職場の「共通言語」のつくり方とは?|東大特任研究員が教える、チームを一つにする4つのアプローチと日々の習慣

更新:2025/06/23

作成:2025/06/19

職場の共通言語のつくり方とは?
「若手にもっと主体的に動いてほしいのに、想いが伝わらない」
「テレワークでメンバー間の意思疎通が難しくなった」
「世代間の価値観の違いから、会議で意見がすれ違うことが多い」

こうした職場のコミュニケーションに関する悩みは、多くのビジネスパーソン、特に人事担当者やミドルマネージャーの方々にとって尽きないものでしょう。

 

前回の記事では、東京大学で特任研究員を務める堀越耀介氏が、5000人の対話分析をもとに、その根本的な原因がチーム内における「共通言語」の不足にあり、その解決の鍵が「対話」と「哲学」にあることを解説しました。

 

 

今回は、堀越氏の著作『世代と立場を超える 共通言語のつくり方』をもとに、職場で「共通言語」を生み出し、チームの結束力を高めるための具体的な方法を解説していきます。

<目次>

まずはここから。「共通言語づくり」4つのアプローチ

「共通言語」と聞くと、何か特別な言葉を創り出す必要があるように感じるかもしれませんが、そうではありません。大切なのは、私たちが普段何気なく使っている言葉の解像度を、対話を通じて上げていくことです。そのための具体的なアプローチとして、私は4つの「型」を提案しています。

 

①似ているイメージを見つける:アナロジーで思考の入り口を作る

最初のアプローチは、アナロジー(類比)、つまり「〇〇のようなもの」という比喩を使って、メンバーが持つイメージを引き出す方法です。これは、対話の入り口として非常に有効です。

 

たとえば、「あなたにとって、この会社はどのようなイメージですか?」と問いかけてみましょう。ある人は「航海を続ける船のようだ」と答えるかもしれません。共通の目的のために協力し合うイメージです。また別の人は「統率の取れた軍隊のようだ」と答えるかもしれません。階層構造や規律を重んじるイメージでしょう。

 

このように、同じ「会社」という言葉でも、人によって全く異なるイメージを持っていることに気づくことができます。イメージのズレを自覚することが、共通言語づくりの重要な第一歩となるのです。

 

②意味が似ている言葉同士の違いを明確にする:「尊重」と「甘やかす」はどう違う?

次に有効なのが、意味の似ている言葉の違いを明確にしていくアプローチです。私たちは無意識に、これらの言葉を曖昧なまま使ってしまいがちです。

 

たとえば、マネジメントの文脈でよく使われる「部下を尊重すること」と「部下を甘やかすこと」。2つの違いをチームで話し合ってみるとどうでしょうか。

  • 尊重すること:相手の自律性を育むことを目的とし、相手の立場や意図を汲みつつも、自分の判断基準から助言を与えること。
  • 甘やかすこと:相手の欲求を無条件に満たし、短期的な満足を与えること。

このように言葉の輪郭をはっきりさせることで、「いま自分が行っているサポートは、果たして『尊重』だろうか、それとも単なる『甘やかし』になっているだろうか」と、自分たちの行動を客観的に振り返るための基準が生まれます。

 

③1つの言葉に含まれている意味の違いを識別する:「新しい」の解釈違い

一つの言葉が違った意味やイメージで使われる言葉にも注意が必要です。たとえば、経営層から「何か新しいことをしよう」という号令が出たとします。「新しい」は、どんな意味合いで使われているでしょうか。

 

ある人は「世界初の革新的なものを生み出すこと」と捉えるかもしれません。一方で、別の人は「自社では初めての試み」と解釈するかもしれませんし、「他業界で成功している事例を自社に導入すること」と考える人もいるでしょう。

 

もしこの「新しい」の解釈がバラバラのままプロジェクトが進めば、メンバーの目指す方向は当然ずれてしまいます。「私たちが目指す『新しさ』とは、どのレベルのことか?」を最初に議論し、共有する。この一手間が、チームの力を結集させる上で極めて重要になるのです。

 

④まだ名前のない現象や感覚に名前をつける:「察してスルー」「炎上予備軍」

最後のアプローチは、組織の中で「なんとなくみんなが感じているけれど、まだ言葉になっていない現象」に名前をつけることです。

 

たとえば、会議で意図や背景が曖昧な情報に対して、あえて深掘りせずに表面的な理解で終わらせてしまう行為。これに「察してスルー」と名付けてみる。あるいは、近い将来トラブルに発展しそうなリスクを抱えたプロジェクトを「炎上予備軍」と呼んでみる。

 

このように名前をつけることで、これまで「個人の感覚」だったものが「チームの共通認識」へと変わります。「『察してスルー』せずに、ちゃんと確認しましょう」「あの案件は『炎上予備軍』だから、早めに手を打ちましょう」といったように、課題解決に向けた具体的なコミュニケーションが生まれやすくなるのです。

 

明日からできる!日々の業務を「対話の場」に変える小さな習慣

これまで紹介したアプローチは、特別な研修やワークショップの場でなくても、日々の業務の中に組み込むことができます。ここでは、皆さんの職場を少しずつ「対話の場」に変えていくための、具体的な習慣をいくつかご紹介します。

 

ミーティングでの工夫:冒頭の「キーワード」設定から始める

いつものミーティングの冒頭に、5分から10分だけ「対話の時間」を設けてみましょう。たとえば、その日の議題に関連するキーワード(例:「効率化」)を1つ取り上げ、「皆さんにとって『効率化』とは、どのような状態を指しますか?」と問いかけ、それぞれの考えを共有するのです。

 

これにより、議論の前提となる言葉の定義が明確になり、その後の議論が格段に深まります。

 

1on1での工夫:「そもそも、よい仕事とは?」と問いかける

上司と部下の1on1も、絶好の対話の機会です。業務の進捗確認だけでなく、「そもそも、あなたにとって『よい仕事』とは何ですか?」「このチームにおける『信頼』とは、どういうことだと思いますか?」といった、少し哲学的な問いを投げかけてみてください。

 

普段はなかなか話すことのない、お互いの価値観や仕事観に触れることで、表面的な関係性を超えた深い信頼関係を築くきっかけになります。

 

プロジェクトの振り返り:「〇〇ショック」から学ぶ

プロジェクトの終了後に行う「振り返り(レトロスペクティブ)」も、共通言語を育む重要な場です。単に「良かった点」「改善点」を挙げるだけでなく、そのプロジェクトの中で生まれた独自の言葉や表現(例:「あの時の『〇〇ショック』は大変だったね」)を拾い集めてみましょう。

 

その言葉がチームに何をもたらしたのか、どんな学びがあったのかを共有することで、それは単なる思い出ではなく、未来に活かせるチームの貴重な資産となります。

 

最後の仕上げ:共通言語を「文書化」し、育てていく

対話を通じて生まれてきた共通言語は、単に話し合うだけでなく、文書として残しておくことが大切です。会議の議事録やチームのポータルサイトなどに「私たちの共通言語集」としてまとめておくことで、チームに新しいメンバーが加わった際にも、文化をスムーズに共有することができます。

 

ただし、重要なのは、一度つくった共通言語を固定化しないことです。組織も人も、常に変化し続けます。だからこそ、定期的に対話の場を持ち、私たちの言葉を常にアップデートしていく。その意識こそが、真に強くしなやかなチームをつくり上げていくのだと、私は信じています。

 

著者

堀越 耀介(ほりこし・ようすけ)
東京大学UTCP上廣共生哲学講座特任研究員
堀越 耀介(ほりこし・ようすけ)
1991年生まれ、東京都出身。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。学術的な知見と、5000人以上に対する対話のファシリテーションの経験を融合させ、企業が課題解決や価値創造に取り組む活動を支援している。NECソリューションイノベータ株式会社、三井不動産株式会社、株式会社SBI新生銀行、株式会社LegalOn Technologiesをはじめとする多様な企業に対して、「哲学」と「対話」によって組織の潜在能力を最大限に引き出すコンサルティングを実施。株式会社ShiruBeでコンサルタント/上席研究員を務め、株式会社電通と研修プログラムの共同開発を行うなど、活動の場を広げている。著書に『哲学はこう使う――問題解決に効く哲学思考「超」入門』(実業之日本社)。『Forbes JAPAN』をはじめ、各メディアでも幅広く活躍する。

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