組織の目標達成力を高めるには、メンバー一人ひとりの目標達成力を高めるとともに、評価制度や人事制度などの仕組みを強化することも有効です。組織の目標達成力を高めるには、どのような評価制度を導入すれば良いのでしょうか。
記事では、目標達成につながる評価制度の特徴や、制度の効果的な運用に必要な目標設定のポイント、目標達成と人事評価制度の組み合わせ事例をご紹介します。
<目次>
目標達成につながる評価制度とは?
組織における目標達成力を高めるには、「目標達成への意欲を高める評価制度」が重要です。目標達成してもしなくても同じような評価になったり、目標達成と関係ないところで評価が決まったりするようでは、メンバーの目標達成意欲は高まりません。
当たり前のことですが、「きちんとした目標設定が行なわれ、目標達成するときちんと評価される」状態を、透明性のある仕組みとして運用することが、目標達成につながる人事制度のポイントです。目標設定と達成に紐づいた人事制度が運用されることで、メンバーの意識が目標達成に向かっていくのです。
目標達成につながる評価制度、5つのポイント
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組織の目標達成につながる評価制度を運用する際のポイントは、以下の5つです。順番に解説していきます。
明確に評価できる目標設定がされている
評価制度を運用するうえでは、じつは目標設定がとても重要です。
例えば、「お客様に喜んでもらえるサービスを提供する」といった漠然とした目標が設定されてしまうようでは、メンバーは、具体的に何をすべきか、どこまで頑張れば目標達成として評価してもらえるかの判断ができません。
こうした漠然とした目標を設定した場合、評価する際にも、どういう評価をすれば良いかがわからず、恣意的な評価になりがちです。
目標設定の難易度や評価基準が社内で統一されている
目標達成につながる評価制度を導入するには、評価基準や目標設定の難易度に、透明性や公平性があることが大切です。
例えば以下のように、目標がごちゃ混ぜに設定されていたり評価されていたりすれば、メンバーの目標達成意欲は高まりません。
- 「組織への貢献が大きな目標」と「組織への貢献が小さな目標」
- 「難易度が高い目標の達成率」と「難易度が低い目標の達成率」
目標設定に基づく評価制度は、一般的に目標の達成率で評価されることになります。難易度が違う目標が混じっている状態では、難易度の高い目標を設定するほど達成率は低くなり、損をします。このような状態では、目標設定はどんどん無難で安全なものになってしまうことでしょう。
したがって、組織の目標達成力を高めるには、前述の明確に評価できる目標設定と併せて、目標設定や評価に関わる評価者の間で、難易度や評価基準をしっかりと統一することが重要です。
ポジションに応じて目標達成までの過程と結果のバランスが考慮されている
評価制度を効果的に運用するには、同じプロジェクトや部門のメンバーであっても、それぞれのポジションの役割や事情を考慮して評価することが大切です。
例えば、結果責任を担うポジションの場合、外部環境の変化や内部要因は言い訳にはなりません。経営幹部や部門長層であれば、基本的には「結果」で評価することが適切でしょう。
一方で、入社1年目や2年目社員であればどうでしょうか。上司と合意した目標達成プロセスを十分にやりきっている場合は、結果がともなっていない場合にも一定の評価をすることが適切でしょう。
目標への達成度を評価するうえでは、年次やポジションに応じて行動責任と結果責任のバランスを調整しながら評価することも必要です。
長期的な視点と短期的な視点での評価軸が設けられている
人事評価制度は一般的に、評価期間内に上げた成果や実績を評価します。期間内の成果や実績を評価することは正しいのですが、短期目標だけに評価が偏ってしまうと、短期評価に直結しない中長期的な仕事が疎かにされがちになってしまいます。
評価項目には、顧客構造の構築、商品サービスの品質UP、生産性向上につながる改善やイノベーションなど、中長期的な成果につながる目標をしっかりと盛り込むとよいでしょう。
成果や実績を中心とする評価制度の運用ポイントは下記でも紹介していますので、併せてご覧ください。
目標設定と結果に対するフィードバックが十分になされている
評価制度を効果的に運用するためには、結果に対するフィードバックが十分なされることが大切です。フィードバックでは、結果に対する振り返りとフィードバックのコミュニケーションをしっかりと実施していきましょう。
- 設定した目標が適切だったか?
- 目標達成のプロセスでどこがうまくいったか?
- もしもう一度取り組むならどのように実施するか?
- 取り組みのどこが不十分だったか?能力不足だったか?
- 取り組みのどこが評価に値するか?なぜ評価に値するか?
など
上記のような設問に関するコミュニケーションが十分に行なわれることで、メンバーは自分の評価を前向きに受け取れるようになります。また、フィードバック内容を次の目標設定や行動計画に反映することで、個人の目標達成力も高められます。
目標設定の重要性
目標達成につながる評価制度を効果的に運用するためには、前述のとおり、目標設定のプロセスが非常に重要です。具体的には、以下のポイントを意識して運用しましょう。
目指すべき目標(ゴール)と目標に向けた行動が明確になる
まず、明確に評価できる適切な目標設定が前提となります。
明確で適切な目標設定をできると、求められる具体的なゴールと行動が明確になります。目標のない状態では、メンバーは自分が何を求められているかがわからず、上司やリーダーの指示待ちになってしまいます。
しかし、目標設定を通じて、目指すべきゴールとゴールに向かうまでの行動が明確になると、達成に向けて主体的に仕事に取り組めるようになるでしょう。
モチベーションを生み出せる
目標設定は適切に行なわれることで、メンバーのモチベーションを生み出すことができます。設定された目標に対して自分なりの意味付けができると、目標が自分事になり、内発的動機付けがされた状態になります。
仕事における目標は、多くの場合「組織や上司に与えられた目標」になりがちです。例えば、営業職の目標設定でありそうな「第2四半期で30件2,000万円の受注をする」という目標を考えてみましょう。
部門やチーム目標が分解されて各個人に振り分けられた状態では、「2000万の受注」は「与えられた他人事の目標」になりがちです。
しかし、目標に対して適切に意味付けがされ、「30件2000万を達成して、評価が上がり、自信がつき、営業部で表彰される。50万円の賞与をもらって、家族と旅行に行く……」といった意味付けができると、目標が自分事になり、モチベーションが高まります。
達成したときに喜びや次への挑戦意欲が生まれる
目標を達成することで、達成感の喜びや次への挑戦意欲、自己効力感が生まれます。
特に明確な目標を設定して、ゴールまでの行動計画を立て、壁を乗り越えながら実行して達成した場合、行き当たりばったりで達成したときよりも、遥かに大きな喜びや自信が得られるでしょう。
また、PDCAを回しながら目標達成したことで、目標達成力の高まりを感じ、次はより難易度の高い目標に挑戦してみようと思えるようにもなります。
権限委譲が進めやすくなる
上司とメンバーでしっかりと目標設定することは、権限委譲(エンパワーメント)にもつながります。目標に加えて、絶対に守るべきルール、使える資源、責任に対する報告、提供可能なサポート、実行内容への評価基準などのガイドラインを合意することで、上司はメンバーに効果的に権限委譲できるようになります。
人材育成にもつながる権限移譲(エンパワーメント)の効果やポイントは以下の記事でも紹介していますので、興味があればご覧ください。
目標が上司とメンバーのコミュニケーションツールとなる
上記のように適切な評価制度をしっかり運用することは、「目標」を上司とメンバーのコミュニケーションツールとして、人材育成を行なうことにほかなりません。目標設定、目標達成プロセスの設定、PDCA、フィードバックなどを通じて人材育成、組織開発を進めていきましょう。
目標達成を促す人事評価制度の事例と運用ポイント
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本章では、目標達成につながる人事評価制度の王道である「目標管理制度(MBO)」と最近注目される「OKR」、そして「KPIマネジメント」の概要とポイントを簡単にご紹介します。
MBOの概要と運用ポイント
MBOはManagement By Objectivesの略であり、直訳すると「目標による管理」です。日本のビジネスシーンでMBOといえば、一般的に「目標管理制度」のことを指します。
MBOの導入には、各個人の責任やゴールが明確になる、あるいは主体性やモチベーションを引き出しやすくするメリットがあります。
また、所属する企業や組織、部門のビジョンやゴールから各個人の目標と行動までを一貫させることで、組織全体の目標達成力が上がるという効果があります。
MBOを運用して高い効果を上げるには、「SMARTの原則」に基づいた適切な目標設定がポイントです。
<SMARTの法則>
- Specific :具体的である(誰が読んでも理解できる明確な表現)
- Measurable :計測できる(目標の達成有無や進捗が第三者にも評価可能)
- Achievable :達成できる(現実的に挑戦できる適切な目標水準)
- Relevant :上位目標と関連性がある(企業や組織の目標達成、ビジョンや目的の実現に貢献する)
- Time-bound :期限が定められている(いつまでに達成するかという日時が決まっている)
OKRの概要と運用ポイント
OKRは、Objectives and Key Resultsの略であり、直訳すると「目標と主要な結果」という意味です。OKRは、アメリカのインテル社で開発されており、GoogleやFacebookが取り入れたことをきかっけに、日本でもベンチャーやスタートアップ企業を中心に導入されています。
OKRは目標によるマネジメントという点は、MBOと同じですが、個人評価よりも「組織の大きな目標やビジョンに向けてメンバーの意識をそろえて、行動を加速させる」ものであることが特徴です。
一般的にOKRの目標は、評価制度とは連携させません。だからこそ、売上や利益だけでなく、ビジョン実現につながるようなワクワクする目標を設定することが多くなります。また、達成可能性が50~60%ほどの野心的目標を設定することもポイントです。
KPIマネジメントとは?結果につながるKPIの設定手順と運用のポイント
KPIはKey Performance Indicatorの略で、日本語では重要業績指標と訳されます。
「結果(業績)」そのもの、ではなく「結果(業績)を出すための指標」であり、KPIをマネジメントすることで、安定して目標達成させていく手法がKPIマネジメントです。
KPIマネジメントの基本は、組織の最終的な成果目標(KGI)から逆算してKPI目標を設定して、PDCAを回しながらKPIを達成させていく形になります。
<KPIマネジメントに関連する用語>
- KGI(重要目標達成指標)
▶組織の最終ゴールになる目標(売上額・利益額・成長率など)
- KSF(主要成功要因)
▶目標達成に必要な要素(お客様の認知度や期待感、差別化されたサービス、有料会員のリピート率 など)
- KPI(成果/業績のカギとなる指標)
▶リピート率、問い合わせ件数、相談からの商談化率、新規商談数など
- KAI(重要活動評価指標)
▶KPI達成に向けて自分たちがコントロールできるもの(新規顧客へのテレアポ件数、資料請求への対応速度、顧客へのアンケート件数 など)
KPIマネジメントを効果的にするためには、以下のようなポイントを押さえることが大切になります。
- KPIは多くても3つ程度に絞り込む
- 設定するKPIはリアルタイムで把握可能なものを選ぶ
- 指標は、日次や週次、月次といった複数の時間軸で確認する
- 量だけでなく、質のマネジメントも実施する
まとめ
組織として目標達成力を高めるためには、メンバー個々の目標達成力を高めるだけでなく、評価制度を適切に運用しながら目標達成意欲を高めることも重要です。
目標達成意欲を高める効果的な評価制度の運用は、以下の5つがポイントです。
- 明確に評価できる目標設定がされている
- 目標設定の難易度や評価基準が社内で統一されている
- ポジションに応じて目標達成までの過程と結果のバランスが考慮されている
- 長期的な視点と短期的な視点での評価軸が設けられている
- 目標設定と結果に対するフィードバックが十分になされている
目標達成につながる効果的な評価制度を運用するうえでは、そもそもの目標設定が非常に重要です。
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