなプロセスを見る意識も高まるでしょう。
なお、人事育成においては、部下の行動の間違いを指摘することも大事です。大事なのは、バランスです。
「褒める」と「叱る」のバランスは、「3:1」が理想的とされています。叱ることは計画的にできるものではありません。普段から褒める機会を意識して増やしておくことで、叱るべきときにしっかりと叱責もしやすくなるでしょう。