エビングハウスの忘却曲線とは、心理学者エビングハウスが発見した記憶消失に関する法則で、「一度記憶した無意味な情報を、時間が経過してから再度記憶する際に節約できる時間の割合」を示しています。忘却曲線の法則を理解することで、学習や人材育成の効果を高めることができます。
記事では、エビングハウスの忘却曲線の意味や最適な復習タイミングを解説します。
<目次>
エビングハウスの忘却曲線とは?
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エビングハウスの忘却曲線とは、1880年代後半にドイツの心理学者 ヘルマン・エビングハウスが実施した実験結果を指します。エビングハウスは、時間経過にともなう記憶の変化や、人間における忘却のメカニズムの研究を行なっていました。
具体的にはエビングハウスの忘却曲線で示すものは、「一度記憶した無意味な情報を、時間が経過してから再度記憶する際に節約できる時間の割合」 を示しています。
エビングハウスの忘却曲線は、よく誤解されるように「人間の忘れやすさ」を示したものではありません。ただ、「繰り返し学習による忘却防止の可能性 」を示すものであり、人材育成の効果性を高めるうえで有効な概念です。
エビングハウスの研究結果
エビングハウスが行なった研究によって、時間の経過と忘却に関して以下のことがわかりました。
- 20分後 :覚えた内容の42%を忘れ、58%を覚えていた
- 1時間後 :覚えた内容の56%を忘れ、44%を覚えていた
- 1日後 :覚えた内容の74%を忘れ、26%を覚えていた
- 1週間後 :覚えた内容の77%を忘れ、23%を覚えていた
- 1ヵ月後 :覚えた内容の79%を忘れ、21%を覚えていた
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結果が示すように、人間には1日経過すれば、一度覚えた事柄をすぐに忘れてしまう特徴があります。ただし、実験で記憶しているのは「無意味な情報」であり、パーセンテージをそのまま学習内容の忘却率等に当てはめることはできません。
なお、無意味な情報を忘れていくことは、記憶力が悪いからではなく、脳の構造上 忘れるようになっているだけだといわれています。
エビングハウスの忘却曲線による発見
エビングハウスの忘却曲線は、「忘却」と「学習」におけるいくつかの発見を導いています。まず、「意味あるものや重要なものは忘れにくく、無意味だと感じるものはすぐに忘れる」ということです。
また、「学習に時間をかけると覚えられる情報量が増え、復習を重ねることで忘れにくくなる」ことも発見されています。学習するうえで、一度目よりも二度目のほうが簡単に覚えられます。
そして、「一度にたくさんではなく、時間をかけて少しずつ覚えたほうが効率的である」こともわかっています。
忘れないための最適な復習タイミングとは?
前章では、エビングハウスの研究をもとに、無意味な情報であれば、人間は1日経過すると覚えた事柄の大半を忘れてしまうことを解説しました。本章では、エビングハウスの研究結果を踏まえた「記憶を定着させるための効果的な復習タイミング」を紹介します。
復習しなかった場合の記憶の忘却
復習の最適なタイミングを知るには、カナダのウォータールー大学で行われたCurve of Forgetting(忘却曲線)』という研究結果が参考になります。
ウォータールー大学の実験では、まず、何の知識もない学生たちに1時間の講義を行いました。講義後、まったく復習しなかった学生たちは、2日目には、学んだ内容の50% ~ 80%を忘れてしまっていました。そして、7日目になると覚えていることはさらに減り、1ヶ月後にはわずか2%~3%しか覚えていなかったという結果になりました。
(出典)ウォータールー大学 Curve of Forgetting
https://uwaterloo.ca/campus-wellness/curve-forgetting
最適な復習タイミング
ウォータールー大学の研究でも、エビングハウスの研究と同様に、人間の記憶は時間とともに減衰していくことが明らかになっています。ウォータールー大学の研究では、何も復習しなかった場合の比較対象として、「講義後の復習でどれだけ記憶を取り戻せるか」という研究も同時に実施されました。
研究では、講義後24時間以内に10分間の復習をすることで、記憶が100%戻ることが分かりました。さらに、2回目の復習を1週間後に行うと5分で、さらに1ヶ月後に3回目の復習をすれば、わずか2~4分で記憶が取り戻せることが分かりました。
ウォータールー大学での研究を踏まえると、理想的な復習は、
2回目:1週間後
3回目:1ヶ月後
と各タイミングでは短時間でいいので、3回の復習を実施することが望ましいと言えます。
日々の仕事がある社会人の場合、復習の時間を確保することは大変かもしれませんが、復習にかかる時間は繰り返すたびに短くなり、より記憶は深く定着します。
社内で研修やセミナーを実施する際も、上記のタイミングを踏まえて、復習のタイミングをしっかりと設けておくことが研修の効果性をあげるポイントになります。
エビングハウスの忘却曲線を踏まえた人材育成と研修設計のポイント
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くり返しになりますが、エビングハウスの忘却曲線でよく誤解されるのは、エビングハウスの忘却実験は「無意味な情報」を記憶させたものであり、実際に実務ではここまで忘れるわけではない点です。
したがって、人材育成や教育研修を考える際に、忘却曲線のパーセンテージを、そのまま研修内容などの忘却率に当てはめられるわけではありません。
ただし、人材育成をするときには、「人は忘れる。特に、たった一日でも一気に忘れてしまう傾向にある」ということを前提に研修設計等を進める必要がありますし、下記の発見は育成設計に反映できるものです。
- 意味あるものや重要なものは忘れにくく、無意味だと感じるものはすぐに忘れる
- 学習に時間をかけると覚えられる情報量が増え、復習を重ねることで忘れにくくなる
- 一度にたくさんではなく、時間をかけて少しずつ覚えたほうが効率的である
学習ピラミッドを意識した研修設計
人材育成と「忘れやすさ」を考えるうえで、エビングハウスの忘却曲線と並んで、学習ピラミッドの概念が有名です。学習ピラミッドは、アメリカの国立訓練研究所がどのような学習方法が頭に残りやすいかを分類し、ピラミッド型にまとめたものです。
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- 講義(Lecture):5%
- 読書(Reading):10%
- 視聴覚(Audiovisual):20%
- 実演(Demonstration):30%
- ディスカッション(Discussion Group):50%
- 練習(Practice Doing):75%
- 他者に教える(Teaching Others):90%
学習ピラミッドを見ると、講義や動画視聴といった受け身の学習方法では研修内容の定着率が上がりにくいことがわかります。そのため、忘れにくい研修を目指すうえでは、学んだ内容を他の人に教えたり、グループディスカッションを取り入れたりといったように、能動的で体験型のカリキュラムにすることがおススメです。
学習ピラミッドは、以下のページでも解説しています。気になる方は、確認してみてください。
習慣化による定着促進
人間の意識的な実行には、限界があります。したがって、研修で学んだことを、無意識の領域で実行できるようにすると最も効果的です。そのために必要となるのが、習慣化です。
一般的には、新しい行動を21日間繰り返すと習慣化の入り口に立つ。そして、3ヵ月の実行で定着するといわれています。
内容によっても期間が変わってくる部分はありますが、研修内で実践行動を決めるときには「1回だけやること」ではなく、できれば「毎日やること」を設定して習慣化を目指すと定着はより有効です。
フォロー研修の効果的な実施方法
エビングハウスの忘却曲線が示すように、人間の脳の構造上、学習内容を忘れていくのは仕方がないことです。したがって、研修で教えた内容の定着率を高めるためには、研修が終わってから一定期間経ったあと、同じメンバーを再度集めてフォロー研修を組み込むことが有効です。
フォロー研修の目的と内容は、対象者や開催時期によっても変わってきますが、以下を参考にして実施することがお勧めです。
研修の2週間後:
それぞれの参加者が、研修で学んだことをどのように実践したか、どんな成果や反応が得られたか、どんな課題や問題があったかを実践報告会で発表します。聞き手は他の人がどのように実践したか、どんな気づきがあったかを聞くことが学びと復習になります。また、発表者にもフィードバックやアドバイスを与えましょう。早期に実践発表会を実施することで、復習になると共に、実践のモチベーションを高めることができます。
研修の1ヵ月~3ヵ月後:
実践によって生まれた成果や成功・失敗を振り返りましょう。実践によってどのような変化や成果があったかのかを、数値や事実に基づいて検証します。そして、検証した結果をもとに、実践の継続や改善、新たな挑戦などの計画を立てるとよいでしょう。実践の成果が明確になると共に、当初に学んだ内容を思い出し、次の実践精度向上へとつながります。
研修の半年後:
実践の全体的な振り返りを行い、半年間で得られた成果や学び、課題や反省、感想などを共有します。研修で学んだことを定着させるために、今後も継続して行うべきことや、さらに学びたいことなどを明確にします。このことを通じて、研修の意義を確認し、次のステージに進む準備が整うでしょう。
研修の1年後以降:
定期的に研修内容を思い出させるために必要なステップです。研修で学んだことを忘れないように、メールやSNSなどで研修の要点やポイントをリマインドします。また、研修で学んだことを活かしている事例や成功事例を紹介します。このようにすることで、研修の効果を持続させることができます。また、受講者がある程度の人数になってくると、活用や成功事例を共有し横展開することが更なる成果へと繋がります。また、学んだ内容の共通言語化などにも役立つでしょう。
まとめ
エビングハウスの忘却曲線は、ドイツの心理学者であるエビングハウスが実施した時間の経過にともなう記憶の変化や、忘却のメカニズムをあらわす研究のことです。人材教育の領域では、エビングハウスの忘却曲線から見えてくる「繰り返し学習」や「意味づけと実践」による忘却防止の可能性が注目されています。
なお、エビングハウスの忘却曲線は、無意味な情報を記憶させた研究です。したがって、実際の研修では、「エビングハウスの忘却曲線」のデータが示すほど一気に多くの内容を忘れるわけではありません。
しかし、研修設計をするときには、「人はたった一日でも一気に忘れてしまうこともある」という傾向を前提に、実践や振り返り、復習などの仕組みを組み込んでいくのがよいでしょう。効果性の高い研修を実施するために、ぜひ記事で紹介した内容を参考にされてください。







