多様性の重視を掲げたことで生まれた変化
近藤「クオリティ企業」を目指し、多様性を重視する組織づくりを推進した結果、社内ではどのような変化が生まれましたか。
根耒当初、多様性の観点では、目指している理想の状態と現状には大きな乖離がありました。これまでの弊社の採用形態は新卒採用がほとんどで、キャリア採用が少ない状態が長く続いていたこともその理由のひとつです。
この乖離を解消するためには、変化を恐れることなく組織に「ゆらぎ」を与え、少しずつでも組織の状態を変えていくことが必要でした。
社内では変化をせまられていることに対する戸惑いもあったと思います。「お客様への責任」「社員とその家族への責任」「社会への責任」の「3つの責任」のように「変えてはいけないもの」と、働き方や組織風土などの「変えていきたいこと」のバランスを取ることは重要ですが、そのメッセージが組織に浸透するまでには時間がかかります。
当初、まずはキャリア採用の比率を引き上げる取り組みや、テレワークの導入など働き方改革などから着手しました。まずは一律で同質的な集団から脱却するために、多様な人材を集めること、そして集まった多彩な個人が活躍できる環境づくりから始めたのです。
取り組みが進むにつれて、仕組みや制度は整ってきましたが、社員がそれらの取り組みの趣旨を理解して、実際にその仕組みや制度を有効利用してくれる状態からは、まだまだ距離がありました。また、キャリア採用を進めるにあたって、旧来の職能主義の人事制度が、社外の多様な経験を持った人材を受け入れる上で障害となっていました。そこで、人事制度と組織風土の改革を進めることにしたのです。
いわば、「属性」「経験」「適性」の多様性を高めるための種々の取り組みが機能するための基盤(インフラ)として、人事制度と組織風土を改革しようとしたわけです。

人事制度と組織制度の改革
近藤人事制度と組織制度の2軸で改革を進められたとのことですが、どのような成果が得られたのか、お聞かせいただけますか。
根耒人事制度の改革は、主に人材の流動化や、オープンな労働市場に対応するためのものです。私たちも成長産業でありたいと思うものの、歴史のある企業でもあるので、新しい時代に合った人事制度をいち早く取り入れることの社会的影響も考慮して実行しました。
具体的には、職能主義から役割主義への転換をはかり「役割等級制度」を導入しました。これにより、会社に長くいるからこそ発揮される能力など、評価が難しい部分を補いながら、役割に応じた評価ができるようになりました。
また、ハウス食品グループの中には多様な事業会社があるので、そのダイバーシティを活かして、キャリアを描きチャレンジする人材を支援する「キャリアチャレンジ」や、「ジョブポスティング」などの施策も進めてきました。このような人事制度の見直しが、社員の活躍や抜擢につながってきています。
この人事制度改定によって、キャリア採用においても効果が出ています。
客観的な指標に基づく市場と連動した報酬水準を設定しており、かつ等級と評価と報酬の連動性が高く、マネジメント職とスペシャリスト職の相互乗り入れが可能な複線型の制度となっていますので、応募者の方にとっても採用する我々にとっても、社内外の役割と報酬水準を比較しやすく、オファーの際に報酬水準とその後の活躍と昇給の関係を透明性高くイメージいただくことが可能になりました。
承諾率の向上やミスマッチの解消につながっている実感があります。
目指している組織風土を定着させるための施策
近藤御社が目指している組織風土の理想像とは具体的にどのようなものでしょうか。新しい組織風土を定着させることは決して簡単ではないと思います。新しい組織風土を定着させるための取り組みについてもお聞かせください。

根耒まず、私たちは「多様性を受け入れ、チャレンジを後押しできる組織風土」を目指しています。
職場の全員が「多様性を受け入れる」ということは、自分自身の個性も受け入れてもらえるということ。お互いの個性を尊重し合うことで、誰もが自分らしさを追求しても疎外されることがない心理的に安全な環境を作りたいと思っています。それが、その人の挑戦の土台になるという考えからです。
もうひとつ大切にしていることは、一人ひとりの社員がイキイキと健康に働けることです。そのためには、自ら進んで挑戦することや、やりがいを感じる仕事をすることが大切だと思います。
しかしながら、社員が挑戦したい方向が会社の方向性とまったく違ってしまうと、挑戦への迷いも生じやすいですし、貢献実感や成長実感が得られにくく、やりがいを感じにくくなってしまいます。
そこで、組織風土改革の取り組みと並行して企業理念や中期計画の浸透に努めるなどして、会社と社員の挑戦や成長の方向性を揃えていくことが重要だと考えています。
「多様性を受け入れ、チャレンジを後押しする組織風土」の醸成のための取り組みの中核は、「組織風土改革PDCAフロー」という活動です。
弊社の活動の特徴は、「全員参加の職場風土改革」のPDCAサイクルと、職場単位ではどうにもならない事象を会社として支援するための「会社の組織風土改革」のPDCAサイクルを両輪で回しているという点と、組織風土という捉えどころのないものを変えるためにまずは「チェック」から始めるという「CAP-Do」というアプローチをとっている点でしょう。
起点となるチェックプロセスには「組織風土診断」という独自の社員調査を活用しています。目指す組織風土になっているかどうかを社員一人ひとりが自身の所属している会社や職場を評価するものです。
組織風土とは、その職場に所属している人が感じていることの総体ですから、変えていくためには一人ひとりの職場での体験を変える以外に方法はありません。それゆえ、組織風土改革における最も重要な活動として「全員参加の職場改革サイクル」を位置づけています。
この活動では、組織風土診断の結果を職場単位でフィードバックし、その結果を職場の社員一人ひとりが確認、分析した上で、一同に会して「ガチ対話」を行います。
職場を構成している一人ひとりの立場や状況を踏まえた本音の意見を大事にして、職場の組織風土上の本質的な課題をあぶりだすことが目的です。その上で、より良い職場づくりに向けた、アクションプランを策定してもらいます。
なお、組織風土は、液体が気体に変わる臨界点のようなイメージで、ある一定程度醸成されてくると、ドミノが倒れるように一気に変化するものだと考えています。
そこで、組織風土診断の結果、社員の「目指す組織風土になっているか」に対する肯定的な回答の割合が70%になるラインを臨界点として設定し、社員にもその目標値を共有して、各職場での取り組みを進めています。
今ご紹介した通り、各職場が主導する「全員参加の職場改革サイクル」が活動の中核ではありますが、職場単位ではどうしようもない問題もたくさん存在します。そうしたときに、それがボトルネックになって改革が停滞するのを防ぐために、私たちグループ本社が主体となる「会社の風土改革サイクル」という取り組みを同時に進めています。
この活動においても組織風土診断というチェックフローが起点となっており、グループ4000人超の回答データを統計的に解析することで、グループに共通の課題を特定し、その解消のための打ち手を講じていきます。
「多様性を受け入れ、チャレンジを後押しできる組織風土」を確立するために
近藤この「多様性を受け入れ、チャレンジを後押しできる組織風土」の確立のため、「多様性を受容する組織風土」「チャレンジを後押しする組織風土」という2つのアウトカムに分け、組織風土診断の結果を4つの切り口から分析されていると伺いました。4つの切り口のなかで特に重要だったものを教えてください。
根耒第七次中計の2年目に、「アクションプランの策定と実行」「1on1の実施状況」「労働時間の質と量」「マネジメント行動」の4つの切り口で分析を行いました。実は、毎年同じ切り口で分析している訳ではなく、中期計画の取り組みに沿って分析の切り口を毎年変更しています。
ただし、中期計画の3ヶ年の中での位置づけはある程度決めていて、初年度はまず組織風土診断の各項目間の関係や構造を把握して、最終的に高めたいアウトカムに効いている要素を把握しながら、今後の取り組みの中で強化すべき項目や最もインパクトがある要素を見極めることを目的とします。
2年目は、初年度の結果をもとに施策が動いているはずなので、関連する施策から得られるデータとのクロス分析を行います。ですので、第七次中計においては、それが先に挙げた4つの切り口だったということです。
ちなみに、3年目には、次の中期計画に向けた議論が始まっていますので、その方向感を踏まえた調査自体の再設計のために分析を行います。
ご質問いただいた4つの切り口での分析結果についてですが、いずれの要素も組織風土に重要な影響があることが確認できました。その中でも特に、「アクションプランの策定と実行」が、組織風土に強い影響を与えていることがわかっています。
しかしながら、まだ全ての職場において「アクションプランの策定と実行」が十分になされていない状況がありますので、全員参加の職場改革の取り組みをより一層強化して推進していくことが重要であると考えています。
また、組織風土診断のデータと多面診断のデータとのクロス分析の結果から、「マネジメント行動」の影響が大きいこともわかりました。この結果を踏まえて、既存のマネジメント学習のコンテンツを変更したり、多面診断結果のフィードバックを強化したりするなどの取り組みも進めています。

近藤感覚だけでなくデータで語ると、より説得力が増しますね。この組織風土診断結果の分析を軸にした会社の風土改革の取り組みついて、今後どのような展開を考えているのか教えていただけますか。
根耒これは第七次中計から変わっていませんが、そもそも私たちが目指しているのは、多様性を受け入れ、チャレンジを後押しする組織風土を醸成することを通して、社員の「仕事のやりがい」を高め、「チャレンジ行動」を増やすことです。
第八次中期計画からは、組織風土改革の結果として高めたい個人の状態である「仕事のやりがい」と「変革に向けたチャレンジ行動」の2つの指標を新たに追加することを検討しています。
また、組織風土診断の分析結果から全社的な打ち手を検討する上では、分析結果のみならず、そのような結果となっている背景を突き詰めて考える必要性を感じています。例えば、「職場における業務上の過去慣例が、社員の挑戦を阻害している」という分析結果が得られたとして、その背景には少なくともふたつのパターンが想定されます。
ひとつは形骸化したルールが硬直して円滑な業務遂行や改善を阻害してしまっているパターン。もうひとつ、本来は今も必要なルールや慣習であるにもかかわらず、そのルールや慣習の目的がきちんと職場の中で共有されていないがために悪しき慣例だと見なされてしまっているパターンもあり得るでしょう。
勘と経験のみで判断するよりはいくぶんかマシなのでしょうが、統計分析の結果といえども、あくまで仮説にすぎません。
それを実効性のあるアクションや打ち手に昇華するためには、その仮説の背景にある事象を突き詰めて考え、場合によっては、実際に現場に足を運んで社員の声を聴いたり、その職場を実際に観察したりして、職場の実態を捉えることが何より重要だと思っています。

近藤このほかにも、社員のチャレンジ行動を称賛する取り組みも行っていると伺っています。これらの取り組みについてもお聞かせいただけますか。
根耒挑戦した人を褒めたたえる文化を作るために表彰制度を設け、挑戦した社員の取り組みを認めて褒める「チャレンジ賞」を授与しています。この「チャレンジ賞」では、チャレンジの大小や、成功したか失敗したかについては、問いません。
チャレンジに取り組む志の高さ、チャレンジする事の大切さを示す事例を集めて、たとえ失敗したとしても、次につながる気づきや経験の蓄積になるということを、認め、褒め称えることを目的としています。
グループ全体から、チャレンジ賞にノミネートしてもらい、テーマに即した好事例を集めて、グループの役員も参加する「チャレンジ賞事例共有会」も開催しています。この賞に応募する社員の数は年々増加しています。
近藤本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました!
ハウス食品グループ本社株式会社
人材戦略部 人材・組織開発課長
ハウスビジネスパートナーズ株式会社 取締役
根耒 伸至氏
新卒で組織・人事系コンサルティングファームに入社。その後大手ゲームソフトメーカーに転じ、ゲーム開発部門HRBP、人材開発マネージャーを歴任。ハウス食品㈱に入社後は、グループ本社 人材戦略部にて中期計画策定、組織風土改革、タレントマネジメント、HRIS導入、DX人材開発などを主導。心理学修士、公認心理師。名古屋大学大学院 発達科学研究科 博士後期課程に在籍中。専門は、産業・組織心理学、産業臨床心理学、組織行動論。
株式会社ジェイック 取締役 兼 常務執行役員
近藤 浩充氏
大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。