
組織としてエンパワーメントを進めていくうえでは、下記3つのポイントに気を付けることが大切です。この章では、3つの実践ポイントを詳しく解説します。
エンパワーメント導入における全体のポイント
まずは、エンパワーメントを実施うるうえで、組織全体で注意すべきポイントを紹介します。
組織のミッション・ゴールなど正しい情報共有をする
エンパワーメントに欠かせない正しい判断や意思決定は、正しい情報のうえに成り立ちます。
組織が目指すミッションやゴール、組織の状況や仕事の全体像が伝わっていない場合、権限委譲される側は、正しい判断を行なうことができません。
したがって、効果的なエンパワーメントを行なうためには、正しい意思決定を下すための情報を組織のメンバーと共有する必要があります。
特に「マネジメント層だけが持っている情報や知識が多い」場合、そのままエンパワーメントを実施しても満足いく成果はあがらないでしょう。
エンパワーメントに一歩先んじて、組織の情報共有や必要な知識のインプットを進めていくことが大切になります。
組織にとって正しい判断基準を共有・啓蒙する
エンパワーメントに基づく権限委譲を効果的に進めるためには、正しい情報とともに、組織にとって正しい判断基準の共有や啓蒙が必要です。
判断基準は、大別すると下記の3つに紐づきます。
- 知識に基づくもの
- ゴールに紐づくもの(組織やプロジェクトの目標など)
- 価値観に紐づくもの(組織のミッション、ビジョン、バリューなど)
1つ目2つ目の基準で正しい判断をするための情報共有や人材育成はもちろん必要ですが、特に3つ目の「価値観に紐づく判断基準」に関しては、組織のミッションやビジョン、バリューを浸透させることが不可欠です。
マネジメントの父とも呼ばれるドラッカー博士の著書に以下のようなエピソードが紹介されています。
「新任の病院長が最初の会議を開いたときに、ある難しい問題について全員が満足できる答えがまとまったように見えた。そのとき一人の出席者が、『この答えに、ブライアン看護師は満足するだろうか』と発言した。再び議論が始まり、やがて、はるかに野心的なまったく新しい解決策ができた。
その病院長は、ブライアン看護師が古参看護師の一人であることをあとで知った。特に優れた看護師でもなく、看護部長をつとめたこともなかった。だが彼女は、担当病棟で何か新しいことが決まりそうになると、『それは患者にとっていちばん良いことでしょうか』と必ず聞くことで有名だった。
事実、ブライアン看護師の病棟の患者は回復が早かった。こうして病院全体に、『ブライアン看護師の原則』なるものができあがっていた。病院の誰もが、『患者にとって最善か』を常に考えるようになっていた。」
(P・F・ドラッカー 「プロフェッショナルの条件」より引用)
上記こそが「価値観による判断基準」であり、組織のミッションやビジョン、バリューに紐づく意思決定です。
エンパワーメント実施における個別ステップ
エンパワーメントを実施するに際しては、ステップを分解して捉えて各ステップを丁寧に押さえていくことが成功のポイントです。
目標とゴールの合意
個別の仕事やプロジェクトなどでエンパワーメントを実施するうえで、最初にすべきステップは、上司と部下との間で仕事の目標やゴールを合意することです。
ゴールに合意していなければ、適切な意思決定はできませんし、お互いの視点も食い違ってしまいます。
合意で大切なことは、「どうやって」よりも「何を」という結果や成果に照準を合わせることです。
目標やゴールに合意することが、個別の権限委譲をスムーズに行なうための第一歩です。
実行ガイドラインへの合意
目指すゴールに合意できたら、次は仕事の実行ガイドラインのすり合わせを行ないます。ガイドラインとなるのはおもに以下の項目です。
- 絶対に守られるべきルール
- 使える資源(人、お金、技術、設備など)
- 責任に対する報告
- 提供できるサポート
- 実行内容への評価基準
ガイドラインをすり合わせを通じて、「意思決定していいフレームワーク」を合意することが大切です。
ガイドラインをすり合わせる目的は、部下に細かい指示をすることではなく、部下に「この範囲であれば自由に決めていいのだ」と感じさせることです。
こと細かな方法論を指示するのではなく、「進め方のフレームワーク」をすり合わせましょう。
実際のビジネス現場においては、目標とゴール、実行ガイドラインは一回の打ち合わせでスッと決められるものではないかも知れません。
ですが、目標とゴール、実行ガイドラインをすり合わせていくことを意識すると、すり合わせ自体がメンバーへのフォローになっていきます。ぜひ実施してください。
適切なフォロー
エンパワーメントを進めるうえで勘違いしてはいけないのは、「権限委譲は丸投げではない」ということです。
メンバーに権限を与えるだけ与えて丸投げするのは、エンパワーメントではなく放任・放置になります。
エンパワーメントを実施することで、メンバーの「責任感」を向上させることは大切ですが、成果に対する最終的な責任はあくまで上司のものです。
責任の所在を勘違いして、エンパワーメントを進めると、以下のように望まない結果や問題が生まれやすくなります。
- 失敗や挑戦への恐れ
- モチベーションの低下
- 上司とメンバーの関係悪化 など
エンパワーメントでは、権限委譲を実施しながらも、上司として最終責任を持ち、メンバーが成果をあげるために適切なサポートを行なうことが大切です。
だからこそ、ガイドラインを決めるうえでも、「求める報告と提供できるサポート」を盛り込むことが不可欠になります。
エンパワーメントを効果的に進めるうえで、上司は適切なケアをするためにメンバーの仕事に注意を向け、適切なタイミングで必要な支援を与える必要があります。
また、メンバーの現状レベルやスキルでは決定・実行できない課題の場合、無理にすべてを任せるのではなく部分的な委譲にするなどの工夫も必要となるでしょう。