退職時、多くの退職者は、人事担当者や上司から理由を聞かれても、本当のことをいいません。退職のなかにはもちろん前向きな要素もありますが、一方で、「今の会社で継続しない理由」が必ずあり、ネガティブな側面を伴う理由であることが多いでしょう。
理由を言わない場合、本音としてネガティブな理由を正直に伝えた場合、引き留めにあったり、ヒアリングされたりする可能性もあるでしょう。与える心象も良くありませんし、険悪な雰囲気になることもあるでしょう。
退職するのに、わざわざ面倒な状況を自分で作る必要はありませんので、多くの場合、本音はかくして、当たり障りがない、かつ引き留めづらい理由を伝えることが多くなるわけです。
人事担当者や上司が、「自己都合です。企業に特段の不満はなかったです」という退職理由を鵜呑みにしてしまえば、本質的な組織課題がいつまで経っても解決されなくなります。
本記事では、まず、一般的な退職理由と、退職理由に本音と建前がある現実を確認します。確認したうえで、新卒&中途の早期退職を防ぐポイントと、組織の退職率を改善するポイントを紹介します。
<目次>
退職理由ランキング
離職者の退職理由は、さまざまなHR企業などが調査・公表しています。転職サイトの運営会社などが実施するアンケートは、離職者が所属企業に伝えたものよりは本音である可能性が高くなります。いくつかの調査結果を見てみましょう。
まず、エン転職(エンジャパン株式会社)の調査結果では、「退職を考えたことがある」と回答した人のきっかけ・理由が以下のとおりです。
- 1位:やりがい・達成感を感じない
- 2位:給与が低かった
- 3位:企業の将来性に疑問を感じた
- 4位:人間関係が悪かった
- 5位:残業・休日出勤などの拘束時間が長かった
- 6位:評価・人事制度に不満があった
- 7位:自分の成長が止まった・成長感がない
- 8位:社風や風土が合わなかった
- 9位:業界・企業の将来性が不安だった
- 10位:やりたい仕事ではなかった
また、リクナビNEXTでは、退職理由の本音ランキングを以下のように公開しています。
- 1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった
- 2位:労働時間・環境が不満だった
- 3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった
- 4位:給与が低かった
- 5位:仕事内容がおもしろくなかった
- 6位:社長がワンマンだった
- 7位:社風が合わなかった
:企業の経営方針・経営状況が変化した
:キャリアアップしたかった - 10位:昇進・評価が不満だった
なお、おもしろいのはリクナビNEXTでは、上記の「本音ランキング」のほかに、「退職理由のタテマエランキング」も発表しています。タテマエランキングの内容は、以下のとおりになります。
- 1位:キャリアアップしたかった
- 2位:仕事内容がおもしろくなかった
:労働時間・環境が不満だった
:企業の経営方針・経営状況が変化した - 5位:給与が低かった
- 6位:雇用形態に満足できなかった
:勤務地が遠かった
:仕事に対する責任がなく物足りなかった - 9位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった
:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった
出典:1万人が回答!「退職のきっかけ」実態調査―『エン転職』ユーザーアンケート― エンジャパン株式会社
出典:転職理由と退職理由の本音ランキングBest10(リクナビNEXT)
退職理由の建前と本音
冒頭で紹介したとおり、退職者が企業に伝える退職理由は、基本的に建前だと思ったほうがよいでしょう。
繰り返しになりますが、退職者の心理として、上司や企業にネガティブな理由をいって「揉めたくない」という想いがあります。また、心理的安全性が低い職場の場合、そもそも本音がいえる環境ではないこともあるでしょう。
こうした背景から、多くの離職者は、当たり障りがない退職理由を伝える傾向があります。
新卒&中途の早期退職を防ぐポイント
近年では、終身雇用の崩壊もあり、人材の流動化が進み、転職は当たり前のものとなっています。とくにZ世代の新卒や若手がもつ企業への帰属意識は下がっており、「入社当時からいつ転職するかを考えている」と言われるほどです。
上記を背景として、新卒や中途人材の早期離職も増加している傾向があります。苦労して採用した人材の早期離職を防ぐには、以下のポイントを押さえて、採用活動に取り組むことが大切です。
最大のポイントはリアリティショックの軽減
まず、早期離職を生む最大の理由は、入社後に感じる「こんなはずじゃなかった!」というギャップです。HR領域では、入社後ギャップを、「リアリティショック」や「リアリティギャップ」と呼びます。
リアリティショックが起こる理由は、入社前に想像していた“バラ色の世界”のような理想と現実の職場にギャップがあることです。一方で、人材を獲得するうえでは、“バラ色の世界”とまではいかなくとも、ある程度の魅力づけが必要となることも事実でしょう。
したがって、早期離職を防ぐうえでは、「現実」と「魅力付け」のバランス、また、現実の伝え方などが大切になってきます。
採用分野では、「現実をきちんと伝えていく」ことをリアルスティックジョブプレビューといって、現実的な仕事情報を事前開示していくことで、リアリティギャップによる早期退職やモチベーションダウンを防ぐことができます。
配属先の社員を採用面接に参加させる
リアルスティックジョブプレビュー施策の一つに、配属先のリーダーや先輩社員に面接や説明会に参加してもらう方法があります。
たとえば、専門性が高い職種で採用する場合、該当職種の経験がない人事担当者は、求職者からの質問に対して、明確な返答ができないことが多くなります。
できなければ、配属先の社員にも面接に参加してもらう、また、面談などの機会をつくることで、質問に対して明確な回答をすることができます。
また、実際に該当職種で働いている社員やマネージャーであれば、魅力づけと共に、大変さやまだ未整備の状況などをうまく伝えていくこともできるでしょう。
仕事の大変さや組織の未整備な点も具体的に伝える
リアルスティックジョブプレビューでは、自社に不都合な点を隠しすぎないことも大切です。
たとえば、女性求職者から「子育てママが管理職になるのは大変ですか?」という質問があったと仮定します。実際に管理職になっている子育てママ社員がいれば、以下のような“リアル”を伝えて求職者にイメージしてもらうもの一つです。
- リモートワークなので、ある程度は仕事しやすいです。ただ、やはり急に熱を出してしまって迎えに行かないといけなくて、仕事に穴をあけてしまうことなどはあります。
- そこでメンバーやパートナーに迷惑をかける、助けてもらうことがあるのも事実なので、補助される分、普段の業務でのパフォーマンスやコミュニケーションを通じて、助けてもらえる状態をつくることは心がけています。
上記は一例ですが、どのような仕事にも大変なところはありますし、どのような組織も未整備の部分はあるでしょう。そうした大変さや未整備の部分を誠実に伝えることが大切です。
採用時に伝えている待遇・勤怠などと実態にズレを起こさない
絶対にNGなことは、待遇や勤怠などで採用時に伝えている情報と実態でズレを起こすことです。
- 有給休暇はとりやすいです。いつでも申請してください(⇒実際はとりづらい)
- 土日出社はほとんどありませんよ(⇒月1回は土日勤務がある)
- 給与は25万円スタートです(⇒入社時は手当てがつかず23万円スタート)
待遇や勤怠などは、数字などでも示されるため、ズレがあるときに非常に分かりやすいものです。したがって、こうした部分でズレがあると、「企業への不信感」が一気に高まります。
企業への不信感が生じると、定性的なニュアンスや小さなギャップまで含めて、「意図的に隠していたんじゃないか…」「騙された」…」という感覚が生まれていきます。そうなると、仕事へのモチベーションは低下しますし、企業側からフォローすることも難しくなります。
オンボーディングの仕組みを整える
オンボーディングとは、組織への定着や戦力化を目的とする受け入れ施策・仕組みの総称です。新卒・中途を問わず、新人が組織に馴染んで活躍するためには、業務知識をインプットするだけでは不足しています。
たとえば、人間関係を作ったり、組織で使われている共通言語を理解したり、組織内にある“暗黙の了解”的な明文化されていないカルチャーに馴染んだりする必要があります。
逆に言うと、こうしたプロセスをケアしてあげないと、新人が感じる「居心地が悪い」「勝手がつかめない」という感覚がなかなか解消されず、モチベーションダウンや早期離職、成長の停滞などにつながります。
オンボーディングの仕組みは具体的には以下のようなものです。
- 経営層や現場とのウェルカムランチを実施する
- 共通言語や自社の価値観などを、新人研修で教える
- ブラザー・シスター制度を導入する
- 新人向けの相談窓口を開設する
- 現場配属後に人事からのフォロー面談を実施する など
オンボーディングは、以下の記事で詳しく解説していますので、ご興味あればご覧ください。
組織の退職率を改善するポイント
早期離職に限らず、組織の退職率が高い場合、以下のポイントを確認しながら、メンバーが働きやすい環境をつくることも大切です。
管理職のマネジメント・ヒューマンスキルの改善
メンバーの働きやすさは、チームや組織を率いる管理職のマネジメント力やヒューマンスキル(人間力)に左右されます。
先に紹介したリクナビNEXTの本音の退職理由ランキング1位が「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」であることを見ても、また、肌感としても、上司との人間関係、上司との相性、上司を尊敬できるかが、働きやすさや働きがいにつながることは、想像できるでしょう。
他にも、管理職のマネジメント力が低いと、安定的にプロジェクトを進められないことで残業が増えたり、メンバー同士が不仲であったり…といった問題も起こりやすいでしょう。
組織の退職率を改善するには、まず「いまの上司とは働きたくない…」と思われる上司をなくすことであり、管理職研修を含めた管理職のマネジメントやヒューマンスキル強化が大切です。
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仕事のやりがいや意味づけ
人は「いまの仕事に何の意味があるのだろう?」と疑問を持ち始めると、手が止まり、モチベーションが低下し、“やらされている感”が強くなります。
モチベーションの低下を防ぐには、仕事のやりがいを共有し、意味づけすることが大切です。たとえば、仕事の全体像や意味を伝えることも一つです。
たとえば、ある店舗で、誕生月のお客様に特典付きのDMを出していると仮定します。出す際、単に「DMの封入をして」という指示をするのではなく、仕事全体の流れ、また、たとえば「年配のお客様はね、バースデーカードをもらうと、うれしいものなのよ。」「いまのDMを送るようになってから、売上が5%もアップした」といったことを説明すると、仕事に意味が生まれるわけです。
また、実際にDMを持って買い物にきてくれたお客様に対応する、また、お客様の声などに触れていくと、当初は「めんどくさい作業」だと思っていた仕事に、やりがいも生まれやすくなるでしょう。
成長実感の獲得や学習機会の提供
たとえば、入社からずっと同じ仕事しかさせてもらえなければ、社員には「自分は成長しているのだろうか?いまの企業にとどまって大丈夫なのだろうか?」などの不安が生まれてしまいます。
問題を解消するには、仕事での体験を成長につなげる振り返り(リフレクション)や研修といった学習機会をつくる、また、異動公募制度などつくるなどが有効です。
たとえば、きちんと設計された日誌を書いてもらうと、同じ工程の作業に携わってもらうとしても、「今日は少し上達したと褒められた!」や「先週よりスピードがアップした!」などのポジティブな気付きも得られやすくなります。
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公正な評価
人材に定着してもらうには、公正かつ透明な評価をすることも大切です。近年では、若手でも優秀な人材に対してはきちんと評価し、適切な報酬などを設定する企業も多くなっています。
透明かつ公正な評価をするには、適切な目標設定と進捗のフォロー、評価のフィードバックが大切になります。
待遇や勤怠の改善
市場相場とくらべて明らかに給料が低い、有給休暇が取得できない、残業代がちゃんとでない…。いまのような問題がある限り、退職率は改善しません。
近年では、企業の退職者が書き込む口コミサイトも増えています。こうしたサイトで「A社は基本的に昇給しない。面接官の話と現実にギャップがありすぎた。」などと書かれれば、採用時の応募も減ってしまうでしょう。
いまの時代に人材の獲得・定着を目指すうえでは、待遇や勤怠の仕組みを業界標準程度まで改善することは大切になってきます。
もちろん待遇改善などは、改善の原資があってこそ実現できるものです。そのため、短期的に改善できる話ではないかもしれませんが、中長期的に「物心両面で良い職場」を作っていくことが退職予防の王道となります。
まとめ
企業を退職するメンバーは、余計なことをいって上司や組織と「揉めたくない」と思いがちです。そのため、企業側から退職理由を聞かれても「家庭の事情」や「キャリアアップのため」などの建前を伝えて、本音をいわない傾向があります。
たとえば、組織に早期退職者が続出している場合、メンバーの建前を聞いて安心するのではなく、記事内で紹介したポイントを早めに確認・実施していくことが大切です。
- ポイントはリアリティショックの軽減
- 配属先の社員を採用面接に参加させる
- 仕事の大変さや組織の未整備な点も具体的に伝える
- 採用時に伝えている待遇・勤怠などと実態にズレを起こさない
- オンボーディングの仕組みを整える
また、組織の退職率自体を改善するには、以下のポイントを押さえて、メンバーが働きやすい職場環境をつくることが重要です。
- 管理職のマネジメント・ヒューマンスキル改善
- 仕事のやりがい実感や意味づけ
- 成長実感の獲得や学習機会の提供
- 公正な評価
- 待遇や勤怠の改善
なお、HRドクターを運営する株式会社ジェイックでは、管理職のマネジメント・ヒューマンスキルを高める研修プログラムを提供しています。興味がある人は、以下の資料をダウンロードしてみてください。
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