1on1ミーティングとは、上司とメンバーによる1対1の対話です。日本において、ヤフー社が力を入れていることで有名となり、多くの企業でも注目が集まるようになりました。
1on1ミーティングは数多くのIT企業を生み出したアメリカのシリコンバレーでは当たり前の習慣で、世界でも関心が寄せられているマネジメント手法の一つです。
記事では、1on1ミーティングが注目される背景や目的、実施のポイント・注意点を解説します。
<目次>
1on1ミーティングとは?
冒頭でも触れたとおり、1on1ミーティングとは、上司とメンバーが1対1で行なう対話です。これだけ聞くと、半期に1回、あるいは年1回ずつの人事評価の面談、業務進捗に関する定期レビュー等をイメージする方もいるかもしれません。しかし、内容はまったく異なります。
1on1ミーティングは、1回30分~60分のミーティングを毎週・隔週など短い間隔で実施します。最低でも月1回の頻度で継続的に行なうのが重要です。1on1導入の先駆けとして有名なYahoo社は、週1回30分の1on1ミーティングを2012年から継続しています。
1on1ミーティングの実施目的
実施目的は、導入する企業によって多少の違いはありますが、基本的には「メンバーの成長促進」です。1on1ミーティングの実施によって、メンバーの価値観、現状を把握して、希望するキャリア形成を手助けします。
1on1ミーティングは、業績評価の面談のようにメンバーを管理するためのものではありません。したがって、ミーティング内でメンバーを評価したり、上司がアジェンダを準備して業務報告させたりするものではありません。
あくまでも、メンバーの成長のための時間であり、メンバー自身に話すテーマを設定してもらい、メンバーの興味や関心を引き出し、上司がメンバーを理解することが大切です。
1on1ミーティングが普及した背景
1on1ミーティングが普及した背景には、次のようなことが挙げられます。
- 働き方や価値観の多様化
- 情報社会における知識やスキルの拡散
- 創造的な仕事や感情労働の増加ト
上記の背景から、従来のように「上から下への一方的な指示やアドバイス」が機能しない場面も増えました。事細かに指示することが難しく、さらに働き方や価値観が多様化するなかで、マネジメントの難易度は格段に上がっています。
また、今までのように上司が一方的にアドバイスできない、しても聞き入れてもらえないといった状況が生まれています。そのなかで、1on1ミーティングは、相手の価値観等を尊重しながら、相手の意欲を引き出し、部下の成長を支援する技術です。まずは、1on1ミーティング普及の背景を把握しましょう。
・ 働き方や価値観の多様化
時短勤務やフレックスタイム制などさまざまな働き方ができ、また終身雇用や年功序列が崩れたことによって転職・開業・フリーランスなどの選択肢が広がりました。働き方への価値観が変わるなかで、昇進や昇格といった従来型の報酬だけで部下を動かすことはできません。
・ 情報社会における知識やスキルの充実
情報社会においては、知りたいことをすぐに調べられます。上司からの指導や教育がなくても知識やスキルを充実させられますし、むしろ今では、特定のスキルに限れば上司よりも知識が豊富なメンバーも珍しくありません。
・ 創造的な仕事や感情労働の増加
とりわけホワイトカラー領域では、単純作業の自動化が進み、メンバーには創造的な仕事や感情労働などがこれまで以上に強く求められるようになっています。創造的な仕事や感情労働で能力を発揮するうえでは、モチベーションや心理的安全の担保が重要であり、これまで以上に上司とメンバーとの信頼関係が重要になります。
1on1を実施するメリット
1on1ミーティング実施のメリットは、大きく分けて次の3つです。
- 信頼関係が醸成される
- メンバーの成長が促進される
- 仕事や組織へのエンゲージメントが向上する
以下でそれぞれを詳しく解説します。
信頼関係が醸成される
前項「1on1ミーティングとは?」でもご紹介したように、1on1ミーティングの実施頻度は毎週・隔週あるいは、最低でも月に1回と、比較的短い間隔で繰り返します。
1対1でのコミュニケーションを頻繁に重ねて、さらにメンバーが設定したトピックを扱うなかで、メンバーの価値観や希望するキャリア、現状を把握しようと関心を寄せることは、信頼関係構築に役立ちます。
信頼関係が醸成されれば、メンバーはこれまで以上に対話に積極的になってくれるでしょう。普段の業務においても、メンバーとの報連相がスムーズになると期待できます。
なお、上司とメンバーとの信頼関係の醸成は、1on1ミーティングをうまく機能させる前提条件でもあります。したがって、特に初期段階の1on1では、メンバーの価値観や興味関心を「聴く」ことに尽力して、信頼構築を心がけましょう。
メンバーの成長が促進される
1on1ミーティングで上司側に求められるのは、一方的なアドバイスではなく「メンバーの自主性や主体性を引き出すこと」です。一方的なアドバイスは、いわば外部から答えを与える「ティーチング」。
1on1は、メンバーの自主性や主体性を引き出す、つまり、相手のなかにある意欲や答えを引き出す「コーチング」に近い感覚です。
メンバーの設定したトピックに対して、メンバーの話を聴き、適切な質問を投げかけて思考を刺激します。適切な質問は、相手の価値観を広げて行動の選択肢を増やすきっかけになるでしょう。また、メンバー自らのビジョンやキャリアの展望などを聴くことは、成長へのモチベーションを刺激するのに効果的です。
仕事や組織へのエンゲージメントが向上する
上司とメンバーとの信頼関係が醸成され、自分の意志が仕事に反映される実感が生まれると、仕事や組織へのエンゲージメントは向上します。
エンゲージメントの向上は、さらにメンバーの主体性を引き出すことにつながります。メンバー自身の成長だけでなく、組織の成長や競争力の強化にもつながっていくでしょう。
1on1を実施する際のポイントと注意点
続いて、1on1ミーティングを実施する際のポイントと注意点を確認します。効果的な1on1を実施するために押さえておくべきポイントは次の3点です。
- 上司はあまり話さず、部下に話させる
- 緊急度は低いが重要なことを話す
- ただの雑談に終始しない
以下でそれぞれ詳しく解説します。
上司はあまり話さず、メンバーに話させる
繰り返しになりますが、1on1ミーティングの実施目的は、メンバーの成長を促進することです。そして、開始初期の段階では特に、メンバーの価値観や興味関心を知り、信頼関係を構築するために、メンバーの話に耳を傾けるのが大事です。
業績評価の面談ではないので、ミーティング中は評価したりアドバイス・指示したり、上司の関心にしたがって業務レビュー等をしたりしてはいけません。
メンバーの話を聴き、適切な質問をしてメンバーに考えさせ、答えさせるようにしましょう。上司は評価やアドバイス以外でもあまり話さず、とにかく「メンバーに話してもらう」ことを意識しましょう。
緊急度は低いが重要なことを話す
1on1ミーティングの実施を始めて間もない頃は、短時間だとはいえ、「何を話して良いかわからない」といった人も多いかもしれません。企業によっては、1on1はあらかじめ議題を決めて資料を準備する会社もあれば、話すテーマを設定しないという運営をしている組織もあります。
ただ、基本的には、1on1ミーティングでは「緊急度は低いが重要なこと」を「部下の興味関心」に従って扱うのがよいでしょう。例えば、「価値観や送りたい人生について」。あるいは「組織でどのようなポジションに就き、どのような活躍がしたいか」といったテーマです。
通常業務の進捗確認や相談は別の機会で行ない、1on1ミーティングではメンバーの価値観、キャリア、ビジョンなど、緊急ではないが重要なテーマを選びましょう。
ただの雑談に終始しない
当然のことですが、1on1ミーティングをただ雑談するだけの場にしてはいけません。導入初期のまだ慣れていない頃であれば、アイスブレイクのために雑談から入るのも一つです。
しかし、1on1ミーティングの目的は「信頼関係の醸成」や「メンバーの成長促進」、「エンゲージメント向上」を達成するためのものです。雑談で終わってはいけません。
1on1導入の3ステップ
最後に、1on1ミーティングを導入する際の3ステップを確認しましょう。
1on1を導入する目的を周知
1on1ミーティングを導入する前には、必ず「なぜ実施するのか」という目的を組織全体に周知させることが重要です。
1on1ミーティングは決して簡単に導入できるような取り組みではありません。1回のミーティングは30分~60分程度ですが、部下の数が多くなれば、上司側には時間的な負荷がかかります。
また、実施頻度は毎週・隔週、最低でも月1回。場合によっては「業務時間の20%程度を1on1ミーティングに充てることになる」といった場合も考えられます。ともすれば、導入に対して「業務で忙しいのに、なぜ……」といった反感を上司の側から持たれることがあります。
また、部下からも「めんどくさい」「気が重い」「いつも説教ばかりの上司と定期的な面談なんて……」という否定的な反応もあり得ます。
メンバーの成長やキャリア形成のサポートのために実施するという趣旨を伝えて、上司やメンバーの理解を得ることが必要不可欠です。上司側に対しても1on1の効果や実施のポイントを伝え、必要であればコーチング手法等の研修を行なうのもよいでしょう。
1on1の実施スケジュールを調整
1on1ミーティングの実施頻度は、毎週・隔週、最低でも月1回です。実施するメンバーが多くなれば、スケジュールの抜け漏れやバッティングに注意する必要があります。カレンダーやグループウェアなどでチームのスケジュールを共有しているのであれば、あらかじめ「繰り返しの予定」として登録しておくのがよいでしょう。
1on1ミーティングを続けていると、他の業務や会議などの都合で、どうしても時間をズラさなければいけないタイミングも出てきます。その場合、なるべく別の日程や時間で埋め合わせるように調整し、スキップすることは極力控えるようにしましょう。
一度スキップしてしまうと、通常業務の忙しさなどを理由にしてずるずるとずれ込み、「いつの間にか1on1ミーティングの実施がなくなってしまっていた」ということになりがちです。
1on1で話す内容の準備
1on1ミーティングで話す内容は、特に決まりはありません。しかし、導入してすぐの頃は、「何を話そう……」と悩んでいるうちに時間が来てしまうこともありえるので、話すテーマの候補をリストアップして、事前に部下に決めてもらうことが良いかもしれません。
- 組織でどのようなポジションでどのような活躍がしたいか
- 今、仕事で何か困っていることや課題
- 今後チャレンジしたい仕事
- 仕事における最近の気付き
- 今後実現したいキャリアプラン
- 自分の強みや弱み
- 仕事のやりがい
- 大事にしている価値観
- 送りたい人生
- 最近、喜びを感じたこと、楽しかったこと
など
まとめ
記事では日本だけでなく、世界的にも多くの企業が注目している1on1ミーティングの導入が進む背景や1on1の目的と効果、実施のポイントなどをご紹介しました。
メンバーの成長促進を目的とした1on1ミーティングは、継続的に運用することで、上司とメンバーとの信頼関係構築、仕事や組織へのエンゲージメント向上といった効果が期待できます。
1on1は、1回30分~60分、毎週~最低でも月1回と頻度が多く、チーム内のメンバーを多数抱える上司は管理業務の負担が増えてしまいます。しかし、その分の業務を調整してでも、1on1ミーティングを実施する価値は十分あるといえます。