
指導者向けのOJTマニュアルは、OJT指導者の負担を減らすと同時に、OJTの品質を高いレベルで安定させるためのものです。OJT研修の全体像や位置づけ、実施計画の作り方や指導のポイント等を記載する必要があります。以下から一つずつ解説していきます。
OJT研修の全体像、位置づけと目的
実務的教育をおこなううえでまず重要となるのは、「OJTでは何をどのように教えればいいのか?」という指導者の疑問を解消し、OJT研修の全体像を把握させることです。以下のマニュアル項目を通して、OJTにおいて「指導者は何を求められているのか?」をきちんと理解させましょう。
<記載項目の例>
- 自社におけるOJTの目的と位置づけ
- OJTとOff-JTの違い、役割分担
- OJTのゴール
- OJT指導者への期待事項と役割
- 人事やOJT指導者の上司との役割分担、得られるサポート
- Off-JT期間に学習していること
- OJT実施計画の作り方
指導者向けのOJTマニュアルは、自社で定める教育方針や方法等を共有するだけでなく、長期間のOJT教育で生じやすい指導者側の迷いや不安を解消する役割もあります。OJT指導者が迷ったときに立ち返られる羅針盤のような位置づけです。
OJTの実施計画の作り方
OJT指導者に対する全体的な注意事項や指導方法を明記したうえで、以下の項目を通じて、具体的なOJT計画を策定する作業に入っていきます。OJT計画の作成は、作成するプロセス自体がOJT指導者への教育効果を持ちます。
ただし、負担もかかりますので、どこまでマニュアルに盛り込んでしまい、どこまでをOJT指導者自身に作らせる(ひな形やフォーマットで埋めていく)かは、各社の判断です。
<記載項目の例>
- 詳細ゴールの設定
- ゴールを達成するうえで必要なスキルの一覧
- 期待するスキルレベルの設定
- 最も重点的に指導すべき項目
- スキルを学んでいく順番
- 各スキルを身に付けるために必要なプロセスやハードル
- OJT期間でモチベーションダウンしやすい状況と対策
- OJT期間中にアドバイスや支援を求める相手
詳細ゴールや身に付けるスキルの一覧、スキルを学んでいく順番等、ゴールや全体像は、学習者とOJT指導者の目指す方向性を一致させる意味でも、非常に重要な項目です。また、OJT指導者の悩みを少なくするためにも、各スキルの指導プロセスや学習者のモチベーションダウンの想定、アドバイスや支援を求める相手を決めておくことが有効です。
OJTを実施する前の準備
OJTの実施では、現場がスムーズに受け入れるために、当日までに受け入れ準備を済ませておく必要があります。例えば、多くの場合にノートパソコンやメールアドレスは必須でしょう。また、業務によっては、ITツールのアカウントや社用電話等の貸与、アプローチ先のリスト等も必要です。
基本的なものは、入社時に人事部門で用意されているでしょうが、部門独自で準備が必要なものがあれば、リストアップして準備しておきましょう。また、配属当日に良いスタートを切るために、指導者を含めたチームメンバーとのスケジュール調整も必要となるでしょう。
<記載項目の例>
- 必要な機器、ツール
- 受け入れ当日までにやること
- 当日のフローや対応方法
OJTの進め方
OJTの進め方では、教育中に意識したいポイントを記載しておく必要もあります。
<記載項目の例>
- 相手のタイプに応じた指導方法のポイント
- 理解状況や進捗の確認方法
- 指導計画の進捗確認と軌道修正の方法
OJTによる成果を確実なものとするためには、学習者の理解や進捗に応じて、計画を進めていく必要があります。また、相手のコミュニケーション対応に応じて、指導方法をアレンジしていくことも効果性を高めます。
学習者のレベルや能力に応じて、進捗がばらついてきますので、理解状況の確認方法(テストやロールプレイング等チェックポイントの作り方)、計画通りに進まない場合の軌道修正、問題が起こったときの対処方法等の項目も、マニュアルに記載しておくのが理想的でしょう。
OJTの現場における指導方法
実際の現場においては、以下の4ステップからなる「4段階職業指導法」を使ってOJT教育を進めるのが効果的です。4段階職業指導法は、第一次世界大戦中にアメリカで生まれたOJTのルーツともいえる指導法です。
<4段階職業指導法>
Step1:Show(やってみせる)
Step2:Tell(説明する)
Step3:Do(やらせてみる)
Step4:Check(フィードバックと修正)
最初に指導者がお手本を見せることで、言葉やマニュアルの説明だけではイメージしにくい仕事内容を受講者の記憶に残せる利点があります。そのうえで、やらせた後にすぐフィードバックすることで、学習スピードを早めていきます。
個別のOJTマニュアルがあると、Step1~4までを、
Step1:事前にマニュアルを読んだうえで、やってみせることで理解が深まるStep2:説明を「重要な点や間違いやすい点」に絞ることで、記憶に留めやすくする
Step3:マニュアルを参照しながらやらせてみることで、不安を解除して成功率を高める
Step4:学習者本人がマニュアルと照らし合わせて、セルフチェックできるようにする
といった形で、より効果的に実施することが可能になります。
OJTのフォローアップ方法
OJT研修で戦力化を促すためには、教育を「やりっ放し」にせず、実践した内容を振り返り、悩みを解決するフォローアップが重要です。マニュアルの中では、習熟度や悩みの確認、プログラムの修正・変更に関わる以下のような項目を記載しておくと有効です。
<記載項目の例>
- スキル習熟度のチェック
- 習熟度に応じたOJTプログラムの計画を再検討
- 定期的な面談の実施方法
OJTにおけるフォローアップには、新入社員の離職を防ぐ目的もあります。厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」によると、大学卒の新入社員は入社3年で約3割が退職しています。
また、じつは“3年で3割”というのは、大手から中小企業までを平均した数値です。規模別に3年退職率を見ると、30~99人の中小企業では40%弱、5~29人の小企業では50%前後にもなります。
こうしたデータを知ると、OJTでただ実務を教えるだけでなく、フォローアップを通して、学習者をケアすることの重要性もイメージしやすくなります。現場担当者におけるOJTがうまくいくと、新人の戦力化が促進されるだけでなく、定着率のアップによって人事担当者の負担や採用コストの問題も解消できるようになります。それにより、人事担当者もより優秀な人材の採用に舵を切ることも可能になるでしょう。